第84話 バトル大会未就学児部門2だぜ!

「お~い、アイアン起きろ」

「エメラ、起きなさい」


 ジンクが俺に、ラピおばちゃんが母ちゃんに話しかけてくる。


「ふぁ~、よく寝た。もう開会式終わり?」

「ああ、控室に戻るぞ」

「おう」


 開会式は滞りなく終わったようだ。俺は日本人だったころからこの手の式典は苦手だったんだよ。すっかり寝ちゃったぜ。ま、2号君の中でならぐっすり眠ってても誰にも見つからないし、問題ないな。


 え、ジンクとラピおばちゃんにばれてるだろって? 二人は良いんだよ、なにせ目覚ましだからな。ちなみに母ちゃんは一緒に寝てたぜ。母ちゃんもこの手の式典なんかは嫌いなんだって!


 俺達は選手の控室に戻ると、出番を待つ。


「もうわかってると思うが、名前を呼ばれたら出番だからな。ちゃんと係員の指示に従うんだぞ」


 んったく、シュタールも過保護だな。そのくらいわかってるっつ~の。


「おう!」

「ほんとに平気か~? アイアンはさっき開会式で寝てただろ?」

「何で知ってるんだよ!?」

「なんでって、そりゃあ俺のカノーネ88のほうが背が高いし、アイアンの2号君はオープントップだからな。普通に上から見えるって」

「むぐぐ」


『みんな~、ランク1の試合を開始するよ~。名前を呼ばれた良い子は、係員のお兄ちゃんお姉ちゃんと一緒に、会場に移動してね!』


 名前が呼ばれて、最初に試合をする参加者が会場へと進んでいく。俺達はその様子を見ていたんだけど、俺はあることに気が付いた。


「なあ、係員ってあのおっちゃんもだよな? お兄ちゃんで小さい子はわかるのか?」

「アイアン、そう言うのは言いっこなしなんだよ」

「え~、だってさ~」

「アイアン」


 いやだってさ、どう考えてもあのおっちゃんはおっちゃんじゃん。お兄ちゃんとか、無理ありすぎだろ。


 でも、そんなおっちゃんの誘導に付いて行く子もちゃんといた。そんなもんなのかな。そして、会場のすべてのスペースに参加者が集まると、ついにゴングが鳴った。


『『『『『いけ~!』』』』』

『『『『『がんばれ~!』』』』』


 会場にはすごい応援の声が鳴り響く。


「すげえ盛り上がりだな」

「ああ」

「ははは、毎回こんなもんだよ。それより、俺達も観戦しようぜ。ランク1は小さい子が多いんだけど、ちびっこどもが頑張って戦ってる姿ってのも、なかなか面白いぜ」

「「おう!」」


 俺達は仲良く見学する。


「対戦相手は角ウサギだよな。ぴょんぴょん飛び回ってて、ちょっと微笑ましいな」

「そうだな。でも、一応角には注意しないとだな」

「そんなに警戒しなくてもいいぞ。確かにあの角は生身だと刺さることもあるが、皮鎧以上の防具で身を守っていれば、まず安全だ。所詮ランク1のモンスターだからな、そんなに貫通力は高くない」

「なるほど」

「シュタールは詳しいけど、戦ったことあるのか?」

「ああ、街の外にそこそこいるからな、父さん母さんと狩りに行ったことがある。弱いけど角から肉、毛皮に至るまで使い道があるからな、そこそこの値段で売れるんだ。いわゆる美味しい獲物ってやつだな。ただ、警戒心が強い上に逃げ足が速くってな、探すのも大変なら、仕留めるのも地味に大変だったりするぜ」

「ほう」


 3人で楽しく会話をしながら見学をしていたのだが、俺はまたしてもとある異変に気が付いた。


「な、なあ、ジンク、シュタール。あそこの小さい子供が戦ってる角ウサギなんだけどさ。なんか、角が短くね?」

「ん? 確かにそうだな。っていうか、短い上に先端が丸い?」

「あ~、見ちゃったか」

「どうなってんだ?」

「ランク1はまあ、基本絶対勝てるようになってるんだよ。あの子は小さいから、たぶん3歳前後ってところだろ? そうすると皮鎧でも重かったりするんだよな。そういう場合、生身でも怪我しないように、ゴーレムモンスターの方を弱くするんだよ。今回だと角が危なそうだから。ぽきって折ったうえで丸くしたんじゃないか?」

「そ、そうなんだ。でもあの子、剣を振るだけでいっぱいいっぱいな気がするぞ?」

「それもあるあるだな。もっと小さい自分に合った剣にすればいいのに、大きい剣を振りたくなる年ごろってやつなんだよ」

「でも、あんなふらふらでやっとこさ剣を振ってるようじゃ、当たらなくね?」

「おい見ろアイアン。さっきからタイミングを見計らって、角ウサギの方が剣に当たりに行ったぞ」


 なんてこった! 俺とジンクはすさまじい八百長現場を目撃してしまったようだ。


「ははは、まあなんだ、様式美ってやつだ。ランク1のモンスターゴーレムを倒して、みんなに拍手してもらって、お菓子をもらって帰る。それでいいんだよ」

「ふ~ん、ちなみにお菓子って、俺達でももらえるの?」

「おう、未就学児部門は、勝っても負けても試合後にお菓子もらえるぜ。ランク1はまあ全員勝つからあれだけど、ランク2以降は勝つとより豪華なお菓子がもらえるから、がんばれよ」

「おうよ!」

「ん? ジンクは嬉しくないのか?」

「いや、うれしくないわけじゃないんだけど、アイアンみたいに純粋に喜べる年でもないっていうか」

「あはは、まあそんなもんだよな。俺もそんな感じだ」


 その後も八百長あり、真剣勝負ありのランク1の戦いを見ていた俺達だったが、ついに出番が来た。


『ジンク=カーター君、アイアンオア=スミス君。こっちに来て~』

「よし、行くかアイアン」

「おう!」

「じゃ、シュタール、行って来るぜ」

「ああ、絶対負けない戦いだけど、負けんなよ」


 係員の指示に従って俺とジンクは会場へと移動する。戦いの場は、20m四方くらいの大きさで区切ってあるみたいだ。母ちゃんとラピおばちゃんが戦いの場の手前で降りると、俺とジンクだけが中に入る。すると、正面にいた魔法使いっぽい人が、魔法を使って土の角ウサギを作り出す。


「アイア~ン! ジンクく~ん、頑張れよ~!」

「アイアンちゃん、ジンク君、油断しちゃだめよ~!」

「ジ~ンク、アイアンく~ん!」

「ジンク~、アイアン君~、角ウサギなんてやっつけちゃって~!」

「2人とも頑張って~!」


 おおっと、俺達が出てきたことに気付いたのか、観客席から父ちゃん達が一斉に声援を送ってくれる。俺とジンクは軽く手を振ってそれに答える。


「準備はいいかな?」


 審判の人が声をかけてくれる。


「「おう!」」

「では、はじめ!」


 バババ~ン!


「勝負あり! 勝者、ジンク=カーター君、アイアンオア=スミス君」


 開始の合図と同時に、俺の2号君の30mm機関銃と、ジンクの武装ゴーレムの15mm機関銃が火を噴いた。角ウサギゴーレムは、俺とジンクのダブル機関銃攻撃にさらされて、あっという間に原型をとどめない程に崩れ去った。


「あれ?」

「ま、まあ、あれだな。ランク1のモンスター相手なら、しょうがないだろ」

「そ、そだな」


 会場の雰囲気でついついテンションが上がっちゃってたけど、相手はランク1だった。くう、完全にオーバーキルだぜ。舞台から離れると、係員の人が控室まで案内してくれる。


「2人とも勝利おめでとう! 二人は今回が初出場だよね! 控室に戻る手前でお菓子をもらえるから、楽しみにしててね!」

「うん、ありがと」

「ありがとうございます」


 こうして、俺とジンクは無事に初戦を突破した。


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