第121話 帰りの船
カ~ン、カ~ン、カ~ン!
日が傾いてきて薄暗くなり始めた森に、木こりのおっちゃん達の斧を振る音が小気味よく鳴り響く。そして、俺とジンクがほとんど傷をつけることの出来なかった大木がみるみると切れていき、そして。
「倒れるぞ~!」
ミシミシミシミシ、ドスン!
あっさりと伐採された。
「すっげえな。流石はプロだぜ」
「身体強化魔法もだが、斧に対する金属強化魔法にも、まったく無駄がなかった。これが本職の木こりか・・・・・・」
俺とジンクが揃って木こりのおっちゃん達の技をほめていると、父ちゃんが声を掛けてくる。
「どうだった二人とも? 木こり連中もなかなかのものだろ?」
「ああ、凄かったぜ!」
「はい。木こりがこんなに身体強化魔法や金属強化魔法に長けているとは、正直思いませんでした」
「まあ、どんな職業であれ、プロっていうのはそういうものさ」
「あの人達はハンターとしても登録しているんですか?」
ジンクが父ちゃんに疑問を投げかける。確かにあんだけ身体強化魔法と金属強化魔法を使えるんなら、ハンターとしてもやっていけそうだよな。
「ん~、ハンターとしての資格くらいは持っているだろうが、ハンターとして本格的に戦えるほどの実力者は店主くらいじゃなかったか? まあ、モンスターと出会ったら追い払える程度には戦えるだろうがな」
へ~、それはちょっと意外だな。火力は十分に見えるのによ。
「そうなんですか? 十分強そうに見えますが」
「確かに連中の火力は結構ある。それこそそこらのハンターより強いかもしれないってくらいにな。だが、連中はあくまでも木を切るという動作に最適化されているんだ。だから戦闘っていうとちょっとまた別だな。さっき店主が言っていたが、連中じゃあ、昼間二人が倒したジャイアントハニービーに、全員がかりで大苦戦だそうだ」
なるほど、まあでもそうか。近接戦闘用の武器っていやあ斧と剣、それに槍があるが、火力の一番高い斧が戦闘でも一番強いかって言うとちょっと違うもんな。
木こりのおっちゃん達とガリウムのおっちゃんは、切り倒した大木から枝を素早く打ち払って、手際よくおっちゃん達のトレーラーへと積み込んでいく。木こりのおっちゃん達のトレーラーはデカく、あっさりと大木が積み込まれた。
「ガリウム。この木は全部俺達が持って行っていいんだよな?」
「おう。俺達の分もそっちに一度預けるぜ。どのみち俺達じゃあ木材の乾燥をさせられねえからな」
「わかった。それじゃあ俺達はこれで帰るから、街にもどったら一度店に顔出してくれや」
「ああ!」
こうして木こりのおっちゃん達は俺達を残し帰っていった。もう既にいい時間だけど、木こりのおっちゃん達は街に帰ってゆっくり休むみたいだ。
「それじゃあ、ここからは野営だな! よしジンク、まずは腹ごしらえ、夕飯のバーベキューからいくぜ!」
「おう!」
そして俺達は、男4人でまったり一夜を過ごした。
一夜明け、俺達は予定よりだいぶ早く船着き場へと来ていた。本来ならでっかい木を戦利品として持ち帰る予定だったから、大荷物の予定だったし、運搬にそれなりに時間がかかる予定だったんだけど、昨日木こりのおっちゃん達が戦利品の木を持って帰ってくれたからな。手ぶらになった故に移動速度が速かったんだぜ。
ちなみに昨日ガリウムのおっちゃんが一人で運んでくれたジャイアントハニービーの巣も、昨日木こりのおっちゃん達が持って帰ってくれたんだって。
サービス良すぎじゃね? って思ったら、ジャイアントハニービーの巣から作れるミツロウで、ワックスを作りたいんだってさ。自分達のワックスの原料を一晩野ざらしには出来ないってことみたいだ。
「少し早く着きすぎたか」
「うむ。迎えの船が来るまでは休憩だな」
「じゃあ父ちゃん、俺は魔法の練習でもしているぜ!」
「俺もそうするかな」
「わかった。誰も来ないとは思うが、念のため隅っこでな」
「「は~い」」
そして俺とジンクが昨日に引き続き魔法の練習をしていると、父ちゃんとガリウムのおっちゃんが一隻の船が近づいてくることに気付く。
「お? 船が一隻近づいてくるな」
「本当だな。約束の時間よりだいぶ早い気がするが・・・・・・」
二人の視線を追って河の遠くを見ると、確かに一隻の船がこちらに近づいて来ていた。ただ、遠目だから確証は持てないが、あの船、ジンクの家の船じゃないっぽいな。ジンクの家の船はあくまでも普通の輸送船だけど、あの船にはクレーンみたいなのが付いてるからな。
「う~む。確かに船が一隻こっちに向かって来ているが、あの船、俺の船じゃないな。恐らく木こり連中の船だろう」
なるほど、木こりのおっちゃん達の船か。確かにあのクレーンとか、作業用の船って感じがするな。
「だが妙じゃないか? 木こり達は朝一でここに来て、夕方帰るというスケジュールのはずだろ? それに、どうやらこちらに旗を振っているように見えるんだが?」
父ちゃんの指摘を受けて俺も3号君の望遠機能を使って船を見て見る。すると、船首にいるドワーフが、旗を規則正しく振っていた。確かあれ、ハンターが遠くの仲間に指示を出す手旗信号だ。
「確かに、あの旗の振り方は、ハンター信号で待機だな」
「ってことはなんだ? 俺達に用事があるってことか? もしかして、お前の船になんらかのトラブルがあって、彼らが代わりに迎えに来てくれたとかか?」
うん、それは大いにあり得るな。ラピおばちゃんの操船技術は実に凄まじいものだったからな。そもそも昨日無事に戻れたのかも怪しい。
いや、母ちゃんとラピおばちゃんならこんな河泳いで渡れるだろうから、あの二人は絶対に無事に戻れていると思うんだ。無事に戻れたのか怪しいのはジンクの家の船の方だ。
パラージライトの港はそこまで入り組んだ構造をしているわけじゃなかったけど、ラピおばちゃんの操船技術でぶつからずに帰れるほど、イージーでもない気がするんだよな。
ガリウムのおっちゃんと父ちゃんが、このちょっと異様な事態に頭を悩ませる。
ほどなくして船がこちらに着岸すると。昨日の木こりのおっちゃんの一人が慌てたように下船してきて、俺達に声を掛けてくる。
「ガリウムさん! タングさん! パラージの街が大変なことになっているんだ。急いで船に乗ってくれ!」
おいおいおい、街が大変って、それってどういうことだよ!? もしかしてその大変な事態のせいで、母ちゃんとラピおばちゃんがこっちにこれなくなったってのか?
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