第62話 母ちゃん達の武勇伝だぜ!

「じゃあ、エメラちゃんとラピちゃんの武勇伝を語るわよ~!」

「「お~!」」


 アンバーおばちゃんも、赤ワインを片手に語りモードに入った。


「まず最初に、今から50年前、ドワーフの国はピンチに陥っていたわ。簡単に言ってしまうと、物資不足に陥っていたのよ。特に、ミスリルと金が不足していたわ。この街が金と魔道具の街と呼ばれているのは知ってるかしら?」

「もちろんです」


 アンバーおばちゃんの問いにジンクが当然のように答える。俺も知ってたけど、ジンクから教えてもらったことだからな。ちょっと自信満々に答えにくい。


「金はもちろん装飾品としても使われるけど、その真価は魔力の伝導率の高さにあるの。つまり、魔道具の回路としてよくつかわれるのよ」

「そうだったんですね」

「ええ。例えばジンク君の武装ゴーレムや、アイアン君の2号君の中にも使われているはずよ。たぶん、二人のご両親のことだから、金単体ではなくて、もっと性能のいい、ミスリルとの合金にしちゃってると思うけどね」

「確かにそうですね。俺の武装ゴーレムの回路も、普通のミスリルとは違って、金よりの輝きでした」

「ああ、それは間違いない。父ちゃんに聞いたからな」

「それで、100年前のゴールドタウンと、パラージは、当時のドワーフの国の、金とミスリルの産出の半分くらいを賄っていたそうなのよ。そんな重要な街が二つ、モンスターの手に渡って50年。物資不足になるのも当然よね」


 なるほど、確かにミスリルと金の供給が大幅に減るのは国家としてもかなり痛いな。


「もちろん国としてもいろいろしたらしいわ。他の産地の供給量を上げたり、金に関しては装飾品の金を買いあさったりね。でも、とてもじゃないけど十分な量が集まらなかったそうよ。それはそうよね。金もミスリルも、もともと需要よりも供給が少ないせいで、高価な金属だったんですもの」

「昔も金とミスリルは高価だったんですね」

「ええ、そうみたいよ。100年前と今の市場価格はほとんど一緒だったっていう話を母さん、ジンク君のおばあちゃんから聞いたことがあるわ。そして、50年前は悲惨だったわ。なにせ今と比べると桁が一つ違ったからね。私も当時ハンターの端くれだったんだけど、ミスリル武器には手が出なかったわ」


 アンバーおばちゃんは赤ワインをくぴっと飲む。


「軍を使っての奪還作戦はしなかったんですか?」

「もちろんしたらしいわ。ゴールドタウンとパラージが襲われた100年前の段階でね。事件の翌年には、軍とハンターとの共同戦線で奪還のために動いたそうなの。でも、結果は失敗だったそうよ」

「アンバー、それについては僕から補足させてもらうよ。確かに学校の授業なんかではあの遠征は失敗だったと言われているけど、歴史学者の中には、あの遠征がなかったら、セントラルシティーにまでモンスターが押し寄せた可能性もあったと主張する学者もいるからね」

「それはまた別の話よ。セントラルシティーにモンスターが来るという理由で戦うのなら、すでに敵地になっていたゴールドタウンに遠征軍を送るより、セントラルシティーで待ち構えて叩いたほうが被害は少なかったはずでしょう?」

「うん、ごめんね。この話題はまた今度にしようか、今はエメラさんとラピさんの武勇伝の話だからね」

「もう、あなたってばすぐ割り込んできてすぐ逃げるんだから」

「それについても謝るよ。ごめんね」


 なるほど、失敗には終わったけど、それなりの戦果はあったということか。それにしても、ハライトのおっちゃんも弱いな。ドワーフの家庭ってのは、みんなこうなのかな? っと、思考がそれたな。でも、100年も昔とはいえ、軍が負けたのか、それって大事じゃないのか?


「ですが、軍が負けたとなると、一大事じゃないですか?」

「ええ、その通りよ。ただ、軍全体としては、そこまでの被害では無かったそうよ。ドワーフ軍の主力は、あくまでも東にあるオーガの国に対する防衛軍だし、流石にそっちから部隊を引っこ抜くことは避けたらしいの。まあ、東の防衛線が抜かれたら、それこそセントラルシティーから東を全部失うことになるからね」

「ちなみに、どの程度の被害だったのですか?」

「全軍の1割で攻撃を仕掛けて、4割が怪我をして帰ってきたそうよ。とはいえ、死者はほとんどいなかったらしいけどね。防衛戦と違って、こっちから攻めていったわけだから、軍もハンターも無理はしなかったみたいよ」

「じゃあ、そこまで酷い被害があったわけではなかったんですね」

「そうね。死者や再起不能な重傷者はほとんどいなかったそうよ。でも、物資はそうはいかなかったの。失敗したらミスリル不足になる可能性が高かったにもかかわらず、ミスリル砲弾や投げやりなんかを、ぽんぽん消費したらしいわ。街を取り返したあとに回収すればいいからって理由でね」

「なるほど、人的被害以上に、物資を失ったことが痛かったんですね・・・・・・」


 うわ~、まじかよ。そりゃあ勝てれば回収は容易だっただろうけど、ミスリル砲弾に投げやりを使い捨てって、それ、財政的に悲惨なことになってないか? だってミスリルって、金より余裕で高いんだぞ? 


「ふふふ、二人とも気付いたようね。そう、この作戦の失敗の一番の影響は、とんでもない金額のミスリルをそこで消費したことなの。当然作戦の責任者だった将軍は罰せられたわ。確か、禁酒100年だったかしら?」

「うん、そうだね」

「その失敗があって、軍で取り戻そうという話をしにくくなっちゃったのよ。なにせ、そこで消費した軍の物資が元の水準に戻ったのは、50年たって、二つの街が開放されてからだからね。そんなわけで、軍の失敗のその後はハンターが中心となって、ゲリラ戦のごとく、ちまちま戦力を削る方針に変更になったのよ。元凶の自然の魔力そのものは、徐々に元に戻っていくことがわかっていたし、自然の魔力が落ち着けば、危険なモンスターの増殖はないからね。最悪自然死を待てば元通りだし」

「なるほど~」

「でも、そうは言っても物資不足は深刻だったから、だれもが解決してほしいと願っていたわ。そして、約50年、ハンターがちまちまとゴールドタウンに攻撃を仕掛けていた時に、その状況を打破する存在が現れたの。それが、エメラちゃんとラピちゃんよ!」

「「おお~!」」


 ちょっと前置きが長かったけど、やっと来たぜ! アンバーおばちゃんが赤ワインを再度くぴっと飲んでさらに語り続ける。母ちゃんとラピおばちゃんが、やっぱり話されたくないのか、再び暴れだしたけど、そこは父ちゃんとガリウムのおっちゃんに頑張ってもらおう。


「アイアン君は、エメラちゃんの実家の職業は知ってるかしら?」

「ううん、知らない。母ちゃん、実家の話してくれないから」

「そうなのね。まあ、どうせすぐわかる事だから言っちゃうけど、エメラちゃんの実家は魔道具工房なの」

「そうだったんだ!」

「ええ、この宿屋の魔道具もほとんどがエメラちゃんのご実家の作品なのよ」

「なるほど、鍵にかかってる妨害魔法の構造なんかが、どことなく家のに似ていると思ったら、そういうことだったのか」

「ええ、そうよ。そして当然エメラちゃんのご実家でも、当時金やミスリルが不足していたっていうわけなのよ」

「うんうん」


 なんとなく先が読めてきたが、ここはしっかりと話を聞こう!


「そんな時、親思いのエメラちゃんは考えました。そうだ、ゴールドタウンに巣くうモンスターをやっつければ、万事問題解決だ! と」

「ちょっとアンバーちゃん? 私そんなセリフ言ったことなんてない、ふぐ!」


 いいぞ父ちゃん、今はアンバーおばちゃんの話に集中したいんだ。ちょっと母ちゃんには黙っていてもらおう。


「そこで、エメラちゃんは仲良しのラピちゃんを誘って、ゴールドタウンに向かいます。そして、ゴールドタウン周辺の、上級モンスターが巣くうエリアへと無事に到着しようという、そんな時、モンスターを相手に苦戦している四人のハンターに出会います。そう、それこそが私とハライト、それにタング君にガリウムだったのです」


 ってか、ここでまさかの両親の馴れ初め話になるのか! これは、聞きたいような気もするが、いや、やっぱ聞きたくないぞ。父ちゃんも馴れ初め話は止めてほしいらしく、いっそアンバーおばちゃんを止めようかと迷い始めてる。これはまずい。


「アンバーおばちゃん、馴れ初め話はいいので、武勇伝をお願いします」

「ああ、俺からもお願いしたい」

「ふふ、そうね。ご両親の馴れ初めは置いておいて、武勇伝に行くわよ。ゴールドタウンに向かう道すがら、新しい仲間を4人増やしたエメラちゃんとラピちゃんは、無事にゴールドタウン近郊に到着します」

「「うんうん!」」

「当時のハンター達は、たくさんいる上級モンスターの相手は難しかったため、少しでも戦力を減らせるようにと、上級モンスターの目を盗んで中級以下のモンスターをちまちまと狩っていました。でも、エメラちゃんとラピちゃんの二人は、違いました。エメラちゃんはゴーレムを、ラピちゃんは2本の剣を操り、どうどうと正面から上級モンスターに挑みました」

「「おおお!」」

「そして激戦の末、上級モンスターを仕留めます。もちろん上級モンスターもただ黙って味方がやられるのを見ているわけではありませんでした。当然近くの上級モンスターが応援に駆け付けます。ですが、エメラちゃんのゴーレムは無機物。上級モンスターに囲まれたりと、ピンチになったらラピちゃんだけを逃がして、ゴーレムを囮に大暴れさせるという作戦で、リスクを恐れずにどんどん上級モンスターに挑むことが出来ました」

「流石はエメラおばさんだ。確かに遠隔操作の出来るゴーレムでなら、どんなモンスターの群れが相手でも、低いリスクで仕掛けられるな」

「いやいや、ラピおばちゃんだってすごくないか? いくらいざとなったらゴーレムを囮にして逃げていいとはいえ、軍でも勝てなかった上級モンスターの群れに、囲まれるのを承知で挑むんだぜ? とんでもない胆力だぜ」

「そして、上級モンスターを倒していると、二人はふと気づきます。この上級モンスターの素材、ミスリルよりも魔力の伝導率が高いんじゃないだろうか、ということに!」

「なるほど、そいつはあり得るな」

「ああ、間違いなくそうだろうぜ。肉屋のおっちゃんも言ってたんだ。ランクの高いモンスターの肉ほど、食品加工魔法の通りがよくて、繊細な調整が出来るってな。まあ、魔力そのものは低ランクな肉の加工より、がっつり必要らしいがな」

「そこで二人が上級モンスターの素材をエメラちゃんのご実家に送ったところ、二人の予想通り、上級モンスターの素材は魔道具の材料として、ミスリル以上に上質だったのです。これにはエメラちゃんのご両親も大満足です。その結果を聞いた二人は、上級モンスターを素材目当てに狩りまくることにしました。そして、上級モンスターを狩りまくった結果、エメラちゃんとラピちゃんは100年前の激戦地にまで足を踏み入れることが可能になりました。するとそこには、なんと100年前に大量に使われたミスリルの弾頭や投げやりが大量に転がっていたのです。これによりミスリルも大量にゲット! エメラちゃんのご両親も、大大大満足でした!」

「「おお~?」」


 あれ? なんか、武勇伝がすっげえ俗っぽい話になってきてない?


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