第46話 ハンターギルド試験4だぜ!

「ふあ、ここは、医務室か。ん~、そうだ、思い出した。あのくそガキどもが、完全に油断しちまったぜ」

「あら、おはようございます」

「うおっ! って、医務室のねーちゃんか、すまんな、助かったぜ」

「いえいえ、お礼ならアイアン君に言ってあげてください。彼がそのキズを治してくれたみたいですからね。私もチェックしましたが、すごい腕のいい回復魔術師ですよ。非の打ち所の無い完璧な治療ですね」

「ほう、そうなのか。っつってもあれだ。このキズの原因の半分はあいつなんだけどな」

「半分ですか? では、残りの半分は?」

「そいつの相方でジンクって言う糞ガキだ。戦いの前の会話では奇襲なんて剣の道に反するっていうような態度だったくせに、いざ始まったら嬉々として奇襲してきやがったガキがいたんだよ。そのガキの奇襲さえなきゃあ、避けれたし、受けきれたってのに、くそったれ」

「あらあら。でも、それは違いますよ」

「ん? どうちがうってんだよ?」

「相手の力量を見極められず、鎧を装備しなかったホランさんが100%悪いだけですよ。おまけに子供にあっさりと翻弄されて、まともな身体強化魔法も使わせてもらえずに致命傷を受けるなんて、はあ、情けない限りです」

「ぐぐ・・・・・・、面目ない」


 俺達の目の前でホランのおっちゃんが、保健室の女先生みたいなドワーフからぼっこぼこに口撃されてるが、まあ、こういう時に横から口を挟むほど、俺もジンクもいけずじゃない。黙って聞いてるかな。


「って、お前らいたのかよ!」


 おっと、どうやらやっと俺たちがいることに気づいたようだ。


「いたのかよって、ホランのおっちゃんが救護班を頼むって最後に言ったから、運んできたんだぞ」

「ぐう、そういえばそんなこと言った気がするな」

「ホランさん、とりあえずこの後の予定を教えて下さい。合格ですか? いつカードを発行してもらえるんですか?」

「てめえジンク坊主! よくもだましやがったな!」

「人聞きの悪いことは言わないでください。むしろ奇襲から、相手にペースを渡さずに一気に仕留めるって戦い方だって、ハンターにとっては重要な戦い方だぞ? というホランさんの教えを実践しただけですよ」

「ぐうう・・・・・・」

「ふふふ、ホランさんの負けですね」

「はあ、わかったわかった、俺の負けだよ。それにしても、アイアン坊主の攻撃はなんだったんだ? 確かに俺の防御が不十分だったのは認めるが、いくら魔法無反動砲とはいえ、普通の攻撃でなんであそこまでダメージ受けたのか、いまだにちょっと理解できないんだが」

「そうね、私も気になるわね。記録映像を簡単にしか見て無いけど、かなりの重症だったでしょう? ただの魔法無反動砲の一撃でこんなにも重症を負うものなのかしら? ホランさんは頭はこんなだけど、実力は本物なのよ?」

「おいおい、ひでえ言い方だな」

「ああ、それはこれのせいだと思うよ」


 そう言って俺は発射したぴかぴか弾の弾頭部分を二人に渡す。


「それは、ミスリルかよ!」

「なるほど、ミスリルベースの合金ですか。これは流石のホランさんでも、油断したら大怪我確定ですね」

「くっそそういうことかよ。ってか、お前らの剣や盾はせいぜい10%~30%くらいのミスリルが混じった鉄ベースの武器だろ? なんで剣や盾じゃなくて、消耗品の砲弾がミスリルなんだよ! 普通砲弾なんてせいぜいタングステン合金あたりの通常の金属使うだろうが!」

「だって、回収前提だし?」

「あ~くそ! そういうことは最初に言えよな。そしたら鎧を着込むことはしなくても、油断なく完全戦闘モードで最初っから戦ったのに」

「ホランさん、それは言いがかりというものですよ。そもそも、先日15mのランク4の軍鶏モンスターを仕留めたという情報があったのです。だとしたら、その程度の攻撃手段を持っていると思うのは当然ではないですか? むしろ、戦闘相手の情報を一方的にこちらが持っていた分、そこはこちらが有利な部分ですよ」

「むぐぐぐ・・・・・・、よし、決めた。お前ら、明日もう1度こい! ランク3のカードはくれてやるから、本命の武装ゴーレムに乗ってやってこいや。そこでもう1度見極めてやるぜ!」

「ごめんホランのおっちゃん。その軍鶏モンスターとの戦いで、俺の2号君もジンクの武装ゴーレムも結構ダメージ受けちゃってて、これから改修予定なんだ」

「ホランさん、無理を言うものではありませんよ。それよりもほら、元気なら仕事の続きをしてきて下さい。油断して服もズボンも下着もズタボロにした上に、仕事までサボったとなったら、奥さんに怒鳴られなすよ」

「むぐぐぐぐぐ。ちい、わかったぜ。おまえらついて来い。次の手続きがあるからな」

「「はい」」


 俺達はホランのおっちゃんに案内されるままに、応接室へと移動する。


「さて、それじゃあこの部屋でハンターに関するもろもろの説明をするぞ。ただ、ちょっと待っててくれ、さっきの戦いの結果の報告をして、カードの発行の手続きをしてもらってくるからな」


 そうしてホランのおっちゃんは一旦部屋を出て行ったが、すぐに箱を抱えて戻ってきた。


「おし、カードの発行を頼んできたから、その間に説明するぞ。まあ、もしかしたらすでに知ってることだらけかもしれないが、大人しく聞くんだぞ」

「「はい」」


 しかし、こういう説明って、ホランのおっちゃんがするんだな。てっきりこの手の事務仕事は受付のおっちゃんがやるのかと思ったぜ。


「ん? なにか不思議か? ああ、もしかして試験官である俺が説明するのが不思議だってか?」


 おや、どうやら俺もジンクも顔に出ていたようだ。


「うん、なんとなくホランのおっちゃんって、戦うだけで、こういうのは受付のおっちゃんの仕事かと思ったからさ」

「そう思うよな~? 俺もそうしてほしいんだけどよ。この時間帯は商人連中が大量に来るせいでそこそこ混むんだよ。だから受付連中が手があかないって、俺まで事務仕事に回されるんだ。ま、商人連中の相手させられるよりはハンターの相手してたほうが気楽だからな。余計な仕事が回ってくる前に、楽な仕事をしとこうってわけさ」


 なるほど、確かにさっきのロビーでは、俺達の窓口以外はどこも人が多かったからな。


「じゃ、まずはハンターカードから説明するぜ。このカードがあるといろいろといいことがある。といいたいところなんだが、別にたいしていいことは無い。ま、お前らにとっては、街の外へ親の同伴無しで行けるってだけのパスみたいなもんだな」

「持っててもそんなに何も価値がないんですか?」

「一応ランクによって受けれる依頼が増えるし、ギルド内の宿で高級な部屋を借りやすくなったりするんだが、お前らには関係ないだろ?」

「そう言われるとそうですね。獲物は好きなものを狙いますし、宿は家がありますから」

「だろ? んで、次にランクについての説明だ。ランクは1~8まであるんだが、1が初心者で、一番上が8だ。まあ、これもランクが高ければ高いほど、他人に自慢できるくらいの効果しかないさ。あと、カードが派手になるってくらいだな」

「そんなものなのですか?」

「お前らランク3だからな。それ以上に価値はあんまねえよ。ランク1は初心者、ランク2は半人前って感じで、ちょっと舐められやすかったりするんだが、ランク3は1人前ハンターだからな、お前らの年齢考慮すれば十分すぎるさ。実際、学校が始まると戦闘科目を履修する連中はハンター試験を受けに来るが、大抵ランク1だしな」

「なるほど。ですが、ランク1や2でも、大したデメリットではないんですね」

「まあそうなんだが、ランク1とか2なんて、その辺にごろごろいるからな。この街だと、パン屋、八百屋、肉屋、服屋などなど、俺が知ってる範囲の商人どもも、ほとんどハンターランク3以上だぜ? だから、ランク1だの2だのじゃあ、そこらの商売人のほうが強いぜ?」

「なるほど、そういうことなんですね」

「ただまあ、ランク4以上となると、肉屋の親父とか、数はだいぶ減ってくるから、その辺から自慢できるようになるぜ。それで、そんなハンターランクの上げ方なんだが、2種類ある。1つ目は試験を受けること、2つ目は試験を受けることだ」

「あの、一緒なのでは」

「はっはっは、まあ似たようなもんだがちょっと違う。1つ目は今回みたいに試験官相手に戦って強さを示せってやつだ。もう1つは、試験官同伴でモンスターを狩りに行けってやつだな。だから、お前らがランク4になりたいなら、ここでランク4向けのバトルをしてもいいし、俺達試験官を連れて西の草原にでもいって、ランク4のモンスターを仕留めてくれてもいいってこったな」

「なるほど、わかりました」

「んで、あと説明してないことっていったら~っと、なんか外が騒がしいな」


 すると、応接室のドアが突然開き、怒れる1人の女ドワーフが表れた。


「あんた! このふざけた報告書はなんだい?」

「トリ? なんだって、この2人のハンター試験の結果だぜ?」

「やり直しだよ、この馬鹿亭主!」

「はあ? なんでだよ?」

「なんでって、これじゃあ、あんたが油断して一方的にぼこぼこにされたってだけじゃないの。この戦いのどこが試験なんだい!」

「ぐう、それはそうなんだけど。って悪くないな。俺もこいつらとはもう1度ちゃんと戦いたかったしな。よ~し、お前ら、この後再戦だ! いや待て、見たところアイアンの魔力はだいぶ減ってるな。よし、明日再戦だ!」

「んったく、この馬鹿亭主は、本当に調子がいいんだから。っと悪いね。ジンク君にアイアン君、それとエメラも」

「「いえいえ、お気になさらず」」


 ここは絶対にゴネてはいけない場面だな。うん、ジンクも流石だな。この年にして世渡りというものを心得てやがる。


「ふふ、気にしてないわ。トリちゃんも大変ね」

「はあ、まああんたらが暴れてた頃よりはだいぶましよ」

「そうそう、2人には紹介しておくわね。この人はトリフェーン、この街のハンターギルドの親分、ギルドマスターよ。そして、ホラン君とトリちゃんは夫婦なの」

「「よろしくお願いします」」


 はえ~、それにしてもうすうす気づいていたけど、ドワーフの世界って、基本カカア天下なのかな? 家にしろジンクのとこにしろ、母ちゃん達のが基本強いんだよな。っと、明日再戦か。今度はハンデもくれないだろうし、当然油断もしてくれないだろうから、後でジンクと作戦会議を開かないとだな!


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