第77話 負けられないんだぜ!

 負けた? 俺の2号君が、負けた? ぴかぴか弾とジンクの盾の材料はどっちも同じようなミスリルベースの合金だ。それでぴかぴか弾が一方的にぶっ壊れて、ジンクの盾は壊れそうとはいえまだ健在ってことは、俺がぴかぴか弾にこめた炎金属融合魔法より、ジンクのやつが盾にかけた金属強化魔法のほうが上だったってこと?


 うそだ!


「・・・・・・」

「アイアンちゃん?」


 なんで? なんでだよ!? 手加減なんてしなかった。 なんで防がれるんだよ!


「・・・・・・」

「アイアンちゃん?」


 おっと、母ちゃんが話しかけてくれてたか。


「あ、ああ。母ちゃん、どうしたの?」

「ううん、アイアンちゃんの様子がおかしかったから、気になっちゃって」

「ち、くそったれ。まさかジンクに負けるとはな!」


 ちょっと強がってみたけど、ダメだ。ショックが大きすぎる。っていうか、泣けるんだけど・・・・・・。


「ぐすっ」

「アイアンちゃん、そんなに気にすることないのよ。たった一発防がれただけなのよ! アイアンちゃんの今の魔力なら、ぴかぴか弾だって何発かは撃てるのよ」

「ぐすっ、そうだけど。俺、本気だった」

「落ち着いて考えてアイアンちゃん。たった1発防がれただけなのよ。あの盾の状況だと、2発目で確実に壊せると思うの、そうしたらあとは武装ゴーレム本体の装甲だけ。ジンク君の魔法では、武装ゴーレム本体の装甲ではぴかぴか弾を防げないのよ。つまり、あと2発撃てばアイアンちゃんの勝ちなのよ!」

「ぐすっ、でも、リロードに5秒、魔法かけるのに10秒とすると、あと2発撃つのに30秒かかるよ。そんな時間あったら、100mの距離なんて簡単に詰められる」

「それは間違いなのよ。だって、ジンク君の武装ゴーレムよりもアイアンちゃんの2号君のほうが足は速いのよ。追いつかれる可能性は0%なの!」

「ぐすっ、ん? 言われてみればそうかも? ん、でも、ジンクの武装ゴーレムにはクローミサイルがあるじゃん。あれで掴まれたら、あっちのほうが重いし逃げれないよ」

「そんなの2号君のミサイルで撃ち落としちゃえばいいのよ!」

「・・・・・・、それもそうかな? でも、こんな至近距離じゃ、撃ち落とせるかわかんないよ」

「そこは前提がわるいのよ。2号君は遠距離戦用なのでしょ? こんな戦闘開始位置が100mなんて接近戦を想定するのはナンセンスなのよ!」

「うん・・・・・・、うん。そうだよな。母ちゃんの言う通りだぜ! よし、ちょっと元気出てきた。でも、バトル大会はそんなに距離取れないと思うんだ。かといって負けるわけにもいかないし、それまでに少しでも強くなってやる! 母ちゃん、協力してくれよ!」

「もちろんいいのよ、アイアンちゃん!」

「おうよ! えいえい」

「「お~!」」


 ぜってえ本番じゃジンクに負けねえ! 


「そうだアイアン。バトル大会の件なんだけどさ」


 俺と母ちゃんが気合を入れていると、ジンクがのうのうと話しかけてきた。見てろよこの野郎。本番で笑うのはお前じゃない! 本番で笑うのはこの俺、アイアンオア=スミスだ!


「俺らチームで出場ってことでいいよな?」

「へ? チーム?」


 チーム? なんのことだ?


「はあ、母さんの予想通りやっぱ知らなかったのかよ。バトル大会の未就学児の部はな。対人戦じゃなくって、モンスターを模したゴーレムとの対戦なんだよ」

「はあ~!? なにそれ!?」

「いや、昔っからそういうルールっていう話だぜ?」

「そうなの? 母ちゃん?」

「うう~ん、そうだったの?」

「そうだったの? もなにも、エメラ出たこと一度もないよね?」

「そういえば、私出たこと一度もないのよ!」

「そなんだ」

「ごめんなさいなの、アイアンちゃん」

「いや、いいんだ。それでラピおばちゃん、バトル大会って具体的にはなにするの?」

「一言でいえば、さっきジンクが言ったように、モンスターを再現したゴーレムと戦うだけよ。最初はランク1のモンスターに扮するゴーレムと戦って、勝てばランク2のモンスターに扮するゴーレムと戦ってっていう具合だね。勝てば勝つほどいい商品がもらえるんだけど。まあ未就学児の部だからね。ランク1を倒せればよし、ランク2を倒せれば凄い、ランク3を倒せたらかなり凄いっていう感じかな。まあ、もちこむ武器にもよるけどね」

「なるほど。それで、こっちはパーティーで出ていいってこと?」

「そういうこと。軍にしろハンターにしろ、ソロでモンスターと戦うのはリスクが高すぎるから、そんなことしないしね」

「な~んだ。じゃあジンクとどころか、シュタールとも直接は戦わないのか」

「そういうことだね」


 あんだよ。ジンクやシュタールと戦うわけじゃねえのかよ。ちえ、ジンクにはちょっとリベンジしたかったし、シュタールとは戦車戦がしたかったのにな。


「あれ? じゃあなんでジンクは俺に前哨戦なんていいながら勝負ふっかけてきたんだ?」

「そりゃあれだ。武装ゴーレムを改修してから、一度もまともな戦闘をしてないだろ? 改修後すぐに旅行が決まって、俺もアイアンもお手伝いで忙しくなったしさ。だから、一度本番前にどの程度の攻撃まで耐えれるのか試してみたくてな。それに、昨日パパラチアさんから、いろいろ武装ゴーレムの乗り方とかいうかテクニックなんかも教わったしな」

「それでか」

「そそそ、アイアンだってそのミサイルは実戦で使ったことないだろ?」

「まあな」

「ってなわけで、俺はちょっと母さんに相手してもらって、この実験場で武装ゴーレム動かしてくる。パパラチアさんに教えてもらったことにトライしてみたいしな。あ、そだ、悪いが盾直してくれ」

「わかった。ちょっと待ってな」


 俺は金属加工魔法でジンクの盾の修理をする。ぴかぴか弾の着弾箇所を中心に全体にヒビが入っている。多少の欠けもあったが、2号君に積んである修理用のミスリルを使えば楽勝だな。


「おっし、これでどうだ?」

「ん、ばっちりだ。流石だなアイアン。魔力を流した感じ、完全に元通りに感じる」

「当然だろ? この盾の最終仕上げをしたのはもともと俺だし」

「サンキューな。じゃ、俺はあっちで特訓してくるよ」

「ああ、俺も母ちゃんとちょっと作戦会議だ」

「おう、じゃな!」


 ジンクとラピおばちゃんは奥のほうに行くと戦いだす。うう~ん、総ミスリルで改修された、ジンクの新しい武装ゴーレムは、防御力だけじゃなくって動きもだいぶいいな。


「よし、母ちゃん。作戦会議だ!」

「お~!」

「まず最初の議題なんだけど、なんでぴかぴか弾でジンクの盾を貫通できなかったんだ? 材質はぴかぴか弾もジンクの盾もほとんど同じミスリルベースの合金だろ? 似た材質同士なら、金属強化魔法だけのジンクの盾より、炎と金属、2種類の魔力の乗った俺のぴかぴか弾のほうが強いはずだよな?」


 それに、物理的にもこっちが有利なはずだ。使ってる材料が違うけど、戦中のころの76mm砲のAPCRの貫通力は100mm以上余裕であった。たった100mの距離で、100mmの厚さのジンクの盾が抜けないのは納得いかない。


「ん~、それは少し違うのよ。アイアンちゃんの砲弾が強いから、一発で半壊してるのだと思うの。でも、ジンク君の防御魔法が上手くなっているのも事実なのよ。さっきジンク君は、ぴかぴか弾の着弾の瞬間にかなりの魔力を使って一瞬だけ防御力を大幅に上昇させる技を使っていたの。アイアンちゃんのぴかぴか弾が貫通できなかったのは、そのせいね」


 なるほど。俺のぴかぴか弾による砲撃が、普通の金属強化魔法だけじゃなく、炎の魔法も使って威力を増しているのに対抗して、ジンクはジンクで普通の金属強化魔法以上の強化を盾に施していたってことか。


「よし、母ちゃん。ジンクの武装ゴーレム撃破のために、もっと強い技の特訓をするぜ! んっじゃあ、改めて。えいえい」

「「お~!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る