第60話 高級な宿屋での夕食だぜ!

 夕飯の時間になったため、俺達はみんなでぞろぞろと食堂へと向かう。食堂は風呂場と同じく1階にあったのですぐに到着した。


「予約をしていた、ガリウムとタングステンだ。確認してもらえるか?」

「はい、ガリウム様のご家族と、タングステン様のご家族ですね。すぐにご案内いたします」


 ガリウムのおっちゃんが受付を済ませると、すぐに席に案内される。うお、すげえな、個室じゃん。ってか、こんな高そうな宿屋の中の、高そうな食堂で個室かよ。贅沢すぎねえか? 部屋も豪華だが、ライトアップされた庭までセットとは、くう、これはまじでやばいな。まじでどんな料理が出てくるんだろうか。


「どうしたアイアン、さっさと座れよ」

「おう、ジンク、今座る」


 俺が個室にびびっていると、ジンクはさも当然といった感じですでに座っていた。くそ、なんかちょっと負けた気分だぜ。


「この個室もすごいな。椅子にしろテーブルにしろ、使っている木材もすごいが、なにより仕立てがいい」


 おいおい、まだ料理が運ばれてきてないとはいえ、ここまで来て料理よりも調度品に興味を惹かれるって、重症だな。いや、俺でも流石にこの分厚い無垢のテーブルが高級品なのはわかるけどさ。


「お、ジンクもやっぱり気になるか?」


 ジンクが高価な調度品に興味を持っていることに、ガリウムのおっちゃんが嬉しそうだ。


「当然だ! 特にこのテーブルはいいな。この厚さの無垢の木ってだけで相当な高級品だと思うが、この木はなんか、それ以上にすごいオーラが出ている気がする。ぱっと見はウォールナットに見えるんだが、なんなんだろうな、この感じは」


 この木がウォールナットか。日本語で言えばクルミってことだよな。確か、丈夫でいろいろと都合のいい木材ってことで、家具だけじゃなく、銃床なんかにも使われる有名な木材だよな。ただ、ジンクの言うように、確かにこのテーブルはちょっとおかしい。なんかこのテーブルに使われてる木材、普通の木材よりも魔力保有量が多いんだよな。


「ほほう、流石俺の息子だ。いいセンスしてるじゃねえか」

「父さんもそう思うの?」

「ああ、というかジンクの違和感の正体は、魔力だぞ」

「魔力?」

「そうだ。このウォールナットは、そこらの山でとれたもんじゃねえ。かなり魔力の濃い場所でとれたもんだ。だから、木が豊富な魔力を持ってるんだよ。つまり、十中八九魔物の領域で伐採したやつってことだ」

「なるほど、そういうことか」

「こういう魔力の豊富な木材は最高だぞ。魔力が豊富だからキズになりにくいし頑丈だ。おまけに見ての通り、加工された後でさえ普通の木よりも生き生きとしているだろ? 匂いや肌触りなんかがまるで違う。そういう意味では最高の木材だな」

「なるほど。でも、あんまり見ないよな?」

「そりゃあそうさ。ここまでの木材ともなりゃあ、普通は武器に使うからな。杖にするもよし、弓にするもよし、槍や斧、ハンマーの柄にするもよしだ」


 なるほどな。魔物の領域なら自然界の魔力も濃い。そういうところで伐採すれば、こういう木が取れるのか、悪くないな。俺もちょっとほしいし。俺がそんなことを考えていると、ジンクがこっちを向いて話しかけてきた。まあ、話したいことはすでにわかってるがな。


「なあ、アイアン」

「わかってるよ。ジンクもこういう木が欲しいんだろ?」

「お、流石だな。今度西の草原にいい木がないか探してみようぜ」

「ああ、構わねえぜ。俺もちょっと興味あるしな」


 俺も魔法使いとして杖をいつも持ってるからな。ジンクとは目的がちょっと違うが、興味はばっちりあるぜ!


「じゃあ、決定だな! 父さんも母さんもいいよな?」

「ああ。もちろん、ラピがよければ問題ない」


 ここでガリウムのおっちゃんが、俺が許可すると言ってくれればかっこいいんだが、あくまでも決定権はラピおばちゃんにあるようだ。


「私もかまわないけど、西の草原だとあんまりいい木材は取れないわよ」

「そうなの?」

「西の草原はあくまで草原よ。場所によっては自然界の魔力の高い場所もあるし、木も生えていないわけじゃないけれど、西の草原の自然界の魔力は、木にとって都合のいい魔力じゃないわ。あくまでも草にとって都合のいい魔力なのよ。だから、いい木材は西の草原では伐採できないわ」

「そうなのか・・・・・・」

「でも落ち込む必要はないわ。ちょっと危険だけど、河を渡った南側や、あるいは東門の先には、木が育つのに適した自然界の魔力が濃い場所があるからね」

「なるほど!」

「ただ、初めて行く場所だし、西の草原とは違った危険がある場所だから、初めは私かエメラが付いていくわよ?」

「ああ、構わない。アイアンもいいだろ?」

「もちろんだ」

「それと、木が多い場所は当然見通しも悪いから、接近戦になりやすい。アイアン君の2号君は、少し接近戦用にいじったほうがいいかもしれないわ。今の2号君は見通しのいい場所での遠距離戦用でしょ?」

「大丈夫だ。実はそれに関してはまえまえから温めていたプランがあるんだぜ!」


 そう、戦車というのは本来、一つの車両でどんなことでもこなせるというほど、器用なものじゃない。もちろん大戦時の中戦車や、戦後のメインバトルタンクのように、1両で出来るだけいろいろなことができるように、というコンセプトの戦車が作られたのは事実だし、数の上での主力なのも間違いじゃない。だが、決してそれだけではないのだ。


 例えば、より強力な重戦車というカテゴリーの戦車も作られたし、火力に特化した自走砲なんてものも作られた。それだけじゃない、対空戦車や、空挺戦車、装輪戦車などなど、かなりのバリエーションの戦車がいるのだ。


 そして、2号君は本来、見通しのいい訓練場で、ジンクの武装ゴーレムをやっつけるための戦車というコンセプトから生まれた戦車だ。それがたまたま西の草原でも相性がよかったから使っていたが、見通しの悪い森ともなると、完全にコンセプトから外れてしまう。じゃあ2号君を改造するのかと言われれば、それも違うだろう。なにせ2号君は西の草原用として、すでに完成された戦車といっても過言ではないからな。ここはやはり、接近戦も出来る新型戦車、3号君を作るときが来たということだな!


「はいはい、アイアン君も何やら考えこんじゃってるけど、そこまでよ。どっちにしろ帰ってからの話だしね。さ、今は食事を楽しみましょう。来たみたいだからね」

「「ああ」」


 すると、ドアがノックされ、ついに料理が運び込まれてきた。ほうほう、なんかでっかいお盆にいろいろ乗ってるようだな。そして、そのでっかいお盆から、各自の前に料理が配膳されていく。どうやらコース料理とかではなく、一度に全部出してくれるスタイルのようだ。


「ステーキのお皿はお熱いですので、お気を付けください」


 配膳してくれているお姉さんが、こちらを気遣ってお皿が熱いことを教えてくれる。メニューは、ステーキか! この見た目、たぶんヒレ肉だな。おまけに、温められた分厚い皿に乗って出てくるとは、くう、このこだわりは期待できるぜ! 別の皿には数種類の塩に胡椒、ソースまである。恐らく、塩も胡椒もソースもこだわりぬいた一級品だろうな。それから、パンに、スープ、野菜か、メニューとしてはシンプルだが、だからこそ最高に美味そうだぜ。


 いや、こいつはあれだ。シンプルなメニューだからこそ、素材の味、料理人の腕、それを味わえということなんだろう。面白い、この1枚のステーキに込められたお前らの自信、味わってやろうじゃねえか!


 そしてそんなことを一人思っていると、みんなの配膳が終わったようだ。


「さて、腹も減ってることだし、早速食うか! では、乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」


 ガリウムのおっちゃんの音頭で俺達は乾杯する。俺とジンクはジュースで、大人たちは赤ワインでだ。


 俺は早速ステーキに手を出す。まずは、やっぱりここは純粋に塩だけでいくか。俺は別の皿に盛り付けてあった塩を軽くつまむと、ぱらぱらと塩を振りかける。そして、バクっと口へと運ぶ。こ、これは・・・・・・。


 美味い!


 焼き加減も最適だ。俺の大好きなミディアムレアで焼かれている。よく見ると母ちゃんのステーキは、母ちゃんの好きなレアだ。なるほど、焼き加減はみんなの好みになっているのか。


 そして、俺は無言で食べ進めた。すると、あっさりお肉はなくなってしまった。なんてこった。まだ塩と胡椒を全種類試していないというのに! ソースに至っては、全くの手つかずだぞ!


 くう、物足りない。確かにすごい美味しかったが、よくよく考えると量が足りない。たぶんあの肉の大きさじゃあ100gも無い。いくら俺が7歳児とはいえ、あの程度の量じゃあ一瞬だ。俺が物足りなさにがっかりしていると、隣に座る母ちゃんが声をかけてきた。


「アイアンちゃんあっという間に食べちゃったのね。美味しかった?」

「うん、美味しかった。でも、量が少なくて物足りない」

「それは気にしなくていいわ。おかわりすればいいだけなんだから」

「おかわり!?」

「そうよ。一度にたくさんお肉を出されたら、すぐに冷めちゃうじゃない。お肉は小出しにしてもらって、合間合間におしゃべりしたり、パンやスープを食べる時間があったほうがいいでしょう?」


 なるほど、それはそうだな。日本でよく食べた鉄板に乗ったステーキなんか、早く食べないと焼き加減が変わっちゃうからって、大急ぎで食べてたっけな。


「それと、焼き加減はどうだったかしら? 同じミディアムレアでも、ここの料理人さんのミディアムレアは、お家で私が焼いたステーキとも、いつものレストランのステーキとも、微妙に焼き加減が違うでしょう? もし焼き加減が好みに合わなかったら、おかわりの時に調整してもらいましょうね」


 なるほど、流石高級店だ。俺の想像よりさらに上をいくとはな。だが、大変残念なことに、俺には微妙な焼き加減の違いがわかるほど、高性能な舌は搭載されていない。でもなんでだろ? 塩はともかく、肉に関してはなんか食べたことある気がするんだよな。う~ん、不思議だ。どこで食べたんだろ? パラージのレストラン? いや、あそこはファミレスっぽい雰囲気のお店だからきっと違うな。う~ん、どこで食べたんだろ?


 まあ、そんなことは今は良いか、今重要なのはお肉の追加だ! そんな風に俺が思っていた時、部屋のドアがノックされ、一組の男女が入ってきた。


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