第86話 バトル大会未就学児部門4だぜ!

 お昼ご飯をはさんで、ついにランク3の戦いだぜ。ここまでくると、流石にみんなそこそこ強い。参加者の泣き声で阿鼻叫喚だったランク2とは違って、敵の攻撃で泣き出すような子もいない。


 対戦相手はファイティングバニーだ。ファイティングバニーは、2足歩行も出来るウサギで、その大きさは2mくらいある。ファイティングの名の通り、格闘技を使って戦うようだな。ウサギとしての強靭な足による高い機動力と、キックの破壊力はなかなかのものなんだそうだ。


 そして、今、そんな巨大ウサギと、俺とジンクは対峙している。


「はじめ!」


 試合の開始と同時に、俺の2号君の主砲が火を噴く! 相手のランクは3ってことで、まだぴかぴか弾の出番じゃない。普通の砲弾に、普通の金属強化魔法だけを使った攻撃だ。


 2号君の主砲は、ファイティングバニーの腹部を完璧にとらえて、大ダメージを与える。流石にランク3ともなると、普通の砲弾だと一撃では倒し切れなかったようだが、すぐさまジンクが武装ゴーレムで追撃を仕掛ける。


「そこまで! 勝者、ジンク=カーター君、アイアンオア=スミス君!」


 ま、余裕だな!


 俺とジンクが控室に戻ると、シュタールが出迎えてくれる。


「流石だな。まさかランク3をこうもあっさり突破するとはな。まあ、あれだけの火魔法が使えるアイアンなら、魔法大砲も使えるとは思っていたが、ああも簡単に使うとはな」

「当然だぜ!」

「ジンクも金属強化魔法のレベルが高いな。しかも、武装ゴーレムの動きが信じられない程滑らかだ。この動きのよさ、武装ゴーレムの製造技術も相当高いんだろうな。正直、俺は軍事関連のことはこの街がドワーフの国の中で一番高いと思っていたんだが、まだまだ世界は広いな。さて、そろそろ俺のパーティーメンバーが来る時間だからな、行くぜ。最後の打ち合わせがあるんでな。お互い、ランク4を突破しようぜ」

「「ああ!」」


 こうして、シュタールは控室から出て行った。


「打ち合わせか、そう言えば俺達って全然してなかったな」

「確かにな。一応しとくか?」

「たまにはいいかもしれないな!」

「そうだな。初見のランク4相手だしな。それに、アイアンだって当然ランク4で燃え尽きるつもりはないんだろ?」

「あったりめえだろ! ランク4なんて通過点だぜ。ランク5で軍人さん引っ張り出して、それにも勝利して、豪華景品ゲットだぜ!」

「だな! 豪華景品は置いとくとしても、俺も負ける気なんかさらさらねえ! というわけで母さん。ランク4の2本角ウサギの戦いかたなんかを教えてくれねえか?」

「知らないわ」

「「え、そうなの?」」


 ついついジンクと声が揃っちまったぜ。でも、いかなる時も慎重で、事前の準備を完璧にするタイプのラピおばちゃんが知らないとは、思いもしなかった。


「母ちゃんは知ってる?」

「大きくて可愛いウサギさんなの!」


 うん、わかってた。


「でも、母さんが全く知らないモンスターって、そんなに珍しいモンスターなのか?」

「生息地域自体はそれなりに広いわ。ただ、2本角ウサギは、1本角ウサギと同じ臆病な草食モンスターなのよ。つまり、牙ウサギみたい肉が好きだからって襲ってきたり、ファイティングバニーみたいに、勝負が好きだからって襲ってきたりしないわ。基本的には大きな耳で敵の接近を察知し、巧みな魔法技術で逃げ隠れするっていう生態よ。あたしもどうやって仕留めようか考えたことはあったけど、そんなモンスターと正面切って戦おうとしたことはなかったわ。エメラのゴーレムがいるあたし達の前に、出てくることは一度もなかったしね」


 マジかよ、そんなの対策のしようがないじゃん。


「う~ん、まいったな。って、あれ? 母ちゃんはまるで知ってるみたいな言い方だったよな?」

「それは、一度野営中にエメラがどこかから持ってきたのよ。素手で、生きたまま」

「だって、可愛かったの」

「まあ、確かに可愛かったわね」

「それって、戦ったわけじゃなかったの?」

「う~ん、大人しかったのよ」

「たぶん、歯向かっても無駄って悟ったんじゃないかしら? 実際、一通り撫でたり抱いたりした後に、離してあげたし」

「そうなんだ」


 ってことは、完全に情報なしか、うう~ん、シュタールがいる内に聞いときゃ良かったな。ま、俺達が初戦ってわけでもないだろうし、そこで情報収集でもすればいかな?


「なら、私が教えようか? 瑠璃翠殿、いや、ラピスラズリ=カーター殿、エメラルド=スミス殿」


 そこに現れたのは、顔が思いっきり腫れてる一人の男だった。真っ赤というか、紫に変色してるほっぺが痛々しい。


「誰?」

「誰なの?」


 俺は母ちゃんに、知り合いなの? って意味で聞いたんだけど、母ちゃんも誰なの? って聞いてるし、母ちゃんの知り合いじゃないのかな?


「エメラ、あなたねえ。今朝自分で殴った相手の顔も忘れたの?」

「え!?」


 マジで? この人、あの時のおっちゃんなのか? 全然見えないんだけど。


「う~ん、もっとこう、シュッとした相手だったはずなの」

「ふっ、素手の相手にこうもあっさり負けたのは初めてだったよ」


 ここは、あれだな。証拠隠滅しておこう。俺は短杖を痛々しいほっぺに向けると、回復魔法を発動させる。


「これは・・・・・・、回復魔法か・・・・・・。まさかここまでの回復魔法を使えるとはな。なるほど、このレベルの回復魔法が使えるのなら、ファイヤーボールで相手を怪我させても、大した問題ではないと判断するのもありえるか」


 なんかおっちゃんがぶつぶつ言いながら感動してるようだけど、とりあえず証拠隠滅完了だ。これで母ちゃんが殴ったという証拠はなくなった。


「うん、治ったな。確かにあの時の、え~っと、プロンって言ったっけ? あいつの父親だな」

「そうなの、あの時の男なの。それで、何しに来たの?」

「さっき言った通りだ、困ってるみたいだったからな」

「それは、あなたが2本角ウサギの戦い方を教えてくれるとでも?」

「ああ、そうだ。論より証拠、早速話すとしよう。まず、2本角ウサギの最大の特徴は魔法だ。ランク4のモンスターだから、魔法を使うのは当然だが、ランク4のモンスターの中でも、魔法の扱いに長けたモンスターになる。特に得意としているのは、身体強化魔法と、雷系の魔法を組み合わせた高速移動になるな。そのスピードはすさまじく、一度逃げられると追いつくのは至難の業だ」

「そこまでは知っているわ。問題は戦い方よ」

「戦い方は2種類だ。遠距離からの魔法攻撃と、近距離での突進だ。どちらも雷系の魔法を使うから、攻撃は速く、回避は困難だ。ハンターギルドの評価では、ランク4のモンスターとしては、素早さが非常に早く、攻撃力は並み、防御力は低いという、典型的なウサギ系モンスターになるな」

「あなたは戦ったことがあるわけ?」

「ああ。通常軍では2本角モンスターのような脅威の全くないモンスターをわざわざ狩ったりはしないが、訓練で狩ることが時折あるからな。確かに一般的には逃げてそれでおしまいという生態だが、追い詰められれば向こうも反撃してくる。だから、包囲戦を仕掛ければ、戦うことは十分に可能だ。しかも、こちらが負けそうになっても、包囲さえ解けばこちらに必要以上の攻撃はせずに逃げていくから、ランク4の実践訓練の最初の相手として、重宝している」

「なるほど、索敵の難易度の高さ、包囲する連携の確認、いざという時も死者が出にくい。確かに訓練には都合のいい相手ね」

「そういうことだ。あいつの攻撃方法なんかはここに書いてあるから、有効活用すると言い。有効な戦い方までは、蛇足だな?」

「ああ、そこからは二人で考えるぜ! サンキューなおっちゃん!」

「ええ、ありがとうございます」

「気にするな。ではな」


 そういって、プロンのおっちゃんは去って行った。


「なんかよくわかんないけど、あの時と違って、いい人っぽかったな」

「そうなの。あの時と印象が違うの」


 ドワーフも第一印象だけで決めちゃあだめだな!


「いや、あの時はアイアンのファイヤーボールがどう考えてもやり過ぎだったからじゃね? そもそもアイアンは回復魔法が上手いせいか攻撃が過剰なんだよ」


 ジンクが何か言ってたけど、俺の耳には届かなかったことにした。


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