第82話 バトル大会の前哨戦2だぜ!

 俺のファイヤーボールを切ったのは、いつの間にか現れた一人のドワーフだ。なんだこいつ、ガリウムのおっちゃん並みにデカいな。しかも、身の丈ほどもある巨大な剣を軽々片手で扱っている。


「親父!」

「ティターヌさん!」


 プロンとシュタールが何か言っているけど、今はそれどころじゃねえ。こいつ、かなり強そうだ。


「ちょっと待つのよ! 子供のケンカに大人が参戦するのは見逃せないのよ! 私が相手になるのよ!」


 と思ったら母ちゃん乱入か。こいつは強そうだけど、母ちゃんほどじゃあないな。まあ、ガキどもは俺一人でも余裕だろうし、さっさと倒して俺も母ちゃんのほうに参戦だ! 前哨戦として戦うには申し分ない相手だしな!


「止めろ。私はティターヌ、そこにいるプロンの父親だ」


 と思ったら、いきなり自己紹介をし始めた。あのクソガキの父親だと? いや、未就学児部門の受付は親同伴だ、親がいること自体はぜんぜん不思議じゃないか。でも、なるほどな。あのクソガキが自慢するだけのことはあるってか。


「止める? 何を言っているの? くだらない時間稼ぎに私が応じると思わないのね!」


 母ちゃんは有無を言わさずティターヌと名乗ったプロンの父親に飛び掛かる。母ちゃんは拳に土を纏わせたパンチを繰り出し、敵はそれを大剣で受ける。


 どごん!

 ピシ!


 プロンの父親は母ちゃんのパンチをあっさり受け止めたように思えたが、ブロンの父親の大剣から嫌な音がなる。プロンの父親の大剣はミスリル製っぽいけど、どうやら母ちゃんのパンチ一発で簡単にひびが入ったようだ。まあ、母ちゃんの土を纏わせたパンチは、俺のぴかぴか弾だって簡単に撃ち落とすからな。


「ぐっ、何故だ?」

「何故じゃないの! 口では止めろって言っているけど、あなたは身体強化魔法なんかをとかなかったのよ。それに、あなたの目にはアイアンちゃんに対する非難が混じっているの。私が簡単に引っかかると思わないの!」


 流石母ちゃんだぜ。抜け目ないな! ってか、俺もどうせならあのバトルに参戦したい。ここはガキどもを瞬殺して俺も混ぜてもらおう。


「ってなわけだから、お前らとっとと倒させてもらうぜ!」


 俺がファイヤーボールで取り巻きどもを再度狙うと、今度はシュタールとプロンが揃って俺の前に飛び出してきた。


「アイアン、ちょっとお前待てって」

「そうだぞ、お前、止めろ! 何考えてるんだよ!」

「何考えてるって、そんなのそこのプロンとかってやつの取り巻きどもをさくっと倒して、俺も母ちゃんの戦いに参戦したいんだよ」


 そんな会話を3人でしていると、ジンクものっしのっし武装ゴーレムに乗ったまま現れる。


「いや、アイアン。あの取り巻きどもは放っておいてもいいんじゃないか? もうすでに完全に戦意喪失してるし」


 周囲をよく見てみると、確かに取り巻きどもはさっきから地べたに座り込んでるし、俺がファイヤーボールを構えた瞬間に再度びびりまくってた。うん、とどめは刺さなくても大丈夫そうだな。悔しいがジンクは周りをよく見てやがるぜ。ってことはだ。2対5と思われた戦いも、いまや2対1と1対1ってことか。


「ってことはなんだ? そこのプロンとかいうのをこのファイヤーボールで焼いて、その父親というのを母ちゃんとぶっ倒せば、俺達の勝ちってことだな!」

「待て待て待て待て待て待て!」


 プロンが慌てて俺の前で手をばたばた振る。


「ふん! そんな時間稼ぎ、俺に通用すると思うなよ!」


 俺は母ちゃん同様時間稼ぎは無駄だとプロンに告げる。そしてファイヤーボールをプロンに発射しようとしたが、シュタールが俺達の間に入ってくる。


「おいシュタール、あぶねえじゃねえか! 危うく撃つところだったぞ!」

「アイアン落ち着け、俺とプロンの小競り合いはいつものことなんだよ。そんなマジの火魔法使うんじゃねえよ!」


 シュタールのセリフにプロンも首をこれでもかと上下に振るう。


「ええ~、じゃあなにか。俺が悪いのか?」

「そうは言わねえけどよ。ここはちょっと抑えてくれ」

「むう~」


 ひとまず俺達子供の戦いは終わった。なんか納得いかないけど。




 一方、大人たちのバトルはまだ続いていた。


「君の息子だが、あの火魔法はやりすぎだ。そうは思わなかったのか?」

「あの程度の火魔法大したことないのよ!」

「大したことない? あの子達では間違いなく大火傷をした」

「それがどうしたの? それを言ったら5対1での戦いのほうが問題なのよ。それこそどんな結果になっていたか、わからないのよ!」

「論点をすり替えるな。彼等のケンカは何度も見ているが、過去に5対1のような卑怯な戦いをしたことなど一度もない。あの子たちは周辺で見ているだけだ」

「そんなのは関係ないのよ。5対1になるのを懸念してアイアンちゃんは参戦しただけなの。仮にあなたの言う通りだったとしても、周囲に敵の味方がいるだけで、気が散るの。手を直接出さ無ければ、シュタール君の気がいくら散ろうと構わないっていうのは卑怯者の理屈なのよ! そもそも、アイアンちゃんに先に弓を放ったのはあそこにいる子なの。参戦する気がないのなら、アイアンちゃんに弓を放つ理由もないのよ。語るに落ちるとは、このことなの!」

「その話が本当だとしても、あの火魔法はやりすぎだ」

「アイアンちゃんの火魔法のラインナップからしたら、あんなの牽制用なの。アイアンちゃんが本気なら、2号君から降りないのよ」


 教育方針をめぐって口論しながら戦うとか、二人ともなかなか器用だな。




「なあ、あの人って、お前の母親だよな? すごいな、武闘家なのか?」

「なんだよあれ。親父が素手の相手に押されるなんて・・・・・・」


 シュタールが母ちゃんのことをほめてくれる。プロンもなんか言ってるけど、そっちはまあ独り言だろう。確かに素手で大剣を持つプロンの父親を圧倒してるわけだから武闘家っぽい雰囲気もあるけど、実際は全然違うんだよな。


「俺の母ちゃんに間違いないし、強いのは認めるけど、母ちゃんはいわゆる武闘家の類じゃないぜ。母ちゃんはゴーレムを操るタイプの魔法使いだからな」

「はあ? 魔法使い!? なんで魔法使いが素手でティターヌさん相手にあんな戦えるんだよ。どこをどうみたって魔法使いのそれじゃねえよ」

「いやいや、よく見ろよ。母ちゃんの手足には土が纏わりついてるだろ? あれは純粋に身体強化魔法だけで戦ってるわけじゃなくて、土魔法をがっつり併用して戦ってる証拠だぜ」

「バカな、魔法使いだと!? 俺はこの街の強者は大抵知っているが、あの人は俺は知らないぞ。そもそも、俺の目が確かなら親父が完全に押されてる。魔法使いだろうが何だろうが、親父と互角以上に戦える奴を、俺が知らないなんてありえない」


 いや、そんなこと言われてもな。ただ、そもそも母ちゃんはこの街の出身だし、ある意味有名人だったはずなんだけどな。


「いや、プロン。アイアン達はこの街の出身じゃないからな。お前が知らなくても無理ないぞ」

「ああ、俺達はパラージから来たんだよ。まあ、母ちゃんはこの街の出身だけどな」

「パラージか、確かにあそこなら高難度のダンジョンもあるし、強いやつがいてもおかしくないか。でも、まさかこんなに強いやつがいるなんてな」


 その後、俺達はプロンも交えて母ちゃん達の戦いを見学していた。すると、その視線に母ちゃんも気づいたみたいだ。母ちゃんはギアを一段上げて、プロンの父親に強烈な一撃をお見舞いする。母ちゃんのパンチは、プロンの父親の大剣のガードの上から放たれたが、プロンの父親の大剣をあっさり砕き、そのままプロンの父親の顔面を捉えて、吹っ飛ばした。


「親父!」

「おお~、奇麗に決まったな」


 そして、プロンの父親を吹き飛ばして満足したのか、何事もなかったかのように母ちゃんはこちらに歩いてくる。あ、そういえば2号君で参戦し忘れたぜ。俺達が仲良く見学してたのを見てから吹っ飛ばしたってことは、母ちゃん待っててくれたのかな?


「アイアンちゃん、ケンカ相手の子ともう仲良くなったのね! すぐに仲良くなれるなんて、男の友情ってやつなのね!」


 なんかちょっと違う気もするけど、まあ、そういうことにしとこうかな。


「そんなところなんだぜ!」

「じゃあ、これにて一件落着なのね!」

「だな!」


 俺と母ちゃんが一件落着でこの件を終わりにしようとするけど、それに水を差す奴等がいた。そう、シュタールとプロンだ。


「いや、アイアン。ティターヌさんぶっ飛ばしちゃってるから」

「ってそうだよ。親父大丈夫かな」


 プロンは自身の父親のもとへ走る。




 その後、プロンの父親はなんとか復活した。そして、プロンの頭に思いっきりげんこつを落とすと。


「バカ息子が迷惑をかけた。すまなかった」


 そして、シュタールのおばちゃんをはじめ、俺達の方に頭を下げる。プロンはげんこつのあまりの痛みに頭を押さえいたが、更に上から敵の手によって頭を目いっぱい下げさせられる。


「いえいえ、気にしないでください。子供は多少元気なくらいが一番ですので」


 シュタールのおばちゃんは本当に気にしていないようで、さらっと答える。


「普段温厚なシュタール君が怒るくらいだ。よほどひどいことを言ったのだろう。本当にすまなかった。プロン」

「ぐ、言い過ぎた。ごめんなさい」

「いや、こっちもかなり酷く言い返しちまったからな。悪かった」


 どうやらプロンも父親には逆らえないのか、大人しく謝ることにしたようだ。シュタールも言い過ぎたと謝る。取り巻きの連中も、シュタールに謝っているようだ。


「弓を射かけて申し訳なかった」


 そして俺にも謝ってきた。俺の心は大海原のように広いからな。許してやった。


「うんうん、これで本当の一件落着だな!」

「なのね!」


 俺と母ちゃんは一件落着に満足していたけど、ジンクとラピおばちゃんは思いっきりため息をついていた。


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