第64話 トラブルの予感だぜ!
母ちゃん達の武勇伝をじっくりと聞いて楽しんでいた俺達だったが、流石にアンバーおばちゃん達は長居しすぎていたのか、部下の人が呼びに来た。それと同時に、俺達も満腹だったので食堂から撤収した。そして、けっこういい時間だったこともあり、俺とジンクは慣れない豪華な部屋で一泊した。
こんな部屋落ち着かねえよって思っていたけど、なんだかんだで強行軍だったこの二日間の疲れもあったのだろうな。7歳児の俺と、8歳児のジンクは気付いたらぐっすりと眠っていた。
「おはよ~」
「ああ、おはよ」
翌朝、俺とジンクはすっかり快調といった感じで目が覚めた。うう~む、最初こそ気後れしたが、やっぱ高級家具なだけあるな。ぐっすり眠れたぜ。
そして、俺がベッドの上でゴロゴロしたり、ジンクが昨日同様調度品の観察をしたりしていると、母ちゃんがやってきた。
「アイアンちゃん、ジンク君、おはよう~」
「「おはよ~」」
「朝ごはん食べに行きましょうか」
「「は~い」」
俺達は食堂へと向かう。朝食は昨日の高級店のような雰囲気の場所ではなく、もっとカジュアルで、明るいかんじのところでのバイキングだ。俺は何種類かのサンドイッチと、オレンジジュースをゲットして席に着いた。
「そういえば、父ちゃん達は?」
「タング君達はお酒の飲みすぎでダウン中よ」
「母さんもですか?」
「ええ、昨日二人と別れてから、お酒を飲むためのバーっていうお店にみんなでいったの。そこでは節度を持って楽しんでたんだけどね。アンバーちゃん達が今度は完全に仕事が終わったらしくてまた来たのよ。そこからはもう駄目ね。アンバーちゃん達のお部屋に行って、完全にいつもの飲み方になっちゃったから」
「まあでも、昨日の夜はもともと飲んでも良かったんでしょ?」
「ええそうよ、私達はね。アンバーちゃん達は知らないの」
うん、そうだよね。父ちゃん達は今日は休みだけど、アンバーおばちゃん達までそうとは限んないよな。まあ、自業自得だろう。
「そうだ、今日お出かけする?」
「どうしよう、特に何も考えてなかったな。でも、物資の補給にはいくんでしょ?」
「物資の補給に関しては気にしなくていいのよ、宿屋の人にお願いしちゃうつもりだからね」
「ジンクはどうしたい?」
「ん~、俺は部屋の調度品とかを見ててもいいかな。アイアンが出かけたいなら付き合うよ」
「それなら、金の装飾を使った高級家具屋さんなんかもあるのよ」
「行く!」
「じゃ、出かけようぜ。俺も魔道具にちょっと興味あるしな」
「そうね、それじゃあ3人でお出かけしましょうか」
朝食を食べた俺達は、ゴールドタウンへと繰り出した。
「まずはハンターギルドへ寄ってもいいかしら?」
「「ああ」」
「でも、なにするの? 依頼は受けないよね?」
「昨日の深夜、バーで合流した時にアンバーちゃんが言ってたんだけどね。昨日の夜にセントラルシティーから来た商人さんの中に、モンスターに襲われた商人がいたようなの。商人さんは無事だったらしいんだけど、護衛さんに重傷者が出たそうなのよ。だから、情報収集ね」
「「わかった」」
俺とジンクは気を引き締める。そして、あっさりハンターギルドに到着した。まあ、高級宿屋のある場所っていったら、街の中でも結構いい場所だ。そして、ハンターギルドも門前広場なんかにある支部ならともかく、各街の本部はけっこういいところに建っていることが多いからな。近いのは当然と言えば当然だな
そして、パラージの街のハンターギルド本部と、あまり変わり映えしない建物に入っていく。すると、中にはたくさんの人がいた。ただ、賑やかというよりも、なんだろう。もっとこう、嫌気な雰囲気が漂っていた。
「どうしたのかしら? 混んでるのは仕方ないにしても、普段はハンターより商人さん達のほうが多い本部に、こんなにハンターがいるなんて珍しいのよね。それに、空気が重い気がしない?」
「うん、する。なんかあんまりいい雰囲気じゃないな」
「だな。俺も同感だ」
「とりあえず、話を聞きにいかないとね」
そして、俺達が長蛇の列ともいえる受付に並ぼうかというタイミングで、ギルドの一角が騒がしくなり始めた。
「先生! リーダーの容態はどうなんですか!?」
「先生! 教えてください!」
この感じ、怪我人の治療をギルドのヒーラーがしていたってところかな。複数のハンター達が先生と呼ばれたヒーラーに問い詰めているようだ。いや、ハンター達だけじゃないな。護衛されてた商人なのか、ハンターっぽくない服装のやつもいる。
「すまんの、怪我の状態があまりにもひどい。わしの腕では、持たせられても昼までじゃろう」
「そんな・・・・・・」
「う、うう。私のヒーラーの腕がもっと良ければ・・・・・・」
「嘘だろ。リーダーは俺をかばって・・・・・・、くそったれ! なあ先生。どうにかなんないのかよ!? 先生より腕のいいヒーラーはいないのかよ!?」
ハンター達は先生と呼ばれている人にすがっているようだな。とはいえ、どうしたものかな。俺が出て行って回復魔法を使うって手もないわけじゃないけど、ギルド本部のヒーラーが治せない怪我が相手じゃな。
「アイアンちゃん、治しに行きましょうか。私の推理が正しければ、アンバーちゃんの言っていた襲われた護衛のハンターの可能性が高いのよ。これは、この混雑している受付に並ばなくてもいい情報収集のチャンスかもしれないの!」
「ギルド本部のヒーラーが治せかなった怪我を、俺が治せるかな?」
「アイアンなら平気だろ。アイアンの回復魔法は大概だからな」
あれ? 回復行為って、失敗したりした時にトラブルの可能性があるから、こう、もっと慎重になんないといけないはずなのに、なんか二人ともノリが軽いよな。まあ、俺もこの長蛇の列に並ぶのは避けたいので、行くとしよう。
「失礼するわね」
「誰だ?」
「セントラルシティーから来る途中で襲われた商人の護衛のハンターってあなた達よね?」
「そうだが、それがどうしたってんだ」
「治してあげるから、話を聞かせてね」
「はあ? 誰だよてめえ。大体、先生が治せなかった怪我をお前ごときが治せるのかよ!」
怪我をしているハンターの仲間が突っかかってくる。う~ん、そんなことしてる場合じゃないと思うんだけどな。まあ、先ほどまでの先生の口ぶりだと、長くはないってだけで、すぐ死ぬわけでもなさそうだから、そこまで気にすることでもないか。
「通るわね」
「おぬし、エ、いや、おぬしならいいじゃろう。わしも同席するが、かまわんじゃろう?」
「ええ、先生ならいいわよ」
「なっ、先生? ちょっとまて、なら俺も同席する」
「あなたはダメ」
「ここはこのものに従え、それしかおぬしらのリーダーが生き残るすべはない」
「ですが、いったい何者なんですか? 子連れで」
「詮索無用。規則じゃ」
おや、先生と呼ばれたすっげえごついおじいちゃんドワーフは、あっさりと通してくれたな。ハンターの仲間は驚いているようだが、どうやら先生と母ちゃんは知り合いのようだな。まあいっか、後のことは先生がどうにでもしてくれるだろ。
俺達が病室に入っていくと、そこには一人のドワーフが横たわっていた。うん、確かにひどい怪我だな。左腕と下半身がなくなってる。どうやったらこんな怪我するんだ?
「久しぶりじゃな、エメラのお嬢ちゃん」
「ええ、7年ぶりよね。先生」
「ほっほっほ、そうじゃのう。エメラのお嬢ちゃんの出産に立ち会って以来じゃから、そのくらいになるのう。ということは、この子達がおぬしの息子か? じゃが、一人じゃなかったかの?」
「あら、一人はラピちゃんとガリウム君の息子よ」
「なるほど、きっとこっちの大きい子がガリウムとラピお嬢ちゃんの息子で、こっちの灰色の髪の子がエメラのお嬢ちゃんとタングの息子じゃな?」
「正解よ。この子がアイアンちゃんで、この子がジンク君ね。二人にも紹介するわね。二人の出産のときに立ち会ってくれた。ヒーラーの先生よ!」
っていうか、それって紹介なの? 名前は? 先生って、役職だよな。まあ二人とも気にしてないみたいだし、いっか。というか、怪我人はいいのかな? まあ、すぐ死ぬわけじゃないのはわかってるけどさ。
「「よろしくお願いいたします」」
「うむ、こちらこそよろしくじゃ。ところで、エメラのお嬢ちゃんは回復魔法なんぞ使えたかの?」
「私の回復魔法は先生の足元にも及ばないわよ。先生だって知ってるでしょ?」
「うむ。では、どんな手があるのじゃ? まさか、回復効果のあるモンスターの素材でも持っておるというのか?」
「そんなの持ってないわよ。先生はいったい私をなんだと思っているの? アイアンちゃん、ちゃちゃっと治しちゃって」
「おう、わかったぜ!」
俺は回復魔法を発動させる。下半身と左腕がないからな、出し惜しみは無しだな。俺は思いっきり魔力を込めて、回復魔法を使う。すると、俺の魔力は目の前のハンターにするりと浸透していく。そして、なくなった左腕や下半身の断面に当たる箇所が光はじめると、ゆっくりと本来あったものが戻ってきた。ふい~、流石にこのレベルの回復魔法は一回でも疲れるな。そんなことを思っていると、俺の視界にゾウさんが現れた。
ぱお~ん!
なあっ! 俺は慌ててそこら辺にあったシーツをハンターの下半身にかける。くそ、下半身の再生治療なんだから、治ったらそうなるよな。至近距離で嫌なもん見ちまったぜ。
「回復魔法って、下品なの」
「いやいや、エメラのお嬢ちゃん。いまのは不可抗力じゃろ」
「このハンターのあだ名は露出狂で決定だな」
「そうね」
「ああ、ピッタリじゃないか?」
俺の意見に母ちゃんとジンクが同意する。まあ、それしかあり得ないしな。
「いや、お前さん達。それは酷すぎないか? というかおぬし、どこでそんな回復魔法ならったんじゃ? そのレベルの回復魔法の使い手ともなると、わしでもあまり知らんぞ?」
「そうなの? アイアンちゃんはいつの間にか使えたわよね?」
「うん、いつの間にか使えたな」
「そんな馬鹿な。今の回復魔法は、わしがこの先のすべての時間を費やしても得られるかわからないレベルの回復魔法じゃったぞ?」
「先生ってば大げさよ。私だってゴーレムは気が付いたら使えていたし、そういうものでしょう?」
「そうじゃった。おぬしは昔から恐ろしい魔力量で巨大なゴーレムを使えておったな。それに、今の回復魔法も、技術というよりも魔力量によるごり押しか。いや、じゃがそもそもなんでそんな魔力量があるんじゃ? いや、エメラのお嬢ちゃんの息子なら妥当なのか? うう~む」
マッチョおじいちゃん先生は思考の旅に出てしまった。まあ、確かに俺の魔力量は平均よりは多いらしいんだよな。ただ、近くにいる同年代が同じく平均以上のジンクしかいないからな。いまいち多いという実感がわかないが。
「それに、そもそも先生は、回復魔法よりもその拳で殴るほうが得意だったと思うの」
「うう~む、そういわれるとそうじゃが」
魔法というのは不思議なもので、どんなに頑張っても上達しにくい魔法もあれば、さほど努力しなくてもほいほい上達する魔法もあるんだよな。まあ、いわゆる相性ってやつだな。いや、別に不思議なものでもないか。学校の勉強なんかでも、科目によって得意不得意があるのなんて、割と当たり前だったしな。
俺の場合だと、回復魔法や金属加工魔法なんかは、何にも意識せずに使えたけど、戦闘用の魔法はそうでもなかったんだよな。炎と金属の融合魔法なんて、がっつり練習しないとダメだったしな。そして、相性のいい魔法がなにかってことに関しては、俺の場合、神様もどきと話してた時の内容で推理出来るっぽいんだよな。あの時の俺は魂の状態で話していたわけだけど、早い話があの時の俺の思考こそ、俺の魂の叫びだったってわけだ。とすると、俺は、俺自身が直接戦うことよりも、戦車を作りたいっていう気持ちが強かったことになる。つまり、俺は魂レベルで戦闘魔法よりも生産魔法を望んでいたことになるんだと思う。
とはいえ、生産魔法だって全部と相性がいいわけじゃない。例えば肉屋のおっちゃんの使ってた食品加工魔法なんかは、全然使える気がしなかった。金属加工魔法のときは、父ちゃんが使ってるのを見ただけで使えるって思えたし、実際に使えたのにだ。んで、回復魔法は生まれた時から使える気がしたな。実際初めて怪我したときもあっさり発動したし。
だから俺の場合、今のところ生産魔法である金属加工魔法と、回復魔法の二つが、特に意識しなくてもさらっと使える、特に相性のいい魔法みたいなんだ。回復魔法が生産魔法っていうと違和感があるけど、回復魔法ってのはとどのつまりが人体の修復だからな、どうやら生産魔法よりっぽいんだよな。
さて、あとはこの露出狂が起きるのを待って、話を聞くとするかな。
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