第55話 ジンクの家でお手伝いだぜ!

「父ちゃん、ガリウムのおっちゃん、応援に来たぜ!」

「ただいま~」


 競争には負けちまったが、まあいい。本命はお手伝いだからな。俺とジンクはジンクの家の作業場へと入っていく。


「お、二人ともすまんな。勉強中だっただろうに」

「いいってことよ!」

「それで父さん、俺たちは何すればいいんだ?」

「ああ、アイアン君は奥にいるタングの手伝いを頼む。ジンクは外にいるラピの手伝いをしてくれ」

「おうよ!」

「はいよ」


 というわけで、俺は奥にいる父ちゃんのところに行って、お手伝いを開始する。


「父ちゃん、応援に来たぜ! なにすりゃいい?」

「おう、アイアン、悪いな。アイアンには金属加工全般をお願いしたいんだが、大丈夫か?」

「もちろんだぜ」

「仕事の内容は簡単だ。こっちに並んでる馬車や魔道自動車の修理をしてほしい。とりあえず不具合箇所の洗い出しは終わってるから、アイアンの直せそうな金属パーツの修復を頼む。金属パーツ以外は放置でいいぞ。木製の部分の修理なんかは、ここの従業員でも出来るって話だからな。それと、金属が足りない場合はそこの箱の中のを使ってくれ」

「わかったぜ!」


 俺はずらりと並んでる馬車の1台目の前に立つ。この馬車はあれだな。荷物を運ぶ用の荷馬車ってやつだ。でもなんか、傾いてるな、足回りの不具合か。俺は父ちゃんに言われたように、馬車の貼り付けてある故障箇所の書かれた紙を見る。


「なになに~、この馬車は左後ろのサスペンションの付け根の破損か」


 とことこと破損箇所に歩いていく。ふ~む、見事にフレームからスプリングが外れてるな。というか、フレームとサスペンションの取り付け部分がぽっきりいってる。まあ、よくあるトラブルってやつだな。この世界、街の中はともかく、街の外は舗装路ってわけにはいかないからな。どうしても足回りに負担がかかるんだよな。


 俺は金属加工魔法を使って折れた部分を元通りにくっつける。よし、これでいいかな。一応直ったかの診断のために魔力を流す。


「うん、ばっちりだな。ちゃんと一体化してる。じゃ、次だな、次」


 今度のは馬車じゃなくて魔道自動車か。こりゃああれだな。ダンジョンとかに持ち込んで、戦利品を乗せてくるタイプのやつだ。当然全身が装甲覆われていて、中身を守れるようになっている。しっかしこのサイズの装甲魔道自動車を運用できるとなると、結構高ランクのパーティーのやつっぽいな。俺は1台目と同じように紙を見て故障箇所を確認する。まあ、見た目で凡そのことはわかるけどな。だって、思いっきりへこんでんだもん。


「ん~、なにかでかいモンスターの突進攻撃でも受けたっぽいな。けっこう派手にへこんでやがる。ってか、ボディと一緒にフレームまで歪んでるじゃん。こりゃあ直すの骨だぞ」


 しっかし、すげえ堅実な構造だな。装甲が50mmもあるのに、モノコックじゃなくてフレームがちゃんとある。普通この装甲厚なら、俺の2号君みたいにモノコックにしてもよさそうなのにな。


 あえてこういう構造にしてるってことは、ちょっとしたことなら自分たちで直すのを前提にしてそうだよな。まあ、フレームがいっちゃってたら、いくらドワーフとはいえど、ハンターが自力で直せる範囲じゃあないか。


 俺は金属加工魔法くしして直していく。だ~、くそ、結構疲れたぜ。無駄にでかいんだよ。おまけに魔法使いが直すように出来てねえ。たぶん何度もへこんじゃあ無理やり叩いたり溶接して直したんだろうな。メタルラインがめちゃくちゃで余計に疲れたぜ。まあ、愚痴っててもしょうがないか。次だ次!


 こうして、俺はひたすらジンクの家に修理で持ち込まれた馬車を修理していったのだが、2時間もしないうちに完全にばてた。


「あ~、疲れた~。休憩~」

「おう、アイアン、魔力切れか?」

「うん、もうばってばって。はあ、日々魔力は増えてると思ってたんだけど、なかなか思うようにいかないもんだな」

「いやいや、十分すぎるだろ。全部で4台も直ってるじゃねえか。しかも装甲車両とか、体積のでかいやつまで直ってるしよ。ちょっとまっとれ、飲み物を取ってきてやるぜ。オレンジジュースでいいか?」

「うん、サンキュー、父ちゃん」


 父ちゃんはそう言うと飲み物を取ってきてくれた。


「ほらよ」

「サンキュー」

「俺もちょっと休憩にするかな」


 俺は父ちゃんから飲み物を受け取ると、父ちゃんも近くに座った。一緒に休憩するようだ。というか、俺の場合魔力切れなので、お昼ご飯を食べて昼寝するまではもうほとんど使い物にならないが。


「なあ父ちゃん、母ちゃんが里帰りしたくなり理由ってなんなんだ? 爺ちゃんや婆ちゃんに会いたくないわけじゃなくて、街に近づきたくないんだっていうのは教えてくれたんだけど、それ以上は逃げられちゃったんだよな」

「あ~、それなあ、一応は知ってはいるんだが、俺と出会う前の話でな。又聞きでしか知らないんだよ。だから、あんまり正確な話がわかんなくってな。しかも、エメラに聞いても恥ずかしがって教えてくれないしよ。ってなわけで、俺の口からは言いにくいんだよな」

「そうなのか~。ラピおばちゃんは知ってる?」

「そのはずだ。なにせラピさんも当事者だって話だからな。ただ、ガリウムもこの話に関しては詳しく知らないみたいだから、教えてくれるかは微妙だぜ」

「そっか~、じゃあ、爺ちゃんや婆ちゃんに聞くのが一番かな?」

「そうだな。エメラの両親なら詳しく知ってるだろう。まあ、裏話みたいな詳しい話はともかく、大雑把な概要くらいはエメラの故郷に帰れば嫌でもわかるぜ。ああ、そうそう、悪いことじゃないからそこは安心しな。むしろ良いことだからな」

「うん、わかった。そだ、父ちゃんはなんの作業してたんだ?」

「俺か? 俺は見ての通り、新規の馬車や魔道自動車の製造だ。まあ、全部じゃなくて、あくまでも金属製品部分だけだがな」

「でもそれって、メインどころは全部ってことだよな?」

「そうだな、塗装や内装以外ほとんど全部だ。んったくガリウムの野郎。仕事ため込み過ぎなんだよ」

「ほんとだよな。修理の馬車だってまだまだ結構あるし。というか、ガリウムのおっちゃんやジンク達はなにしてるんだろ?」

「ガリウムの野郎は新規顧客のための設計図を引いてる。んったく、こんな状況でさらに新規の案件とか、あの野郎里帰りの件がなくても、俺達に泣きつく気でいやがったとしか考えらんねえ。んで、ジンク君はラピさんと一緒に客の対応してるんじゃないかな。さっきまでラピさんが従業員の一人と一緒に受付して馬車をこっちに運んだり、逆に引き取りの馬車をこっから出してって、ばたばた動いてたからな」

「そっか~」

「まあ、その内エメラが昼飯作りに来てくれるから、アイアンは先にガリウムの家に行って寝てな。午後また手伝ってほしいから、少しでも魔力を回復させといてくれ」

「分かった。それじゃあ、寝てくるぜ」


 その後、なんだかんだでまるまる二日ほどジンクの家の手伝いをする羽目になった。


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