第56話 里帰りに出発だぜ!

 ジンクの家の溜まった仕事を片付け、ようやく俺達は母ちゃんとラピおばちゃんの故郷に向けて出発することになった。もちろんジンクの一家も一緒だ。


「え~っと、お土産は乗せたよな」

「ええ、大丈夫、ちゃんと乗せたわよ。アイアンちゃんとジンク君の倒したランク4の軍鶏モンスターのお肉でしょ、同じく二人の倒したお肉で作ったお肉屋さんのソーセージでしょ~、干し肉でしょ~、とにかく、お肉屋さんに残ってた分を片っ端から買ってきたのよ!」

「流石だぜ母ちゃん!」

「それじゃあ、待ち合わせ時間になっちゃうし、行きましょうか」

「おうよ!」


 俺達は我が家を出発する。父ちゃんが侵入防止の結界を作動させてくれたから、留守は安心だぜ! 泥棒なんかの心配はこの街ではあんまりないんだが、何かと物騒なものが転がってるからな、一応の用心ってやつだ。


 俺達は3人で西門へと向かっていく。今日は西門前の広場でジンク達と集合予定なんだ。里帰りはもちろん街の外を移動しないといけないため、俺達は完全武装している。


 俺はいつもの迷彩服もどきにヘルメットをかぶり、2号君に乗り込んでいる。ミサイルランチャーを搭載して初の外出だからな。どんなモンスターでもかかってこいやって気分だぜ! そうそう、今回2号君には荷台としてトレーラーを接続している。お土産なんかもここに積んであるんだぜ! 万一戦闘になった時には、ワンタッチで簡単に外れるような工夫もしてあるんだ。


 母ちゃんの装備は、ぱっと見いつもの服に小柄なスティックという、とても戦闘服に見えない軽装だ。ただこれ、普段着に見せかけて結構高ランクのモンスター素材で作られた服のようで、下手な金属鎧より頑丈らしい。


 そして、今回はお供にゴーレムを従えている。中に乗って戦う武装ゴーレムじゃなくて、外部から操るタイプのゴーレムだ。俺のドライバーゴーレムやローダーゴーレムと一緒だな。ただ、今回はいつもの畑の土で出来た土ゴーレムじゃない。岩で出来たロックゴーレムだ。この岩、ちょっと特別な岩のようで、普段は倉庫の中に入ってるんだぜ。


 そしてこのロックゴーレムが、すっげえ大きいんだ。ジンクの武装ゴーレムが、子供用に調整したやつってこともあって全長3m。軍隊とかハンターが使う、大人用の一般的な武装ゴーレムが5mくらいなのに対して、母ちゃんのロックゴーレムは全長10mもある巨体だ。うう~む、目立つ。こんなの使ってたら、それだけで街の有名人確定じゃないか?


 父ちゃんはこれぞハンターっていう装備だ。防具は皮鎧をベースに要所を金属で補強するという、ジンクの鎧みたいなかんじの装備だ。そして、武器は腰に片手剣と片手槍をさしている。ただ、父ちゃんは敵によって得物をかえるタイプのようで、2号君に繋げてある荷台の中に、両手剣、普通の槍、斧、ハンマー、銃と一通りの武器が入っている。


 俺達はちょっと目立ちながらも西門前の広場までさくっとやってきた。そして、ジンク一家と合流だ。


「ようジンク」

「おう、アイアン。噂には聞いてたが、これがエメラおばさんのロックゴーレムか、すげえでかいな」


 幸いというべきか、母ちゃんがこのロックゴーレムを使うような出来事は、まったくと言っていいほど起こったことがない。なのでジンクも倉庫の中に岩として入ってるところは見たことがあっても、実際に動いているところを見るのはこれが始めてだったりする。


 まったくと言っていいほどってことは、まったくないわけじゃないの? って思われるかもしれないが、まあ、そこは内緒だ。夫婦間の出来事には、子供とてタッチすべきでないことがあるからな。


「ジンクん家も完全武装だな」

「そりゃあそうだろ。街の外は危険が多いからな」


 ジンクはいつものように金属で補強してある皮鎧を着て、武装ゴーレムに乗り、移動補助用の1号君改に武装ゴーレムで跨っている。そして、普段の1号君改の後ろには、仕留めた獲物を乗せるようのトレーラーがくっ付いているんだが、今回はそこにキャンピングトレーラーがくっ付いている。これで長距離の移動でも楽ちんってわけだ。


 それから、ラピおばちゃんの武装は、母ちゃんと同じ高ランクのモンスターの素材で作った服と、腰に刺さった2本の剣だ。ここまではいい。ここまではいいんだ。問題は、ガリウムのおっちゃんだ。


「ガリウムのおっちゃんのあの格好、あれ、いいのか?」

「ん~、俺的にもやめてほしいんだけど。あれが一番理にかなっているって父さん言うんだよな。まあ、母さんが怒るだろ」

「そうだな。って、早速怒られてるな」

「ははは、まあ、しょうがないな」


 ガリウムのおっちゃんも、挨拶しにキャンピングトレーラーから出てきたのだが、いささかガリウムのおっちゃんの装備には問題があった。ガリウムのおっちゃんの武装は、巨大な盾と剣、それに槍だ、それは問題ない。問題は防具なんだ。なんというか、地球で言うところの、スパルタの戦士みたいな恰好をしている。ん~、スパルタの戦士だって小手や脛当くらいはしてたと思うけど、ガリウムのおっちゃんはそれすらない。そう、ほとんどパンツ一丁なのだ。いや、マントを羽織ってるから、パンツマント? だ。日本のゲームやアニメ、漫画なんかではビキニアーマーなんてものがあったけど、まさか、おっちゃんのパンツアーマーなんてものを目にすることになるとはな。しかも、トランクスならまだしも、形的にはブーメランパンツなんだぜ。正直あんまりみたくなかったぜ・・・・・・。


 ただ、流石にラピおばちゃんに、なんでマントの下に服を着てないんだと怒られて、そそくさとキャンピングトレーラーの中に帰っていったけど。


 そんな恰好でいいのかと思うかもしれないが、ガリウムのおっちゃんにとっては大丈夫なのだそうだ。なにせガリウムのおっちゃんはほかのどんな魔法よりも、圧倒的に身体強化魔法、その中でもとりわけ身体硬化魔法が得意なんだそうだ。だから、金属鎧なんか着たところで、防御力は上がらないんだってさ。それどころか、モンスターの爪なんかで着ているものを引っかけられたりすると、かえって危ないからって理由で、ブーメランパンツアーマーになったんだって。マントは、流石にマントなしだと街で捕まるからだそうだ。


 ちなみにガリウムのおっちゃんの盾と剣、槍は、強化魔法も攻撃魔法も効きにくい変わりに、魔法なしでもけた外れの強度を誇っている特殊な金属製なんだそうだ。おお~、すごい金属じゃんって思ったんだけど、剣も槍も俺とジンクの二人がかりでも持ち上がらないほど重いんだよ、これ。それどころか、ジンクの武装ゴーレムですら持ち上げるのが精一杯だった。くう、弾頭にいいかなって思ったけど、いろいろ問題があってあきらめた。


「ジンク」

「なんだ?」

「ジンクは金属強化魔法や皮の強化魔法も得意でよかったな」

「ああ、父さんには悪いが、それは心底そう思う」


 さて、ガリウムのおっちゃんも服を着たようだし、母ちゃんたちもキャンピングトレーラーに乗ったからな、いざ出発だ!


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