第45話 ハンターギルド試験3だぜ!

「ホランさん、準備できました」

「お、じゃあ早速やるか!」

「母ちゃんから聞いたんだけど、2人同時でいいの?」

「おっと、言ってなかったな。2人同時でいいぜ。連携攻撃とかあったらどんどん使って来い。何なら先制攻撃を背後からしてもいいってハンデをつけてやってもいいぜ!」

「おお、ホランのおっちゃん太っ腹だな! じゃあそれでお願いするぜ!」

「おう、わかったぜ!」

「いえ、ホランさん。背後から先制攻撃というのはちょっと」

「何言ってんだよジンク。せっかくのハンデだぞ? もらわないと損だろ?」

「アイアン、背後から先制攻撃だぞ? なんとも思わないのか?」

「はっはっは、ジンクの坊主、気にすることは無いぞ。俺達はハンターだ。モンスターと正面からあえて戦う必要なんてないんだよ。むしろ奇襲から、相手にペースを渡さずに一気に仕留めるって戦い方だって、ハンターにとっては重要な戦い方だぞ?」

「それはそうなのですが」

「まあ、割り切れないのはわかるさ。特に剣を使ってるとな。だが、ジンクの坊主だって正面から切りかかって俺に勝てるとは思っちゃいないだろ? なら、勝率を少しでも上げる努力も必要だぜ? 甘い考えはここで捨てていけ」

「そうそう、おっちゃんの言うとおりだぜ!」

「わかりました。お願いします!」

「しっかしなんだ、アイアン坊主はこういうのには理解があるんだな」

「ふっふっふ、まあな! 俺は策略の男だからな!」

「ふっ、そうかい。じゃあ、いつでもかかってきな!」

「おうよ!」

「はい!」


 そう言うとホランのおっちゃんは、剣を鞘に入れて背中に背負い、後ろを向いた。纏っている身体強化魔法も強度は高くない。日常生活をしている時よりは強度は高いんだろうが、戦闘時のそれではないな。モンスターのいる場所を、警戒しながら歩いている時に使うレベルってところかな。


「よっし、ジンク。俺が1発でかいのぶちかますぜ!」

「ああ、わかった。俺は隙をうめりゃあいいってことな」

「おう、頼んだぜ!」


 さて、そんじゃまあ、開幕の一撃で終わりにさせてもらおうかな。俺は76mm無反動砲を構えて、魔力をがんがん注ぎこむ。見せてやるぜ。ぴかぴか弾の破壊力! と思ったら、ホランのおっちゃんが突然剣を抜いて振り向いた。


「おいおいお前ら!」

「ちょ、おっちゃん嘘かよ! 背後から先制攻撃してもいいんじゃないのかよ」

「嘘って、おいおい、俺はなんていったよ」

「ん? 背後から攻撃してもいいって言ったろ?」

「ちげえよ。奇襲してもいいって言ったんだ。アイアン坊主よ、そんな大量の魔力使って、奇襲なんて出来ると思ってんのか?」

「むう、そう言われれば、そうなの?」

「んったく、せっかくちょっとアイアン坊主のことを見直したと思ったのによう。ちゃんと奇襲してくれよな」

「いえ、ホランさん。この場合はアイアンのほうが正解ですよ」

「は? なんでだよ? あんな魔力使ってたら、感づかれるだろうがよ。ジンクの坊主は賢いんだから、そのくらいわかるだろ?」

「いえ、違います。ホランさんの言い分は、魔力感知が鋭いこと前提ですよね? ですが、今回の試験はランク3です。ランク3のモンスターですと、魔力感知が鋭いモンスターは少ないですよね? ましてやアイアンの魔法大砲は構造上、魔力を内部に閉じ込めるタイプなので、外部へ流出する魔力は大したこと無いはずですし」

「ぐう、そうか、お前らランク3の試験だったな。むむむ、だとするとジンクの坊主の言うことも一理あるな。ましてやこの街周辺のモンスター分布でいえば、魔力感知の鋭いランク3モンスターは、くそ、いないか。でもよう。あの火力を背後から先制攻撃で撃つのか?」

「普段の狩りでも似たようなものですよ?」

「むうう、では、仕方ないな」


 そう言ってホランのおっちゃんは再び剣を鞘に戻し、背中に背負って後ろを向いた。だが、先ほどよりも纏っている魔力が強い。身体強化魔法もほとんど戦闘状態のそれだろうし、剣にも金属強化魔法ががっつりかかってる。くそう、なかなか卑怯だぜ。これが大人のやり方だというのか!?


「さて、仕切りなおしだ。やるかアイアン」

「おう。でもよ、ジンク。ホランのおっちゃんの魔力がさっきと違って戦闘モードのそれなんだけど」

「ああ、そうみたいだな。大人気ないよな。奇襲が~って言っていたのに、あれじゃあ奇襲を待っている、罠を張ってる人のそれだよな」

「あ~、くそおまえら、聞こえてるんだよ。わかったよ。くそったれ」


 ふふふ、こいつは作戦がちだな。ホランのおっちゃんを纏う魔力が、最初の頃なみに小さくなった。


「んじゃあジンク、作戦通りに俺が仕掛けるからな!」

「ああ、わかってる。作戦通りにな」


 俺の準備が出来ると同時に、ジンクのほうも身体強化魔法、金属強化魔法をかけて準備が完了した。そして、俺がホランのおっちゃんの左斜め後方に、ジンクが右斜め後方に陣取る。


「よっしゃ、あと少しだ。ジンク、フォロー頼むぜ!」

「はあ、あんまり気乗りしないが、わかったよ」


 そして、会話が終わるよりも前に、一気にジンクが先制攻撃を開始する。ジンクは作戦通りホランのおっちゃんを浮かせるように下からシールドバッシュを狙いにいく。作戦通りホランのおっちゃんの意識は俺の魔法無反動砲に向いていたようだ。突然のジンクの攻撃に対応できていない!


「な! ジンクの坊主の先制攻撃だと!?」

「うおおお!」


 ジンクが奇襲を嫌がる甘い考えの男? 生身の年下相手に、武装ゴーレムで勝負を挑んでくるようなやつが、甘い男なわけねえだろ。ジンクの一連の発言は、全てこの奇襲を成功させるためのブラフだ! この陰湿な作戦、やっぱジンクは敵に回したくねえな。


 よしよし、予定通りホランのおっちゃんの体がのけぞった。ホランのおっちゃんが俺の砲撃を出来れば回避、無理なら十分な姿勢で受けたいと思っているのはバレバレだからな。そして、完全な奇襲ならともかく、この状況下じゃあ、ただ背後から撃つだけなら防げただろう。でも、ジンクの攻撃でこんな足が地面から離れそうな体勢からでは、流石に回避できまい。当然防御の姿勢だって満足に取れないだろうよ。ふっふっふ、俺の魔法無反動砲の威力、とくと味わえ!


「ランク3、ゲットだぜ!」


 ど~ん!


 ホランのおっちゃんの腰を狙った魔法無反動砲の砲弾は、すさまじいマズルフラッシュと轟音を鳴り響かせて、狙い通りにホランのおっちゃんの右腰に向かって突き刺さる! そして、ホランのおっちゃんを壁まで吹き飛ばした! 


「よし、アイアン。作戦成功だ、このまま畳み掛けるぞ!」

「了解だ!」


 ジンクはホランのおっちゃんの吹き飛んだ壁目掛けて全力で走り出す。起き上がられる前に追い討ちをかけるためだ。


「がああ、くそ、腰が」


 ちい、やっぱ仕留めきれてなかったか。だが、流石に怪我くらいはしただろ。このまま追い討ちだ! 本当は第2射と言いたい所だが、この魔法無反動砲俺は軽量化のために耐久を犠牲にしているから、ぴかぴか弾を1発撃つと無反動砲そのものが壊れるんだよな。まあ、俺の魔力的にぴかぴか弾は2発撃てないからいいんだけどさ。


 というわけで、無反動砲以外の手段で追い討ちだ! 俺はその場でもっていた手榴弾に魔力を込めて、ホランのおっちゃん目掛けて投げ込む。もちろん出し惜しみはしないので2個とも放り投げる。


「ジンク、第2波いったぜ! あと強化魔法も受け取れ!」

「わかった!」


 ジンクは盾を構えてそのまま突き進む。ジンクの装備は盾を構えると、正面から見える範囲は全て金属でガードされる。こうなると俺の手榴弾じゃあびくともしないからな、俺の手榴弾攻撃でジンクがダメージを受けることは無い。そして更に、俺は杖を振ってジンクの剣と盾に炎の強化魔法をかける。


 ど~ん! ど~ん!


 手榴弾がホランのおっちゃんの側で爆発し追い討ちをかける。そしてそこにジンクが襲い掛かる。


「うおお~!」

「くそったれがあ!」


 ホランのおっちゃんはジンクを吹き飛ばそうとその手の剣を振り回すが、腰に入ったぴかぴか弾の影響なのか、ぜんぜん腰が入ってない。そんなよぼよぼ剣術じゃあ、ジンクを吹き飛ばすことなんて出来ないぜ!


 ジンクはホランのおっちゃんの剣を左手の盾で受けると、右手の剣でホランのおっちゃんの腰に突きを繰り出す。うおお、ぴかぴか弾で怪我してる腰を執拗に狙おうってのか! 流石だぜジンク、俺より容赦ねえな! ホランのおっちゃんも、怪我をした右腰を狙われるのは嫌なようで、左腰を前に向ける構えを取っているが、お構い無しにジンクは剣を突き立てる。


「ぐがあ」


 ホランのおっちゃんも痛そうだぜ。ガチな悲鳴に聞こえるな。もしかしたら刺さったのか? いや、ジンクの剣はミスリル10%程度の剣だ。大人の、それも戦闘職のドワーフに刺さるわけないか。とすると、演技かな? だが、ジンクはそんなのにだまされるような甘ちゃんじゃねえぜ?


「まだまだ~!」


 ジンクはそのままホランのおっちゃんを壁まで押し込んだ。


「ぐあああああ!」


 あれ? あの姿勢で押し込めるってことは、もしかして、まじで刺さってる? だとすると、これは演技じゃなくて本当に本当のマジもんの悲鳴っぽい? ん? だとしたら、やばくねえか!?


「はいはい、2人とも、終了よ。試験官さんもいいわよね?」

「ああ、ぞれでいい。それど、救護班を、だの・・・・・・」


 げえ、これ、完全にダメなやつじゃん。ジンクの剣が思いっきり左腰から右腰にかけて貫通してるし! そもそもぴかぴか弾のせいなのか、右腰周辺がぐちゃぐちゃじゃん。


「アイアンちゃん、試験官さんを回復させてあげて」

「ああ、急いで回復するぜ!」


 俺は慌ててホランのおっちゃんに回復魔法をかける。すると、ホランのおっちゃんのキズは見る見る塞がっていき、あっという間に元通りになった。


「流石アイアンちゃん、本当に回復魔法上手よね」

「ああ、流石だな」

「へへ、ありがと」


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