第73話 ヒポドラゴンゴーレムだぜ!

「もしよろしければ、ヒポドラゴンゴーレムをお見せしましょうか?」

「「いいの!?」」

「よろしいのですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。本日は丁度いいことに、武装ゴーレム部隊は休養日になっているのです。それに、武装ゴーレム部隊の隊長とお知り合いのようですし、なによりこのベースにとって、いえ、我が軍にとっての恩人のご家族です、だれも嫌とは言わないでしょう。どうぞ、こちらです」


 おお~、ラッキーだぜ。まさか武装ゴーレム部隊が休養日とはな。ま、軍隊ともなれば休養日は順番に取るだろうから、平日休みもありえるか。俺達は門番さんに付いていき、基地の中をどんどん歩いていく。そして、巨大な倉庫の前へとやってきた。


「こちらがヒポドラゴン部隊の格納庫になります」

「でっかいな」

「屋根の一番高いところは10mあります。武装ゴーレムの整備も行いますし、各種武装も保管しておりますので、どうしてもこのくらいは必要になるのですよ」


 そして、格納庫の中へと入ると、5mの軍用武装ゴーレム達がお目見えした。


「すげえな! ここまでがっつりヒポドラゴンとは思わなかった」

「俺もだ。まさかここまで素材をそのまま使っているとはな」

「そうですね。最初見た時は私も驚きましたよ」


 ヒポドラゴンゴーレムは、そのまんまヒポドラゴンゴーレムだった。いや、何を言ってるのかわかんねえかと思うが、そのまんまヒポドラゴンが5mの武装ゴーレムになってるんだよ。まず頭部はヒポドラゴンの頭部の骨をそのまま生かしているのか、そのまんまカバの頭部だ。そして、ボディもヒポドラゴンの鱗を貼り付けてあるのか、鱗模様になっている。もちろんそのまま使っているだけというわけじゃないようだ。各部品のつなぎなんかにはミスリルなんかが使われているようで、金属、骨、鱗、皮がミックスされた、有機物的な雰囲気のある仕上がりになっている。


「これはあれだな。カバ系の2足歩行モンスターの、ヒポポークに少し似ているな」


 ジンクの言うヒポポークってのはあれだな、オークのカババージョン見たいなやつだ。俺も図鑑でしか見たことがないけど、確かにちょっと似てるな。


「それはよく言われますね。特に頭部が大きく、そのまんまカバなのがいけないのでしょうね」

「少し触ってもいい?」

「ええ、どうぞ」


 俺はヒポドラゴンゴーレムを触らせてもらう。そして魔力を流してみると、やっぱり面白い。どうやら背骨をはじめとした各種関節なんかも、ヒポドラゴンの骨を加工したものを使っているようだ。ヒポドラゴンの個体差のせいなのか、ヒポドラゴンゴーレムは同じものが二つとないのも面白いな。でも、なんか場所によっては骨なんかが継ぎはぎになっている場所もある。もとの素材の状態がそうだったのか、戦いによってできたものなのかはわからないけどな。


「ねえ、なんで骨とかが継ぎはぎになっていたりするの?」

「骨がつないであるのがわかるのですか?」

「うん。これって元からそうだったの? それともモンスターの戦闘でダメージを負ったの?」

「いえ、どちらも違いますね。納品されたヒポドラゴンの骨はすべて奇麗だったと聞いておりますし、モンスターとの戦いでヒポドラゴンゴーレムの骨が破損したこともございません」

「じゃあなんで?」

「おい、アイアン」


 俺は不思議だったんだけど、ジンクはなぜか止めてきた。


「骨まで破損するほどのダメージは、お二人のお母上との戦いの傷になりますね」


 なるほど、そういうことか。ってか、ジンクのやつ察しが良すぎる。普通わかんねえよ!


「お二人って、エメラおばさんのゴーレムによる攻撃だけじゃないんですか?」

「ええ、ジンク君のお母上の攻撃による傷もありますよ」

「そうなんですか?」

「はい。ラピスラズリ様の剣は、ヒポドラゴン素材の中でも最も硬い牙を加工して作られたものでしたので、ヒポドラゴンゴーレムとはいえど、完全に防ぐことは困難だったようです」


 ラピおばちゃん、そんな凄そうな剣持ってたんだな。


「もっとも、エメラルド様の10mのゴーレムによる攻撃のほうがより酷かったですがね」

「そうね、エメラのゴーレムはちょっと特別だからね」

「特別? そういえば、母ちゃんのゴーレムって、何で出来てるの? 普通の岩じゃないよね?」

「あれは隕石ね」

「隕石?」

「ええ。エメラは昔からゴーレムが大好きでね。いつも、よりかっこよくて可愛いゴーレムを作りたいっていっていたの。そんなあの子の日課は、いい岩捜しでね、街の外に出てはいい岩を探していたのよ。でも、あの子が求めるようないい岩は地表にはなかったみたいでね。ある日から、地面に魔力を流して、地中からも探すようになったの。それで、そうやって地下の奥深くから探し当てたのが、あの岩なのよ。学者さんに診てもらったらたぶん隕石だっていうんだけど、エメラはその隕石をとても気に入ってね。その隕石で作ったゴーレムが、今も使ってる10mのゴーレムなの」

「そうだったんだ」

「隕石だから、細かい材質は不明なのだけど、すさまじい魔力のこもった岩だったのは確かよ。しかも、ヒポドラゴンとの戦いなんかを通じて、どんどんあの子なりにカスタマイズしたらしいの。隕石の弱い部分は戦いの中で欠けて、欠けた部分は可愛くしたいからって、砕いたヒポドラゴンの血や骨なんかで補修してね。そして気付いた時には、軍の武装ゴーレムの攻撃でもキズ一つ付かない。とんでもないゴーレムに仕上がってたの」

「は~、流石母ちゃんだな」

「ああ、ほんと、流石エメラおばさんだな。地中の奥深くまで魔力を流すのは難しいはずなのに、いとも容易くやってのけるあたり、本当にすごいよな」

「そうなの、でも、そこが不思議なのよ。私やお爺さんはいたって普通の魔道具屋だし、特殊な教育なんて一切していないのよ。にもかかわらず、エメラはいつの間にかすさまじい量の魔力を持つようになっていたし、そのとてつもない魔力がなければ探せないような、地下奥深くにあるあの隕石を簡単に見つけて掘り出したのよね」

「その辺は謎な部分ですよね。遺伝の影響は少ないとは言われていますが、かといって教育等の外部環境の影響もよくわかりませんからね。私は男だけの3人兄弟なのですが、魔力量も伸びた時期も、得意な魔法も、兄弟全員バラバラですしね。一応赤子の頃より魔法を使っていると伸びやすいとは言われてますが、あとから挽回できないほどではないですしね」


 確かにその辺は謎だ。俺の場合でも魔力量の多さは母ちゃん譲りと言えなくもないけど、得意な魔法のジャンルがちょっと違うしな。土魔法は母ちゃん同様得意なんだけど、やっぱ母ちゃんほどは上手じゃない。それは今の母ちゃんと比較してっていうだけじゃなくて、俺と同時期の母ちゃんと比較してもらしい。


 火魔法もそうだ。火魔法は俺もそれなりに使えるけど、やっぱ同じくらいの年齢のころの父ちゃんほどは上手くないらしい。でも、金属加工魔法は今の父ちゃんと比べても遜色ないくらいに上手いんだそうだ。んで、回復魔法は家族の中で俺だけが得意なんだよな。母ちゃんは少し使えるけど、父ちゃんはまったく使えない。まあ、母ちゃんは物心ついてから一度も怪我したことがないそうだから、回復魔法を練習したこともあまりないらしいんだけど。


 ジンクの場合でも、ジンクの魔力量の多さはラピおばちゃんにもガリウムのおっちゃんにも似てなくて非常に多いんだってさ。身体強化魔法が得意なのはガリウムのおっちゃん譲りと言えなくもないけど、そもそも身体強化魔法が得意というよりも体がガリウムのおっちゃん譲りでデカいから、身体強化魔法の効果が高いって側面が強いんだよな。それに、ジンクの得意な金属強化魔法の上手さは、ラピおばちゃんにもガリウムのおっちゃんにも似てないんだそうだ。


 とはいえ、親が得意な魔法ほど、子供に小さいころから教えやすかったりする関係で、親と同じような魔法を得意とする子供は多いらしいけどな。個人個人の資質にあった本当に得意な魔法がわかるようになるのは、いろんな魔法の教師のいる学校に入ってからになるんだそうだ。ただ、成長の過程で得意魔法が変わることもよくある話らしいから、その辺はちょっと難しいんだって。でもまあ、俺にもジンクにも、まだまだ得意な魔法が眠っているかもしれないって思うと、ちょっと楽しみではあるよな!


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