第63話 母ちゃん達の武勇伝2だぜ!

「「ぐはっ!」」

「ちょっとアンバーちゃん、脚色していいように語りすぎよ!」

「エメラの言う通りだよ。アンバーの話じゃ、まるであたし達が化け物じみて強いように聞こえるじゃない。化け物じみて強かったのはエメラだけよ。あたしは同類じゃないわ!」

「ちょっとラピちゃん? それは酷くない?」


 アンバーおばちゃんから、母ちゃん達の武勇伝をのんびり聞いていた俺とジンクだったが、とうとうしびれを切らしたのか、母ちゃん達が父ちゃん達を振りほどいて参戦してきた。でも、なんかすでに仲間割れしてるな。そして父ちゃん達は、あ、だめだ。すでにやられている。さっきぐはっ、って聞こえたのは、父ちゃん達の断末魔だったのか。


「アイアンちゃん、騙されちゃだめなのよ。確かに私とラピちゃんは上級モンスターを倒せたの。でもね、私達以外にも上級モンスターを倒せるハンターはいっぱいいたんだからね」

「そうそう。あたし達が参戦した時には、50年戦い続けてたベテランハンター達のおかげで、上級モンスターも多少は減っていたし、なにより戦いやすくなっていてね。だからこそあたし達が活躍出来たっていうだけよ。実際、単純な強さでいけば当時のあたしは、今パラージでギルマスやってるトリさん夫婦より弱かったしね」

「でも、トリさん達の50年がかりの討伐数を、二人は1年もせずに余裕で上回っていたじゃない」

「それはそうだけど、それはエメラのゴーレムが強すぎたからよ」

「違うわよ。私のゴーレムはラピちゃんのフォローをしていただけよ。あの戦いでの上級モンスターの討伐数ランキング1位だったラピちゃんのね」

「そのランキングは何の意味もないって、何度も言ったでしょう? あたしがしたのは、エメラがゴーレムで拘束して、抵抗できないモンスターを一方的に何度も切り付けて、とどめ刺しただけじゃない。あんなの誰でもできることでしょ」


 女3人寄れば姦しいとはよく言うが、日本でだけじゃなく、こっちでも同じなんだな。なんか、俺もジンクも置いてけぼりで、3人の楽しい思い出話がはじまっちゃったみたいだ。でもここは、割って入らないと話がごちゃごちゃになりそうだな。


「はいはい」

「はい、アイアンちゃん」

「その上級モンスターって、なんのことなの?」

「それはね、ヒポドラゴンよ!」

「ヒポドラゴン?」

「ヒポドラゴンは、体長10mくらいの、カバにドラゴンの鱗がくっ付いたようなモンスターよ。名前にドラゴンってついているけど、ドラゴンみたいな頑丈な鱗があって、ちょっとしたブレスを吐くっていうだけで、基本的にはカバモンスターの親戚ね。草食だけど、カバモンスターと同じく狂暴。純粋な草食じゃないから、時折肉も食べるそうよ。本来ならパラージの上級ダンジョンでも、奥のほうに行かないと出会わないランク6のモンスターね。ちなみになんで上級モンスターなんて言い方をしたのかと言うと、ヒポドラゴンは名前が正式に決定してなくてね。カバドラゴン派もいるのよ。私の旦那とかね」

「あたしも少し補足すると、基本的に草食動物系のモンスターは、縄張りに侵入しさえしなければおとなしいわ。これがゴブリンやオーガといった人型モンスターだと、強力なリーダーのもとにあたし達の街を攻めてくることもあるけどね。でも、自然の魔力の上昇によってダンジョン内で大量に増え、居場所を失い、こっちの街の周辺に出てきて縄張りを持たれたとなれば、話は違ってくるわ」


 なるほど、草食動物系のモンスターとはいえ、ランクは6。そんな連中の縄張りの中に街が含まれたら・・・・・・、うん、やばいな。さっきから聞いてると、1匹じゃなくていっぱいいたっぽいし。


「それと、ハンターがせっせと狩ってた中級モンスターっていうのは、もともとゴールドタウン周辺にいた、ランク3とか4のモンスターのことよ。早い話が、このランク3や4のモンスターと、周辺の植物なんかが、ヒポドラゴンのご飯だったのよ」

「あれ? でも、ご飯を下手に奪ったら、別のところに行くんじゃないの? それじゃあ被害が広がらない?」

「それが狙いよ。さっきまでの話で、ヒポドラゴンがいっぱいいたのはわかるとおもうんだけど、ゴールドタウン周辺だけでも100匹以上いたそうよ。しかも、ヒポドラゴンは、ピンチになると周囲の仲間を呼ぶ習性があるからね。ヒポドラゴンがある程度まとまっていると、手を出しづらかったようなの。なら、ご飯を奪えば、一部のヒポドラゴンが縄張りを変えてくれるんじゃないかって、考えたそうよ。ヒポドラゴンが、散らばってくれれば、討伐機会も増えるって考えたみたいね」

「なるほどな~、じゃあ母ちゃん達が参戦したころには、ちょっとは散らばってたの?」

「ええ、そうなのよ。ただ、カバ系のモンスターは草食動物系モンスターの中でも、少ないご飯で平気な燃費のいい種族なの。しかも、主食はその辺の草なのよ。だから、当初の想定よりぜんぜん散らばってくれなかったそうなの。でも、物資不足で大変だったのはその通りだったから、そこはがんばっちゃった」

「エメラ、素直に言ったら? とりあえず突っ込んでみたら、倒せちゃっただけだって」

「むう、そういうこというラピちゃんは嫌いよ」


 母ちゃんがぷいっとそっぽむいちゃったけど、今はそれのフォローをしている場合ではないな。


「でも、倒せちゃったんだろ?」

「アイアンちゃん、違うの。とどめを刺したのはあくまでもラピちゃんだからね」

「どうやって倒したの?」

「それはね。とりあえず私のロックゴーレムを突っ込ませたの。たまたま一匹でうろうろしてるヒポドラゴンがいたからね。でも、私の10mのロックゴーレムだと、ダメージを与えられなかったの。だってね、殴ってもダメージがないどころか、こっちの岩が欠けちゃったんだから。むしろ殴るたびにこっちのゴーレムがダメージを受けちゃったわ。それで私が困っていると、ヒポドラゴンも攻撃したきたの。顔を横にして、腰のあたりにがぶってね。だから私は、ロックゴーレムを魔力で思いっきり硬化させて、なおかつ両手で上顎と下顎をつかんだわ。咄嗟の判断っていうやつね。そしたら、私のゴーレムもヒポドラゴンも動けなくなっちゃったの。ヒポドラゴンはそのままの態勢で炎を吐いたりしたんだけど、私のロックゴーレムを燃やせるほどではなかったの。それで、私もヒポドラゴンも、ある種の硬直状態になっちゃって、困ちゃってたのよね。でもそこに、さっそうと現れた勇者がいたの。そう、ラピちゃんね。勇者ラピちゃんはその腰に携えた2本の剣をすらりと抜くと、すぱってヒポドラゴンを倒したのよ!」

「おお~、流石ラピおばちゃんだぜ!」

「ああ、防御力の高そうなランク6のモンスターをすぱっとか、すごいな」

「ちょっと待ちなさい、二人とも。あたしにエメラのゴーレムが本気で攻撃してダメージを与えられない相手を倒せる火力なんて基本的にないわよ。あの時、エメラが拘束していたにもかかわらず、あたしの剣はまったく通用しなかったわ。思いっきり切りかかっても、突いても、鱗はおろか、目や耳にさえ刃が通らなかったんだから。だから仕方なく、剣の一本を目にあてがって、岩で叩いて無理やり刃を通したのよ。そう、まるでハンマーで釘を打ち込むかんじでね。しかも、打ち込む剣を支えてたのはエメラだし、剣を魔法で強化してたのもエメラよ。私は岩でがんがんしただけよ」

「「おお~」」


 なるほど。動きを封じた相手なら、攻撃方法はいくらでもあるか。ていうか、当時の母ちゃん達の強さがわかんないけど、ランク6のモンスターって、目ですらそんなに硬いのか。


「でもラピちゃんってば酷いのよ? 手ごろな岩を探すのが手間だったのか、私のゴーレムの頭を使うんだもん。酷くない?」


 母ちゃんの10mのゴーレムの頭って、2mくらいの大岩だったよな。あれでがんがん打ち込んだのか、それはそれですごいな。ラピおばちゃんって、スピード派だったはずなのに、パワーもあるんだな。


「まあ、その件は前に謝ってもらったからいいとして、なんで私達が勝てたのかと言えば、ただ相性が良かっただけなのよね。ヒポドラゴンの脅威は、何と言ってもピンチになると大声を出して仲間を呼ぶことだったんだけど、あくまでもピンチになったら、だからね。だから、ヒポドラゴンに最初にゴーレムを噛ませて、その口を封じちゃえば、厄介な仲間呼びをされずに済んだのよね。もっとも、それでも時々仲間呼び関係なく、通りすがりのヒポドラゴンに追加で襲われもしたけどね」

「そうそう、アンバーの話だと、まるでしょっちゅう複数のモンスターに囲まれながら戦ったように聞こえるけど、基本的にそんな危険な真似しないわよ。あたしの性格わかるでしょ? 確かに一番やばかったときは、10匹を超える群れに追加で参戦されて、エメラのゴーレムを囮に全力で逃げたこともあったけどね。まあ、私達の狩りの話をまとめると、エメラのゴーレムに、ヒポドラゴンの強力な噛み付きに耐えれる強度と、ヒポドラゴンに噛まれたままでもヒポドラゴンを押さえつけられるパワー。それから、そもそもヒポドラゴンの大きな口に、ジャストフィットする巨体があったってだけよ。わかった? 二人とも」

「「は~い」」

「ところでさ、最初以外父ちゃん達が出てこないんだけど、父ちゃんやガリウムのおっちゃん達はなにしてたの?」

「ガリウム達とは、2匹目のヒポドラゴンを倒す時から組んだのよ。1匹目を仕留めた段階で、私の攻撃力だとヒポドラゴンを仕留めるのに時間がかかりすぎて危険と判断したからね。エメラの当時の魔力量だと、ヒポドラゴンを抑えるのは5分くらいが限界だったから、その間に仕留めきれないと危険だったのよ。だから、縁のあったガリウム達の4人や、世話好きのトリさん夫婦に協力を頼んで、攻撃するのについてきてもらったってわけ」

「なるほど」

「タング君達と合流してからは順調だったの。もうそれこそず~っとヒポドラゴンばっかり狩りしてたのよ。毎月1匹ちょっとくらいのペースで、2年間で30匹ちょっと倒したの。でもそんなヒポドラゴン生活も、2年とちょっとで終わっちゃったのよね~」

「そうそう、ミスリルの回収と、ヒポドラゴンの素材で我が軍は復活したとか言って、軍が参戦してきたんだよね。そして、そこからは早かったわ。なんか、私が話に聞いていたよりも、はるかに強かったのよね、軍隊。なんであんたら100年前負けたのって思ったくらいだったわ」

「そうだったかしら? 私のゴーレムちゃんのほうが強かったと思うんだけど」

「だから、常識外れに強かったのはエメラのゴーレムだけだったんだって!」


 そっか、てっきり母ちゃん達なら、ランク6のモンスターすら蹴散らしたのかと思ったけど、流石にそんな簡単にはいかないんだな。いや、でもあくまで駆け出しのころの話だもんな。今ならまた違いそうだな。そうだ、最後にこれは聞いときたいな。


「ねえねえ、そのヒポドラゴン生活って、どのくらい儲かったの?」

「それは内緒、というより、あたし達は正確に把握してなかったんだよね。あまりお金を持ちすぎてても、面倒が増えるだけだったから、大半は街の復興のためにって、手放したからね。ただ、土地はもらったとはいえ、アンバー達が余裕をもってこんなおっきい宿屋を建てたあたりで、想像してほしいかな」


 すごいな。大半を手放してなお、この豪華な宿屋を建てる余裕があったてことか。いや、それ以前に大半を寄付ってなんだよ。俺ならどんな大儲けしようとも、絶対に手放さない自信があるぞ。


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