第23話 新しい戦車3だぜ!

 あれから数日かけて、俺はついに設計図を完成させた。父ちゃんと母ちゃんにも相談しまくって、完璧ともいえるものが出来たぜ。まあ、かなり参考にしたモデルからは外れちまったがな。そして、俺がモデルに選んだ戦車は、アメリカ製のM18GMC、通称へるにゃんだ。GMCは、ガンモーターキャリッジの略なんだ。つまり、正式には戦車じゃなくて、大砲を運搬する車両って意味なんだぜ。だから、一般的には対戦車自走砲とか、駆逐戦車とか言われるカテゴリーの車両だな。なので厳密には戦車じゃないんだけど、もちろん、戦車と呼ぶにふさわしいレベルに改造するぜ!


 なんでこへるにゃんをモデルにしたのかといえば、当然いくつか理由がある。まずへるにゃんを選んだ理由その1は、大砲の大きさが手ごろだったってことだ。へるにゃんの主砲は52口径の76mmだ。この76mmっていうのは、大砲の穴の直径のことなんだが、中途半端な大きさだと思うだろ? でもな、75mm~76mmくらいの大きさの大砲ってのは、世界中で使われてた大きさなんだぜ。たぶん、世界で一番多くの戦車で使われてた大砲の大きさじゃないかな。なにせ第2次大戦の頃は、アメリカもイギリスもドイツもソ連も、主要な国の主力戦車は、大抵75mm~76mmくらいの大砲を積んでたからな。日本? 戦中の日本戦車は、うんまあ。


 そして、この75~76mmくらいの大砲は、なんとこの世界にもあったんだぜ。ジンクから借りた大砲カタログにもいろいろ載ってたんだが、大よそ地球にあったサイズの大砲は、こっちにもあるようだった。そして、こっちでも76mmは人気の大きさだったようだ。魔法大砲自体はカタログにないオーダーメイド品だから、全部1から造るらしいんだが、やっぱ参考になるものがあると違うからな。76mmで造ることにしたんだぜ。


 ちなみにジンクの家に120mm砲があった理由だが、大きいほうがかっこいいからと、ガリウムのおっちゃんが買ったらしいんだが、そんなでかい大砲を搭載できる馬車なんてそうそうないらしく、完全に売れ残ってたやつなんだと。


 そして、魔法大砲の場合は、威力は大砲の大きさじゃなく、ガンナーの魔法の実力が全てみたいだからな、大きさは割りとどうでもいいらしい。もちろん大きいほうが魔力を込めやすいんだが、俺の今の魔力の圧縮率なんかを考えると、70mmくらいが本来の適性な大きさで、76mmでもちょっと大きいらしいんだ。だから、これ以上大きい大砲を用意しても、魔力の圧縮率が下がりやすくて、かえって威力が出なくなることもあるんだと。


 つまり、ラピおばちゃんに撃った120mm砲は、結構無駄が多かったらしいんだ。はあ、あれ、めちゃんこ疲れたのに、なんかがっかりだぜ。なにせ同じ量の魔力を込めた場合、76mmのほうが当然魔力の圧縮率が高いわけだから、圧縮の甘い120mmより威力は上になるらしい。だから、魔力の圧縮が出来て、大砲が小さめになるのは、基本的にはいいことらしいんだ。ま、俺の才能に120mm砲のほうが逃げ出したと考えれば、悪いもんじゃないよな。


 まあ、次だな次、なんでM18GMCこと、へるにゃんを選んだのかの理由その2なんだが、この車両、すっげえ速いんだよ。クローラーで動く戦闘車両としては、世界最速レベル、なんと最高速度は80キロとも言われてるんだぜ。すごくねえか? いや、車基準だと大して速くないんだけどよ。クローラーで動く乗り物基準だとめっちゃ速いんだよ。なにせ、日本の最新の戦車である10式戦車ですら、最高速度は70キロらしいからな。まあ、動力とか足回りはこっちの製品を使うから、地球での足の速さなんて関係ないんだけどさ。


 ただ、へるにゃんには一個だけ致命的な欠点があるんだよな。そう、装甲が薄いんだぜ。なんと一番分厚い砲等正面ですら、25mm、それ以外はなんと12mmだ。同じアメリカのM4中戦車の場合、一番装甲が薄くて、弱点の背面装甲ですら38mmあったことを考えると、ぺらっぺらなんだぜ。だから、へるにゃんはぺらぺら過ぎて、対戦車砲どころか、機関銃すら防げ無かったって話だ。だけど、そこは問題ない。装甲を厚くする予定だからな。


 さらに、へるにゃんの装甲的な弱点はもう一個あって、へるにゃんは視認性重視の設計のために、オープントップなんだぜ。オープントップ、つまり、砲等に屋根が無いんだ。まさにオープンカー状態なんだよ。それっていいのかよって思うかもしれないが、戦車の中って、車と違ってガラス張りじゃないから、車内からは周囲が見えないんだよな。だから、コマンダーはキューポラから身を乗り出して、外の様子を確認することが多いんだ。それって大丈夫なのって思うかもしれないが、もちろん大丈夫じゃないんだ。戦中のドイツなんかだと、それが原因で狙撃されるコマンダーが多かったらしいんだよな。ただ、狙撃されるからって、周囲の確認を怠ると、戦車そのものがピンチになるから、やらざるを得なかったらしいんだ。ちなみにこれは現代でも一緒だぜ。カメラとかでいいじゃんって思うかもだけど、そうもいかないらしくてな。最新の戦車なんかでも、キューポラから身を乗り出してるコマンダーを守るための、防御用のオプションなんかがあるんだよ。で、俺がコマンダーなんだから、どうせ周囲をみるためにキューポラから身を乗り出すんなら、最初っから屋根なんて無くてもいいんじゃないかと思ったわけさ。流石に無防備じゃああれだから、設置型の結界発生装置みたいなのを使って、コマンダー防御装備を造る予定だけどな。


 そんなわけで、俺はM18GMCことへるにゃんをベースに2号君の設計図を引くことにしたってわけさ。で、実際に図面を引いて、さらに畑の土をもらってきてこねこねした、10分の1サイズで作ったクレイモデルが目の前にある。うん、すばらしい出来だ。かっこいい。まず、車体と砲塔だ。車体と砲塔で重視したのはいかに小型化するかってことだな。俺の身長は、俺の願望込みで1mしかないんだ。だから、フルサイズの戦車に乗ると、なにも操作できない事態に追い込まれるのは、1号君とおんなじだ。そこで俺は大砲以外を全部小さくした。本来であれば5000mm以上の全長、2800mm以上の全幅、2500mm以上の全高を全部抑えに抑えて、全長3000mm、全幅2500mm、全高2000mmにまで小型化したんだぜ。


 そんなに小さくして大丈夫なのかって? 大丈夫なんだ。なにせ本来は5人乗りの戦車を、3人乗りにまで人数を削ったからな。具体的には本来必要なコマンダー、ガンナー、ドライバー、ラジオオペレーター、ローダーの5人の内、コマンダー、ガンナー、ラジオオペレーターは俺が1人で全部やることにした。そして、ドライバーは1号君でもお世話になったドライバーゴーレムを、ローダーはローダー用のゴーレムを新たに作って3人乗りになったんだぜ。だから、内部空間にだいぶ余裕が出来た。


 それから、本来のへるにゃんは航空機用の星型エンジンを後方に搭載して、シャフトを経由して前側の起動輪を動かすという回りくどいことをしているようなんだが、それは航空機用の星型エンジンがでか過ぎたのと、戦中の技術だとトランスミッションを後方に置くと、前方のドライバーの操作性が悪くなるっていう技術的な問題があったからなんだ。でも、俺の2号君は魔道エンジンを使うから変速機はいらないし、星型エンジンと違って魔道エンジンは小型だから、後ろにエンジンを載せて、そのまま後ろの軌道輪を回すことが容易に出来る。そして、操作系統はバイワイヤにするから、動力部と運転席が離れてても問題ないんだぜ。だから、ここでも結構スペースが空いたんだ。


 そんな感じで内部空間に余裕が出来たことで小型化した。そして、小型化により軽量化できたので、装甲厚も無理なく増やすことも出来たってわけだ。こうして、俺の2号君の設計図が完成した。ちなみに総重量は本来のへるにゃんの17トンから削りに削って、約10トンの予定だ。装甲厚はましましで正面30mm、側面と背面20mmだ。正面装甲がジンクの武装ゴーレムと同じ厚みになったのには理由がある。これは、俺とジンクの金属強化魔法のレベルが似たようなものなので、適切な装甲厚も似通っちゃうってことらしい。ただ、前線で戦い、側面や背面から攻撃を受ける可能性のあるジンクの武装ゴーレムと違い、俺の2号君は正面からの撃ち合いくらいしか想定していない、だから、側背面はちょっと薄めなんだぜ。


 さて、そんな2号君の10分の1スケールのクレイモデルだけでも、俺としては数日は余裕で楽しめそうだが、ここがゴールじゃないからな。明日は母ちゃんに言って畑の土をいっぱいもらって、実物大の動くクレイモデルを造らせてもらうかな。


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