第8話 ジンク、初めてのダチだぜ!
母ちゃん同士の雰囲気が怪しくなってきて、俺達3人の男衆は素早く逃走した。
「ふう、危なかったな。あのままあそこにいたら絶対にろくなことにならん」
「ああ、流石父さん、みごとな逃げっぷりだ」
「俺もあれは怖かったぜ、母ちゃんとおばちゃんって仲悪いのか?」
「いや、そんなことはないぞ。幼馴染みたいじゃし、今も基本的には仲が良いんじゃよ。ただ、おっとりしたエメラさんと比べて、うちのはしっかりものって自称しておるんじゃ。そのせいで、たびたびぶつかり合っててな。まあ、よくあることじゃし、ほうっておけばよかろう。大事にはならん」
「そっか、なら安心したぜ」
俺はガリウムのおっちゃんとジンクの案内で、目的の倉庫まで1号君を走らせた。
「ここでいいぞ。ありがとうな」
「お安い御用だぜ」
「わしは荷物を運び入れたらそのまま仕事をする。ジンクとアイアン君はしばらく遊んでおれ。あの調子じゃ、エメラさんもすぐには帰らんじゃろ」
「ああ、わかったぜ父さん」
「おう、わかったぜおっちゃん」
こうして俺はジンクと2人遊ぶことになった。だが、子供の遊びといわれても俺にはよくわからない。俺は5歳でジンクは6歳だが、この年代の子供の遊びといわれても、なかなか思い出せない。前世の遊びじゃなくてドワーフになってからの遊びでいいじゃないかって? それこそわからん。なにせ生まれてこのかた、父ちゃんと母ちゃん以外と遊んだことないんだよ。
「アイアン、何して遊ぶ?」
「わるい、思いつかない。普段父ちゃん母ちゃんとしか遊んでないんだよな」
「そうか、最近はどんなことやってるんだ?」
「最近は魔法機関銃の練習だな。ぜんぜん上手くできないんだよな」
「う~む、なんのことかよくわからんな。だが、実は俺も普段は父さん母さんとしか遊ばないんだ。年の近い知り合いはいるにはいるんだが、この辺は女の子が多くてな。とはいえ、おままごとはちょっと勘弁してほしくてな」
「おままごとか、流石にそいつは辛いな」
「だろ? そうだ、改めてお前の1号君を詳しく見せてくれよ。いろいろ聞きたいことがあるんだ」
「ああ、もちろんいいぜ!」
ジンクが真っ先に興味をもったのは15mm機関銃だ。
「やっぱこのMG150はすげえな。手入れが行き届いている。さらにこのサプレッサーはオリジナルか?」
「MG150ってなんだ? サプレッサーは父ちゃんが付けてくれたんだ。ダンジョン内で爆音はつらいだろうって」
「MG150ってのはこの機関銃の名前だよ。カッパーアンドレッド社って会社で売ってる、15mm機関銃の製品の名前さ」
ほ~、はじめて知ったぜ。それにしてもカッパーアンドレッドって社名にしろ。MG150って製品名にしろ、なんかドイツっぽいネーミングだな。おれの1号君はフランス車がベースなんだけどな。
「すげえな、ジンクってそういうの詳しいのか?」
「有名な汎用機関銃だからな、たまたま知ってただけさ。それに、馬車の護衛用につける商人も結構多いから、家でもちょくちょく取り扱ってるんだよ」
その後もジンクは1号君をいろいろと見て回った。俺も質問には答えられるだけ答えた。魔道エンジンなんかは市販品ってことは知ってるが、製品名なんかは知らないんだよな。
「なあ、アイアン。魔道エンジンやクローラーなんかも市販品っていってたが、このボディはお前が作ったんだよな?」
「ああ、そうだぜ。父ちゃんから5mmの鉄板をもらったから、そいつを金属加工魔法でカットしたり、くっつけたりしたんだよ」
「それはわかるんだが、このところどころにポチっと付いてる、リベット接合をしたような跡の丸いのは何なんだ?」
「そいつはそのまんまリベット接合の跡だな」
「1号君の鉄板は、金属加工魔法でくっついているんだろ? リベット接合を追加でする意味は無いんじゃないのか?」
「ふっふっふ、まだまだだな、ジンク。そいつは金属加工魔法で、丸い部分を貼り付けて、まるでリベット接合であるかのように見せるためのものなんだぜ。こないだ追加で付けたんだ」
「なんでそんなことわざわざするんだ?」
「だって、その丸いリベット接合の跡っぽいのがあったほうが、かっこいいだろ?」
「なるほど、機能的な意味は無いってことな」
「まあ、そうとも言うな」
俺とジンクはその後もぺちゃくちゃとおしゃべりした。ジンクは馬車屋の息子だが、この世界の馬車は簡単な武装を施すのが当たり前なこともあって、俺の戦車造りの参考になることも多く知っていて実に楽しいおしゃべりが出来た。5歳児とはいえ前世の記憶持ちの俺とは違い、純粋な6歳児のジンクがここまで流暢にしゃべれるとは、ちょっと想像していなかったぜ。
だが、そんな楽しいおしゃべりタイムも、終わりを告げようとしていた。そう、母ちゃん達が現れたのだ。俺とジンクはおしゃべりに夢中で、母ちゃんたちの接近に気づけなかった。
「あら、アイアンちゃんはすっかりジンク君と仲良しね」
「ああ、すっかり仲良しだぜ。母ちゃんこそ話し合いはもういいのか?」
「ええ、もう大丈夫よ。ねえ、ラピちゃん」
「大丈夫さ。じゃあ早速、アイアン君の実力を見せてもらおうか」
そう言うとラピおばちゃんは鉄剣を俺のほうに突きつけた。
「え、ちょっと待てよ母さん。アイアンと戦うって言うのか? アイアンはまだ5歳だぞ」
「なに、ガチでやろうだなんて思っちゃいないよ。あたしは歩きでしか移動しないし、遠距離攻撃も一切しない。それであたしに勝てたら、このままダンジョン行きも認めてやるよ」
「ジンク君も初心者用ダンジョンくらい行きたいでしょ? アイアンちゃんとジンク君はチームだから、2人でがんばってラピちゃんをぼこぼこにしちゃってね。それじゃ、準備が出来たら射撃訓練場に集合ね」
「ああ、わかったぜ! ジンク、がんばろうぜ」
「ふう、そうだな。俺も初心者用ダンジョンにはもぐってみたいと思ってたし、ちょうどいい機会なのかもな。母さん単独じゃあ、絶対許可くれなかったしよ」
そういって母ちゃんとラピおばちゃんは手を振って歩いていった。先に行って待っているようだ。俺とジンクは作戦会議を開始する。
「じゃあ、準備するか。ジンクは何使って戦うんだ?」
「俺はオーソドックスに剣と盾だな」
「銃は使わないのか」
「ああ、俺は放出系の魔法よりも、身体強化魔法のような、接近戦用の魔法のほうが得意なんだよ。そもそも、エメラおばさんやお前みたいに、魔法が得意なやつは、ドワーフとしては少数派だぞ。遠距離攻撃をするにしても、土魔法で石を出して飛ばすより、そこらの鉄球を腕力で投げた方がよっぽど強いからな」
「なるほどな、わかったぜ。じゃあ、俺は1号君で戦うから、ジンクは前衛な。ところで、間違って誤射しても大丈夫だよな?」
「ああ、15mm機関銃なら流石に痛いが、怪我まではしない。安心して撃ってくれ。射撃場は細長い地形だから、お前は正面から下がりながら射撃してくれ、俺は背後か側面から攻撃する」
「おう、わかったぜ。ところでよ、ラピおばちゃんはどんな戦い方をするんだ?」
「母さんの得意な戦法は、高速接近戦だな。だから、今回の足を封じたルールはかなり俺達に有利だぞ」
「なるほど、母ちゃんはラピおばちゃんの最も得意な部分を封じたってわけか」
「うむ、エメラさんもなかなかやるな。ただ、根本的に普通の金属武器による攻撃は効かないと思ったほうがいい。勝つには母さんの魔力を削りきる必要がある」
「なるほどな。そうだ、ジンク。念のために大砲って準備できるか?」
「ああ、できるが、今家にあるのはAMC120だけだが、それでいいか?」
「AMC120? なんだそれ?」
「120mmアンチモンスターキャノンのことだ。ただ、AMC120も、普通にうつだけじゃあ、母さんには効かないぜ」
「まずはラピおばちゃんの魔力を削りきらないと、なんだろ? それはわかってる。とりあえずその大砲を用意してくれ」
「なにか考えがあるんだな? わかった、すぐ用意する」
こうして俺とジンクは作戦を考えたりと準備万端整えて、ジンクの母親である。ラピおばちゃんと戦うことになった。ジンクの装備は、剣と盾、それに皮鎧をベースに要所に金属を使用した鎧だ。剣も盾も1mくらいある巨大なものだ。剣は地球の剣と比べても幅も厚みもあるし、盾もかなり分厚い、総金属製で、俺の1号君と同じ5mmくらいの厚みはありそうだ。ジンクは俺より20cmちょっと高いとはいえ、身長120cmくらいだ。流石に重過ぎるんじゃないかと思ったが、ジンクが軽く準備運動をしている様子を見る限り、普通にぴょんぴょん動いてやがる。流石ドワーフパワーというべきか。
対して俺の装備? は1号君だ。武装は15mm機関銃ことMG150と、荷台に積み込んだ120mm大砲ことAMC120だ。
俺達は場所を移して射撃場に訪れた。ジンクの家の敷地の一番端にある場所で、幅は10m程度、奥行きは300mくらいある細長い場所だ。周囲は石の壁で覆われている。母ちゃんとラピおばちゃんは射撃場の入り口を入ってすぐの場所で待っていた。
「じゃあ3人とも準備はいいかな~?」
「ええ」
「「ああ」」
「じゃあ、ルールのおさらいね。まず、戦闘エリアは、この細長い射撃場だけね。ここがラピちゃん家の兵器の試射場でもあり、まともな結界がはってある唯一の場所だから、ここからは出れないからね。それから、ラピちゃんの移動は歩きのみ、早足とかも禁止よ」
「わかってるわよ。スペースは狭いからね、すぐに追い詰めて倒してやるさ。エメラこそ、変なアドバイスとかは禁止だからね」
「もちろんよ。それに、さっきからずっとラピちゃんのそばにいたから、そんなことする時間はなかったでしょ」
「それから、勝敗はラピちゃんに怪我をさせるか、ラピちゃんの服にダメージを与えられたらアイアンちゃんとジンク君の勝ち。ラピちゃんに追い込まれて倒されたら2人の負けね」
「「ああ」」
「それでいいわ。じゃあ、あたしは一番奥までいくわね」
「ええ」
そしてラピおばちゃんが一番奥に歩いて行き、俺達は入り口で武器を構える。母ちゃんはど真ん中で審判をやるようだ。
俺の心臓はどきどきだ。なにせ父ちゃん母ちゃん以外との、初めての対人戦だからな。ジンクは落ち着いているようだ。まあ、ジンクからしてみれば、普段からラピおばちゃんとは手合わせしているのだろう、いつもの戦いの続きに過ぎないのかもしれない。
「なんだ? 緊張してるのか?」
「ああ、父ちゃん母ちゃん以外との対人戦は、初めてなんだよ」
「なるほどな。だが緊張する必要はない。母さんはいまは足が封じられてるからな。ゆっくり落ち着いて攻撃すれば良いさ」
「ああ、わかったぜ」
ラピおばちゃんが奥に到着すると、母ちゃんが手を上げた。あの手が下ろされたときが、戦闘開始の合図だ。そして、お互いが構えているのを確認すると、母ちゃんの手が下ろされた。
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