第59話 風呂上がりのアイスは最高だぜ!
俺は部屋の探検を開始した。まあ、宿屋全体ならいざ知らず、あくまで2人部屋だからな、そんなに見るところがあるわけじゃあない。でも、流石は高級宿屋だぜ。ベッドもデカければ、風呂もデカい。おまけに窓からはゴールドタウンを一望できる。この部屋は3階とはいえ、この宿は各フロアに高さがあるからな。一般的な3階建の建物を余裕で見下ろせる高さだぜ。
俺が部屋の中をざっくりと探検し終えた時、ジンクはチェストの前で独り言を言っていた。どうやらジンクは部屋の探検よりも、1個のチェストのほうが気になるみたいだ。この木はどこそこの木か? とか、このデザインはどこそこの工房のかな? などと、ぶつぶつと言いながら、調度品達とにらめっこをしている。
まあ、部屋の楽しみ方は人それぞれだよな。引き出しを開けたり、閉めたり、上から見たり横から見たり、下から見たりと、チェストのチェックに余念のないジンクを俺がぼけっと見ていると、部屋のドアがノックされた。どうやら父ちゃん達が来たみたいだ。
「アイアン。大浴場行かねえか?」
「大浴場? 部屋にもでかい風呂がついてるよ?」
「まあそういうなって、ここの大浴場は結構すごいんだぜ」
「そうなの?」
「ああ、確かサウナと水風呂があったし、打たせ湯もあったな。それに、温泉は無いんだが、何種類かの薬草風呂があったはずだ」
「おお~、なんかそいつは楽しそうだな」
「だろ? 夕飯までまだ時間あるし、行こうぜ」
「わかった、準備してくるぜ。 お~いジンク、大浴場行くぞ。準備しろ」
「ん~? 風呂はこの部屋にもデカいのが付いてるって、アイアン言ってなかったか?」
ジンクは今もまだチェストに釘付けで、返事が若干上の空だ。
「大浴場のほうが楽しそうなんだよ。そんなチェストとにらめっこしてないで、さっさと行くぞ。そんなの後でたっぷり見りゃあいいだろ」
「んったく、しょうがねえなあ」
やれやれ、俺はサクッと準備をして入り口の父ちゃん達のところで待つ。
「ジンク君はチェストを見ていたのか?」
「ああ、なんかすげえ念入りに見てたぜ」
「そういうところはガリウムと変わらんな」
「ガリウムのおっちゃんと?」
「ああ、ガリウムもチェストやらテーブルやら椅子やら、手当たり次第にチェックしていたからな」
「へ~、そうなんだ。確かにデザインもいいし、手触りなんかもいいから高級品なんだろうけど、そこまで面白いものなのかな?」
「ガリウム達は商売柄高級な馬車の発注もあるからな。その時に内装が貧弱だとまずいだろ? だから、高級な調度品はチェックせずにはいられないんだろうよ」
「なるほどな~」
俺と父ちゃんが俺の部屋の入口でしゃべっていると、部屋の中からジンクが、隣の部屋からは、母ちゃんとラピおばちゃんが、隣の隣の部屋からはガリウムのおっちゃんが出てきた。みんな手に持っているのは着替えだな。どうやら全員で大浴場へと向かうみたいだ。
全員揃ったところで、俺達は1階に降りて、大浴場へと向かう。場所は父ちゃん達が知っていたようで、迷わず一直線に向かえた。あっさり目的地である大浴場へと到着すると、母ちゃん達とはお別れだ。まあ当然だな。男湯と女湯で別れているからな。
子供は母親と女湯でもいいんじゃないかって思うかもしれないが、俺は迷わず男湯に決めた。いや、寿命が300年はあるドワーフの概念では、7歳はまだまだ子供だ。女湯でも問題ないらしい。なにせ、子供のお風呂性別問題は、大体学校に行き始める10歳で線引きされるらしいからな。
だが、俺には日本人としての記憶がある。300まで生きるドワーフの基準では10歳以下はOKでも、日本人的には7歳って言うと小学校2年生だからな。俺個人としては子供扱いで女湯に入りたいとは思わない。てなわけで、ここは父ちゃん達と男湯だ! ジンクはナチュラルにラピおばちゃんと女湯へ入ろうとしていたが、俺が男湯へと向かうと慌てて追いかけてきた。
「くあ~、やっぱ風呂上がりのアイスは最高だな!」
「アイアンはアイスにしたのか」
「そういうジンクはミルクか」
「ああ、これもいいものだぞ」
「気持ちはわかるけどな、俺はやっぱりアイスがいいんだよ」
やっぱ風呂上りにはアイスだよな。今日の俺のチョイスは、氷系のさっぱりしたアイスだぜ! アイスって言うか、オレンジシャーベットだな。バニラやチョコといった濃厚なアイスも好きなんだが、風呂上りの火照ったボディには、やっぱさっぱり系のほうが好みだぜ! え? 風呂の中の話はないのかって? ないない、男湯の様子なんて誰も知りたくないだろ? まあ、一言でいえば、風呂にしろ脱衣所にしろ、高級宿屋にふさわしい内容だったぜ!
俺達が風呂の近くのリラックススペースでくつろいでいると、母ちゃん達もやってきた。
「あら、アイアンちゃん、いいもの食べてるわね」
「母ちゃんも食うか? 買ってきてやるぜ。何味がいい?」
「そうねえ、それじゃあブドウにしようかしら」
「わかったぜ!」
俺は近くの売店に母ちゃんのアイスを買うために向かう。するとジンクもラピおばちゃんに何か頼まれたのかな? 一緒にやってきた。俺はアイスコーナーに向かい、ブドウのアイスを手に取る。ジンクは、おいおい、そこはお酒のコーナーじゃねえか。未成年どころか、未就学児の俺達が行っていいコーナーじゃないだろうが!
「おいおいジンク、おまえ何頼まれたんだよ」
「ん? 辛口のラガーだ」
「ラピおばちゃん、酒に弱いのに大丈夫なのかよ?」
「大丈夫だろ、中瓶1本なら500mlだしな」
確かラピおばちゃんが変なテンションになるのは、酒の種類にもよるが2リットルだったはずだ。まあ、ビールならアルコール度数も大したことないし、500mlなら大丈夫か。
「ん~、辛口のラガーって一言で言っても色々種類があるな。どれがいいんだろ?」
「ラピおばちゃんがいつも飲んでるのはないの?」
「あるんだけど、せっかくだから違うのがいいって言ってな。いつものじゃないのを適当に選んでくれって言われたんだよ。とはいっても、あんまり変なの買ってくわけにもいかないし、難しいな」
くう、ラピおばちゃんめ。面倒な注文をしやがって。これはあれだな、ジンクのセンスを試す試練だな。ったく、ジンクだって酒なんて飲んでないだろうに、なんという無茶ぶりか。
「難問だな。ん~、とりあえず安物は避けようぜ。こういう時にけち臭いことするのもあれだろ。そうだな~、このあたりのラガーなんてどうだ? この街の地ラガーってことは、ここでしか飲めないってことだろ?」
俺はそういってこの街の地ビールならぬ、地ラガーが並んでいる棚を指さす。
「なるほど、それはいいな。ん~、じゃ、こいつにするかな。新作ってことは、母さんもまだ飲んだことないかもしれないしな」
こうして俺とジンクはブドウアイスとラガーを買って、母ちゃん達のところへ戻る。ちなみに会計は普通に出来た。流石はドワーフの国だぜ。日本でなら間違いなく会計をしてもらえなかっただろうからな。
「アイアンちゃんありがとう」
母ちゃんはブドウアイスを受け取ると早速食べ始める。
「ん~、やっぱりお風呂上がりのアイスは美味しいわね」
「だよな!」
俺もさきほどの続きを食べる。
「ぷは~、美味いね、これ。いい感じの辛口だよ」
俺と母ちゃんが仲良くアイスを食べていると、横ではラピおばちゃんが気持ちよさそうにビールを飲んでいた。うん、俺とジンクのチョイスは問題なかったようだ。ジンクも嬉しそうにラピおばちゃんが飲んでる様子を見ている。
そんなまったりとした時間がしばらく流れていたが、おもむろに父ちゃんが動きだした。とうとう時間が来たようだ。なんの時間かって? そりゃあもちろん、今日一番楽しみにしていた時間、夕飯の時間だぜ!
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