第34話 アイアンオア、7歳だぜ!
ふっふっふ、アイアンオア、ついに7歳になったぜ! 昨日は父ちゃんと母ちゃんに加え、ジンク達の家族も呼んで、俺の誕生日を祝ってもらったぜ。ふふふ、俺も大人の階段をついに一歩登っちまったぜ。なんと、身長が1mの大台を突破したんだよ! いくつになったかって? 聞いて驚け、なんと、1001mmだ! ふふ、すげえだろ?
それにしてもジンクとダチになってからのこの1年半は、いろいろあったよなあ。特にジンクの初陣の牛モンスター戦は楽しかったぜ。あの後しばらくの間、俺とジンクの中で狩りが流行って、来る日も来る日も牛モンスターや豚モンスターの狩りに出かけたっけな。そうそう、ジンクは火力不足を気にして、結局剣を俺のAPCRと同じ、ミスリル10%の合金に変更したんだったっけな。
「アイアン君、手が止まってるわよ」
「ううう・・・・・・」
ラピおばちゃんがそう言って俺を注意する。何をしているかって? 一言で言えばお勉強だ。そして、なぜ俺が昔のことを思い出していたのかといえば、早い話が現実逃避だ。
「ラピおばちゃん、いつまでやるの?」
「後25分ね。毎日1時間くらい、がんばりなさい」
「そうだぞ、アイアン、たかが1時間くらいかまわないだろ?」
「ううう・・・・・・」
ジンクは特に苦痛に感じていないようだが、ううう、つらい、辛すぎる。勉強なんてもう2度としないと誓ったというのに。
ドワーフの国では、10歳から学校が始まる。そのため、入学の2年位前から、各々の家庭で予備学習が始まるということなのだそうだ。じゃあ、8歳になってからでいいじゃんって思っていたら、どうやら俺はジンクが10歳になる年に、一緒に入学させられるようだ。なんでも、発育の違いなどもあるから、ということで、多少入学年齢が前後するのは問題ないのだそうだ。そのため、母ちゃんとラピおばちゃんの手によって、俺とジンクは一緒に入学させちゃおうと、そういう話になっていたようなのだ。
俺は最初、全力で拒否した。なんでって? そりゃあジンクと一緒なのが嫌なわけじゃないんだけど、それ以上に出来るだけ勉強したくなかったんだよ。あと1年くらい、青春を謳歌してもいいと思わないか? それに、今はじめるならあたしが一緒に勉強見てやるって、ラピおばちゃんが言い出したんだよ。母ちゃんとラピおばちゃんの性格からいっても、絶対母ちゃんから、だけ、教わるほうが楽なんだ。なにせ、入学前の家庭学習どうする? って話を、ラピおばちゃんが母ちゃんにしたとき、母ちゃんはな~に、それ? ってかんじで、やる気0だったからな。つまり、ラピおばちゃんに邪魔さえされなかったら、予備学習は逃れられる可能性も結構高かったんだよ。
だが、そんな俺の思惑を、ラピおばちゃんはあっさり見抜いてきた。ぐうう、もう逃げられない。
「アイアン、このくらい楽勝だろ? 俺はもう終わったぜ」
ぐうう、ジンクに負けるのは業腹だな。はあ、仕方ない。がんばるか。
かきかき、かきかき。
「よっしゃあ、出来たぜ!」
ふう、まあ、難易度は低いからな。俺の勉強アレルギーを抜きにすれば、たいしたことではない。俺は書いた紙をラピおばちゃんに渡して、採点してもらう。
「へえ、アイアン君もやるじゃない。全問正解よ」
「おっしゃあ!」
「じゃあ、時間も丁度いいし、今日のお勉強は終わりましょうね」
「「は~い」」
や、やっと終わった。っていうか、毎日1時間の勉強でこんなに消耗するなんて、学校行ったら俺、大丈夫かな。
「それじゃ、2人にはこっちのほうが気になると思うから、週末の試験の話をするわ」
「おっしゃあ!」
「おう!」
今回、俺が7歳になるのにあわせて、俺とジンクの2人は、とある試験を母ちゃんとラピおばちゃんから受けることになった。試験の内容は今から聞くわけだけど、この試験に合格できれば、俺とジンクの2人は、2人だけで狩りに行ってもいい権利をゲットできるのだ。そう、いままでは必ず親同伴でしか、狩りに行けなかったのだ。でも、この試験に合格できれば、牛モンスターのいる西の草原への出入りと、ハンターギルドの登録の許可をもらえるってわけだ。
「試験の内容は簡単よ。2人で西の草原に行って、1泊しながらランク4以上のモンスターを狩ってくること。何か質問は?」
「はい」
「はい、ジンク」
「ランク4が狩れたら、すぐに戻ってもいいのか?」
「ダメよ。狩りで怖いことの1つに、トラブルなんかで予定通りの日程で終わらないことがあるわ。2人は今まで日帰りどころか、半日しか狩りに出かけていないでしょ? だから、今回はもし何かあった時でも、1日程度の夜営は自分達でも出来ると証明して頂戴」
「わかった。それと、1泊分の準備はしていいのか? それとも、緊急事態を想定して、あくまでもいつもの装備で行って、1泊する必要があるのか?」
「そこは1泊分の準備をしていいわ。2人で動くようになってからも、半日の予定であっても、1日の夜営ぐらい出来る装備を常に持って行ってほしいって意味もあるからね。もちろん、必要なものを揃えるのも試験のうちよ。エメラ達他の大人に相談するのはいいけど、買ったりするのは必ず2人で行くこと、準備してもらうのはダメよ」
「はい、ラピおばちゃん」
「はい、アイアン君」
「これは非常に重要な問題になるんだけど、・・・・・・試験の2日間は、勉強は無いよな?」
「「・・・・・・」」
「アイアン、お前、まじめな雰囲気で何言い出すのかと思ったら、しょうもな」
「ええ、ちょっと想定外の質問だったわ。そうね、アイアン君がやりたいようだから、宿題を出しましょうか。なので、教科書は持っていくように」
「ええ~! ラピおばちゃん、それはダメ、絶対にダメ! 狩りを甘く見ちゃあダメ! だから、狩りに集中するべきだと思うんだよ! うん!」
「冗談よ。その2日間は勉強なしでいいわ」
「よっしゃあ! 流石ラピおばちゃん、話がわかるぜ!」
あぶねえあぶねえ、やぶへびになりかけたぜ。
「はあ、アイアン、お前な」
「はあ」
どうしたんだ。この親子は? っと、そんなことしてらんねえ、必要なものを、まず紙に書き出さないとだな!
「おいこらジンク、ため息なんてついてる場合じゃねえぞ。必要なもののリストアップだ!」
「お、そうだな。そうするか。じゃあ、まずはそれぞれが必要だと思うものを書いていくか?」
「それ面白そうだな。お互いの想定して無い必要なものがわかるってわけだな」
「そういうことだ」
うっし、書き出すとするか。ジンクのやつは常識がないところがあるからな。俺がしっかりとフォローしないとだな。まずは、家だな。次に、トイレ。っと、あれ? トイレは家に含まれるのか? ん~、まあいいや、とりあえず書いとくか。
かきかきかきかき。よっし、出来たな。
俺の必要なものリスト。
1、家
2、トイレ
3、風呂
4、キッチン
5、ダイニング
6、テーブルと椅子
7、冷蔵庫
8、食べ物と飲み物
9、パジャマ
10、翌日の着替え
11、テレビ
12、おもちゃ
13、鍛冶用の金属
14、本
15、牛モンスターの解体道具
うむ、我ながら完璧ではないだろうか?
「アイアン、出来たのか?」
「ああ、俺はばっちりだぜ。ジンクは?」
「俺もばっちりだ。じゃあ、見せ合うか?」
「おうよ!」
「じゃあ、せ~の!」
どどん!
ジンクの書いていたリストはこんな内容だ。
1、毛布
2、携帯食料
3、飲み物
4、予備燃料タンク
5、着替え
「え? たったこれだけ? しかも、一緒のやつ着替えと飲み物だけじゃん。毛布って、布団持ってけよ。携帯食料とか、まずいじゃん。適当な牛モンスター狩って料理しようぜ」
「いやいや、お前こそ何考えてんだよ。家? トイレ? 風呂? テレビ? あほか、そんなの狩りに必要ねえだろうが。ってかどうやって持ってくんだよ。母さん、アイアンになにか言ってくれよ、流石に現実離れしすぎてて、意見のすり合わせなんてレベルじゃないんだけど」
「はあ、なんか、デジャブね」
俺たちがわいやわいやと騒いでいると、母ちゃんもやってきた。
「あら、楽しそうね」
「あ、母ちゃん。さっき、夜営に必要なものリストをジンクと書きあったんだけど、ジンクのやつ、夜営のことをぜんぜんわかってねえの。何とか言ってあげて!」
「だから、わかってねえのはアイアンだっつうの!」
「どれどれ~、2人のリストはっと」
「どう? 母ちゃん、ジンクのは少なすぎだよな」
「いやいや、アイアンのほうが無駄なものが多いというか、持ってけ無いものが多いんだよ」
「そうね~、まずはアイアンちゃん、いろいろと指摘させてもらうわね」
「そうだよな。やっぱアイアンのがおかしいんだよ」
「まず、お家とかトイレ、お風呂は、持って行くよりも、現地で作ったほうがいいわ。西の草原なら、土の持っている魔力が高いから、いいお家が出来るからね。でも、料理道具や石鹸なんかは現地で用意できないから、それは持っていかないとね」
「なるほど」
「え・・・・・・」
「それから、冷蔵庫は2号君に、アイアンちゃん用のと私用のがあるから、2人で使えばいいでしょ~。食べ物と飲み物は、ほしいわね。お菓子とジュースなら、数日分すでに入っているけど、お菓子だけじゃ物足りないものね。それから、着替えは必須ね。あと、テレビは街の外にケーブルが無いから、見れないのよね。ビデオを見るだけなら、2号君や武装ゴーレムのメインモニターに映しちゃえばいいわよ。おもちゃ、鍛冶用の金属、本、この辺は持っていけば大丈夫ね。あとそうね、解体用の道具はほしいわね。うん、なかなかいいんじゃないかしら」
「あれ? 俺が違うの?」
「ジンク君のは、う~ん、1日ならこれでもいいかもしれないけど、ちょっと少なすぎるかな。ふふ、でも親子ね~。ラピちゃんそっくりね」
「そうなの?」
「ええ、ラピちゃんも夜営道具は最小限がいいんだ。とか昔よく力説してたのよ。でも、結局私の建てたお家で一緒に料理して、一緒にお風呂はいって、一緒に寝るのよ。しかも、私の用意したお酒を一番飲むのもラピちゃんだったわね~」
「こ、こらエメラ」
「あるときなんか、ラピちゃんのリクエストで、大きなお城を建てたこともあったのよ。周囲のハンターさん達を誘って、みんなで騒いだわ~。ラピちゃん、酔った勢いで女王様ごっこを始めて、ハンターさん達を従えさせてたの。最後はそのまま玉座でお酒のビンを抱えて寝ちゃったんだけどね。かわいかったな~」
「・・・・・・母さん?」
「お、おほん。まあ、土魔法が上手なメンバーがいるときは、出来るだけ快適に夜営をしたほうがいいということね。ぎりぎりの夜営ばかりだと体も休まないし、なにより、心が休まないからね」
「なるほど、流石はラピおばちゃん、いいこというな」
「うんうん、ラピちゃんが成長してくれて私もうれしいわ」
「・・・・・・、納得できない・・・・・・」
ジンクのつぶやきは、誰にも拾われることはなかった。
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