第58話 金と魔道具の街ゴールドタウンだぜ!

「んあ~、やっとついたな」

「ああ、ここがゴールドタウンか」

「ふ~む、なかなか立派な城壁だな」

「そうか? ぱっと見はパラージと変わらないと思うが」

「そうだけど、母ちゃんはパラージの城壁はドワーフの国で最高レベルの城壁っていってたぞ。だったらそのパラージと同じなら、立派だろ?」

「ふむ、そういうものか」

「たぶんな!」


 俺とジンクは初めてのほかの街ということもあり、ついついその城壁の前で感慨にふけっていた。


「お~い、二人とも、街に入るぞ~」

「「は~い!」」


 パラージの街を出発して2日、特になんのトラブルもなくセントラルシティーとの中間の街、ゴールドダウンへとやってきた。いや、モンスターにはこの二日間で10回以上出会ったんだぜ。だから、普通だったらトラブルだらけの旅って感じなんだが、全部母ちゃんのゴーレムが踏み潰したからな。どうにもモンスターとの遭遇にトラブル感がない。しかも、最初に出会ったオーク以上の獲物はいなかった上に、2号君の出番もなかった。ちょっと物足りなかったが、そいつはしょうがないか。なにせ、モンスターがいるのは仕方ないにしても、ランク3以上のモンスターがごろごろいちゃあ、道路というよりもただの危険地帯になっちまうからな。


 しっかし、隣の街まで1日8時間くらい時速50kmで走って丸2日もかかるのか。直線距離ではないとはいえ、単純計算で800kmって、結構遠くね? 日本で言うなら、東京から広島くらいの距離だぜ。日本の東海道なんかじゃ、徒歩1日の距離に街があったってのに、800kmとか、ヨーロッパなら国境超えれる距離だぞ。


 まあ、ここはモンスターの闊歩する世界だ。街には当然のように防衛力が求められる。となると、いくら城壁で囲まれていようと、ある程度の規模の駐留戦力が必須になってくるってわけだ。だから、小さい町や村は基本的に存在しないんだと。そして当然ここ、ゴールドタウンも結構大きい。というか、人口でいくんなら、パラージよりも大きい街なんだそうだ。


 俺達は門から街へと入っていく。今日泊まるのは母ちゃん達ゆかりの宿屋みたいで、すでに予約は取ってあるんだって。


「おお~、話には聞いてたけど、やっぱ人多いんだな。すげえ人だぜ」

「だな、パラージより確実に多いな。たしか、パラージの倍、40万人くらいの規模だったはずだ」

「へ~、ジンク詳しいな」

「まあな」


 なんというか、田舎者が都会に出てきた感丸出しの俺とジンクだったが、母ちゃんたちの案内でどんどん進んでいく。そして、一つのでかい宿屋の前に到着した。外観から察するに石造りの重厚な造りになっている。窓の数からすると、3階建てってところだろうか。でも、どう考えても普通の3階建よりも大きい。こりゃあ各フロアの天井が相当高いぞ。それと、横にもかなり大きい。100mは軽く超えていそうだ。


「でけえな、ジンク。ここ、宿屋か?」

「ああ。すげえな。こんなでかい宿屋、パラージにはないぞ。それに、門もかなり立派だ。このレベルの門すら俺は見たことない」


 またしても田舎者感丸出しの俺とジンクだったが、母ちゃんたちはその間に門番となにか話している。そして、勝手知ったる我が家といわんばかりに平然と中へと入っていく。宿屋の正面の車寄せには、ドアマンもいるし、他の人をみるとバレーパーキングもしているみたいなんだけど、それを無視して一番近いガレージへと向かっていく。まあ、2号君や1号君ならともかく、母ちゃんのゴーレムを動かせるような人はそうそういないか。


「アイアンちゃん、ジンク君、2号君と1号君はそこに駐車させてね」

「「おう!」」


 ガレージに2号君と1号君改を入れて、最低限の武装をしてみんなで宿に入っていく。宿屋に武装していくのって思われるかもしれないが、この世界ではいついかなる時も、最低限の武器を手放さないのが常識なんだそうだ。玄関ではドアマンの人が荷物を預かってくれようとしたので、俺も武器以外の荷物を預けた。ちなみに俺が携帯用の武器として選んだのは、我が愛剣の猫爪と小さめのスティックだ。


「はあ~、すげえなジンク。なんだこのエントランスホール。豪華すぎねえか?」

「ああ、これはすごいな。さっきからすごいとか大きいとかして言ってない気がするが、ほかにいい単語が出てこない」

「だな、同感だぜ」


 内装もまた、豪華の一言だ。ある意味日本の高級ホテルよりも豪華かもしれない。なにせ内装には金がふんだんに使われているのだ。シャンデリアの光を内装の金が反射することによって、エントランスホールはなんとも煌びやかな空間になっている。


「すっげえな、流石はゴールドタウン、内装に金が使われてるぜ」

「ああ、こんなの見たことねえ」

「こんな高級な宿屋、緊張しちまうな」

「俺も同感だ。母さん達の所縁の宿屋っていうけど、どんな関係なんだろうな」


 確かに。母ちゃんの普段の交友関係は知ってるが、こんな宿屋と所縁のありそうなおばちゃんは、う~ん、品のいい人もちょっといたか。俺達はそんなことを話しながらも、のんびりとドアマンについていく。エレベーターに乗り、3階へ移動し、俺達の部屋へと通された。


「は~、部屋もすげえな」

「ああ、これはすごいな」


 部屋の中はこれぞ高級な部屋っていう感じの部屋だ。2人部屋とは思えないほど広く、調度品もどこをどうみても高級品っぽい。そして、そんな部屋に泊まる俺とジンク。だめだ、どう考えても場違い感がすごい。


「お荷物はこちらに置かせていただきますね」

「「はい、ありがとうございます」」

「この後のお食事などのご説明をしてもよろしいでしょうか?」

「いや、俺達はいい、どのみち母さん達と一緒に動くだろうしな。アイアンもそれでいいだろ?」

「ああ」

「では、私はこれにて失礼いたします。私は鍵を持っておりませんので、私が出たら施錠をお願いいたします」

「「うん、ありがとう」」


 そうそう、部屋は3部屋とってあった。なんでも、2人部屋が3部屋しか確保できなかったらしいのだ。とうわけで、俺とジンクで一部屋、母ちゃんとラピおばちゃんで一部屋、父ちゃんとガリウムのおっちゃんで一部屋になった。え? 夫婦で一部屋じゃなくて、なんで男女で別れたのかって? それは父ちゃんとガリウムのおっちゃんからの熱望でそうなったんだそうだ。まあ、十中八九、父ちゃんとガリウムのおっちゃんが気兼ねなく飲み明かすためだろう。


 旅行の途中でいいのかよって思うかもしれないが、明日は1日街で休憩する予定だし、なによりパラージの街を出発する前は、この旅行のために仕事づくしでろくに飲めなかったらしいからな。今日は飲んでもいいと母ちゃん達から許可が出たんだそうだ。まあ、それぞれの部屋は隣同士だからな。父ちゃん達に何かあってもすぐに対処できるだろう。


 鍵があるから対処できないって? 甘い甘い、母ちゃんにとっては鍵なんてあってないようなものだからな。そもそも鍵なんてドアノブにくっついている金属でしかないわけだ。つまり、金属加工魔法で直接いじれば、鍵を開けるのに鍵なんていらないのだ。もちろんこういう高級宿屋の鍵なら、そういう魔法を防止する魔法もかかっているんだろうけど、俺が見る限り我が家の鍵よりレベルが低い。これなら俺でも1分もあれば突破できそうだ。母ちゃんの手にかかれば、1秒もたないだろうな。


 ま、寝る前にはドアの後ろにちょっとした壁でも作っておくかな。隣に母ちゃん達もいるから、そのくらいの防御で問題ないだろう。


「よし、ジンク、とりあえずこの部屋を探検しようぜ!」

「おう、いいぜ! 探検するほど広くはないが、ここの調度品は良いものが多い。しっかり見るだけでもいい勉強になりそうだ」


 俺とジンクとでは探検の目的がちょっと違っていたが、俺達は母ちゃん達が呼びに来るまで、たっぷり部屋の中を探検した。


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