第75話 ヒポドラゴンゴーレム3だぜ!

 ヒポドラゴンゴーレムの背中に複数人乗り用のアタッチメントとやらをつけて、パパラチアさんは戻ってきた。


「さ、二人とも乗ってくれ。これは他の隊員に動きを教えるとき用のアタッチメントだから、私の動きから魔力の流れまで、全部手に取るようにわかるはずだ」

「「はい」」


 俺とジンクが乗り込んだことを確認すると、パパラチアさんは動き出した。まずはゆっくりと歩いているだけだ。


「う~ん、今は特に不思議な魔力の流れはないよな」

「ああ、普通の動きだな」

「そうだな。このくらいゆっくり動かす時はろくに魔力を込めてないからな。まあ、この程度では参考にならんだろう。もっと速く動くぞ」

「「はい!」」


 こっちとしては、普通の人が動かせないヒポドラゴンの筋肉が動くところを見てみたかったんだけど、どうやらパパラチアさんがヒポドラゴンの筋肉を動かせるのは、ハードな動きをするとき限定のようだ。だから、俺もジンクもどんどん速く動いてほしいとリクエストする。そして、ヒポドラゴンゴーレムの動きはめちゃんこ速くなっていった。


 でもこれ、結構きついな。何がきついって、Gのかかり方が凄く気まぐれなせいで、うっぷ、ちょっと酔ってきた。俺は自身に回復魔法をかける。ふう、助かったぜ。


「おい、ジンク、無事か?」

「ああ、何とかな。でも、結構気持ち悪い」

「おいおい、回復魔法かけてやるから、絶対に吐くなよ!」

「ああ、助かったぜ」

「2人ともどうだ? 耐えられそうか?」

「うん、ちょっと酔いそうだけど、回復魔法があるから大丈夫」

「ああ、俺もだ」

「流石だな。じゃあ、今から本気で動くから、身体強化魔法を思いっきりかけておけ。定期的に話しかけるが、ちゃんとした返事はいらない。ただ、舌を噛まない範囲で何でもいいから声を上げてくれ」

「「はい!」」

「では、いくぞ!」


 普通武装ゴーレムに乗るのに身体強化魔法はいらないだろって思ったけど、こいつはやばい。素直に身体強化魔法使っといてマジでよかったぜ。これ、耐Gスーツ代わりに身体強化魔法を全開にしてなかったら、たぶんブラックアウトで意識吹っ飛んでた。なるほど、それで返事しろってことか。


「2人とも、大丈夫か?」

「むがあ~!」

「んん~!」

「ほう、凄いな。では、どんどん速くしていくぞ!」


 うそん。まだ全開じゃなかったのかよ。これは、マジできついぞ。そして、ヒポドラゴンゴーレムは体を低くして的に向かって思いっきり突進し始めた。これ、この体勢のまま的にぶつかったら、来るのは間違いなくマイナスGだ・・・・・・。やべえ、今までは下方向に押さえつけられるようなGだったから良かったけど、マイナスGはやばい!


「ジ、ン、ク! 頭を、守、れ!」


 俺はヒポドラゴンゴーレムの突進のリズムに合わせて、なんとかジンクに注意を促すと、俺とジンクの頭に回復魔法と防御魔法をかける。これで対策は大丈夫だろう。きっと大丈夫だ。うん、大丈夫なはずだ! 


 どっず~ん!


 ヒポドラゴンゴーレムが的にぶつかると同時に、俺とジンクに凄まじいマイナスGが襲い掛かる。意識は、飛んでない。視界は、赤くなってない。あっぶね。何とか耐えられた。でも、うぷっ、めっちゃ気持ちわっる。


 俺は即座に自分とジンクに回復魔法をかける。


「2人とも、どうだい? 無事かい?」

「ちょっと気持ち悪くなったけど、なんとか」

「同じく」

「ふふふ、本当にすごいな、君たちは。今のは正規隊員の中でも意識を飛ばす者がでるほどの動きだったんだがな。だが、これで遠慮なく動けるというものだな!」

「「え?」」


 俺とジンクはつい間抜けな声を上げてしまった。いままで遠慮してたの? まじで?


「では、ヒポドラゴンゴーレム部隊エース、パパラチアのゴーレム捌き、とくとみるがいい!」


 そこから先の記憶は、あまりない。辛うじてパパラチアさんの魔力の流れこそ追えたものの、それ以外のことはさっぱりだ。もはや回復魔法、防御魔法、身体強化魔法の3つをフル活動して失神しないようにするのが精いっぱいだったって言うレベルだ。だから、どんな動きをしていたのかなんて、さっぱりわかんない。


 あとから婆ちゃんに聞いたら、空中で何回も回転したり、的へタックルしたり、壁を使って三角飛びしたりと、かなりアクロバティックな動きをしていたみたいだけど。


「ふう~、今日も絶好調だな。おっと、二人ともどうだ? 参考になったか?」

「「はい・・・・・・」」

「はっはっは、ならよかったぞ!」


 うん、パパラチアさんに悪気は何もないようだ。まあ、実際悪いことなんてまったくしてないしな。俺とジンクはヒポドラゴンゴーレムから降ろしてもらう。パパラチアさんも満足したのか、一緒に降りてきた。


「お疲れ様です。どうでしたか? パパラチアさんの操縦は」

「すごかった」

「ああ、凄まじかった」


 回復魔法をかけたってのに、俺とジンクはまだふらふらだ。うう、なんていったらいいんだろ。くるくるくるくる回転した後見たいなへんな余韻が残ってるぜ。


「2人とも元気ね。私だったらあんな操縦されたら耐えられなかったわ」

「私もあの動きはかなりきついですね。それで、ヒポドラゴンゴーレムが動く理由はわかりましたか?」

「ばっちりだぜ!」


 当然だ。このためにがんばって耐えてたんだからな。


「え、まじでか?」

「本当ですか?」

「本当かい?」

「もちろんだぜ! ヒポドラゴンの筋肉のサンプルとかってあるかな?」

「ああ、あるよ。持ってこよう」


 素早くパパラチアさんが、自身のヒポドラゴンゴーレムの補修用部品を持ってきてくれた。そして、俺はそれを受け取ると、みんなの前で動かしてみせる。


「まあ、見ててくれ」


 俺がヒポドラゴンの筋肉に身体強化魔法を使うと、ヒポドラゴンの筋肉が動き出す。


「動きましたね」

「ああ、あっさり動いたな。私でも動かせるが、もっと全力じゃないと動かせない」

「俺も試してみていいですか?」

「ああ、ジンク君も思う存分試してみたまえ」


 ジンクが身体強化魔法をヒポドラゴンの筋肉にかけるが、うんともすんとも言わない。パパラチアさんも、全力でなら動くけど、軽い力で動かそうとしても動かないようだ。


「なるほど、そういうことね!」


 だが、俺が種明かしもしないうちに、婆ちゃんだけはわかったようだ。婆ちゃんは俺と同じようにヒポドラゴンの筋肉に魔力を流すと、あっさり動かしてしまった。


「翡翠殿はわかったのですか?」

「ええ、私は魔道具屋だからね。この手のことには少し詳しいのよ」

「流石婆ちゃんだぜ。あっさり気付くとはな」

「おい、アイアン、そろそろ教えろよ。どういうことだ?」

「これ、魔力を寄せにいってるんだよ」

「魔力を寄せる?」

「うん。ヒポドラゴンの筋肉なんだから、ドワーフの魔力では動かなくても、ヒポドラゴンの魔力でなら動くんだよ。だから、ヒポドラゴンの魔力に似せた魔力を流せば動くってことみたい」


 母ちゃんがハンターギルドでやった、他人の魔力をまねることの応用って感じだな。


「では、私が全力で動いていた時は、ヒポドラゴンの魔力に似た魔力を流してたってことになるのかな?」

「うん、そうだと思う」

「なるほど、それは面白いな」


 理屈がわかれば簡単なのか、パパラチアさんはあっさりと弱い力での動作にも成功していた。まあ、パパラチアさんはもともと全力時には無意識で出来ていたわけだしな。でも、ちょっと悔しいことに、ジンクも成功させやがった。むむむ、俺的には大発見だったんだけど、どうもそこまで難しい技でもなかったのかもしれない。


 その後はパパラチアさんから、武装ゴーレムの戦い方なんかをいろいろと教えてもらった。特にジンクにとっては非常にためになったみたいだ。そういや、ジンクには純粋な武装ゴーレム乗りの師匠みたいな人はいなかったな。俺としても面白い魔法の使い方を見つけられたし、うん、今日はいい1日だったぜ。


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