第116話 まさかのフェイズ5開始!
「いやいや、二人ともまだ作戦終了じゃあないぞ」
俺とジンクが無事にミミッションアコンプリッシュドだと思っていたら、ガリウムのおっちゃんがまだ終わって無いと言ってくる。
「いや、父さん。巣の回収も終わったし、これでもう終わりだろ?」
「ジンク、目の前を見て見ろ。このサイズのジャイアントハニービーの巣があっても大丈夫だった程頑丈な木が、目の前にあるじゃないか!」
「そうか!」
おお? もしかしてこの木を切り倒して持って帰る気か?
ガリウムのおっちゃんに指摘されたジンクは、すぐさま目の前の木にかぶりつくように観察を始める。
「なるほど、流石は父さんだ。当初の予定とはだいぶ違うけど、この木も名木と言っていい木だな!」
「だろう? 当初の狙いよりも確実にランクの上の木だな」
「わかったぜ父さん。おいアイアン、この木を切り倒して持って帰るぜ!」
「お、おう」
ったく、ジンクの野郎凄まじいテンションの上がり方だな。俺には木材の良し悪しは分からないけど、ジンクのテンションを考えるにきっとかなりいい木材なんだろうな。
でも、いくら凄くいい木材とは言っても、いくつか問題がある。そう、この木、めっちゃデカいんだよな。何せ全高4m、重量20トン越えのジンクの武装ゴーレムが木登りしても平気だった木なんだから。どうやって持って帰る気だ?
「でもジンク、この木を切るのはいいんだけどさ、どうやって持って帰るんだ? この木、太いところは直径5m以上あるし、既に1号君のトレーラーはジャイアントハニービーの巣でほとんど埋まってるぞ? いや、そもそも1号君のトレーラーって、幅3mもないじゃん。乗らないぞ?」
「ん? 確かにそうだな。父さん、そのあたりはどうするんだ?」
「積載に関しては安心しろ。ジンク達が木を切っている間に船着き場に行ってジャイアントハニービーの巣を下ろしてくるし、ここには元々いい木材狙いの連中が多いからな。船着き場に誰かいるようなら、運搬を手伝ってくれるように交渉するさ」
「分かったよ父さん。というわけでアイアン、この木を切るぜ!」
なるほど、それなら大丈夫だな。流石はガリウムのおっちゃん、考えが柔軟だぜ。でももう一個問題があるんだよな。この木、全然真っ直ぐじゃない。むしろすっごくうねうねしてる。俺の目には使いやすそうな木には見えないんだぜ。
「それともう一個、こんなにうねうねしている木でいいの? てっきりもっと真っ直ぐな木を探してるのかと思ってたんだけど」
「それに関しても大丈夫だ。確かに建材として使うことを考えると出来るだけ真っ直ぐな木の方がいいが、俺や父さんが作るのは椅子やテーブル、タンスだからな。むしろこの自然のうねうねを利用することこそ、俺達の腕の見せ所ってな!」
「うむ、その通りだジンク!」
「そっか、そう言う事なら分かったぜ!」
自然の木のうねりを利用した家具か、う~ん、悪くない気がするっていうか、むしろ良い気がするぜ! 流石はジンクとガリウムのおっちゃんだ。
「それじゃあトレーラーに積まれている野営道具や木の伐採道具を下ろしてくれ、俺は一度船着き場に戻る。後のことはタング、任せるぞ」
「ああ、任された」
俺とジンクは野営道具や木の伐採道具を1号君のトレーラーから降ろす。
「うし、俺は準備出来たぜアイアン!」
すると、早速ジンクは木の伐採道具を構える。こういう時は道具を手に持つだけでいい武装ゴーレムの利便性が際立つな。俺の方はちょっと大掛かりな準備が必要だってのにさ。
ちなみにジンクが木の伐採のためにチョイスした道具は、バカでかい武装ゴーレム用の斧だ! う~む。武装ゴーレムには斧も似合うな。
ジンクは斧以外にも、4mの武装ゴーレムのサイズに合わせた、これまた巨大なノコギリやナタも持ってきているようだが、まずは斧でいくつもりのようだな。
「まあ待てよジンク。お前の武装ゴーレムと違って、3号君の伐採道具は金属加工魔法で砲塔にくっ付けないといけないから、ちょっと準備に時間がかかるんだよ」
「砲塔にくっ付ける? そもそも戦車で伐採ってのがあんまりピンとこないんだが、アイアンは何を用意したんだ?」
「俺が用意したのは、まあ言ってみりゃあ最強の刃物だな」
「最強の刃物?」
「ちゃちゃっと準備しちゃうから、ちょっと待ってろよ」
俺はあえてジンクから見えないようにこそこそと作業を開始する。
俺が伐採のために準備した道具、それは恐らく地上最強の刃物のひとつだぜ! あ、ここでいう最強の刃物ってのは、名刀とか業物とか、そういうタイプの最強じゃないぜ! 剣とか刀じゃ、その辺に生えてる直径30センチくらいの木すら切れないしな!
かといってSF小説に出てくるバイブレーションソードのような、ファンタジー兵器でもない。事実地球にあった超音波振動系の刃物って、柔らかいものをより簡単に切れる方面に特化していて、金属や木材を切る用の振動系の刃物って無かったしな。きっと硬いものを切るのにはそこまで向いていないんだろう。
じゃあなにかって? 俺が用意した対木材用の最強刃物、そいつはもちろん、特大のチェーンソーだぜ! 実に普通の答えかもしれないけど、正直これが最適解ってな!
俺は3号君の砲塔正面に、火炎放射器のノズルと干渉しないようにチェーンソーの刃の部分を取り付ける。それから砲塔背面に動力用の魔道エンジンを取り付けて、あとはチェーンソーの刃の部分に動力が伝わるようにちょちょいと準備して、燃料用のホースを3号君のメインタンクから引っ張ってくれば、よし、あっさり完成だな。
そして俺はジンクへ、3号君チェーンソー装備バージョンをお披露目する。
「どうよジンク、こいつが最強の刃物を装備した俺の3号君、題して3号君チェーンソー装備バージョンだ!」
「最強の刃物って、チェーンソーかよ」
「お、流石はジンク、博識だな! まさかチェーンソーを知っているとはな!」
この世界にもチェーンソーは普通に存在していた。まあ、チェーンソーは地球でも19世紀、日本が江戸時代の頃には初期のものが誕生していたっていうし、そんなにハイテクなものでもないからな、魔道エンジンのあるこの世界にあっても不思議じゃないってな。
ただ、ドワーフの国ではそんなに普及していなかったんだよな。何せドワーフの膂力は人間のそれとは比べ物にならないからな。ドワーフからしたら、木なんざ斧でちょっと叩けば簡単に切れるだろ? って認識らしいんだよな。
「ふ~ん、チェーンソーね~。まあいいさ、取り合えずアイアンも準備できたんなら、フェイズ5、木の伐採、開始と行くか!」
「おうよ!」
見てろよジンク! チェーンソーの素晴らしさ、思い知らせてやるぜ!
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