第57話 家族旅行の1日目だぜ!

 俺たちは西門を出て、母ちゃんたちの故郷目指して出発した。俺たちの目的地こと、母ちゃんの故郷の街は、ドワーフの国の中央部にある。俺たちの住むパラージが南東部にあるから、北西方向に進んでいくってわけだな。


「ジンク、一応確認なんだけどさ、母ちゃんたちの故郷の街までの工程は、1日目は移動して夜は野営、2日目も移動して、日暮れ前に途中の街まで行って宿をとる。3日目は物資の補給なんかで街で過ごして、4日目は移動再開して野営、5日目の夕方目的地に到着ってことでいいんだよな」

「ああ、それで問題ない。それから、途中の街の名前はゴールドタウン、目的地の母さん達の故郷はセントラルシティーな」

「おう、分かったぜ」


 街の外は危険がいっぱいということで、俺達は警戒態勢を取りながら進んでいる。この世界、一般人が街から街へ移動する場合は、普通だったら護衛のハンターを雇わないといけない程度には危険だ。まあ、俺達の場合は、俺もジンクもハンターの資格を取ったし、大人たちもめっちゃ強いからな、そのおかげで家族だけで移動できるってわけだ。


 いや、違うな。俺とジンクが無事にハンター試験に受かって、最低限の身を守る力が備わったと判断されたからこそ、このタイミングでの里帰りってことなんだろうな。たぶんそうじゃなきゃ、父ちゃん母ちゃんはともかく、ラピおばちゃんが許可しなかっただろうし。


 隊列は母ちゃんのゴーレムが先頭を走り、その次が俺の2号君、最後尾がジンクの武装ゴーレムだ。先頭の母ちゃんのゴーレムは、普通に強いため安全確保と道案内の担当だ。そして、ジンクの武装ゴーレムが跨る1号君改が引っ張るキャンピングトレーラーが最後尾なのは、そこに大人たちがいるからこれも後方からの敵に対応しやすいようにというわけだ。本当は、母ちゃんがゴーレムで2号君も1号君改も動かして、俺とジンクもキャンピングトレーラーでまったりしてていいって言われたんだけど、街の外に本格的に出るのは初めてだからな。好奇心に抗えなかったぜ。


 一応横からの攻撃に備え、大人の内一人はキャンピングトレーラーの上で待機している。2号君がお姫様ポジションのような雰囲気なのは、2号君が不意の接近戦にあんまり向かないのと、2号君の引っ張るトレーラーに、お土産を積んでいるせいもある。


 俺たちは西門から延びる道を進み、しばらく西に進む、そして普段なら西の草原へと突っ込む場所をそのまま道なりに北向きに曲がって、そのまま道なりに進んでいく。とはいえこの道路、もちろん舗装なんかない。いわゆる土の道路っていうやつだ。しかも路面もきれいじゃない、草も結構生えてるし、凹凸なんて当たり前、道路とそうでない部分との境目すら曖昧だ。


 だが、そんな道路を俺達は時速50kmほどの速度で進んでいく。俺の2号君や、ジンクの乗っている1号君改は、なんだかんだ言っても履帯だ。多少の凹凸があるとはいえ、この程度の速度なんてことはないぜ。ただ、母ちゃんのゴーレムはすごい。どっしんどっしんと、時速50kmで走っているのだ。うん、実に迫力満点だ。


 でも、それにもすぐに飽きて、俺はぼけっと景色を眺めていた。


「う~ん、景色って、あんまり変わんないもんだな」

「そうだな。でもまあアイアン、まだ出発して1時間もたってないだろ? 変わったら驚きだよ」

「それもそうか、しっかし、こんなに暇だとだれるな」

「まあそうだが、それでもモンスターに襲われることは多いんだ、気を引き締めろよ。お前だって見たろ? 俺んちに修理依頼のあった馬車。モンスター被害にあった馬車もけっこうあったろ? あと、サスペンションとかが壊れた馬車だって、モンスターから逃げるのに無理をした結果ってケースも多いんだからな」

「う~ん、そうだな。わかったぜ」


 この道路、パラージにとっては、街を放棄して逃げる際の脱出経路ということもあり、最低限の管理が軍によってされている。まあ、管理者不在の道路なんて、日本でだって割と簡単にダメになるからな。ましてやこの世界は自然界の魔力のために、自然の回復速度が早い。そのため、油断すると簡単に自然に還ってしまうんだそうだ。


「アイアン、正面に敵の反応だぞ! 父さん、どうする?」


 モンスターの存在にいち早く気付いたジンクが、俺と、キャンピングトレーラーの上で警戒中のガリウムのおっちゃんに知らせてくれた。隊列的に俺のほうが気付くのが早いんじゃないのって? それは違う。確かに2号君のほうが前を走っているが、背が2mくらいしかない2号君と、背が3mあるうえに1号君改に乗っているジンクの武装ゴーレムじゃあ、ジンクの武装ゴーレムのほうが見つけやすいんだよ。ましてや、俺の目の前には壁のように母ちゃんの10mゴーレムがいるし。


「おっしゃあ! わかったぜ!」

「ああ、気にするな。無視して進んでいい」

「え、戦わないの?」

「気にしなくて大丈夫だ」

「お、おう」


 俺はやる気満々で返事をするが、ガリウムのおっちゃんは違うみたいだ。そうこうしているうちに俺たちはどんどんモンスターへと近づいていく。ほうほう、これはこれは、豚みたいな顔だが、豚みたいな愛嬌のない牙の生えた口、でっぷりとした体。そしてなにより、ゴブリンなんかよりも明らかに高い背。2mくらいかな? こいつはあれだな。オークだな!


 そんなオークが10体前後いる。オークはゴブリンよりもでかい分ランクが高い。ゴブリンなら10匹の群れでもランク2の扱いだが、オークならランク3になる。しかも、噂じゃあオークだってそこそこ美味しい豚肉ってはなしだ。ま、普段狩ってる、西の草原の豚モンスターの肉よりは落ちるらしいがな。くっくっく、これは狩りごろの得物だぜ!


 俺が本当に狩らないの? って思っていたら、母ちゃんのゴーレムが一気に加速した。そして、オーク達目がけて突っ込んだ。オーク達も母ちゃんのゴーレムに気付いたようだが、母ちゃんのゴーレムは10mという巨体のくせにかなり速い。そしてめちゃんこ強い。母ちゃんのゴーレムのいきなりの加速に逃げ遅れたオーク達は、あっさり踏み潰された。まさに鎧袖一触だ。


「は~、やっぱ母ちゃんのあのゴーレム強いな」

「ああ、マジつええな。相手のリーダー格、ランク3だろ? 俺の武装ゴーレムで本気のシールドバッシュしたって、クリティカルヒットで腕あたりが折れる程度だ。それが、あんな雑な攻撃で一撃でミンチかよ」


 俺もあのゴーレムに関して言えば、父ちゃんに迫る場面は見たことがあったんだけど、戦ってるとこは初めて見たぜ。くっそつええな。そして、そんな踏み潰されたオークの群れの横を、俺達は通過していく。


「うへ~、グロイな」

「だな。遠目にみるより悲惨な状況だな」

「まあまあ、二人とも、ランク3のオークなんてお土産のお肉に比べたらランクが落ちるし、なにより運ぶのが手間だ。ほかの人が襲われるのを防ぐ意味で倒しはしたが、よほどのモンスターでもない限り回収はしない予定だから、そのつもりでな」

「「は~い」」

「それと、実はこの5日の日程は結構な強行軍なんだ。いちいち出会うモンスターを全部まともに相手にしている、と予定が狂うという理由もある。まあ、エメラさんのゴーレムが踏み潰せないモンスターなんて、それこそ非常事態でもない限り出てこないから、安心してのんびり旅路を楽しむといい」

「ええ~、2号君の新装備、ミサイルランチャーの活躍の場があるかと思ったのに」

「俺も、新装備のクローミサイルの出番がほしかった」

「はっはっは、まあ諦めてくれ。残念だがエメラさんのゴーレムがいる限り、出番はないだろうからな」

「「くっそう」」


 その後もいろいろなモンスターに出くわした。一応この道路は、モンスターの領域である、自然界の魔力のたまり場を極力避けて作られているそうなのだが、やっぱそれなりにたくさんのモンスターと出くわす。まあ、流石にモンスターの領域の中心部にいるような高ランクのモンスターはいなかったけどさ。そして、出会ったモンスターの数々は、ガリウムのおっちゃんの言う通り、全部母ちゃんのゴーレムが踏み潰した。俺とジンクの出番はこれっぽっちもなかったぜ・・・・・・。


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