第87話 バトル大会未就学児部門5だぜ!

『セントラルシティーバトル大会、未就学児部門も、ついにランク4のモンスターゴーレムとの戦いになったぞ~!』

『うおお~!』

『ランク4に挑む、それすなわち、ランク3を突破したということ。そして、ランク3といえば、軍でもハンターでも、1人前の証! その一人前の証を、未就学児がすでに持っているということです。これは驚異的なことだ~!』

『うおお~!』

『そんなすでに一人前の未就学児達が、軍やハンターでもベテランと呼ばれる、ランク4に挑む! 未来の英雄の1ページになるかも知れないこの戦い、見逃すんじゃねえぞ~!』

『うおお~!』

『ではこれより、セントラルシティーバトル大会、未就学児部門、ランク4のバトルのスタート、だ~!!!』

「「「「「うおお~!」」」」」


 司会者がめっちゃ盛り上げて、これからランク4のバトルが開始されることをアナウンスする。ちなみに、スタートだ~とか言ってるけど、1組目の参加者の入場はこれからだ。あくまでも、この先ランク4になるよっていうだけのアナウンスだったみたいだ。


「なあ、ジンク、最後のはともかく、司会者さんのしゃべりの合間合間で会いの手みたいに入ってたうおお~って音声、あれ、録音だよな?」

「アイアン、そう言うのは気付いててもスルーするもんなんだぞ。それより、ランク4は会場がわかれてないようだな」

「ああ、これなら一組づつじっくり見れるな」


 ランク3までは会場がいくつかに分かれていたけど、ここからは会場全部を使って戦うみたいだ。


『では、一組目のチャレンジャー! 入場してください!』


 最初の参加者が会場に出てくる。出てきたのは、女の子の4人組だ。持っている武器は、片手剣と盾が一人、槍が一人、斧が一人、杖が一人。防具は接近戦用の武器をもった3人も、杖の子も皮鎧だ。


「この4人組、結構魔力量あるかんじだ」

「ああ、この4人組、結構強そうだ」


 そして、対戦相手がゴーレム使いの手によって生み出される。現れたのはもちろん2本角ウサギだ。ウサギとは思えない巨躯、今は丸まってるけど、1、5mくらいありそうだ。そしてその側頭部から捻じれるように前に突き出した2本の角。なるほど、情報通りだ。でも、やっぱじかに見ると違うな。


「こいつが、2本角ウサギか」


 ジンクが呟く。


「ああ、ゴーレムモンスターで助かったぜ。本物だったら、もふもふがあったら、可愛さに負けて攻撃出来なかったかも知れねえぜ」


 今回は相手がクレイゴーレムだから良かったようなものの、本物だったらもふもふの可愛さに負ける可能性すらあったな。実際、あの母ちゃんをその可愛さで退けたほどの強敵だ。油断は出来ねえ。


「何言ってんだアイアン?」


 ジンクが驚いたようにこっちを見てくる。


「おいおいジンク、奴は母ちゃんすら退けたほどの可愛さをもつモンスターなんだぞ? いくら本物ではないとはいえ、その可愛さの片りんは持ち合わせている。油断するなよ?」

「はあ・・・・・・」


 今度はジンクが呆れたような顔でこっちを見てくる。意味が分からん。あの母ちゃんを退けたモンスターなんだぞ? 油断禁物ってわかってんのかな?


「おいジンク?」

「いや、油断だけは絶対しないから安心しろよ」

「そうか? ならいいんだ」


『第1試合、開始です!』


 おおっと、ジンクと話をしている間にも、試合が始まっちまったみたいだぜ。


 開始と同時に杖を持った子が他の3人の子に支援魔法をかける。ん~、魔力の流れ的に防御力上昇と、速度補助かな。そして、片手剣と盾を持った子は、左手に持った盾を構えて突進する。槍と斧と杖の子は、盾の子の後ろに隠れるように後に続く。


 一方の2本角ウサギは、開幕からいきなりの雷魔法による遠距離攻撃だ。2本の角の先端に大量の魔力が集まったかと思ったら、それが巨大な雷の球になる。そしてそれを、盾持ちの子に発射する。速い!


「うお、すげえな。あれが雷魔法なのか、くそ速いな」

「ああ。確かにすごい。避けるのは不可能な速さだな。武装ゴーレムでなら受け止められるが、生身だと結構きつい威力だな」

「ジンクでもか。まあ、もしそんな機会があったら、対雷用の防具でも作ろうぜ」

「そうだな」


 盾持ちの女の子も、避けれるとは思っていなかったようだ。気合いのおたけびを上げながら、雷の球へと強引に突っ込む。いくらそれしか手がないとはいえ、無茶するぜ。でも、そんな盾持ちの子をあざ笑うかのように、2本角ウサギは距離を取ろうとする。だが、後ろに下がるのは許しても、左右への移動はさせまいと、盾持ちの子の後ろから左右に槍持ちと斧持ちが飛び出す。さっきの支援魔法の効果もあるとはいえ、この二人の移動速度もなかなか速い。


 魔法使いの子は、盾持ちの子の後ろのままだ。恐らく、遠距離攻撃に長けるタイプではなく、支援系の魔法が得意なタイプなんだろう。魔法はたとえ支援系とはいえ、距離が開くと効果が落ちるからな。皮鎧を着て一緒に前衛にでるってのはリスキーだが合理的でもある。


「盾持ちの子、無茶するぜ。でも、いい連携だな」

「ああ、もし単純な追いかけっこになったら、あの速さじゃあ追いつけねえ。引き撃ちを徹底されて終わりだろう。なら、囲って逃げ場を防ぐしか手はねえよな」


 だが、2本角ウサギもそう簡単に追い込まれない。後ろに下がりながらも、今度はさっきよりもための少ない雷魔法で、左に回り込もうとしている斧持ちの子に攻撃を繰り出す。斧持ちの子は、ノーガードでその攻撃を食らいながらも、接近を続ける。


「斧の子も気合入ってんな、もうちょいで包囲が完成するぜ!」

「ああ。あとはどう仕留めるかだな」


 女の子達の包囲はもう完成しつつある。2本角ウサギも、そのことに気付いたようだ。とはいえ、そう簡単にあきらめる気も無いようだ。頭を低く下げ、身体強化魔法に加えて、雷魔法まで併用して凄まじい速度で突進を繰り出した。狙いは、一番ダメージの大きそうな盾持ちの子か! これ、さっきの雷魔法よりもだいぶ強いぞ!


 そんな凄まじい2本角ウサギの突進を、盾の女の子は剣も盾も捨て、腹で受け止める。背中から2本の角が飛び出すが、女の子はお構いなしに2本角ウサギの耳を手で掴んだ。


 盾持ちの子の、悲鳴なのか、気合なのかわからない声が、会場に響き渡る。


 でも、これで2本角ウサギは完全に止まった。2本角ウサギは暴れて逃げ出そうとするけど、女の子はその手を離さない。よく見ると、女の子の足は、膝くらいまで土が纏わりついている。これ、女の子を持ち上げて逃げられないように、魔法使いの子がやったのか? それだけじゃない。女の子のうさ耳を掴む手にも、土が纏わりついている。


「なんっつう無茶をするんだ」

「確かにな。だが、それが盾を持つことを選んだものの仕事だ」


 2本角ウサギはその後も逃げ出そうと必死に暴れる。そのたびに女の子は悲鳴を上げ、背中から血が飛び散るが、魔法使いの子は、泣きながらも杖を女の子に向け、土魔法の強度を緩めない。そして、槍と斧の二人は、2本角ウサギの後ろから必死に攻撃を繰り出す。2本角ウサギは全身から放電するかのようにバチバチしている。あの放電だと、攻撃している斧持ちの子と槍持ちの子もダメージを受けるだろうけど、それでも二人は攻撃の手を緩めない。


 司会者も観客も、完全に無言になっていた。聞こえるのは、2本の角ウサギの雷のバチバチ音と、盾持ちだった女の子と2本角ウサギの悲鳴、それと、斧と槍の子の気合の声だけだ。っていうか、2本角ウサギの鳴き声まで再現するとか、芸が細かいな。


 うさ耳を持つ子が気絶したり、魔力が尽きたら、身体強化魔法が解けて、胴体を引きちぎられて2本角ウサギに逃げられる。土魔法を維持している子の魔力が尽きたら、うさ耳を持ってる子の体を持ち上げられて逃げられる。この二人が倒れるのが先か、残りの二人の攻撃で2本角ウサギが倒れるのが先か、そういう勝負になっていたが、ついに決着の時が訪れた。


 槍の子の槍が2本角ウサギに深々と突き刺さり、斧の子の一振りが大きく2本角ウサギの体をえぐる。どうやら、槍と斧の子達の前に、2本角ウサギが防御魔法を維持できなくなったようだ。一度攻撃が深々と通ってから、その体が崩れさるまでは、そう時間が掛からなかった。


『勝負あり! チャレンジャーの勝利です! それより、医療班急いで~! 内臓が出ちゃってるから~!』

「「「「「うおお~!」」」」」

「「「「「よくやったぞ~!」」」」」


 先ほどまで静かだった会場は、うって変わって4人の祝福で盛り上がる。


 さってと、どうしよう。俺達この後試合なんだけど、ちょっとやりにくいな。


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