第74話 ヒポドラゴンゴーレム2だぜ!
俺はその後もヒポドラゴンゴーレムを観察していくと、1体の不思議なヒポドラゴンゴーレムに出会った。いや、見た目は他のとほとんど一緒なんだ。別に大きいわけでもないし。でも、内部構造が明らかに違った。例えば関節だ。他のも確かに背骨なんかはそのまんま使ってるんだけど、あくまで頑丈だから使っているだけで、パワーを出す場所は金属製なんだよ。だから、金属強化魔法が強いほどより強いパワーを出せるし、耐えれるようになっている。でも、このヒポドラゴンゴーレムは、そういう場所にヒポドラゴンの筋肉とか神経といったような、有機的な素材も混じって出来てるんだ。
「おや? どうしましたか?」
「なんでこのヒポドラゴンゴーレムだけ、中身が違うの?」
「そんなこともわかるのですか?」
「うん。金属と有機物だと、魔力の通り方が全然違うから」
「正解ですよ。確かにこのヒポドラゴンゴーレムは他のヒポドラゴンゴーレムとは違います。通常の武装ゴーレムというのは、乗り手の金属強化魔法などの影響を強く受けますが、身体強化魔法の影響はあまり受けませんよね?」
「うん。身体強化魔法は動かしたい部分を指示するセンサーみたいなものって聞いた」
「その通りです。通常の武装ゴーレムの場合、身体強化魔法はあくまでもセンサー代わりです。身体強化魔法の発動の早さや正確性は重要ですが、強度には全く関係ありません。ですが、このヒポドラゴンゴーレムは、乗り手の金属強化魔法だけでなく、身体強化魔法すら武装ゴーレムの強化に使おうと考えて作られた、試作品なのですよ」
「じゃあもしかしてこのヒポドラゴンゴーレムにだけヒポドラゴンの筋肉や神経が使われてるのも」
「はい、その通りです。金属強化魔法であれば金属の導線のほうが運搬効率が高いですが、身体強化魔法ならヒポドラゴンの神経のほうが運搬効率が高かったのです。それに、ヒポドラゴンの筋肉を強化すれば、生身の肉体を強化するよりもはるかに強い力が出ると思いませんか?」
「思う! おいジンク、こいつはすげえぞ!」
「ああ、大丈夫だ。しっかり聞いてた。確かにこれはすごいな! 俺達ドワーフで身体強化魔法が苦手ってやつは少ないから、これはすごいパワーアップになるぞ!」
「ふふふ、夢があるでしょう? ですが、一つだけ欠点があるのです」
「「欠点?」」
「ええ、身体強化魔法で強化するのはもちろんヒポドラゴンの筋肉なのですが、普通に身体強化魔法を使うのでは、魔力の相性の関係で使えないのですよ」
「なるほど、俺達とモンスターじゃあ確かに魔力の質が違うよな。なら、どうやってうごかしてるの?」
「今は完全に乗り手の技量任せですね。うちのエースが、本来私達の魔力では動かないはずのヒポドラゴンの筋肉を、無理やり動かすことに成功したのです」
「「おお~!」」
すげえというか無茶苦茶だな。でも、このヒポドラゴンゴーレムがどうやって動くのか、ぜひとも見てみたいな。
その後もこの変わったヒポドラゴンゴーレムをべたべた触っていると、一人の女ドワーフが現れた。
「おい、お前たち、ここで何をしている?」
軍服を着て、これぞ軍人というようなしゃべり方だが、現れたドワーフはこれぞロリドワーフといった見た目のドワーフだ。しかも、目や髪の毛はキラキラしたピンクとか、見た目と言動が凄まじいまでに一致しない。
「おや、噂をすればうちのエースがご登場ですよ」
「カルパタイト隊長か。子供をこんなところに入れて何をしているんだ?」
「紹介しますね。こちらパパラチア=ゴーレムマスター。我らがヒポドラゴン部隊のエースパイロットです。そしてパパラチアさん、こちらが翡翠様、アイアンオア君、ジンク君です。翡翠様はエメラルド様のお母上で、アイアンオア君は息子、ジンク君はラピスラズリ様の息子です」
「あのエメラルド殿とラピスラズリ殿の・・・・・・」
「翡翠です。今日はお邪魔してしまってごめんなさいね」
「ジンク=カーターです。お邪魔しています」
「アイアンオア=スミスだ。よろしく!」
「パパラチアさん。あのお二人に思うところはあるかと思いますが、今はご挨拶を」
「あ、ああ。私はパパラチア=ゴーレムマスターだ。ゴーレムマスターの称号は本来は私が頂くべき称号ではないと思っているのだが、いやいやながら拝命している」
ドワーフの国の名前は、名前プラスその時々の職業になっているのだが、ゴーレムマスターとはすごいな。普通のゴーレム乗りなら名前=ゴーレムにするはずなのに、そこにマスターを付けさせられているとはな。
「申し訳ありません。パパラチアさんは以前の像をめぐる攻防で、エメラルド様とラピスラズリ様に乗機を破壊されまして、ちょっと思うところがあるようなのです」
え、まじで? そういや、この変わったヒポドラゴンゴーレムも、骨なんかは継ぎはぎだったな。
俺はちょっとだけドキッとしたが、パパラチアさんは特に何も思うところはないのか、俺の頭を左手で、ジンクの頭を右手で、それぞれわしゃわしゃとしだした。
「ちょ、ちょっと?」
「あの、パパラチアさん?」
「ん? ああ、すまんすまん。つい癖でな」
俺とジンクが戸惑いの声を上げると、パパラチアさんはすぐに開放してくれたが、なんだか豪快というよりもおっさんくさい接し方をするんだな。
「私の親戚に丁度君たちくらいの子供がいてな。ついつい同じようにしてしまった。すまないな」
「「いえ」」
「それより、君たちは武装ゴーレムに興味があるのか?」
「はい。俺も武装ゴーレムに乗っているので」
「俺はこの武装ゴーレムの変わった構造が気になるかな。ジンクの武装ゴーレム作りには俺も関わっていたから」
「ほう、ジンク君は私同様の乗り手で、アイアン君は作る側か。ふむ、そうだな。少し動かして見せようか?」
「いいの?」
「いいのですか? 今日は休日とお聞きしたのですが」
「構わんよ。私がここに来たのも少し動かしたくなったからだからな」
何というか、すっごいサバサバした性格の人だな。でも、このヒポドラゴンゴーレムが動くところを見れるのはラッキーだな。パパラチアさんがどうやってヒポドラゴンの筋肉を動かしているのか、じっくり観察してやるぜ!
パパラチアさんは慣れた手つきでヒポドラゴンゴーレムを起動させると、でっかい格納庫のシャッターから外へ出る。どうやらシャッターの外はそのまま訓練場になっていたようだ。流石は軍事施設の訓練場だな。かなり広い!
「では、少し待っていてくれ、まずは動作確認をしたい」
「「はい」」
俺とジンクは訓練場の脇にあるちょっとした物見台みたいなところに移動する。するとパパラチアさんが訓練場でヒポドラゴンゴーレムを動かし始めた。んだけど、なんだこれ。くっそ速い!
「おい、ジンク。なんだよこれ、速すぎねえか? っていうか武装ゴーレムって、あんなしなやかに動けたっけ?」
「いや、俺には無理だ。っていうか、俺もいろんな武装ゴーレムの動画を見てきたが、こんな動きしてるのなんて見たことねえぞ」
パパラチアさんは武装ゴーレムをまさに手足のように操っている。走って飛んで、回転して。でも、すべての動作がジンクの武装ゴーレムみたいな、いかにも機械ですって動きじゃない。どれもこれも実にスムーズな動きだ。生身で動いてるのとほとんど変わんないような動きだ。おお~、側転にバク転。ウェブスターまでしたよ。
「いかがですかな。私達のエースは」
「すっげえよ。こんなの見たことない!」
「凄すぎます。どうやったらこんな風に動けるのですか?」
「それが困ったことに、やってる本人にもよくわからないみたいでして」
「「へ?」」
「いろいろやっていたらスムーズに動くようになった。他の者には使えないようだし、私には使いやすいから乗機としてもらっていくぞ。これがパパラチアさんがあの機体の専属パイロットになった時の一部始終です」
なんだそりゃ。でも、本人でもわかんないって、ありかよそれ。俺としては魔力の流れを探りたいところなんだけど、距離もあるし、なにより動きが早すぎて魔力の流れがぜんぜんわからん。あとで近くでゆっくり動いてもらうように頼んでみるかな。
「ちなみにパパラチアさんも、あのヒポドラゴンゴーレムでないとこの動きは出来ないようなのです」
「つまり、生身みたいに自在に動けるのは、ヒポドラゴンの筋肉のおかげってこと?」
「そうなりますね。まあ、パパラチアさんは他のヒポドラゴンゴーレムに乗っても、我が部隊で一番強いことに変わりありませんがね」
その後もぴょんぴょん訓練場を飛び回っていたパパラチアさんだったが、一通り動作確認が出来たのか、こちらに戻ってきた。
「少し待っていてくれ、複数人乗り用のアタッチメントを付けてくる」
「「はい」」
思わず返事しちゃったけど、複数人乗り用のアタッチメントなんてあるんだ。こいつは朗報だな! 俺は純粋に喜んでいたけど、ジンクはちょっと顔色が悪い。
「どうした? ジンク? 乗せてもらえるんだぞ?」
「いや、あんなすごい動きをされるとなると、ちょっとな・・・・・・」
ん? 確かにそうだな。あんな凄まじい速度のアクロバティック機動なんてされたら、魔力の観察どころじゃないぞ!
「ゆっくり動いてもらえるように、頼むか」
「ああ、そうしよう」
へたれ? しょうがないだろ。絶叫系は苦手なんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます