第81話 バトル大会の前哨戦だぜ!

 今日はバトル大会の当日だぜ! 朝食後、俺とジンクは2号君と武装ゴーレムでお出かけする。もちろんみんな一緒にだ!


 目的地は戦士地区にあるコロシアムだ。このコロシアム、こないだヒポドラゴンの基地を見に行ったときにも、チラッと建物の上のほうが見えていたくらい巨大な建物だ。


「うお~、でっけえな」


 コロシアムの外観は、イタリアにあるコロッセオみたいな、歴史を感じさせる建物っていうよりは、日本にあるどっかの競技場のような作りだ。


「ああ、遠くからもチラチラ見えてたけど、こうして近くから見るとデカさがよくわかるな」

「アイアンちゃん、ジンク君、受付に行くのよ」

「「おう!」」

「それじゃあ、私は中で席を確保しておきましょうね」

「ええ、お願いね。母さん」


 ここで一旦みんなとはお別れだ。俺とジンクは、母ちゃんとラピおばちゃんと一緒に受付に行く。親同伴かよ~って思うかもしれないが、未就学児部門だからな。受付も保護者必須なんだよな。他のみんなは観客席へ席の確保に向かう。


 俺達4人は受付に向かっていく。受付の周辺は結構人がいるな。武器を持った俺達くらいの子供+その親っぽい大人という組み合わせが多い。みんな出場者だとすると結構多いな! そんな風に辺りを眺めてたら、見つけたぜ。戦車だ。シュタールの戦車だ!


「お~い、シュタール~!」

「おお、アイアンじゃねえか! 久しぶり!」

「俺もいるぞ、シュタール」

「この声は、ジンクか? そういえば武装ゴーレムに乗ってるっていってたが、それがお前の武装ゴーレムか?」

「ああ、その通りだ」


 そういえば、シュタールはジンクの武装ゴーレムを見たことがなかったな。


 ちなみにシュタールは今日もおばちゃんを運転席に乗せて二人乗りだ。母ちゃんとラピおばちゃんと、シュタールのおばちゃんは既に打ち解けたようで、大人は大人で楽しそうにおしゃべりを開始している。


「そういや、お前ら遊びに来てくれるのかと思ってたら、ぜんぜん来てくんないしよ」

「わりいわりい、ちょっと新技の習得に手一杯でな」

「ジンクもか?」

「ああ、すまんな」

「でもさ、それ言うならシュタールだって来なかったじゃん」

「いや、お前らはたまにしかこの街にこれないんだろ? だから、来てもらう分にはいいけど、こっちから行って邪魔するなって母さんに言われたんだよ」

「そうだったのか」

「悪かったな」

「まあいいさ。それよりお前ら、受付ってもうしたのか?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、一緒に行くか」

「「おう!」」


 そんなことを話していたら、俺達の正面から子供の集団がこちらに近づいてきた。みんな武器を持っているみたいだし、こいつらも出場者だな。でも、親は一緒じゃないっぽいな。子供だけだ。


 そして、その中でも特にデカい一人が、シュタールに近づいてきて話しかけてきた。こいつ、マジでデカいな。2号君に乗ってるから正確なところはよくわからんが、ジンクよりもデカいんじゃないか? 武器は背中のでっかい剣か。


「ようシュタール。相変わらずそんなおもちゃで遊んでるのか?」

「プロンか。いったい何の用だ? 前回負けたのがそんなに悔しいのか?」


 プロン、確かフランス語で鉛だったかな? にしても何だこいつ、いきなりケンカ腰じゃねえか。


「そんな今だけしか強くないおもちゃと、今後の伸びしろが十分にある俺の剣を一緒にするんじゃねえよ」

「伸びしろ? お前程度の剣が? 本当にあると思っているんなら笑い話だな」


 どうもこの小生意気なガキとシュタールは仲が悪いみたいだな。にしてもシュタールもなかなか口が悪い。


「はっ! 俺の親父がだれか知ってんだろ? お前とは違うんだよ! なあお前ら」

「そうだそうだ!」

「お前みたいなのとは違うんだよ」


 ちょっと離れたところから、取り巻きがプロンに援護射撃する。なんていうか、絵にかいたような取り巻きだな。それと、こいつの親父って有名人なのか?


「それに対してお前は何だよ? まさかそんなガキしか理解者がいないってか。流石ぶーぶ遊びが大好きなちゅたーる君でちゅね。同じおもちゃ好きの子供しか相手してくれないなんてな、あっはっは。そもそも、遠くからちまちまやるしか能がねえくせに、どこに伸びしろがあるんだよ。そんな戦法、頭の足りてない雑魚モンスター相手にしか通用しねえんだよ!」


 ちょっと待て。なんか引っ掛かる事いいやがったぞ、このクソガキ。


「ん? おもちゃ好きのガキって、俺のことか?」


 俺はついつい口にしてしまった。2号君の中で呟いた俺の音声はシュタール達には聞こえなかったようだが、通信を基本繋げっぱなしにしている関係で、ジンクにはバッチリ聞こえたようだ。


「おいおいアイアン。お前まであんなくだらん口喧嘩に首突っ込むなよ?」

「当然だ。あんな低レベルな口喧嘩に口だすかよ」


 んったく、ジンクの野郎。俺には日本人として生きてきた長年の蓄積ってものがあるんだぜ? がきの煽りごときにいちいち反応なんてしてられるかっての。ぱっと見、そこまで強そうにも見えないしな。


 俺とジンクが話している間にも口喧嘩は続いていたが、正直こんな低レベルの争いに興味はない。


「シュタール~、こんな弱そうなクソガキども放っておいて、さっさと行こうぜ~」


 俺はさっさと受付に行きたくてシュタールにクソガキどもを無視して先に進むように促す。


「おい、アイアン。お前、言ってるそばからそれかよ」


 なんかジンクが呆れたようにこっちに声をかけてきたけど、何か変なこと言ったかな?


「ん? ああ、すまないな。アイアンの言う通りだ。さっさと行くか」


 シュタールも俺の意図に気付いたのか、クソガキどもを無視して移動しようするが、なおもこのクソガキはシュタールを煽る。


「はっ! やっぱぶーぶ遊びが好きな奴は根性なしの臆病者だな。反論の一つも出来ないとはな! 剣は俺の親父をはじめ、強い奴なんて軍にもハンターにもそれこそいくらでもいる。だが、お前のぶーぶはどうだよ。ランク6や7の猛者どころか、ランク4のやつすらほとんどいないじゃねえか。そもそも、てめえの親父なんてハンターのランクはたかだか3止まりだろうが!」


 あれ? そうなの? 大砲自体は強いんだから、遠距離攻撃が得意な奴がのれば、それだけでそこそこ高ランクのモンスターにも勝てそうな気がするんだけどな。それと、シュタールの父親は鍛冶屋だろ? 戦闘職じゃないんなら、ハンターランク3もあれば十分だと思うがな。


「おい、あんまりふざけたこと言ってんじゃねえぞ! そもそも、お前の親父さんが強いことなんてこの街のドワーフなら誰だって知ってる。だがな、それはお前の親父さんの話だろうが。お前の話じゃねえ! 確かにお前も多少強い、それは認めてやるよ。だがな、多少強いだけだ。お前の親父さんや兄さん姉さんが、俺達くらいの年の時どんだけ強かったのか知らねえとは言わせねえぞ!?」

「黙れ」

「武器としての剣は強い。お前の親父さんも強い。お袋さんも強い。兄さんも強い。姉さんも強い。だが、お前はどうなんだよ? 9歳にもなってランク4のモンスターに勝ち目ゼロじゃねえか。お前の兄さんが5歳のころにランク4のモンスターと互角に戦ってる動画くらい見てるんだよ! お前の剣に未来がある? 笑わせるな、偉大な一族の失敗作が」

「黙れっつってんだよ!」


 そりゃあシュタールだって親を馬鹿にされたら切れるよな。でも、シュタールの反撃もなかなか辛辣だな。他の家族と比べて弱いって、プロンとかいう奴だって絶対気にしてることだろうに、やれやれ、お互い完全に怒っちゃってるな。


「シュタール、もう謝っても許さねえ」


 プロンは背中の剣を抜いて構える。


「それはこっちのセリフだ」


 シュタールも剣をもって戦車を降りて構える。まあ、こんな接近戦だと戦車に乗ったまま戦うのは不利か。にしても、二人ともそれ、真剣だよな? マジでそれで切り合う気か?


 俺の心配をよそに、二人は少しにらみ合ったかと思ったら、そのまま切り合い始めた。


「おいおい、まじかよ!」


 しかも、プロンの取り巻きのガキどもがシュタールを囲うように動き出す。


 はあ? あんだけ煽っといて1対1すらする気ねえのかよ。流石にせこすぎだろこいつら。ここは俺も参戦だ。俺は2号君から愛剣猫ヅメと共に飛び出す。


「おいシュタール。俺も参戦するぜ」

「好きにしな」

「は。ガキに支援してもらわないといけないとは、本気で情けない奴だな」


 俺はプロンの取り巻きどもと対峙する。プロンの取り巻きどもは全部で4人。武器は斧、ハンマー、槍、弓だ。


「おいジンク、お前も手伝えよ」

「断る、雑魚すぎる」


 あんにゃろう! まさかの参戦なしかよ!


「いけいけ~なのよアイアンちゃん。こんな連中ぶっ飛ばすのよ!」


 母ちゃんは、止めるよりもノリノリで応援してくれるみたいだな。ラピおばちゃんは、呆れてるっぽいな。シュタールのおばちゃんはシュタールを心配そうに見てる。


「悪いが1対5なんてせこい戦い見てらんねえからな。てめえら全員ここでぶっ潰すぜ!」

「1対5? 俺達はあのぶーぶ好きが逃げねえように囲もうとしてるだけだよ! 黙ってろガキが。おい、取り合えず弓でも放ってやれ。そうすりゃあビビッて逃げるだろ」


 だれが言ったのかわからんが、弓を持った奴が実際にこっちに弓を射かけてくる。あん? なんだこの舐めた軌道は、当てる気なしってか? 俺は外れるとわかっている矢に、猫ヅメを持っていない左手をかざすと、火魔法をぶち当てて焼き尽くす。


「なんだお前、魔法使いか!?」

「おい、どうなってんだよ!」

「矢を簡単に撃ち落としただと!?」

「それどころじゃねえ。木製の矢柄の部分ならまだしも、鉄の矢じりすらどっかいっちまったぞ」


 なんか火魔法一発ですっごいビビりだしたけど、このくらいの火魔法、ジンクには過去に何百発とぶち当ててるぞ?


「お前らやる気あんのか? まあ、あっても無くてもいいや」


 俺は火魔法のファイヤーボールを作り出し、狙いを定める。狙いは4人の真ん中だ。こいつらに直撃はやばそうな気がするから、真ん中で爆発させて、やんわり全員火だるまにしてジ・エンドだ。


「「「「うわああああ!」」」」


 4人は俺が火魔法を構えるとビビッて尻もちをついたが、まあ、そんなの関係ない。


「燃えろ」

「「おい、止めろ~!」」


 俺がファイヤーボールを発射すると同時に、なんでかさっきまで戦ってたシュタールとプロンが俺を止めにこっちに走ってきた。なんだこいつら? わけわからん。でも、もう撃っちゃったもんはしょうがない。


 でも、俺のファイヤーボールが取り巻きどもに当たることはなかった。なぜなら、当たる前に一人のドワーフの手によって、真っ二つに切られたからだ。


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