第6話 必殺、魔法機関銃だぜ!
無事にダンジョンを攻略し、大量の鉱石と、ゴブリンの魔力体を回収した俺と母ちゃんは、街の北門に来ていた。朝はめちゃくちゃ混んでいた北門だったが、いまは昼前ということもあり、北門はがらがらだった。
俺と母ちゃんは1号君から飛び降りて挨拶する。母ちゃんはまた何かのカードを取り出して門番に見せる。門番は朝と同じ人だ。
「ただいま~」
「はい、どうぞ」
「おう、アイアンとエメラさんか、戦果はどうだい?」
「見ての通り、大量よ」
「ああ、大量だぜ!」
「こりゃあすげえな。はい、チェックOKです」
その後俺と母ちゃんは北門から入ってすぐのところにある、ハンターギルドに向かう。母ちゃんが回収していた魔力体を売るためだ。ハンターギルドの場所はすぐにわかった。なにせ北門から見える範囲にあるでかい石造りの建物だったからな。
俺達は馬車置き場に1号君を止めて中に入っていく。
カランカランッ
ギルドの中には、受付カウンターや依頼が貼られているボードなどのほかに、酒場や、雑貨屋などもある。
「ここがギルドか~」
俺はついついきょろきょろと見回してしまう。たぶん北門と同様の理由で、人は少なかった。
「ふふ、アイアンちゃんはギルドは初めてだったわね。いまはこんながらがらだけど、朝と夕方はけっこう混雑するのよ。さ、魔力体を売っちゃいましょう」
「魔力体って、俺の1号君の燃料タンクのチャージには使えないの?」
「直接は利用しにくいのよ。特に、茶色ゴブリンは火属性をあまりもっていないの。茶色ゴブリンの場合は、生命、火、水、土、植物なんかの複合的魔力で出来ているのよ。そして、それを効率よく分離するには、大掛かりな装置が必要なの。大掛かりな装置は街が保有してるから、1度ギルド経由で街に売って、街の装置で分離してもらって、分離された魔力を私達が買い取るっていうわけね」
「は~、そんな仕組みなんだな」
「じゃあ、魔力体を売りに行くわよ」
俺達は魔力体買取所と書かれたカウンターへと向かう。
「こんにちは、買取を頼むわ」
母ちゃんはそう言って魔力体を回収していたミニ宝箱を受付に出す。
「はい、少々お待ち下さい」
「ゴブリン276匹と、ゴブリン10人隊長21匹ですね。こちらが魔力体の料金、こちらが討伐報酬になります」
「ええ、ありがとう」
「またのご利用をお待ちしております」
「はい」
そう言って母ちゃんは俺に先ほど受け取ったお金を全部渡してきた。
「?」
「あら、アイアンちゃんが倒したんだから、アイアンちゃんのものよ」
「おう、さんきゅ~」
母ちゃんだって最下層で22匹ほど倒したはずなんだが、計算が面倒なのでいいのだそうだ。こうして俺達はギルドでの用事を済ませて家に帰った。
すると、家の前ではなにやらうろうろしている父ちゃんがいた。
「父ちゃん、ただいま!」
「ただいま」
「おう、ジンク、エメラ、帰ったか! 無事で何よりだ!」
「へへ、俺の1号君がいる限り、ゴブリンなんて楽勝だぜ! そうだ父ちゃん、荷台にお土産があるぜ!」
「ほう、こいつは鉱石じゃねえか、しかも、荒くとはいえ練成までしてやがる」
「へへ、岩なんてあっても邪魔だし、そのほうがいっぱい詰めるからな」
「ああ、ありがとうよ!」
どうやら父ちゃんは心配しまくりだったようだ。だが、俺にはひとつ懸案があった。まだ午前中とはいえ、まさか朝からこの時間まで、心配で仕事が手につかなかったとかないよな。母ちゃん怒ると怖いぞ。
どうやら父ちゃんは仕事を速攻で終わらせた上で待っていてくれたようだ。俺は父ちゃんと一緒に1号君のメンテナンスをする。機関銃、砲塔、ボディ、魔道エンジン、燃料タンク、制御盤に操縦系統、どれも問題なさそうだ。俺の魔力も余ってることだし、俺の火魔法で燃料タンクも満タンにした。1号君、なかなかの大食いだな。俺の魔力がけっこう持ってかれたぜ。それと、ダンジョンでは15mm機関銃も1000発以上撃ったからな、弾も補充しておいた。
お昼ご飯を食べて、午後は母ちゃんがダンジョンの最下層で使ったあの技の練習だ。母ちゃんに教えてもらおうかとも思ったんだが、午前中に俺と一緒にダンジョンに行ったこともあって、家事で忙しそうだったから止めといた。母ちゃんには庭の結界だけ起動してもらって、俺は1人で外に出て1号君も入っている倉庫の中で探し物をする。
探してるのは15mm機関銃の予備だ。父ちゃんが言うには、俺の1号君の中で、もっとも消耗がはげしく、分解メンテナンスなんかが必要になるのが、15mm機関銃なんだそうだ。だから、15mm機関銃の分解メンテナンス中でも、俺がダンジョンに行けるようにって予備を買っていてくれた。
今回はあくまで実験だから、予備の15mm機関銃を使う。機関銃に用事があるだけなら、1号君より便利だからな。あとはゴーレムを作る魔法の応用でマトを5個くらい作って、準備OKかな。
さて、母ちゃんの炎の弾丸は炎を纏っていた。つまり、使う魔法はあれでいいはずだ。そう、俺が昔悪役ゴーレムを倒すのに使っていた必殺剣。鉄鉱流、1の太刀、フレイムスラッシュだ。木の剣で土のゴーレムを綺麗に切れたのも、フレイムスラッシュの炎の魔法の力のおかげだったからな。まあ、俺の絶妙な土ゴーレムの強度調整のおかげでもあったが。ん? 当時はあの強度が限界だったんだろって? そういうのは言わぬが花だぜ。
連射するわけではないので、ベルトリンクから弾を取り出して、弾頭にフレイムスラッシュと同じ要領で炎魔法をかける。この魔法、名前は知らないが、強化魔法の一種だ。様々なものに炎の魔力を乗せる事が出来る。
「あちちち、うん、普通に燃えてるな。とりあえず、試してみるかな」
弾頭を手で持って燃やすのは危なそうな気もするが、そこは身体強化魔法で手を防御すれば大丈夫だ。俺はこの火魔法で強化した弾を15mm機関銃に込めて試し撃ちする。
ターン!
ど真ん中に見事に命中した。だけど、あんまり強くない。少なくとも母ちゃんの炎の弾丸は、これよりはるかに強かった。というか、これじゃあ普通に撃つのとあんまり変わんないな。
俺は考える。ん~、そもそもあの時母ちゃんは難しいって言っていた。フレイムスラッシュと同じ魔法なら、俺が使いこなせることはわかってるはずだから、違う魔法の可能性が高いな。あとなんて言ってたんだったかな・・・・・・。
そうだ、炎の魔法を乗せたんじゃなくて、融合させたって言ってたよな。フレイムスラッシュは融合というよりは表面に炎を纏わせる技だ。だからこそ木剣に強化魔法を使えば、木剣が燃えることも無かった。
つまり、弾頭と炎の魔法を融合させればいいのか。だけど、どうするんだ、それ? 俺はとりあえず、銃弾から弾頭だけ取り外して、弾頭に炎魔法を近づけてみる。うん、普通に弾頭が超熱くなったな。次は融合ってことで金属加工魔法で弾頭をいじりながら炎魔法を近づける。う~ん、結局熱くなるだけだな。弾頭は外と中で色が違っていた。ふむ、外のほうが硬いし、フルメタルジャケットってやつか。って、そんなことどうでもいい! ぜんぜんやり方がわからんぞ。俺はその後も弾頭と格闘を続けた。神様もどきから教わった知識も、基本的な魔法が中心で、こういう応用技みたいなのはあんまりなかったんだよな。神様もどきがいうには、基礎さえしっかりしていれば、応用なんてすぐってはなしだが。
「おう、アイアンか、なにやってるんだ?」
「父ちゃん。今日ダンジョンで母ちゃんが使った技を使いたかったんだけどさ。上手くできなくってさ」
「ふむ、どんな技なんだ?」
「母ちゃんは魔法大砲の技って言ってた。魔力を乗せるんじゃなくて融合させるんだって。でも、乗せることは出来ても、融合のさせ方がわかんなくって」
「エメラはその機関銃でその技を使ったのか?」
「ああ、そうだぜ」
「はあ、流石はエメラだな。この機関銃であの技を使うのは、俺にはかなり難しいのに。よし、アイアン。ちょっとまってろ」
そう言うと父ちゃんは倉庫の中から一本の剣を取り出した。
「いいか、アイアン、強化魔法にはいくつか種類がある。まず一つ目はこれだ」
父ちゃんの剣が燃える。だがいまならわかる、これは俺がよく使ってたフレイムスラッシュと同じ、炎を表面に纏う技だ。
「俺のフレイムスラッシュもこれだよな?」
「ああ、そうだ。表面を炎の魔法で覆っておる技だな。これを、表面強化魔法という。生産魔法としても、戦闘魔法としても使える便利な技だ」
「でも、母ちゃんの技とは違うんだろ?」
「うむ、その通りだ。エメラの使った技は、魔力融合強化魔法という魔法だな。これが非常に難しい強化魔法なんだよ。一言で言えば、金属と炎、2つの魔力を混ぜ合わせ、燃える金属を作る魔法ってところかな」
「それが意味わかんないぜ。金属を炙ってあつあつにするわけじゃないんだろ?」
「もちろんだ。それはただの熱い金属だからな。こうやるんだ」
父ちゃんは持っていた剣に炎の魔法をかけた。その剣は真っ赤になり、ところどころ小さな火を吹いている。その剣のもつパワーが、俺のフレイムスラッシュよりはるかに強いのはわかる。だが、炎で炙って熱くした剣との違いがわからない。
「そうだな。アイアンはスライム見たことあるよな?」
「ああ、街中でもその辺によくいるからな」
「あいつらって、生き物の癖に、内臓が無いと思わないか?」
「うん、思う。どういう構造なんだろうって」
この世界のスライムはぷるぷるしてて丸くてかわいい。色はいろいろあるみたいだが、みんな半透明のボディーをもっていて、内臓などは一切見当たらない。
「あいつらはな、命と水の融合モンスターなんだよ。俺達生き物は例外なく体がある。体には当然内臓が必須だ。そして体は、命の魔力っていわれる力で出来ているんだ。だがスライム達はな、そんな命の魔力と水の魔力を融合したモンスターなんだよ。だから、体に必要な内蔵なんかは全部水といったいになっている」
「なるほど、水をたくさん飲むとかじゃなくて、体を水にか・・・・・・。そうか、父ちゃん、わかったかも」
俺は実験でボロボロになっていた弾頭に今一度魔法をかける。いままで俺は金属に炎魔法をあててどうにかしようと考えていたが、それだけじゃダメなんだ。金属を炎にすることを考えないと、きっと上手くいかない。
俺は、炎が金属になるように、金属が炎になるように魔力を注いだ。そして、俺の目の前の地面に、炎の金属が現れた。
「はは、こりゃあすげえな。ほんとにすごいぜアイアン!」
「ああ、出来たぜ。父ちゃんありがとう」
俺の作った炎の金属は、まさに炎の金属だった。普通炎というのは物質ではない。燃えている木の炎の上から薪を落としたら、薪は炎に乗っかることなく、火元である燃えている木まで落ちる。だが、この炎の金属は違う。炎自体が金属の性質を持っているのだ。揺らめく炎が、金属の強度をもつ。出来たのはうれしいが、わけがわかんない現象だぜ。
「あれ、でもさ、これじゃあ弾頭として使えなくないか?」
「アイアンのはちょっとやりすぎだな。そのまま魔法で形状コントロールをしてもいいが、普通はもっと金属の特性が強い状態でやめるんだ。俺の剣も、金属としての剣の形はとどめているだろ?」
「なるほど、炎の魔力を弱くだな」
俺はその後いろいろやってみたが、どうしても金属の原型を留めたままって言うのが難しい。地球になかったものをイメージするのは、難しすぎるぜ。
「まあ、この技はイメージが難しいからな。俺もできるようになるのに結構苦労したぜ。今はとりあえず、その炎の金属を、無理やり弾頭の形にして、発射してみたらどうだ?」
「わかったぜ!」
「おっと、その前に、これをこうしてっと」
父ちゃんは俺が弾頭を引っこ抜いた薬きょうになにやら細工していた。
「今何をしたんだ?」
「ん? 普通の火薬だとその弾頭を付けた瞬間に火薬が爆発しちまうだろ? それを防ぐために、火薬と弾頭の間にバリアを張ったんだよ。撃つ瞬間に解除するから、気にするな」
「なるほど、ありがとな!」
俺は炎の金属を無理やり弾頭の形にすると、それを薬きょうにセットする。うん、ばっちりだ。そしてそれを15mm機関銃にセットすると、マト目掛けて発射する。
「父ちゃん、撃つぜ!」
「おう!」
「3、2、1、ファイアー」
タ~ンッ! どっか~ん!
俺の撃った銃弾はマトを軽く貫通して、庭に張ってある結界にあたってすさまじい音を鳴らした。銃弾のあたった付近の結界が揺らぎ、周辺のけしきがふにゃふにゃぼやける。
「おいおい、結界が揺らいだぞ。とんでもない威力だな」
「なあ父ちゃん、これは成功かな?」
「うむ、まだまだ改良の余地ありだが、ひとまずは成功でいいんじゃないか?」
「よっしゃあ! 父ちゃんありがとう!」
こうして俺は、魔法機関銃の技術を、一応習得した。一発しか撃てないけど・・・・・・。
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