第61話 ガリウムのおっちゃんの家族だぜ!
1組の男女が俺達の個室に入ってくると、ガリウムのおっちゃんが真っ先に声をかけた。
「おう、姉さん、義兄さん、久しぶりだな」
姉さん? 兄さん? ってことはここ、ガリウムのおっちゃんの実家だったりするのか?
「ええ、本当に久しぶりね。10年ぶりくらいかしら?」
「アンバー、エメラさんの出産後にもパラージに行ったから、まだ7年くらいじゃないかな?」
「あら、そうだったわね」
ガリウムのおっちゃんに兄さんと呼ばれたドワーフは、なんというか、ドワーフには見えない優男という雰囲気だ。背も高めだが、ガリウムのおっちゃんほどは高くない。父ちゃんとガリウムのおっちゃんの間くらいか。
そして、その優男からアンバーと呼ばれ、ガリウムのおっちゃんから姉さんと呼ばれた女の人は、その名が示すように、琥珀色の目と髪をしたきれい系のドワーフだ。この人は女の人にしては大きいな。優男と背がほとんど変わらない。ってことは、父ちゃんよりも確実にデカいな。しっかし、きれい系のドワーフはそんなにいないから目立つな。母ちゃんもラピおばちゃんも、ロリドワーフのそれだから、可愛い系なんだよな。
「それより、ガリウム。紹介してくれないの?」
「ああ、そうだな。ジンク、アイアン君、この人が俺の姉のアンバー姉さんだ。それと、こっちの優男が姉さんの旦那のハライト義兄さんだ。んで、こいつが俺の息子のジンク。こっちの子がタングとエメラさんの息子のアイアン君だ」
「ジンクです。よろしくお願いします」
「アイアンオアだ。長いからアイアンって読んでくれ。よろしくな!」
「私はアンバー、ジンク君のお父さんのお姉さんなの。こちらこそよろしくね」
「僕はアンバーの旦那のハライト。よろしくね」
「ちなみに姉さんはこの宿屋の経営者で、義兄さんはこの食堂の料理長なんだ」
なるほど、姉さんに、義兄さんってことね。にしても、アンバーさん、背が高いところだけガリウムのおっちゃんに似てて、他は全然似てないな。いや、こんな高級宿屋の経営者なんだ。商才は姉弟そろって一流ってことか。
「姉さん、今は時間あるのか?」
「ええ、もちろんよ。だからこうして遊びに来たの」
「そうか」
その後はガリウムのおっちゃんのお姉さん夫婦も混ざって、おしゃべりしながら夕食が進んでいく。なんか、大人達はみんな仲良さそうだな。ジンクの家族だけじゃなく、俺の父ちゃんと母ちゃんとも仲が良さそうだ。
「アンバーのおばちゃんとハライトのおっちゃんは、父ちゃんと母ちゃんとも仲いいの?」
「ええ、そうよ。この宿を開くことが出来たのも、この4人のおかげなんですもの」
「へ~、そうなんだ」
「あら? この宿のこと、聞いてないかしら?」
「うん、聞いたことなかったな。ざっくりと父ちゃんと母ちゃんの所縁の宿屋ってことは聞いてたんだけど。ジンクは知ってるのか?」
「いや、父さんの姉さんの宿屋って話は聞いてたけど、それだけしか知らないな」
そう、俺とジンクがこの宿屋に関して知ってることはその程度だった。これは、俺の直感がなんか面白そうな話が聞けるかもしれないとざわめいてるぜ!
「そう、じゃあお話ししましょうか?」
「「うん!」」
「ちょっとアンバーちゃん?」
「なに言う気?」
「あら、いいじゃない。良いことなんだから」
「余計なことは言わなくていいわ」
「そうよ、ラピちゃん。アンバーちゃんを黙らせちゃって!」
どうやら母ちゃん達はあんまり知られたくない話のようだな。だが、そうなるとますます聞きたくなるぜ。
「まあまあエメラもラピさんも、この宿が出来た時の話くらいいいだろう? どうせこのあとセントラルシティーに行くんだし、多少早いかどうかの違いしかないだろう?」
「それを言われると」
「う~ん・・・・・・」
おお、まさか父ちゃんの一撃で母ちゃんとラピおばちゃんが黙っただと! これはますます興味深い。
「はあ、まあいいわ。どうせセントラルシティーに行って、私の親に聞かれたら絶対しゃべっちゃうしね。エメラのとこも同じじゃない?」
「そうね。母さんなら嬉々としてしゃべるよね」
「じゃあ、話していいわよね」
「まあいいわ」
「ええ」
おお~、でも、二人の両親まで知ってるってことは、結構大きな出来事だったのかな? こいつは期待大だぜ!
「2人はパラージの街の歴史は知っているかしら?」
「えっと、100年前に放棄されて、復興して50年ってことですか?」
アンバーおばちゃんの質問に、ジンクが答える。
「ええ、その通りよ。100年前にパラージの街の周辺の自然の魔力が急上昇して、モンスターの領域からいろんなモンスターが溢れた事件のことよ。それで、パラージの街は放棄されて、全住民避難したのよね?」
「はい、みんな王都に逃げたって聞いています」
「大正解、博識ね! それでね、実はその時避難したのは、パラージだけじゃなかったの、隣のこの街も同じように避難したのよ」
「それは、この街の周辺でもモンスターが溢れたからですか?」
「いいえ、違うわ。そもそも自然の魔力の上昇は、全国的に同時に起こるわけじゃないからね。100年前は、パラージ周辺はともかく、ここゴールドタウンの周辺は平気だったみたい。隣町とはいっても、距離があるからね。それに、もしゴールドタウンの周囲のモンスターの領域が溢れても割と平気なようよ。この街の周辺にあるモンスターの領域は中級までだから、軍とハンターで対処可能らしいの。ただ、100年前はパラージの上級ダンジョンから溢れた、高ランクのモンスターが、この街にも押し掛けたらしくてね。軍もハンターも対処しきれなくなって、それで、避難するしかなかったそうよ」
「そうだったんですね」
アンバーのおばちゃんが悲壮な表情で語り終えた話に、ジンクもちょっと悲しそうな顔で答える。
「あら、そんな悲しそうな顔しないで。ここまでは序章よ。それに、別に私が体験した悲しいお話じゃないしね!」
「へ?」
アンバーおばちゃんがてへっって顔をしながらウインクまでセットでおどけて見せる。ま、今までの話は体験談というよりも、伝聞って感じの話し方だったしな。
「姉さん、ジンクは純粋なんだ。からかってやるなよな」
「あはは、ごめんね~。でも、本当にそこまで悲しい話でもないのよ? だって、この国では定期的にある話だし、軍とかも皆慣れてるからね。実際100年前も、人的被害はほとんど出ていないって話よ。それと、当時私は生まれてもいなかったから、まったく知らないわ。しかも、私とガリウムの生まれ故郷は別の街だから、この街のことは復興後しか知らないのよ」
「あ、そうなんですね」
「そうなの。それに、そもそもこの程度のことで大きな被害を出してたら、今頃ドワーフの国そのものが傾いちゃってるわよ」
「はあ、わかりました」
「それで、そんな感じでモンスターにこの街も手ひどい被害を受けたって話なんだけど、今から50年前に、ゴールドタウンとパラージの奪還作戦が行われたのよ。そして、そこで活躍して、報酬で土地を手に入れたのがこの4人ってわけ」
「「へ~」」
「それで、当時新婚で新居を探してた私達に、報酬の土地を譲ってくれたの」
「ほ~」
ジンクはさらっと流そうとしているようだが、俺のカンが告げている。ここは突っ込むべきだということを!
「そこのところ詳しく」
「いいわ。4人の、特にエメラちゃんとラピちゃんの武勇伝を詳しく語っちゃうわ! 私もハンターの端くれとして参加してたから、がっつりお話できるしね!」
そして、俺とジンクは照れる母ちゃん達を父ちゃん達に抑えてもらいながら、4人の、いや、母ちゃんとラピおばちゃんの武勇伝をつまみに、夕食を楽しむのだった。
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