第25話 新しい戦車5だぜ!

 ふっふっふっふっふっふっふっふ。

 はっはっはっはっはっはっはっは。

 ふあ~っはっはっはっはっはっはっは!


 ついに、ついにこの時がやってきた。フルサイズのクレイモデルが出来てから1週間。やっと俺の新型戦車、2号君が完成した。そして今日は試運転アンド試射の日だ。ジンクのやつはここのところ、自分の家で武装ゴーレムをスムーズに動かす特訓とやらをやっていて、俺の家には来ていなかったが、今日はラピおばちゃんと一緒にやって来ていた。ふっふっふ、これからぼこぼこにされるとも知らずにのんきなやつだぜ! って思ってたんだが、ジンクの武装ゴーレム、なんかすでにぼろぼろなんだけど・・・・・・。まるで百戦錬磨の戦士のように、あっちこっちキズだらけだ。おまけに絆創膏みたいに鉄板まで貼り付けてある。


「ようアイアン、今日はお前の新型戦車の試運転と試射をするって聞いたからな。来てやったぜ」

「おう、良く来たな! まあ、首を洗って待ってろ。試運転と試射が終わったら、ジンクの武装ゴーレムをけちょんけちょんに負かしてやるぜ」

「あ~、それなんだけどさ、俺の武装ゴーレム見てくれよ」

「うん、俺も気になってたんだけどさ、なんで俺と戦う前からすでにぼろぼろなんだよ」

「あ~、すっげえ言いにくいんだけどさ。母さんと一緒に特訓してたら、母さんの剣やパンチ、キックに投げ技を食らってるうちに、ぼろぼろになっちまってな。父さんに鉄板とかで溶接してもらったんだけど、この様だ」


 ジンクの武装ゴーレムは俺との戦闘で膝関節を破損していたが、俺が設計図を描いたりしている間に父ちゃんが修理してたんだけど、まさかものの1週間でここまで壊してくるとは。しかも剣やパンチやキックはわかるが、投げ技ってなんだよ。ラピおばちゃんの体格は母ちゃんとほぼ同じだから145cmくらいだ。どうやったら3m、20トンもあるジンクの武装ゴーレムを投げれるんだよ。


「あはは、だからさ。お前との勝負はお預けな?」

「はあ、ったく、なにやってんだよ。まあいいや、ジンクの武装ゴーレムはこの後父ちゃんが直すとして、今日は俺の新型戦車、2号君の実力をとくと見ていくといい!」

「おう、そうさせてもらうぜ!」

「ところで、あれ、無視してテスト開始してもいいとおもうか?」


 俺は母ちゃんとラピおばちゃんのほうに視線を送る。


「いや~、落ち着くの待ったほうがいいんじゃね?」

「そうだな、そうするか」


 俺とジンクの視線の先では、珍しいことに母ちゃんがラピおばちゃんを説教していた。あの2人って、大概母ちゃんののほほんっぷりに切れたラピおばちゃんが説教するパターンが多いんだけど、今回は流石にジンクの武装ゴーレムをぼこぼこにしてるからな、ラピおばちゃんのほうが劣勢なようだ。


 俺は母ちゃんの説教が終わるのを待って、試運転を開始した。


「じゃあ、行くぜ! 振り落とされるなよ!」

「おうよ!」


 まずは試運転からだ。俺がコマンダーシートに乗り込むと、ジンクも砲塔に腰掛けて座った。魔道エンジンがうなりを上げて始動し、クローラーが地面をかみ締める音が周囲に鳴り響く、ことはなかった。まあ、1号君のときと一緒だな。魔道エンジンはモーターみたいなものだから音はほぼしないし、クローラーは2号君も軽いからってゴム製だから、音は限りなく小さい。まあ、この方が強いんだろうけど、なんか違うんだよな~。でも、ゴムクローラーそのものは自衛隊なんかでも研究されてるようなものだし、強さには変えれないのでしょうがない。


「はっは~!」

「うおお! はええ!」


 俺はドライバーゴーレムに全速で走るように指示を出す。くうう、すさまじい加速だぜ。ちなみに2号君の最高速度は本物のへるにゃんよりも速い時速100キロメートルだ。とはいえ、我が家の敷地は一変300mの正方形のため、そこまで全力で走れるわけじゃないんだが、流石はへるにゃんをベースした戦車なだけのことはあって、すさまじい速さだ。あっちへ行ったりこっちへ行ったりと俺は楽しんだ後、最後に目いっぱいの速度を出すことにした。敷地で一番長く取れる直線300mを最大限に生かすために、素早いターンから直線に入り、どんどん加速する。すると、割と簡単に時速100キロまで加速できたようだ。そして時速100キロからの、フルブレーキ! ふう、やばいな。運転してるだけで楽しいぞ。


「おいジンク、大丈夫か?」

「おう、なんとかな。今のブレーキはやばかったぜ」


 ジンクは何とか戦車のヘリにしがみついて、振り落とされるのだけは逃れたようだ。


「うっし、じゃあ次は試射だな」

「お、いいね。見てやるぜ。アイアンの本気の攻撃ってやつをよ」


 ジンクが2号君から降りて観客席へと向かうと、俺は母ちゃんが待っている試射するための場所に向かう。


「じゃあ、ルールを説明するわね。見ての通り的は5つあるわ。右が一番弱いランクのモンスターの平均的な防御力を再現した的ね。左にいくにつれてモンスターのランクが1つずつ上がっていくわ」

「なるほど、ということは、初心者用ダンジョンにいたゴブリンは、一番右と右から2番目ってこと?」

「そうね。アイアンちゃんが戦ったことあるのは、右の2つね。一番右が雑魚ゴブリン。右から2番目がゴブリン10人隊長と思ってくれればいいわ。ただ、ゴブリンは同ランクのモンスターの中では弱いほうだから、あの的は少し硬めかもしれないわね」

「おっけい、わかったぜ。まずはどっちから撃つ?」

「じゃあまずは30mm機関銃を魔法なしで撃ってもらえるかしら?」

「わかったぜ!」


 俺は30mm機関銃を魔法なしで発射する。発射レートは分間600発なので、秒間10発だ。


 ぼふふふふふふ!


 一応サプレッサーつきのため、ぼふふふふとなんとも間抜けな音が鳴り響く。とはいえサプレッサー無しだと、ダンジョンなんかの閉鎖空間ではうるさ過ぎるからな、これは仕方ない。ちなみにこのサプレッサーは機械式ではなく、魔法的な効果によるものだそうだ。


 30mm機関銃は、一番右の雑魚ゴブリン相当のターゲットは7発で貫通した。なるほど、ゴブリンは雑魚ゴブリンなら15mm機関銃でも1発だったのに、この的は7発ってことは、だいぶ硬いな。う~ん、ゴブリンが各ランクでも最弱だとすると、一番下のランクの雑魚のゴブリンが1撃、一個ランク上のゴブリン10人隊長が10数発、その中間のこの的が7発って感じなのかな。じゃあ次のは10数発と100発以上の中間ってことか? 母ちゃん、それはちょっと硬いって言うんじゃなくて、だいぶ硬いって言う気がするぞ。まあ、このまま撃ってけばわかるか。


 さて、次は2番目のターゲットだな。


 ぼふふふふふふ! 


 う~ん、こっちは70発ちょっとかかっちゃったか。なるほど、確かにダンジョンで戦ったゴブリン10人隊長より硬いな。これ、3番目とか大丈夫かな?


 ぼふふふふふふ!


 うん、予感的中、3番目のターゲットを抜くには700発以上かかってしまった。ちらっと話には聞いていたけど、下から3ランク目すげえ硬いな。そして4番目のターゲットには、まったく効かなかった。


「アイアンちゃんおっけいよ~。想定通りの威力ね。じゃあ次は金属強化魔法だけかけて撃ってみて~」

「わかった~!」


 次は金属強化魔法だけをかけた魔法機関銃を発射する。ここからがこの魔法機関銃の本領発揮だぜ。普通の機関銃と魔法機関銃との最大の違いは銃弾への魔法のかけやすさだ。普通の機関銃ってのは、まあ、普通の機関銃なんだが、魔法機関銃には銃弾へ魔法をかけやすいような工夫がしてあるんだ。具体的にはチャンバー内の弾頭に魔力を流しやすいように、魔力回路が組み込まれてるってわけだ。これにより魔法の発動が遅いという欠点のある俺でも、魔法機関銃っぽいことが出来るようになったってわけだ。まあ、本来の機関銃としての発射レートにはそれでも対応できず、発射レートを1秒1発くらいに落として、の話だがな。しかも、金属強化魔法限定で、炎と金属の融合魔法はそのレートですら使えないけどな。あとそうだ、弾頭を強化する分銃身も強化しないとライフリングの強度が足りなくなるため、銃身にも強化魔法をかけやすくなっている。もちろん熱対策の氷魔法や風魔法もだぜ!


 そして俺はセレクトレバーで発射レートを1秒1発モードに切り替えて、金属強化魔法を使っての魔法機関銃を連射する。


 ぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっ!


 発射レート1秒1発って、よくよく考えれば、イタリアの76mmの船に乗っけてる対空対水上両用砲と同じような発射レートなんだよな。シングルアクションのリボルバーですらこれより速く撃てる気がしてきた。もはや機関銃と名乗っていいのかわかんないほど遅い発射レートだけど、まあ単発の威力は上がってるしいいとしよう。


 金属強化魔法とはいえ、魔法が乗っているだけあって威力は高いな。一番弱い右のターゲットはあっさり1発で貫通したぜ。じゃ、次は右から2番目だな。


 ぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっ!


 おお~、さっき70発ちょっとかかっていた的が、3発で見事に貫通した。こいつは、劇的につよいな。うっしゃあ、3番目の的だ! 30発くらいで貫通するかな?


 ぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっぼふっ!


 なるほど、想定通りだな。30発ちょっとで3番目の的も見事に撃ちぬけた。でも、4番目のターゲットには100発くらい撃ち込んでも、ぜんぜん倒せる気がしない。こりゃあ、300発必要っておちかな?


「アイアンちゃん、そのへんでいいわよ」

「わかった~、4番目硬いな~。300発くらい撃てば倒せるのかな?」

「う~ん、この的は壊せるかもね。それよりもアイアンちゃん、銃弾を見て頂戴」

「銃弾?」


 俺は銃弾を見てみると、どうやら結構な魔力が威力に使われきれずに残っているようだ。


「なんか、魔力が結構残ってるな。これが父ちゃんのいってた、魔力が全部使われないってやつか」

「そうなのよね。これがあるせいで、さくっと倒せない威力の飛び道具は、みんな微妙になっちゃうの。慣れてくれば機関銃の発射レートを上げれると思うけど、何発も撃つことにはかわりないのよね」

「そっか、でも、この機関銃の性能がいいのか、金属強化魔法だけなら、そこまで魔力消費も多くないな。今の魔力消費の感じだと、何発撃っても大丈夫かな」

「そうね、今のアイアンちゃんの魔力だと、こんな小さい機関銃の弾になら、金属強化魔法をかけて何発撃っても問題は無いわね。でも、この機関銃はあくまでも下から2番目までのモンスター用よ。それ以上の相手には大砲の出番ね!」

「3番目もダメなのか?」

「ええ、残留魔力のこともあるけど、なにより発射レートが低すぎるわ。だって、30発撃つのに30秒かかっちゃうでしょう? その間無防備に当たり続けてくれる相手なんて早々いないわ。そもそも、大物狩りのために大砲があるんですもの、そちらを使いましょ」

「そうだな、わかったぜ!」


 それから、今回魔法機関銃での炎金属融合魔法の使用は見送られた。理由としては30mmでも弾が小さすぎて、俺が使うにはあまりにも魔力効率が悪いことが原因だ。どうやら、父ちゃんと母ちゃんの見立てでは、俺の魔力はある程度大きいものに使用するのに向いてるっぽいんだ。特に、難易度の高い炎金属融合魔法に関しては、30mmに使うのも76mmに使うのも、消費魔力も発動時間もさほどかわんないという悲惨な状況になってる。


 ちなみにもしも炎金属融合魔法が使えたら、下から3番目の的すら1撃で貫通出来るらしい。母ちゃんがバックストップにめり込んでた銃弾に炎金属融合魔法をかけて、投げて貫通させてたから間違いない。ただ、4番目の的には込めれる魔力量が小さすぎて、数10発必要になるんだそうだ。


「76mm砲も楽しみだけど、もうお昼になっちゃったから、先にお昼ご飯にしましょうか」

「おう、すぐ行くぜ!」


 これから本命の76mm砲の予定だったんだけど、ちょっと浮かれて遊びすぎちゃったみたいだな、いつの間にかお昼だったぜ。まあ、魔力もちょっと減ってたから、76mmを撃つのは、昼飯と昼寝で魔力を回復してからのお楽しみだな!


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