第118話 打開策
「でもようジンク、俺のチェーンソーが完敗だったことは素直に認めるとして、実際問題どうする? これ?」
「うう~む、悔しいが手詰まりに近いのも事実だな」
ジャイアントハニービーの巣のあった大木は、数ミリくらい切れただけ。そして俺達の伐採道具は、俺のチェーンソーは刃が完全にいかれてて、ジンクの斧も片刃が限りなく使い物にならなくなっている。これは・・・・・・、大ピンチだ。
俺とジンクは完全に一度手を止めて、新たに作戦を練り直す。
「ジンクが持ってきたのって、その斧とノコギリ、あとナタだっけ?」
「そうだ。だが、ナタは枝払いようだから斧より強度がない。ノコギリも刃の形状的に強度は斧以下だから、期待薄だな。正直ここまで硬い木に出会うとは思っていなかったからな」
「だよな。俺なんてチェーンソーしか持ってきてないし。そだ、ジンクの剣はどうよ? あれならミスリルベースの合金だから、強度的には何の問題もないだろ?」
「おいおいおいおい。アイアン、お前剣士にメイン武器である剣を、木を切るのに使えって言うのかよ。却下だ却下!」
「いや、それしか方法ないじゃん」
「ダメだ。もしそれで剣がダメになったら、帰りにモンスターと出くわした時大変だろうが」
「ジンクの剣は両刃なんだから、片側くらいよくねえか?」
「あほか。戦闘で片側がダメになった時用の両刃なんだよ。木を切るのに片側使っていいことにはならん」
「じゃあ完全に手詰まりか~」
「父さんやタングさんにバトンタッチすれば済む話ではあるんだけど、それはな~」
「うん。それはダメだ、面白くねえ」
「なあアイアン、お前の火炎放射器で切れないのか?」
「火炎放射器で?」
「ああ、バーナーで鉄板切ったりするだろ? あんな要領でさ」
ほほう、ジンクもなかなか面白いこと考えるな。確かにバーナーで鉄板を切ることは出来るし、俺の火炎放射器なら、最大収縮モードにすればそんじょそこらのバーナーなんて目じゃない程の高温に出来る。
本来バーナーで木を切ろうとすると、木が燃えちゃうんだろうけど、頑丈すぎるこの木相手ならその心配はいらなさそうだし、試す価値はありそうだな。
「よしジンク、いっちょやってみるか!」
「ああ!」
俺は3号君からチェーンソーを取り外すと、早速火炎放射器の準備をする。
「しょっぱなから全力で行くぜ!」
「おう!」
俺は火炎放射器のポンプを最大出力にして、さらにノズルを一番収束出来るモードにする。最大出力、最大収束状態火炎放射器からは、まるでレーザーのごとき鋭い炎が発射される。
しゅ~ご~! ご~おおお!
うむ。いい感じの勢いだぜ!
「よしジンク、行くぜ!」
そして、木に当たると、火炎放射器の燃料が周囲に飛び散り、辺り一帯がすぐさま炎の海へと変化する。
って、そりゃそうか。バーナーから出る炎はあくまでも炎の部分だけ。燃料があそこから出ているわけじゃないけど、火炎放射器は粘度の高い液体が飛び出しているわけだから、ものに当たれば拡散して燃え広がるよな。
「おいおいアイアン、関係ないところまで燃えすぎだろ!」
「それはそうだけど、バーナーじゃなくて火炎放射器なんだ、不可抗力ってやつだ。それよりジンク、木にダメージは入ってそうか?」
自分で確認出来れば良かったんだけど、俺からは火炎放射の着弾点は、その周辺もろとも真っ赤にしか見えないんだよな。ここは横から見ることが出来るジンクに確認してもらった方がいいだろう。
「アイアンナイスだ! 徐々にだが焦げて来てる」
え? 焦げてるだけなの? 俺としては焼き切りたかったんだけど。
「焦げてるだけってことは、全然切り進めてないってことか?」
「ああ、だがそこは任せろ! 焦げて強度の落ちた部分なら、俺の斧で何とかなるはずだ!」
「なるほど! 試す価値はありそうだな! 火炎放射このままでいいか? この炎の中でも活動できるか?」
「ああ、長時間の直撃ならともかく、周囲に飛び散った炎程度なら問題ねえよ!」
そしてジンクは、俺が火炎放射を当てている場所目がけて斧を振るう。
ばご!
おお、なんか今までと音が違うじゃねえか。いい音ではないが、手ごたえありかな?
「どうよジンク、上手く行ったか?」
「ああ、バッチリだアイアン! 焦げた部分は強度がだいぶ落ちてる。これなら俺の斧でもがんがん削れる!」
「うおっしゃあ。そんじゃ、ガリウムのおっちゃんが戻ってくる前に切り倒しちまおうぜ!」
俺が焦がして強度を下げ、そこをジンクがぶっ叩いて切り進める。う~ん。悔しいが個別に木に挑んでいたさっきまでとは、比べ物にならないくらいいい感じに伐採が進んでいる気がするぜ!
しゅ~ご~!
ばご!
しゅ~ご~!
ばご!
「ふう、順調だなジンク!」
「ああ、まだまだ受け口には足りないが、順調そのものだな」
しゅ~ご~! しゅごっ! ごっ!
すると突然、変な音を出して俺の火炎放射器が停止する。
「あ、あれ?」
「おいアイアン、火が止まったぞ?」
俺は即座に3号君を、いや、火炎放射器を調べる。
一体どうしたってんだよ!? なんで止まるんだよ!?
3号君の火炎放射器はそう簡単に壊れるようには作っていない。なにせ戦車に載せるということで重量面はさほど考慮せずに、強度に余裕を持った設計だからな。外部からの衝撃があったわけでもないのに、自壊するようなものじゃないはずだぞ?
だが、調べても調べても、故障箇所の特定すら出来ない。うう~ん、おかしいな。どこも壊れちゃいない?
「アイアン、大丈夫そうか?」
「待ってくれジンク、原因が分からん。故障箇所が無いんだよ」
「そいつは妙な話だな」
「ああ、どうしちゃったってんだよ。3号君・・・・・・」
すると、ふと俺の視界に、とあるセンサーの表示が見えた。そのセンサーの示す表示は、エンプティー。エンプティーって、ガス欠かよ!
「ジンク、悪い。ガス欠みたいだ・・・・・・」
「は?」
順調そのものに思えた俺とジンクの連携技は、木を10分の1も切り進めないうちに、俺の火炎放射器のガス欠という形で終わりを迎えた。やっべ、今モンスターに襲われたら、火炎放射器使えねえじゃん!
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