第117話 強敵

「ところでアイアン、お前木の切り倒し方って知ってるか?」

「いや、まったく知らないぜ」

「んじゃあ教えてやるよ。と言っても、俺もほとんど経験ないんだけどな。まず木を切る際には、木を倒したい方向に受け口っていうのを作るんだ。ん~、この木だと、こっちの方向でいいかな。まずは俺がやるから、見てな」


 そう言いながらジンクは、ジャイアントハニービーの巣のあった大木に斧を打ち付ける。


 か~ん! か~ん! か~ん!


 おお~、ジンクの奴、なかなかいい音出すじゃねえか。リズミカルに斧が木に当たるこの音はなかなかいいな。さっきの戦いでそれなりに疲れた俺の体には実に眠たくなるBGMだな。ふわあ。


 か~ん! か~ん! か~ん!


 俺は半分寝ながらもジンクが斧を振るのをまったりと見学する。うんうん、本当に良い音だな。これなら伐採もすぐなんじゃねえかな。


 か~ん! か~ん! か~ん!


 うんうん、いい感じに木が切れてきて、ないな・・・・・・。ジャイアントハニービーの巣のあった大木は、ジンクが斧で何度も何度も切り付けているにもかかわらず、ぜんぜん切れているようには見えなかった。


 いや、受け口とかっていうのを作るとか言ってたから、今もその作業の最中なのかな? まさかマジで切ろうとしてて切れてないわけじゃないよな?


「なあジンク、受け口ってのが出来るのはまだなのか? 俺もチェーンソーを試したいんだが」

「まだだ。ってかなんだよこの木、凄まじく硬いんだが。広葉樹っぽいし、ここは自然の魔力が豊富だから多少は硬いと思っていたが、ここまで硬いとは、完全に予想外だ」


 ジンクが斧を振るっていた部分をよく見ると、樹皮こそ砕け散っていたが、木本体はほとんど切れていないようだ。しかもそれだけならまだしも、ジンクの武装ゴーレムの持つバカでかい斧の刃の方が傷みだしてねえか?


 ジンクの斧は柄の両側に刃のある、ダブルビットアックスってタイプの斧だから、片側の刃がダメになっても平気なのかもしれないが、この斧の痛み方じゃあ、両方の刃がダメになっても切り倒せないぞ?


「ジンク、代わろうか?」

「ぐぐぐぐぐ、仕方ない。アイアン、チェンジだ」

「よっしゃ任せとけ、真打登場だな! ところでジンク、受け口ってやつはどうやって作るんだ?」

「それはまあおいおい説明してやる。とりあえず木の直径の三分の一くらいまで横に切れ目を入れてくれ、それが出来なきゃあ受け口を作れん」

「おし、任せときな!」


 さ~ってと、そんじゃあ早速見せてやるぜ! 文明の利器の恐ろしさってやつをな!


 俺は早速巨大チェーンソーを起動させる。そして軽~く、エンジンを吹かしてやる。


 ちゅ~ういいいいん! ちゅいいいん! ちゅいいん!


 個人的にはチェーンソーといったら、2ストロークエンジンの吹き抜けるような音が好きだったんだけど、残念なことに魔道エンジンはモーターのごとく静かだからな、あのぶお~ん! という気持ちのいい音は聞こえない。


 それでも魔道エンジンによって高速回転している機械音は聞こえるから、十分かっこいいかな?


 ま、それは置いておいて、今はさっくりと木を切り倒して、最強の刃物はチェーンソーであるということを証明するかな!


「本当に大丈夫か? チェーンソーなんぞ力のない種族の使うものだぞ? 俺の斧が通らなかった木に、そんなものが通用するとは思えないんだが」

「はっはっは! 甘い、甘いぞジンクよ。ジンクの考えはジャイアントハニービーのハチミツよりも甘いぞ! まあ論より証拠、そこで見ているといい、この3号君、チェーンソー装備バージョンの凄さをな!」


 そう言って俺は3号君の砲塔に取り付けたチェーンソーで、ジンクがミリ単位でしか削れていなかった木に襲い掛かる! ジンクが手も足出なかった相手だからな、俺も一切の手加減無し、最初からエンジン全開、金属強化魔法も全開だぜ!


「うお~りゃ~!」


 が~りがりがりがりがり!


 高速で回転するチェーンソーの刃が、木をガンガン削っていく。


「はっはっは! 見てるかジンク! これがチェーンソーの実力だぜ!」


 が~りがりがりがりがり!


 ん~、でもチェーンソーって、木を切る時にこんながりがりとする音鳴ったっけ? いや、俺もチェーンソーをそんなに使いまくってたわけじゃないというか、実はちょこっと触ったことがあるだけだから詳しくは知らないんだよな。まあ、きっとこんな音がなるんだろうな!


「おいアイアン? お前のチェーンソーの実力は良~く見せてもらったけどよ。全然切れてねえからな?」


 はあ? 何言ってんだジンク。木を切れねえチェーンソーなんてあってたまるかってんだよ。


 でも、ジンクが妙に真面目に言ってくるからな、しょうがねえ、俺もチェーンソーを一度止めて木を見て見るか。


「さってと、どれくらい切れたかな? まさか三分の一以上切れちゃってたりして」


 俺は3号君から降りて木を確認する。するとそこには、ぜんっぜん切れていない木がそびえ立っていた。


「んなバカな! チェーンソーだぞ? 何でミリも切れてないんだよ!?」

「アイアン、それよりそのチェーンソーの刃を見て見ろよ。俺の斧より重症じゃねえか?」

「なにい!?」


 ジンクに言われるがままにチェーンソーの刃をみると、そこには無残にもぼろぼろになったチェーンソーの刃があった。


「う、嘘だろ?」


 あのが~りがりがりなっていた音は、木が削れている音じゃなくて、チェーンソーの刃がダメになっていた音だとでもいうのか!?


「いや、そもそも金属強化魔法は俺の方が得意だろ? ましてや俺は魔力をたっぷり流せる巨大な斧。アイアンは複雑な形ゆえに魔力の流しにくいチェーンソーの刃だぞ? 俺の斧が欠けるようなものに、なんでアイアンのチェーンソーが通じると思ったんだよ。てっきり何か特殊な仕掛けでもしてあるのかと思ったが、何にもなかったようだしな」


 ぐぐぐ、言われてみれば斧で切るのが大変なだけで、チェーンソーで切れる木って、斧でも普通切れるもんな。刃物の強度としてみたら斧の方が形状的に有利だし、この結果は当然だとでもいうのか?


 いや、そもそもこのチェーンソーの刃はミスリルを30%も混ぜた合金だぞ? ただの鉄じゃないんだ!


「あ、ちなみに俺のこの斧。歯の部分はミスリルを60%混ぜた合金な」


 え? それじゃあ負けてもしょうがないか。素材の差は覆せねえもんな!


 ふ~、良かった良かった。ジンクがミリとはいえ傷つけることが出来た木に、俺がミリすら傷つけられないってのは、流石にかっこ悪すぎるしな!



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