第119話 木の切り方
「はあ、アイアンの火炎放射器がガス欠じゃあしょうがないな。この先は父さん達に任せるしかないか」
「悔しいがそうするしかなさそうだな。というわけで父ちゃん、バトンタッチだぜ!」
1号君で船着き場にジャイアントハニービーの巣を運びに行ったガリウムのおっちゃんと違って、父ちゃんは監督役としてこの場に残っていたから、俺とジンクは諦めて父ちゃんに任せることにした。
「ああ、任された! ってかっこよく言いたいところなんだが、木材に関しては俺も専門外だ。俺でも木を切り倒すくらいのことは出来るんだが、下手に切り倒してガリウムに文句言われるのも嫌だからな、ここはあいつが戻ってくるのを待とうか」
「そっか、ガリウムのおっちゃん、木にうるさそうだもんな」
今回の木材伐採のミッション。ジンクだけじゃなくて、ガリウムのおっちゃんも結構テンション高めだったんだよな。迂闊なことはしないほうがいいな。
でも、父ちゃんも木を切り倒すくらいのことはあっさり出来ちゃうんだな。どうやって切り倒すんだろう?
「なあ父ちゃん、父ちゃんが木を切り倒すのなら、どうやって切り倒すんだ? 父ちゃん、木を切るようの道具は持ってきてないよな?」
「そいつは簡単だ。ジンク君の斧を借りて、普通に切り倒すだけだ」
「え? でも、ジンクは刃がたたなかったんだけど」
「そこは慣れの問題だ。ジンク君は木を切る際に、斧に金属強化魔法の瞬間強化を使っていたよな?」
「はい、使っていました」
ジンクの使う金属強化魔法の瞬間強化の技は、瞬間的に魔力を大量に消費して、著しく金属の強度を上げるって技だ。その実力は父ちゃん達も認めるところで、盾を使ってその技を使えば、俺の2号君のぴかぴか弾さえ防ぐ、ジンクの必殺技だ。
「だが、ジンク君の瞬間強化は、ちょっと欠点があるんだ」
「欠点?」
「そうだ。確かに盾を使ったジンク君の瞬間強化の防御力は、大人でも目を見張るものがある。だが、それは盾に限定した話で、武器となると話が違う。剣での攻撃なんかの瞬間強化は、まだまだ練度不足じゃないか?」
「その通りです。もともとアイアンの砲弾を防ぐために練習していたせいか、盾に関しては父さんにも母さんにも上手くなったと言われるのですが、反面武器への瞬間強化は、まだまだだと言われます」
ジンクの瞬間強化に、そんな欠点があったとはな。俺はてっきり盾も剣も同じように強化出来るのかと思ってたぜ。
「そこは回数こなして慣れていくしかないな。特に今回は普段の片手持ちの剣とは更に違う長物でデカい斧だ。剣よりも物が大きい分、瞬間強化はやりにくくなる。ましてやジンク君の場合、武装ゴーレムのサイズアップからも日が浅い、まだまだ武装ゴーレムのサイズにも慣れていないんじゃないか?」
「はい」
「武装ゴーレムのサイズにしても武器にしても、次第に慣れるから問題はないさ。それに、今後いろいろな武器を使うようにすれば、その内初見の武器でもそれなりに対応できるようになる」
「わかりました!」
なるほど、言われてみれば当然だな。普段剣を使ってる奴に、いきなり斧を使えって言っても、最初から使いこなせるわけねえもんな。
「はいはい! じゃあ父ちゃん、俺のチェーンソーで木を切る方法を教えてくれ!」
ジンクの斧がこの木に通じない理由と、通じるように出来る方法があることは分かった。だけど、慣れてくればジンクなら切れるってなると、俺の一人負けになっちゃうじゃん。それは断固拒否だ!
「ん~、アイアンのチェーンソーか。チェーンソーの場合、その特性から瞬間強化はそもそも向かないんだよな」
それは俺もすぐに気づいたことだ。斧ならインパクトの瞬間が明確にあるから、その一瞬を瞬間強化で強化すればいいけど、チェーンソーって、一瞬のインパクトっていうより、ずっと刃が当たってて、少しづつ削ってくイメージなんだよな。
「手は二つだな。一つ目はアイアン得意の炎と金属の融合魔法をチェーンソーの刃にかけることだ。ただ、その場合高速回転する刃に、融合魔法をかけ続けることが難しい」
う~む、確かに。ぴかぴか弾の場合はある程度の大きさがあるし、形状はシンプルだし、おまけにぴかぴか弾には俺の魔法が拡散しないような細工まである。それに動きも飛んでいくだけと単純だ。
でも、チェーンソーの刃ってのは違う。形状は複雑だし、動きは単調とはいえ、飛んでいくだけの砲弾と比べると、同じところを回り続けるだけとはいえ複雑だ。そして一番の問題は、砲弾なら一度炎金融合魔法をかけて発射すれば、効果が切れる前に敵に当たって終わりだけど、チェーンソーだと回転する刃にピンポイントで炎金融合魔法をかけ続けなきゃいけない。それは俺の魔法の腕じゃあ不可能だ。
「それはパスだ父ちゃん。今の俺には技の難易度が高すぎる」
「だな。だからもう一つ方法がある。これはそれこそ難易度が高い可能性があるが、アイアンになら使えるかもしれない方法だ」
「それで、どんな方法なんだよ?」
「簡単に言えば、木そのものに魔法で干渉して、強度を落とす」
「木に直接干渉する?」
「そうだ。アイアンは金属を加工するときに金属加工魔法を使うだろ? あれの木材バージョンの魔法がある」
「そんな魔法あったんだ!」
いや、よく考えりゃあ当然だよな。金属の加工魔法があれば、木材の加工魔法だってあると考えるのが自然だ。
「父ちゃん、早速教えてくれ!」
「残念だが俺は使えないんだ。エメラでさえほとんど使えない。というのもこの魔法、森の民と呼ばれるエルフの使う魔法だからな」
ぐう、エルフの魔法か、それは習得難易度が高そうだな。でも、今度本を買ってもらうかな。挑戦くらいはしときたいし。
ちなみに俺達ドワーフとエルフの関係は、地球にあった一部の物語のように悪くないどころか、割と良好だ。金属製品はドワーフ、木工製品はエルフと、得意分野が分かれているのがいいのかもしれないな。
「アイアンも気づいていると思うが、基本的には他種族の魔法ってのは習得難易度が高い。まあ、こればっかりはしょうがないがな。ただ、稀に相性がいいのか、あっさり使える奴もいるんだよ。俺の知り合いにも一人、その魔法が使える奴がいるしな」
「でも父ちゃん、その方法って、普通は最初の方法よりもむずくねえか?」
「がっはっは、確かにな!」
これは、炎金融合魔法の練度を上げるしかなさそうだな。
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