第65話 事情聴取だぜ!

「う、ここは」

「起きたかの。ここはゴールドタウンのハンターギルドの医務室じゃよ」

「そうか、俺は助かったのか。そうだ! 仲間は?」

「商人もおぬしの仲間もみな無事じゃ、おぬし以外はせいぜい軽傷程度じゃったからな」

「ところで露出狂さん。聞きたいことがあるんだけれど、いいかしら?」

「ろ、露出狂?」


 あ、母ちゃんマジでその呼び方するんだ。


「先生、露出狂っていったい? それに、この方とこの子供達は・・・・・・」

「まあ、落ち着けい、とりあえず無事なんじゃからの。とりあえず、露出狂というのは、おぬしのまあ、愛称じゃな。ほれ、おぬしは下半身を失っておったじゃろ? 覚えておらんか?」

「いえ、覚えてます」

「それを、そこのお嬢ちゃんの協力のもとに治したんじゃがな。その際にほれ、当然下半身は裸じゃったじゃろ? じゃから、そこのお嬢ちゃん達の中では、おぬしは露出狂で決定したということらしい」


 さきほどまで母ちゃんのことをエメラのお嬢ちゃんと言っていた先生だったが、対外的にはお嬢ちゃんとあえて名前は伏せた。まあ、昨日聞いた母ちゃんの武勇伝からすると、ゴールドタウンとかには母ちゃんのことを一方的に知ってるやつらが多そうだからな。きっと面倒ごと対策だろう。


「いや、ちょっと待ってくれ、それ、俺は悪くないよな!?」

「わいせつ物陳列罪」

「ええ、そんな・・・・・・」


 母ちゃんに速攻で罪状を告げられ、ショックを受けるハンターさん。まあ仕方ない、俺的にも有罪だ。そうそう、治したのが俺ということも伏せられることになった。まあ、俺みたいな7歳児が治したといっても、誰も信じないだろうしな。


「それで、露出狂さん。なにがあったの?」

「いや、え?」


 母ちゃんは露出狂の戸惑いを無視して話を進めようとしているが、露出狂は大慌てだ。気持ちはわかる。ここで認めたら、当分その名で呼ばれるだろうからな。いや、下手したら一生ついてくるあだ名になりかねない。だから、露出狂は目で先生に助けを求める。


「ほれ、さっさと話すのじゃ」

「う、わかりました」


 が、先生は訂正させる気はないようだな。そして、露出狂も折れたようだ。まあ、露出狂からしたら、母ちゃんは命の恩人だからな。あまり強くも出れないのだろう。というかこの状況、もし自分だったらと思うと悲劇だな。死にかけて意識不明、治してもらえたかと思ったら、治した恩人からの露出狂呼ばわり。うん、辛すぎる。


 しっかし、二人ともなかなかハードだな。治ったばかりの怪我人に話をさせようとするなんて。まあでも、外にいた連中に聞くよりはこの人のほうが話せそうなんだな。


「俺達が襲われたのは、荷馬車で街まで1日半くらいの距離だ。距離にすると、300kmくらいの場所だ。敵はオークの群れ、数は10匹の群れが2個だな。率いていたのは、当然ではあるが、ランク3のオーク10人隊長が2匹だ」

「ということは、複数の群れが組んでおったということかのう」


 そういえば、ランク3のオークには旅の初日にも出会ったんだよな。まあ、あの時は母ちゃんのゴーレムに踏み潰されて、一瞬でミンチだったけど、しっかし、オークの群れが2個か~、ある意味美味しそうな獲物だよな。狩りたかったぜ。


「ああ。だが、事態はたぶんもっと悪いとおもう」

「ふむ、もったいぶってないでさっさと詳細を話すのじゃ」

「ああ。まず、俺達は6人でいつものように3台の馬車からなる商隊の護衛をしていた。商人とは結構長い付き合いで、俺達も護衛として何度もこことセントラルシティーの往復の護衛をしていたんだ。それで、いつものようにセントラルシティーからゴールドタウンへと移動してたんだが、街道脇からオークどもが襲ってきた。まあ、知っての通り、この辺は草原なんかが多いからな、奇襲には向かない土地だ。だから、オークどもが隠れていたちょっとした木々が生えている場所とも、そこそこ距離はあった。オークどもが現れた時、俺は倒すか逃げるか迷ったんだが、俺の見立てでは、連中の装備は、普通のオーク10人隊長の率いるランク3の群れと比べると、上等なものに見えたんだ。上等な装備をつけてるってことは、親玉にもっとランクの高いオークがいる可能性があるだろ? 俺はこれはやばい事態だと考え、本格的に交戦するよりも、逃げることを選択した。だが、オークの連中も多少知恵が回るからな。逃げた先で別の群れに待ち伏せにあい、結局戦闘になった」


 これはジンクから聞いた話なんだが、オークってのは、そこそこ草原で、そこそこ樹木が生えてっていう場所に、出やすいんだそうだ。まあ、いくら人型モンスターとはいえ、豚まじりだからな。草なんかを好んで食うらしい。ただ、本物の豚モンスターよりもはるかに肉好きで、よく狩りも行うんだそうだ。


 ちなみに西の草原にもちょっとはいるらしい。ただ、同ランク同士だと、牛モンスターとか豚モンスターに負けるっぽいから、数は少なく、俺達は出会ったことがなかったんだよな。まあ、当然か、あいつらオークよりはるかにデカいし。


「俺達は、商人を一つの馬車に集めて、それを守りながら戦ってたんだが、俺達じゃあ2個の群れの相手は厳しくてな。次第に追い詰められて、俺はこのざまだ。ただ、その時たまたまセントラルシティーに向かう他の商隊が通りかかってな。その商隊の護衛に助けてもらったってわけさ。ほんっと、流通の多い街道で助かったぜ」

「なるほどのう」

「そのあとは、俺達を助けてくれた護衛の人達が、これは異常事態だということで、セントラルシティーへの移動を即座に中止、パーティーメンバーを伝令としてゴールドタウンに送ることにしてくれたんだ。んで、そのパーティーのヒーラーでも止血とかの応急処置しかできず、死にかけてた俺も一緒に運んでくれてな。こうしてここにいるってわけだ」

「なるほど、そういうじゃったのか」

「それじゃあ、露出狂さんを助けたパーティーの人に、話を聞いたほうがよかったのかしら?」

「がっはっは、そうじゃのう。この男よりもそのほうがよかったかもな。わしも昨晩からずっとこやつの治療に専念しておったからの。もしかしたら受付ではもっと詳細が聞けたかもしれんな」

「はあ、せっかくあの長蛇の列の出来ている受付に並ばなくて済む情報収集の機会だと思ったのに」

「残念じゃったのう」

「それじゃ、二人とも、行きましょうか。先生、失礼するわね。私達、今晩までアンバーちゃんの宿屋に泊まってるから、よかったらいらしてくださいね」

「そうじゃのう、わしもこの年で寝ずの回復魔法は疲れたからの。今から寝て、そうじゃの、夕飯時にでも邪魔するかのう。というわけで、わしの分の夕飯を頼むぞ」

「ええ、分かったわ」

「え? え? 待ってください。お礼を」


 パタン。


 露出狂さんが何か言いかけていたが、俺達はさっさと部屋を出る。ちゃんとした報告がすでに上がっている以上、今後の対応とか、より詳しい情報がギルドにはあるだろうからな。もはや露出狂さんに用はないというのが母ちゃんのスタイルのようだ。


「おい、お前ら。リーダーは無事なのか!?」

「あら、露出狂さんの仲間ね。もう平気よ、中に入ってもいいと思うわ。でも、そこは先生に聞いてね」

「あ、ああ、分かった。ところで露出狂って?」

「それも先生が説明してくれるわ」


 外で待ち構えていた露出狂さんの仲間の対応を、先生に丸投げした俺達は、相変わらず長蛇の列の出来ている受付に並ぶことにした。受付に並ぶこと十数分、俺達の番はまだ来なかったが、受付の奥から強面のおっちゃんドワーフが現れた。


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