第85話 バトル大会未就学児部門3だぜ!
その後もバトル大会未就学児部門は順調に進んでいった。今はランク1の戦いが完全に終わって、ランク2の戦いの真っ最中だ。
ランク2の対戦相手は、牙ウサギだ。この牙ウサギ、ウサギのくせに体は大型犬並みに大きく、生えてる牙は完全に肉食獣のそれだ。そして、性格や食性も牙に引っ張られているのか、結構狂暴で肉食なんだそうだ。
参加者も少し違う。ランク2からは、ランク1の時みたいな八百長は一切なしの、ガチバトルになるみたいで、あんまり小さい子は参加してなかった。最小でも5歳くらいかな? 5歳でも十分小さいけど、ランク1のほうには3歳くらいの子もいたしな。
ランク1はランク1で微笑ましくて楽しかったんだけど、ランク2もなかなかに見どころがある。ガチバトルというだけのことはあって、みんな必死だ。まあ、あの体格のやつに噛まれたら、絶対痛いしな。牙ウサギのモンスターゴーレムを操っているゴーレム使いも、容赦なく動かしてるっぽい。
そのせいもあって、あっちこっちで牙ウサギに噛まれて泣く子が続出している。日本でも、子供をわざと泣かせる系のお祭りがあったけど、あんなのの非じゃない。なにせ、大型犬サイズに牙を持ったモンスターにガチで噛まれてるわけだからな、泣き声もガチの悲鳴の泣き声だ。阿鼻叫喚とはこのことかってくらいに、すごい空間になている。
シュタールが応援するって言っていた、道場で知り合ったっていう子達は、みんな勝ち進んでいたようだ。俺もその内の1パーティーの試合を見てたんだけど、盾役の子を囮に、盾役の子が噛まれいる隙に、噛み付いているウサギをぼこぼこに叩くっていうその戦法は、ありなのか!? 盾役の子、思いっきり泣いてるじゃん。友情にヒビっていうか、亀裂が走るぞ。
シュタールは苦笑いしながら見てたから、あんまりよろしくはないようだ。
ん? 俺とジンクの試合? 今終わったとこなんだけど、機関銃であっさり粉砕したぜ!
「流石だな、二人とも、余裕の勝利じゃないか」
戦いを終えた俺とジンクを、シュタールが迎えてくれる。
「サンキュー! ま、2号君の機関銃は強いからな、余裕だぜ!」
「ああ、この程度には負けられんさ。ところでシュタール、少し気になったんだが、なんで参加者は剣とか槍とか、接近戦用の武器ばかりなんだ? ランク1や2なら、機関銃を持ってくれば余裕で勝てるだろ?」
「あ~、それに関しては言いにくいんだが、まあ、お前らならいいか?」
「言いにくい?」
「ああ、ジンクは良いと思うが、アイアンは聞いてて気持ちのいい話じゃないぞ?」
「そうなの?」
「ああ、それでも聞くか?」
「ああ、聞くぜ。俺も興味あるしな」
「じゃ、話すぜ。二人とも、大会前にプロンがちょっかいを出してきたときの言葉、覚えてるか?」
「ん~? なんか言ってたっけ?」
ん~、シュタールとなんか激しく言い争っていたことくらいしか思い出せない。
「将来性云々の話のことか?」
「その通りだジンク。はっきり言ってしまえば、この街では遠距離戦用の火器っていうのは、あんまりいい見方をされてないんだよ」
「そうなの!?」
「なぜだ?」
「確かに機関銃や大砲っていうのは、ランク1の相手やランク2の相手にはかなりの強さを持っている。物理的なエネルギーだけで相手を倒せるからな。でも、敵のランクが3にもなると、モンスターの持つ魔力も結構高くなって、物理的なエネルギーだけで突破できるような甘い防御力じゃなくなるだろ? それに対抗するために、こっちも攻撃に魔力を乗せるわけだが、近接武器と比べると、飛び道具はどうしてもな」
「なるほど、その関係か。そう言われると、反論しにくいな。俺も機関銃は使うけど、大砲は使いこなせる気がしなかった」
そういえば、魔力をのっけた攻撃ってことに関して言えば、飛び道具はいろいろと不利な面が多かったな。それで将来性が悪いとかなんとか言われてたってことか。
「ジンクの武装ゴーレムみたいに、武装ゴーレムが雑魚処理や牽制用に機関銃を乗せてるところまでは良いんだ。みんな理解がある。でも、強敵相手にも使用するメインウェポンとして大砲を使うってなると、将来性がないって思われてるんだ」
「でもさ、武装ゴーレムにだって、大砲部隊がいるだろ?」
そう、そもそも俺は動画で武装ゴーレムが大砲をどかどか撃っているのを見て、この世界に大砲があることを知ったんだし。
「その通りだ。大砲部隊は今でもいるし、それなりに活躍はしている。でも、その大砲部隊が、ある意味ここまで大砲の評判を落とした元凶でもあるんだ。100年くらい前にあった、ヒポドラゴンってランク6のモンスターとの戦いって知ってるか?」
「ああ、ゴールドタウンの話だろ」
「そうだ、その戦いで大砲部隊は、コスト度外視の攻撃を仕掛けたにもかかわらず、ヒポドラゴンにろくにダメージを与えられなかったんだ。そのせいで、本当の強敵には弱いって言う評価がついちまったんだ。おまけに弱いくせに無駄にミスリルを消費して、後のミスリル不足を引き起こした元凶って言われるようになった」
「あ~、なるほどな。気持ちはわからんでもないな」
そうだった。それで50年前に母ちゃん達が活躍するまで、50年間もミスリル不足に陥ってたんだよな。そりゃあ、嫌われてもしょうがないのか? いや、ジンクも気持ちはわからんでもないって、ダメだろ! 大砲が嫌われているとか、絶対にダメだ!
「まあ、50年前に現れた、瑠璃翠っていう二人の英雄のおかげで、ヒポドラゴンの件もミスリル不足の件も解決したみたいなんだけど、一度落ちた評価は戻らなくてな。俺の家なんて家業が大砲鍛冶屋だろ? だからってわけじゃないが、もろに影響受けちゃってな。俺としてはこういう大会でカノーネ88と活躍して、大砲の評判を、いや、戦闘用魔道自動車の評判を上げたいんだ。そうすりゃあ、大砲だけじゃなく、戦闘用魔道自動車の受注も来るかもしれないだろ? まあ、ライバルも増えるかもしれないが、そうなったらそうなったで、いろんな戦闘用魔道自動車が見れるようになるだろうし、それは俺としては悪いことじゃないからな。そもそも、武装ゴーレムの武器の一種っていう形じゃあ、大砲の性能は生かしきれないと思わないか? 大砲を最大限に生かすなら、やっぱ戦闘用魔道自動車だろ?」
シュタール、お前ってやつはなんていいやつなんだ。家業を盛り上げるためだけじゃなく、将来の戦車のことまで考えているなんて。俺は2号君は強いんだぜって、爺ちゃん達と婆ちゃん達に自慢できればいいと思ってたけど。シュタールのその崇高な目的のために、俺も協力するぜ! やる事は変わんないしな!
「シュタール、お前の言う通りだぜ。俺も協力する! 出来るだけ多く勝ち進もうぜ! んで、戦車の実力ってやつを、この街の連中に思い知らせてやろうぜ!」
「流石アイアンだ。わかってくれるのか・・・・・・。くう、一緒に頑張ろうぜ!」
「おう!」
俺とシュタールはお互いの戦車から上半身を伸ばして、手を取り合う。
俺とシュタールが、そんな熱い友情を確認していると、母ちゃんとラピおばちゃんがなにやらこそこそと話し合いをしていた。
「瑠璃翠ってどういうこと? なんで私が先なの? 私はエメラについて行っただけって散々言ってるのに」
「ヒポちゃんにたくさん止めを刺していたのはラピちゃんなの。ラピちゃんが先なのは当然なの!」
そういえば、瑠璃翠の瑠璃って、ラピスラズリの和名だったな。ってことは、ラピおばちゃんのことか。翠は、翠玉がエメラルドのことだから、母ちゃんになるのか。
「ちょっとジンク、なんで瑠璃が先なのか聞きなさい」
「え、俺?」
「あなたの母親の名誉にかかわることよ、聞きなさい」
「わ、わかったよ」
ジンクはいやいやながらシュタールに話を聞く。
「なあ、シュタール。瑠璃翠って、なんで瑠璃が先なんだ?」
「う~ん、俺もそこまでは知らないな。でもたぶん、瑠璃さんがメインだったからじゃないか? 俺の聞いたことのある瑠璃翠の話だと、瑠璃さんがメインアタッカーで、翠玉さんはサポート役だったそうだし」
「なるほど」
なるほど。ラピおばちゃんが、どこの誰がそんな間違った話を広めたのよ! って、小声で抗議してるけど、大筋では間違ってはいないよな。
「でも、憧れちゃうよな。たった二人で、軍でもかなわなかったヒポドラゴンの群れに挑んでいくんだぜ? 俺も一時期瑠璃さんの真似をして、二刀流してたっけな」
シュタールの話を聞いて、ラピおばちゃんが固まった。
「憧れたのは母さ、んん、瑠璃さんだけなのか?」
「翠玉さんに憧れなかったわけじゃないんだけどさ、やっぱメインアタッカーの瑠璃さんへの憧れのほうが強かったな。それに、瑠璃さんの二刀流は真似しやすいけど、翠玉さんのゴーレムは、真似したくても難易度高すぎるからな」
「それはそうだな。俺もゴーレムはさっぱりだしな」
まあ、それは言えてるな。二刀流は形だけ真似る分にはイージーだけど、ゴーレムってなると、自由に動かせるようになるだけでも結構大変だしな。
「俺も一度でいいから二人に会ってみたいな。道場の師範、あ、プロンのおじいさんな。その師範は、瑠璃翠と戦ったことがあるらしいんだよ。く~、羨ましいぜ!」
「戦ったってのは模擬戦でもしたのか?」
「違う違う、本当に戦ったんだって。50年前、軍が街中に瑠璃翠の像を建てたらしいんだけど、それに反対して、破壊し始めた瑠璃翠と、像の守りと治安維持に動いた軍の間で、文字通り戦争さながらの戦いが起こったんだってさ。師範はその時に治安維持部隊のメンバーだったらしくてな、一戦交えたそうなんだ。ただ、普段なら負けた経験ほど饒舌に語ってくれる師範が、瑠璃翠がらみのことだけは頑なに教えてくれなくってな。師範が軍を離れたのは、そのすぐ後だったっていうし、何かあったことだけは間違いないと思うんだけどな」
おいおい、母ちゃんもラピおばちゃんも、シュタールの師範に何やったんだよ。
「像をめぐって軍人さんと戦った時は、ラピちゃんと別行動だったから確証はないんだけど、きっとラピちゃんのせいなの。あの時ラピちゃんは、軍人さん達を死なせない程度に切りまくってたの」
「違うわよ! 絶対エメラのせいよ。エメラの暴れてたところのほうがはるかにひどかったじゃない! よくあれで軍人に死者が出なかったと、あたしは感心したくらいだったわ!」
「違うの。そもそも私のほうは、ゴーレムちゃんの巨躯に驚いたのか、ヒポドラゴンゴーレム部隊とか、腕に覚えのある一部の軍人さんしか挑んでこなかったの。確かに私の周囲にいた軍人さんは多かったけど、被害の拡大防止や、野次馬さん対策だったの。そして、私はそういう軍人さんとは一切戦闘をしてないの。でも、ラピちゃんは問答無用で目につく軍人さんを切りまくってたの。治安維持部隊なら、きっと周囲を囲ってた軍人さんだから、ラピちゃんが切ったの」
「そんなのわかんないじゃない! 証拠はあるの!? だいたい、あたしはエメラみたいに、周囲を囲まれて一斉攻撃を食らっても、軽く蹴散らせるから囲んでるだけなら無視してあげる、なんてことが出来るほど、圧倒的に強いわけじゃないのよ。だから、囲まれないように立ち回っただけよ! それの何がいけないの!? それに、そもそもあたしはエメラみたいに派手に暴れてないんだから、囲む必要なんてなかったでしょうが! あたしのせいじゃない!」
この焦り方と、途中からやってないことを証明すると言うより、やっちゃっててもしょうがないという言い訳になってるあたり、犯人はラピおばちゃんっぽいな。どうやらジンクも同じ結論に達したようだ。でも、安心してくれラピおばちゃん。俺もジンクも言ったりしないからさ。
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