第72話 ヒポドラゴンベースだぜ!

 カッパーアンドレッド社を出た俺達は、ランチを食べるために婆ちゃんのおすすめのちょっとかわいらしいお店にやってきた。


「ここは、エメラやラピちゃんも子供のころ好きだったお店なのよ。きっと二人も気に入るメニューがあると思うわ。さ、何にしましょうか?」


 お店の雰囲気はファミレスっぽいかんじだな。メニューも、お子様プレートとか、オムライス、スパゲッティ、ハンバーグなどなど、なんとなく日本のファミレスに通じるものがある。


「決めたぜ! お子様プレートにする! 飲み物はオレンジジュースで」

「俺はステーキセットにするかな。飲み物は濃厚ぶどうジュースで」

「ええ、わかったわ」


 もぐもぐ、もぐもぐ、うん、美味しいな。


「なあ婆ちゃん、なんで母ちゃんってこの街に帰りたがらないんだ? 今日だってラピおばちゃんと一緒に昔の友達とお茶しに行ったくらいだし、嫌う要素があんまりなさそうなんだけど」

「そうね~。じゃあ午後はその理由のわかる場所にいきましょうか?」

「うん、ジンクもいいか?」

「ああ、構わない。エメラおばさんのようにこの街に帰るのが嫌ってほどじゃないっぽいんだけど、母さんも喜んで帰りたいって感じじゃなかったんだよな。どっちかというと、父さんのほうが喜んでたくらいだ」

「あ、それはある。家も父ちゃんのほうが喜んでた」

「それはたぶん、私やお爺ちゃんからの、エメラ達を連れて来てっていうお願いをかなえられるのがうれしかったのだと思うわ。タング君もガリウム君も、お爺ちゃん達と仲良しだしね。とはいえ、仲良しすぎるのも考え物だけどね」


 そうだな。爺ちゃん達なんて、娘達が帰ってきたにもかかわらず、父ちゃん達と飲むことを優先させてたしな。


 俺達はご飯を食べ終えて、店を出る。


「今からどこに行くの?」

「エメラ達がこの街を嫌がるとしたら、あそこしかないっていう場所があるの、そこに行きましょう」

「うん」

「ああ」


 俺達は婆ちゃんの案内のもと、どんどん進んでいく。進んでいく方向は、北。戦士エリアとか言われてる方角だ。


「戦士エリアに行くの?」

「ええ、そうよ。とある軍事施設にいくの」

「え、軍事施設なんて行ってもいいの?」

「大丈夫よ。お願いすれば見学もさせてもらえるのよ」


 軍事施設って、もっとこう、機密機密してるものかと思ってたんだけど、けっこうオープンなんだな。まあ、ドワーフの国の軍隊は対モンスター用だからな。対人戦用じゃないからいいのかもな。それにしても、流石は大都市だな。人も多ければ馬車や魔道自動車も結構多い。ただ、婆ちゃんが比較的すいてる道を選んでくれているのか、動きづらいってほどでもない。そして、東からみるとYの字の形をしている巨大なメインストリートに到着する。


「ここを右に曲がってね」

「うん」


 メインストリートで左右を確認すると、左には立派なお城が、右には立派な門が見える。右に曲がって、お城みたいな街の庁舎を背に立派な門を正面に進んでいくと、とうとう目的地に到着した。


「ここが目的地よ。駐車場には普通に入っても大丈夫だから、中に止めましょうか」

「うん」


 婆ちゃんが目的地といった場所は、結構立派な軍事施設だ。中に入って本当に大丈夫かと思うが、確かに門は開いてるし、すぐのところは駐車場だ。でも、門番が普通に立っている。でもなんだ、この門。門の上に、カバの置物が置いてある。


 俺はちょっと気後れしながらも中に入っていき、駐車場に2号君を止める。駐車場にも、ところどころにカバの置物があるな。なんだかわけわからんぞ。


「カバが気になる?」

「「うん」」


 ジンクも気になっていたのか、思わず声が揃っちまったぜ。


「私達の目的地はあっちにあるのよ」


 そういって婆ちゃんが指をさした方向は、完全に基地の中の広場だった。そしてその広場の中心には、でっかいカバの像が鎮座している。とはいえ、この駐車場と広場は頑丈そうな柵で区切られている。広場へ行くには、門を通らないといけないけど、駐車場と広場をつなぐ門は閉じてるし、門番の数も多い。


「こんにちは」

「こんにちは」


 婆ちゃんはあいさつしてから堂々と門番さんに話しかけた。


「この子達にあの像を見せたいのだけれど、いいかしら?」

「ええ、そのくらいなら構いませんよ。私も付いていくことになりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。無理を言ってすみません」

「いえいえ、あの像は私達の恩人の像です。いまはここにしかありませんし、見学は大歓迎ですよ」


 俺達は門番さんに案内されるまま、基地の広場の中央にどうどうと飾られている像へと近づいていく。門番さんは恩人と言っていたけど、像はどこをどうみてもカバだよな?


「大きいカバだな」

「ああ。だが、なんでカバなんだろうな? 軍とカバってイメージに合わないんだが」

「これはただのカバではないですよ。聞いたことありませんか? 今から50年前まで猛威を振るっていたヒポドラゴンという強力なモンスターのことを」

「「ヒポドラゴン!?」」

「ええ、これが実物大のヒポドラゴン像になります」


 俺とジンクはついつい声が揃ってしまう。確かに近くから見るとこのカバは全身に鱗のような物が付いている。なるほど、こいつがヒポドラゴンか。俺の想像よりもがっつりカバだった。もっとこう、ドラゴンっぽさがあるのかと思ってたけど、そんなことはなかった。


「そして、このヒポドラゴン像は、外側からみるとヒポドラゴン単独の像に見えるのですが、基地側から見ると、もう二人の像とセットになっているのです。そう、ヒポドラゴン退治に際して、多大な貢献をしてくれた二人の英雄の像とセットなのです」


 像を回り込んで基地側へと行くと、このカバの脇には、巨大なゴーレムと、その肩に乗る二人の女ドワーフがいた。


「あれ、この二人の女ドワーフって」

「エメラルド=マジック様と、ラピスラズリ=ティーチ様です。いまはお二人ともご結婚なされて、それぞれご実家とは違う職に就いているようで、エメラルド=スミス様、ラピスラズリ=カーター様と苗字が変わっておりますね」


 やっぱ母ちゃんとラピおばちゃんかよ。


「この像も、一時期はこの街の至る所にこの像が立っていたのよ。でもあの子達、主にエメラがほとんど壊しちゃったのよ」

「あの子、やはりあなた様はエメラルド様の関係者でしたか」

「ええ、エメラの母親の翡翠よ。そしてこの子達が、エメラとラピちゃんの息子の、アイアンちゃんとジンク君なの」

「これはこれは、ご丁寧に。お初にお目にかかります、私はここ、ヒポドラゴンベースの警備隊の隊長をしております、カルパタイト=ゲートキーパーと申します。以後お見知りおきを」

「ラピスラズリの息子のジンク=カーターです。こちらこそよろしくお願いします」

「アイアンオア=スミス、俺のほうこそよろしくお願いします。でも、なんでヒポドラゴンと母ちゃん達の像をここの基地に置いてあるの? 俺の知ってる話だと、ヒポドラゴンが暴れてたのはゴールドタウンまでで、この街には直接関係ないんだよね?」

「いえ、大ありなのですよ。確かにヒポドラゴンの被害という意味ではこの街はまったく関係ありません。ですが、利益のほうを最大限に受けたのがこの街なのです」

「「利益?」」

「はい、主にヒポドラゴンの装備に関してですね。そもそもヒポドラゴンはランク6という極めて強力なモンスターです。そして、ヒポドラゴンの素材から作られたヒポドラゴン装備もまた、すさまじく強力なものとなりました。その力はすさまじく、ゴールドタウン奪還作戦だけにとどまらず、東の砦でのオーガとの戦争をはじめ、様々なモンスターとの戦いで、大活躍したのです。そして、そんなヒポドラゴンの素材を最優先で回していただいていたのが、我々の部隊になります。そのため、我々は通称ヒポドラゴン部隊と呼ばれ、今ではドワーフの国最強の部隊とまで呼ばれているほどなのです」

「ここの武装ゴーレム部隊の隊長さんは、アイアンちゃんとジンク君のお爺さんの友達なの。エメラ達はヒポドラゴンの素材を送るだけ送ってきて、自分たちでは処理をなにもしなかったから、私が全部適当に捌いていたら、いつの間にかそうなっていたのよね」

「こちらに譲ってくださっていたのは翡翠様でしたか、ありがとうございます。そして我々としましても、お二人とヒポドラゴンに敬意を表して、当時街中にここにある像を建てまくりました。ただ、建てた時はお二人ともゴールドタウンを拠点にしていたため問題なかったのですが、後にこの街に帰ってきた際、そのことでお二人のお怒りをかってしまい、像を守りたい軍と、像を破壊したいお二人との間でちょっとした争いが起きてしまったのです」

「軍もあの二人もちょっとした争いっていうけど、街中でエメラの10mのゴーレムと5mの武装ゴーレムが戦いだしたのよ? 特に大きな像が飾ってあった東の門前広場や、中央広場なんかは、周辺のお店も倒壊しちゃうし、さながら戦場だったわ」

「「・・・・・・」」

「結果、ヒポドラゴンの像は許されたのですが、お二人の像はほとんど破壊され、今ではお二人の像はここにあるこの一体だけになってしまったのです。ちなみにこの像に関してはご内密にお願いします。恐らくこの像が破壊を逃れたのは、内側からならともかく、外から見るとお二人のお姿が把握しずらいためだと思いますので」


 街中に像を建てられた上に、その後街中で軍と戦ったのか、確かに母ちゃんが帰りたがらない理由にもなっとくだな。母ちゃん、あんなでっかいゴーレムを使っていながら、目立つことを嫌うからな。


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