第120話 木こりのおっちゃん

 俺とジンクが木を切るのを諦めて、魔法の特訓をしていると、ガリウムのおっちゃんが荷馬車を引いたドワーフ達と一緒に帰ってきた。


「おう、戻ったぞ!」

「父さんお帰り。後ろの人達は?」

「ん? ジンクはこいつには会ったことなかったか? 普段仕事で木材を買う店があるだろ、こいつらはその店の木こりなんだよ」


 ジンクの家というか、ガリウムのおっちゃんの仕事は馬車の製造、修理、販売だ。馬車に使う金属製品は主に父ちゃんが作っているけど、なるほど、木材はこの人達から買ってるのか。


「木材を買っている店っていうと、もしかしてアイドクレースの家の?」


 すると、ジンクもなにかピンと来たようだな。ところで、アイドクレースの家? アイドクレースって誰よ? 宝石っぽい名前だし、女の子の名前か?


「そうだ。確かあの子はジンクと同い年だったよな」

「ああ。でも、おばさんは知っていたけど、おじさんは知らなかったな」

「まあ、こいつらいつも昼間は森にいるからな。知らなくてもしょうがねえよ」


 そんな風にジンク達親子が話をしていると、荷馬車から斧を持ったドワーフの一団が降りてくる。そしてその中の一人が、ジンクの元へと歩いていく。いろいろと他のドワーフ達に指示を出していることから、このドワーフがリーダーっぽいな。


「おう、お前がガリウムの息子のジンク君か? いつもアイドクレースが世話になってるようだな。君のことはアイドクレースから聞いてるぜ。図体がデカい生意気な奴だってな! がっはっは! ガリウム同様いい体格してるじゃねえか!」


 そう言いながら木こりのリーダーっぽいドワーフはジンクの背中をばしばし叩く。


「は、初めまして!」

「がっはっは! 俺に背中を叩かれてもびくともしねえとはな。体格の良さに胡坐をかかずに、しっかりと鍛えてるみたいじゃねえか! ますます気に入ったぜ!」


 うう~ん、そう言いつつ更に思いっきり叩き始めたな。流石に最後の方はジンクもちょっとふらついたな。


 ジンクの背中を満足するまで叩き終えると、ふと俺と父ちゃんのいる方に視線を向けてきた。


「おお!? 引きこもりのタングが居るじゃねえか」


 え? 引きこもりって何? 確かに父ちゃんは普段は工房に籠っていて外には出ないけど、引きこもりじゃないと思うんだけど。


「ふん。今日は息子のアイアンとジンク君の付き添いだ」

「ん? ってことはこっちの坊主がタングの息子か?」

「おう、アイアンオアだぜ!」


 俺はビシッと挨拶を決める。すると、木こりのドワーフリーダーは俺のことを眺めた後、目をのぞき込んでくる。


 な、何?


「なるほど、いやいや、なるほどな」


 ほえ? 何がなるほどなの?


「いや、すまんすまん。タングとエメラさんに息子がいることは知っていたんだが、アイアン君もタング同様引きこもり気質だろう? だから君のことを知っている奴はほとんどいなくってな。噂通りの外見なのかちょっと見ちまった。ガリウムんとこのジンク君は娘からも話も聞いていたし、わかりやすくデカいからすぐわかったんだがな」


 こういう時ジンクはいいよな。あいつ、体がデカいってだけでガリウムのおっちゃんの息子ってわかるもんな。でも、引きこもりって部分は聞き捨てならないぞ!


「おい、それより俺もアイアンも引きこもりじゃねえ。純粋に研究熱心なんだ。なあ、アイアン」

「その通りだぜ父ちゃん! それに今日だってこうやって木を切りに来てるし、だいぶアクティブだぜ!」

「がっはっは! すまんすまん。それより、ガリウムの言っていた木ってのはそれのことか?」

「そうだ。なかなかのものだろう?」

「ああ、確かにこいつはいい木だな。しかしお前ら、河のこっち側に木を切りに来るのはいいが、子連れで東側に来るのはどうなんだ? 危ないぞ。実際ジャイアントハニービーとやり合ったんだろ?」


 そう言えば、河の南側の方がいい木材があるって聞いたから河を渡ってこっち側に来たけど、東側は強いモンスターが多いからって、わざわざ西に移動してからこっち側に船を泊めたんだったな。なのに今いる場所って東よりの場所なの? もしかして。ジャイアントハニービーを追いかけているうちに東側に来ちゃってたってことなのかな?


「そいつは心配いらねえよ。あのジャイアントハニービーだって、俺とタングは一切手を出してないからな」

「って言うと何か? あのジャイアントハニービーは息子達がやったのか?」

「ああ。二人で協力して倒してたぜ」

「マジかよ。あのサイズのジャイアントハニービーの巣とか、俺達じゃあちょっと手こずるぜ?」

「まあ、そこはジンクとアイアン君が上手くやったってことさ」

「は~、流石はお前らの息子だな。ハンターとしてもやっていけるんじゃねえのか?」

「それはそうなんだが、ジンクもアイアン君も生産職志望なんだよ」

「そうなのか。まあ、俺としたらお前らの息子とも仕事出来るなら楽しそうだからいいけどな。っと、ちょっとしゃべり過ぎたな。おい、お前達、準備はいいか!」

「バッチリです!」


 俺達がしゃべっている間にも、他の木こりの人達は木を切る準備を終えていたようだ。


「おし! サクッと切って夕飯までに帰るぞ!」

「「「「「おお~!」」」」」


 日は既に結構傾いている。夕食までもうそんなに時間はないけど、そんなにサクッと切れるものなのかな? ここはお手並み拝見だな!



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