第7話 アイアンオア、初めての逃走だぜ!

俺はダンジョンに行ったあの日以降、ひたすら魔法機関銃の練習に取り組んでいる。なにせ今の俺じゃあ、魔法機関銃という名前をつけたにもかかわらず、1発づつしか弾を撃てねえからな。これじゃあ、魔法機関銃なんてとても名乗れねえ。だが、何日経ってもぜんぜん上手くいかないんだよな。来る日も来る日も魔法機関銃の練習をしていたある日、母ちゃんがお出かけに誘ってくれた。ほら、プラモデルとか買うと、ついつい出来上がるまで、寝る間も惜しんで作っちゃうことってあるだろ? 俺もはまるとはまり込んじゃうタイプなんだよな。いままでは割りと順調だったから良かったんだが、流石に数ヶ月も延々同じ作業をしている俺を見て、母ちゃんも心配になってきたみたいだ。


「アイアンちゃん、明日は一緒にお出かけしましょう。たまには気分転換をしたほうが、いいアイデアが浮かぶかもしれないわよ」

「そうだな、母ちゃんの言うとおりかもな。わかった出かけようぜ」


 翌日、朝食を食べて父ちゃんを送り出した後、俺と母ちゃんは出かける。


「なあ母ちゃん、どこに出かけるんだ?」

「父ちゃんと母ちゃんのお友達のお家よ。時々父ちゃんがベアリングとかスプリングを作ってるのは知ってる?」

「ああ、もちろんだ。ベアリングは俺の1号君にも付いてるからな」

「そのベアリングなんかを卸しているのが、そのお友達の家っていうわけなの。それで、そのお家はね、馬車屋さんなんだけど、馬車に中には護衛用に銃座が付いてたり、防御用に装甲が付いている馬車もあるのよ」

「それは楽しそうだな!」

「でしょう? アイアンちゃんが魔法機関銃をしながらも、1号君も改造したがってることも知ってるからね。参考になればと思って」

「ああ、母ちゃんありがとう」

「じゃあ、1号君に乗って行きましょうか。たまには1号君にも乗ってあげないとね!」

「そうだな。倉庫から出してくるぜ」


 俺は倉庫から1号君取り出す。母ちゃんもいつもの畑仕事用のゴーレムを動かすと、倉庫からリアカーを取り出した。母ちゃんはリアカーを持って工房へと向かうと、ゴーレムを使って、大量のベアリングとスプリングが入った箱を、リアカーに乗せた。


「じゃあ、このリアカーを1号君に引っ張ってもらおうかな」

「お安い御用だぜ」


 俺はその辺の金属を手に取ると、金属加工魔法を使って1号君とリアカーをつなげる部品を作り出す。とはいってもそんな大げさなものじゃない。取付金具と、鋼鉄製のロープといったところだ。


「じゃあ、出発するぜ」

「ええ、お願いするわね」


 俺はハッチから体を出し、ドライバーゴーレムに移動の指示を出す。母ちゃんは荷運びをさせたゴーレムと一緒に荷台に乗った。


「どっち行けばいいんだ?」

「大通りに向かって頂戴。馬車の修理とかもしてるから、大通り沿いのけっこういい立地の場所にお店があるの」


 俺と母ちゃんはすいすい進んでいく。1号君は目立つような目立たないような微妙なラインだ。魔道自動車自体は多いし、クローラーで動く魔道作業車も結構多い。特にこの街は近くのダンジョンで取れる鉱石を利用した、工業が有名だ。そのため、鉱石運搬用の乗り物なんかはけっこうごついし、そういう乗り物にはクローラーも普通に使われている。ただ、小さい魔道自動車っていうのはそんなに多くないらしく、1号君は小型だから目を引く部分があるようだ。


 俺達は順調に進んでいく。そして、走ること数分、目的地にあっさりと到着した。馬車屋というだけのことはあって、入ってすぐの場所は巨大な格納庫のような建物が建っており、その中に様々な馬車や魔道自動車が置いてある。値札が付いていることから、ここにあるのは売り物のようだ。俺達はそんな倉庫の中を通っていく。


「母ちゃん母ちゃん、魔道自動車まで売ってるぞ」

「そうよ、馬車屋とはいっても、ここは馬車から魔道自動車まで、移動のための乗り物なら一通り揃ってるの。家はこの奥だから、眺めながら進みましょうか」


 俺はこの世界の馬車や魔道自動車をじっくりと観察する。するとその中に1台、重装甲をほこる巨大な魔道自動車があった。なんだこいつは、かっけえじゃねえか!


「なあ母ちゃん、あのでかくてごついのなんだ?」

「あれはね、中級ダンジョンや上級ダンジョン用の重装甲魔道自動車よ。戦闘用ではなくて、あくまでも戦利品を入れる用なの。後部は荷台になっているんだけど、内部は空間魔法で広さが拡張されてるわ。そしてあの重装甲はモンスターの攻撃に耐えるためね」

「は~、すっげえな。あんな重装甲じゃないと中級ダンジョンって入れないのか」

「そうね、中級ダンジョンでも奥のほうまで行くならほしいわね。ただ、ああいう巨大な魔道自動車は結構高いのよね。中級ダンジョンの奥までいけるような実力がないと、そもそも買えないのよね」

「でもさ、武器はどうして付いてないんだ? あんだけごつけりゃ、大砲だって装備できそうなのに」

「それはね、普通の大砲だと、中級ダンジョンにもなると、効かない相手が多いのよ。前にダンジョンでアイアンちゃんに話したけど、ゴブリンだって下から3番目くらいの強さのゴブリンになると、15mm機関銃だと100発以上は必要って言ったでしょ。中級ダンジョンの奥ともなると、下から4番目の強さのゴブリンが出てくるのよ。そしてこの4番目のゴブリンくらいになるとね。普通の金属の攻撃が効かなくなっちゃうの。防御力が高すぎて、弾がゴブリンに当たった瞬間に、弾頭が壊れちゃうのよ。対抗するにはミスリルのような魔法金属製の弾頭を使うか、魔法大砲のような技術をつかうしかないんだけど、ミスリル弾頭は非常に高価だし、魔法大砲は結構難しい技術なのよ。それに、現状だと魔法大砲の技術を持ってる人は、戦闘用ゴーレムに乗ることが多いから。あの手の装甲輸送車には、大砲を載せないのよね」

「そうなんだ。じゃあさ、ダンジョン行った日に見かけたハンター達は、どうやって中級ダンジョンの敵を倒すんだ? 戦闘用ゴーレムなんていなかったよな」

「普通のハンターはミスリル製の武器を使うことが多いかな。手に直接持って使う武器なら、強化もしやすいし、なにより弾頭と違ってなくならないからね。アイアンちゃんの大好きな時代劇、おとめ座戦士スピカの主人公、スピカの愛用している剣、ザヴィヤヴァもミスリル製よ」

「そうなの?」

「ええ、あの時代劇自体は、史実を基にした創作物なんだけど、スピカの剣は間違いなくミスリルね。もっとも、演技をするのに完全なミスリル製である必要はないから、おそらくはミスリルコーティングだけどね」

「は~、そうだったんだな。かわった色の剣だとは思っていたが、ミスリルなんだ」

「アイアンちゃんなら大丈夫よ、いざとなった時用に、武器を覚えるのも悪くないけど、アイアンちゃんならすぐに魔法機関銃だって使えるようになるわ。さ、到着したわね」


 倉庫を通り抜け、石造りの家の前で止まる。俺と母ちゃんは1号君から降りて玄関の扉へと進んでいく。


 ガンガンガンッ


 母ちゃんがドアノッカーを叩く。ほどなくして奥からどたどたと人が出てきた。


「エメラじゃないか、待ってたよ。おや、そっちの子はもしかして」

「ええそうよ、紹介するわね。私の息子のアイアンちゃんよ」

「あたしはラピスラズリ・カーター、よろしくな。見ての通り馬車屋をやってるよ」

「アイアンオア、5歳、よろしくな。アイアンって呼んでくれ」

「わかったよ。そうだ、ちょっと待っててくれ、旦那と息子を呼んでくる」


 ラピは家に戻り今度は3人で現れた。


「紹介するぜ。このでっかいのがあたしの旦那でガリウム・カーター、こっちのちょっとでかいのが息子のジンクだ」

「ガリウムじゃ。よろしく」

「ジンクだ、いま6歳だ。よろしくな」

「アイアンオア、5歳だ、よろしくな。アイアンって呼んでくれ」


 ラピのでかいのという紹介どおり、この2人、すっげえでかい。ドワーフの平均身長は大体日本人の9掛けくらい、大人でも150cmちょっとくらいの人が多いのに、ガリウムは余裕で170cm以上ある。しかも横へもそれ相応にでかい。そのせいで余計にでかく感じる。息子のジンクもそうだ。6歳だというのに、5歳の俺より20cm以上でかいんだが、なんだこの一家。ただ、ラピっていうおばちゃんは母ちゃんと同じくらいの身長だ。ちなみに髪や目の色はラピおばちゃんはその名の通りの青色。ガリウムのおっちゃんはダークブラウン。ジンクはわずかに青が入っていそうなダークブラウンだ。


「それにしても、かわったもんに乗ってるじゃねえか、なんていうんだ?」

「これはね、アイアンちゃんの造った1号君よ」

「ほう、移動用の魔道自動車ってわけじゃねえよな」

「そうね、クローラーを搭載しているから、作業車?」

「父さん母さん、MG150をつけてるぞ」


 ジンク一家は1号君が何用の乗り物なのかわからないようだ。


「ふふふ、これは戦闘用魔道自動車、その名も戦車なのよ」

「なるほど、武装ゴーレムが登場する前に少しだけ作られたという兵器か」


 ガリウムのおっちゃんもいける口のようだ。父ちゃんも俺のつたない説明でもあっさりわかったし、この世界の男も兵器類が大好きなようだ。


「こんなの作ってタングは何考えてるの? 売るわけじゃないのよね?」


 タングはタングステンの略、つまり俺の父ちゃんだ。


「あら、さっきも言ったけど、これを作ったのはアイアンちゃんよ」

「そうなの?」

「「まじか?」」

「おう、1号君は俺が作ったぜ。まあ、実際魔道エンジンは市販品だし、父ちゃんにもだいぶ手伝ってもらったけどな」

「アイアンちゃん、それはかまわないのよ。アイアンちゃんが設計した乗り物なんだから、アイアンちゃんの造ったものでいいの。そもそも、全部自分で作ることなんてできないの。ラピちゃんのところだって、父ちゃんの造った部品を使ってるでしょ」

「なるほど、いわれてみればそうだな」


 そういえば、現代の戦車だってそうだったな。エンジン、車体、装甲、主砲、電子機器、全部一箇所で作っているわけじゃ無かったはずだ。それぞれ得意な企業に任せての生産だったはずだ。ガリウムのおっちゃんとジンクは1号君に興味津々のようだ。あっちこっちをじろじろと見回している。


「父さん見てくれ。この乗り物、金属のつなぎ目が無いぞ。一見するとリベット加工のようにも見えるけど、金属をつないでいるわけじゃなさそうだ。それに、溶接跡もない」

「どうやって作ったんじゃ? 魔法か?」

「ふふん、アイアンちゃんは私の息子よ。金属加工魔法なんて余裕で使えるのよ」

「なるほど、エメラさんの息子なら、その年で金属加工魔法を使えても不思議じゃない、のかの?」

「そんなわけないわ、全部金属加工魔法で接合するのは、すさまじい魔力が必要なはずよ」

「だからラピちゃん、言ってるでしょう? わ・た・し・の・む・す・こ・だからよ!」


 大人たちが盛り上がっているよこで、ジンクが俺に話しかけてきた。


「なあ、アイアン、こいつがすげえのはわかるんだが、お前はこんなの作って何する予定なんだ?」

「俺はそのうち本格的な戦車を作りたくてな。1号君はその第一歩ってところだな」

「ほう、この1号君っての、俺には十分実戦に耐えれるように見えるんだが、もう実戦には行ったのか?」

「ああ、初心者用ダンジョンなら何ヶ月か前に最深部まで行ったぜ。まあ、母ちゃんと2人でだけどよ」

「ってことは、ゴブリン10人隊長も倒したのか?」

「もちろんだ」

「うお~、いいなあ~。俺も初心者用ダンジョンいきたいんだけどよ、なかなか母さんが許可くれなくってな」


 すると、大人たちがこの会話の内容を聞いていたようで、ラピおばちゃんが即座に反応した。


「エメラ、今の話本当なの?」

「今の話って?」

「アイアン君をダンジョンへ連れてったって話よ」

「ええ、本当よ。アイアンちゃんも1号君もすごいんだからね」

「あきれた。あんた何考えてるの? しかも奥の2層は10人隊長が出るから危険なことは知ってるわよね? なにかあったらどうするつもりなの?」

「私がいたから平気よ。それに、アイアンちゃんは1号君抜きでも十分強いしね」

「・・・・・・」


 ラピはエメラを全力で睨みつける。エメラはのほほんっと笑っている。これは巻き込まれたくないと、男共は判断した。


「アイアン君、持ってきた部品を運ぶの、手伝ってもらっていいか?」


 ガリウムのおっちゃんが小さい声で話してくる。俺は即座に頷くとおっちゃんと同じ様に小声で返す。


「ああ、かまわないぜ。どこまで移動させればいい?」

「こっちだ、付いてきてくれ。ジンクも行くぞ」

「ああ、父さん、わかったぜ」


 こうして男3人は逃げ出すのだった。

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