第66話 トラブルに、突撃だぜ!

 受付の奥から強面のおっちゃんが現れると、周囲がざわざわとざわめきだす。ふ~む、周囲のこの反応、この強面ドワーフは、ゴールドタウンハンターギルドのマスターっぽいな。


「みんな聞いてくれ。この混乱は昨夜もたらされた、ゴールドタウン、セントラルシティー間で、商人がオークの群れに襲われた事件に関することだと思う。それについて今から俺が説明する。まず、襲われた場所はゴールドタウンより北西に約300kmの地点だ。襲撃をしたのはランク3のオーク10人隊長が率いる群れが二つだ。襲ってきたオークの群れそのものは、すでに通りかかったハンターにより退治されている。ただ、そのオークどもの装備が、通常のランク3の群れのものよりも上等なものだったとの報告も受けている。今朝、実際に討伐されたオークが運び込まれ、装備の見分を行ったが、間違いなくオークどものボスは、ランク4のオーク100人隊長以上だ」


 おおっと、ギルマスの話にギルド内がざわめき始めた。でも、ランク4なんてそこまで問題でもない気がするんだけどな。パラージより大きい街なら、街に常駐する軍の規模だってそれなりだろうし、ハンターだって多いだろうからな。


「ランク4以上か、まずいな」


 っと、どうやらジンクも周囲の連中と同じような意見のようだな。でも、俺の感覚ではそこまでやばそうな感じでもないんだよな。


「そうなの? 牛モンスターとかあの辺だってランク4いるじゃん」

「そりゃ、アイアン。モンスターの領域にランク4のモンスターがいるのは当然だろ? でも、今回の話は街道なんだよ」

「ん~、そういわれると大変そうだな」

「アイアンも当然知ってると思うが、各街道には危険度が設定されている。例えば、俺達のパラージライトとゴールドタウンの間はランク4だ。そして、ゴールドタウンとセントラルシティーの間はランク3になる。ま、早い話がそのランクの護衛がいれば比較的安全ですよって各ギルドが出している基準だ」

「へ~、そうなんだ」

「って、知らなかったのかよ。まあいい、話をつづけるぞ。んで、そのランクの設定なんだがな、実際そのランクの敵が出てくるケースは稀って話だそうだ。パラージに行く道の危険度がランク4なのも、年に何回か牛モンスターとかあのへんが出没するからって話だしな」

「つまり、ランク3設定のゴールドタウンとセントラルシティーの間に、めったに出ないランク3の群れが2個出て、さらにランク4までいるかもってのは結構やばい案件ってことか」

「そういうことだな」


 俺とジンクがこそこそ話している間にも、ギルマスの話は続いていく。


「だが安心してほしい。すでに街道の安全確保のための軍の即応部隊と、原因究明のための軍とギルドの合同調査部隊が現地へと向かっている。明日にはさらに詳細な情報が入手できるだろう。それから、オークの巣の攻略のための部隊も、軍にて編制中だ。調査結果が出次第そちらは出立する予定なので、万全を期したい場合は、その後に移動してくれ」


 なかなか手早い対応だな。昨日の夜にハンターが帰ってきて、事情を聴いて、即部隊を出す。それでも300kmも離れていると、いくだけで半日はかかるだろうから、部隊は早ければそろそろ現地に着いたってところか。現地での調査にどのくらいかかるかは俺にはよくわかんないけど、敵に見つからないように慎重に調査するってなると、結構時間かかるよな。


「母ちゃん、どうするの? 結果でるの明日って言ってるけど?」

「そうね。でも、結果がどうであれ、私達は予定通り明日の朝出発するのよ」

「討伐は待たないの?」

「ええ、街道は即応部隊が守っているでしょうから、最低限の街道の安全は確保されているはずなの。そこまで危険度は高くないはずよ」

「でもエメラおばさん、連中のボスが出張ってくる可能性もあるんじゃないか?」

「可能性としては高くないと思うの。この周囲の自然魔力に異常があるという情報はないから、エサ不足ということもないでしょうし、露出狂さん達を襲った部隊は全滅しているから、普通なら警戒して出てこなくなるの」

「なるほど」

「ただ、オーク達は頭が悪い子が多いから、もしかしたら仕返しに出てくる可能性もなくはないのかな?」

「なるほど~」

「でも、気にしなくていいのよ。出てきたら出てきたで、倒しちゃえばいいんだからね! どこにあるのかわからない巣を探すのは手間だからやりたくないけど、街道に来てくれればむしろ安全のためにも倒しちゃいましょうね」

「はいはい。その時は俺もやりたい!」

「あ、俺も!」

「もちろんいいのよ! 街道周辺は草原で見晴らしがいいから、二人とも戦いやすいと思うしね」


 いよっしゃあ! これでお土産が増えるぜ!


 その後は、今日のお出かけを中止にした。俺もジンクも、明日起こりそうな戦いに備えて、改めて2号君や武装ゴーレムの手入れをしたくなったからな。それに、俺の見たかった魔道具は、そもそも母ちゃんの実家が魔道具屋だし、ジンクの見たかった高級家具屋も、セントラルシティーにもあるんだそうだ。まあ、買うとなると産地ということもあって、ゴールドタウンのほうが安いらしいんだけどな。


 午後には二日酔い組も起きてきて、オーク達の件の話し合いをした。だが、みんなの結論は母ちゃんと一緒だった。慎重なラピおばちゃんまであっさり賛同したのが不思議で、父ちゃんになんでそんなに急ぎたいのかってこっそり聞いたら、オークが出て非常事態だからって行くのを遅らせたりしたら、じゃあ帰りましょうってなるかもだろ? そうしたら次がいつになるかわからんからな。って言われちまったぜ。どうやら母ちゃんの気が変わるのを一番恐れているようだ。


 そして、その日は特になにもなく無事に1日が終わった。いや、夕飯の時に先生だけじゃなく、露出狂さんのパーティーまで来たのはちょっと予定外だったけどな。なんでも、お礼一つまともに言えなかったからって、わざわざお礼の品まで持参して来てくれたんだ。露出狂のくせに律儀だよな。おまけに治療費も支払うっていうんだぜ? まじで律儀すぎるだろ! ただ、治療費に関しては、先生もあそこまでの再生治療となると金額がわからんって言ってたからな。今後はわいせつ物の扱いを気を付けること、ってことだけでいいにしてあげた。


 後は、まあ、露出狂さんが露出狂というあだ名を止めてほしかったのか、必死に自分の名前とパーティー名をアピールしていたが、俺の耳にも母ちゃんの耳にも、その名がとどまることはまったくなかったな。やっぱ第一印象で露出狂という強烈なイメージがあると、露出狂さんと露出狂パーティーという愛称は、そう簡単に上書きできないよな!






 露出狂さん達のおかげで楽しく過ごせた翌日。とうとうトラブルに突撃する日がやってきた。俺達は宿屋をチェックアウトし、セントラルシティーへの街道のある門へと向かっていく。


「母さん、ランク4のオークがいたら俺達がやってもいいんだよな?」

「ああ、構わないよ。エメラの防御魔法という保険のある状況で対オーク戦を経験できるなら、それにこしたことはないからね」


 ジンクがラピおばちゃんに最終確認をする。うん、ラピおばちゃんからも改めておっけいが出て一安心だ。そして、門に到着した。門では軍とギルドの職員が今出立することのリスクの高さを周囲の馬車に周知している。どうやら、昨日の騒動をまだ知らなかった人達が結構いたようで、話を聞くと帰っていく馬車が多いようだ。


 そして当然、俺達のところにもそういった話をするための軍の関係者が近づいてきた。軍の関係者はラピおばちゃんの乗る最後尾のキャンピングトレーラーの屋上へと飛び乗ると、なにやら二言三言会話をしている。会話は聞き取れないが、なんか親しそうに話していることから、知り合いっぽいな。そして、俺達はあっさりそのまま門を出ることに成功した。


「あれ? 止められることなくあっさり門を出ちゃったみたいだけど、いいのかな?」


 俺はジンクへと通信を入れる。


「ああ、俺の位置からは会話が聞こえたんだが、母さん達の知り合いっぽかったぞ。退治に行くならともかく、通るだけならまったく問題ないって言ってたよ」

「そうなんだ。てっきりオーク退治に協力してほしいとか言われそうだと思ってたんだよな」

「それは俺も思ったが、どうも話を聞く限り、そんな感じじゃなかったぜ。軍としては、街道の安全確保のためにもオークどもを包囲殲滅したいらしいんだ。だから、勝手にオークの巣を探して暴れたりしないでほしいって念を押されてたな」

「なるほどな。でも、その包囲殲滅戦への協力要請とかはなかったのかな?」

「その話は一切出なかったな。とにかく勝手に巣にちょっかい出さないでくださいの一点張りだった」

「まあ、でも、街道に出てきてたら、しょうがねえよな?」

「そりゃあそうだろ。母さんも出てきてたらやるって言ってたしな」

「くっくっく、楽しみだぜ!」

「ああ、腕がなるな!」


 俺達は移動を開始した。時速は約50km、母ちゃんの10mのロックゴーレムを先頭に2号君、ジンクの武装ゴーレムオン1号君の順番だ。途中、数は少ないながらも他の馬車を抜いていく。こんな中でも平然と行動する俺達みたいな連中は、0ではないようだな。強そうな護衛連れの商隊を追い抜き。昨日の即応部隊への物資なのかな? 軍の護衛の付いた荷馬車も抜いていく。


 そして、走り続けること丸二日、俺達の目の前には、パラージよりも、ゴールドタウンよりもはるかに巨大な、まさしく都市と言ってもいいようなバカでかい街がその姿を現した。


「ここがオークの巣が、デケえな。いや、デカすぎるだろ」

「おい、アイアン、寝ぼけてんな。ここがオークの巣なわけねえだろ。どうみても母さん達故郷、セントラルシティーだろ」

「なあジンク」

「あん?」

「オークは?」

「母さんもエメラおばさんも言ってたろ? 部下があっさり全滅してるから、普通なら出てこないって」

「ううう」


 そう、どうやらオークどもは臆病風に吹かれたようで、実に平和な二日の旅だったんだぜ。


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