第78話 秘密の特訓だぜ!

 俺と母ちゃんは早速秘密の特訓を開始する。奥ではジンクとラピおばちゃんも特訓中だけど、気分は秘密の特訓だ!


「なあ母ちゃん、どんなことを特訓すればいいのかな? 今の方向性でぴかぴか弾を強化するのはもう無理だよな?」


 正直俺にはもうどうすれば強くなるのかわかんない。ぴかぴか弾をもっと強化できればいいんだけど、その方法がさっぱりだ。


 この世界で攻撃力や防御力にもっとも影響があるのは魔力なんだよな。地球では砲弾の貫通力と言えば速さと質量が重要だったし、それに対抗する装甲は、硬さや厚さ、粘り強さなんかが重要だった。でも、この世界ではそれ以上にどれだけ多くの魔力を込めれるかが重要っぽいんだ。


 そして、魔力をたくさん込めるという意味で、炎金属融合魔法魔法は凄く優秀な魔法技術、のはずだ! だから、ぴかぴか弾の保有魔力は、単独の属性魔法よりもかなり高い、はずなんだけど、ジンクに負けた・・・・・・。


 一応遠距離攻撃特有の欠点がないわけじゃない。魔力っていうのは俺達の体がもっている力だから、術者である俺から離れれば離れるほど、離れている時間が長ければ長いほど魔法の威力は落ちる。でも、ぴかぴか弾は圧倒的な弾速と、込めた魔力を散りにくくする工夫で、その手の弱点もそこまでないはずだったんだけどな。


「そうなのよね。アイアンちゃんは日々ぴかぴか弾の威力アップに力を入れてるし、順当な方法でぴかぴか弾を大幅に強化する方法はないのよね」

「ジンクのやっていたような、瞬間的に強化する方法ってのは使えないのかな? 幸いぴかぴか弾の弾速は速いから、瞬間的に強化した瞬間に撃ちだせば、強化がきれる前に相手に当たらないかな?」

「それはすでにアイアンちゃんは使っているの」

「そうなの?」

「ほら、ぴかぴか弾って、弾芯に炎金属融合魔法をかけるけど、すぐに拡散しちゃうからって、弾体に弾芯の炎金属融合魔法が拡散しないような細工をしているでしょう? こういった急激な魔力拡散が起こるのは、一時強化の特徴なの」

「なるほど、つまり俺の炎金属融合魔法はすでにジンクのやってたことをやってたってわけか。じゃあさ、俺もジンクみたいに金属魔法は金属魔法で一時強化をして、炎魔法は炎魔法で一時強化をしてから融合させれば、今より強くなるってこと?」

「それをアイアンちゃんはすでにやっているのよ」

「そうなの?」

「そうなのよ。要するに魔力をいっぱい込めればいいって考えなのだけど。例えとして適切かわかんないのだけど、例えば、密度の高いお水を作ろうとしたときに、どうしたらいいと思う?」

「密度の高い水? う~ん、塩水にするとか?」

「その通りなの。もともとお水があって、そこにお塩というものを加えて水とお塩を合体させた塩水を作れば、密度はあがるのよ。これはアイアンちゃんの魔法で言うなら、金属に炎の魔力を混ぜる、炎金属融合魔法ってことなの」

「ふむふむ」

「それに対してジンク君のやったことは、水に圧力を開けて力づくで圧力を上げるやり方なの。じゃあ、一番いいのはって言われたら、お塩を増やして圧力も上げるってことをすればいいんだけど、これはアイアンちゃんがぴかぴか弾の火力を増す時にやっているのよ」

「なるほど、最初に圧力を加えるのと、後から圧力を上げるのじゃ、結果はかわんないってことか~。だとしたらこれ以上ぴかぴか弾の火力を上げるには、普通に訓練して込めれる魔力を増すしかないってこと?」

「そういうことなの。だから、ジンク君が一時強化出来るようになったってことは、言い方を変えれば、ジンク君の防御力がアイアンちゃんの攻撃力に追いついてきたっていう感じなの」


 むむむむむむむ、そういう見方も確かに出来る、のか? でもダメだ、俺はもっと上に、先に行くんだ!


「ちなみに母ちゃん、順当じゃない方法だったら、どんな方法があるの?」

「一番わかりやすくて簡単な方法だと、ぴかぴか弾の素材を変えて、ヒポドラゴンの牙あたりの粉末を混ぜた合金を弾芯に使っちゃうとかなの」


 炎金属融合魔法も、ベースはあくまでも強化魔法だ。確かに弾芯が強い素材になれば威力も上がりそうだけど、素材変更はジンクに負けた気がするからやりたくない。それに、ヒポドラゴンの牙なんて絶対値段が高い。却下だ。


「母ちゃん、悪いけど材質変更は無しで、だってヒポドラゴンの牙とか高そうだし」

「確かに値段はそうなの。でも、それだと地道に努力する以外で火力の増強は難しいの。う~ん、そうなの。いっそのこと接近戦でもジンク君の武装ゴーレムに勝てるように、2号君の機動力関連の強化がいいのかも!」

「接近戦でも勝てるように?」


 それは魅力的な提案だけど、常識的には戦車という乗り物は近距離での戦いは弱い。それこそ接近戦では歩兵すら怖いからって、対人地雷を改造したものを発射する装置なんてものが付いている戦車があったほどだ。それで、その戦車で接近戦するの!?


「実は前にアイアンちゃんも一度やってたんだけどね。それをアレンジすると、こんなかんじになるのよ」


 そういって母ちゃんは2号君に乗り込む。そして、2号君でジャンプして見せた。


「どうかしら?」

「今のは、サスペンションの伸び縮みでジャンプしたの?」

「そうなの! 昔アイアンちゃんもやろうとしてたでしょ?」

「うん、でも、油圧サスペンションをどんなに頑張って動かしても、ジャンプなんて出来ないよ?」

「油圧サスペンションの動作でやったわけじゃないのよ。これは金属加工魔法をつかって、金属を曲げ伸ばしして強引にパワーを生んだの! やろうと思えばこんな感じで動けるのよ」


 母ちゃんは2号君でサイドステップを踏んだり、回転ジャンプをして見せたりする。よく見るとサスペンションだけじゃない、車体までグネグネ動いている。なるほど、いろいろな箇所の金属を自由自在に曲げて力を生んでいるのか!


 その後も高速で走行しながらアクロバティックな動きをしたり、戦車の主砲で剣の素振りみたいなことまでしだす。


 おお~、すげえ。でも、確かにこれなら接近戦でも余裕でこなせるな!


「どうなのかしら?」

「すげえ、すっげえよこれ! で、でもさ。理論的にはわかるけど、金属加工魔法をそんな風に使うには、すんごい魔力が必要じゃないの?」

「それが最大の欠点なんだけど、アイアンちゃんなら戦車になればいいのよ!」

「俺が、戦車に?」

「そうなの! お婆ちゃんから聞いたんだけど、アイアンちゃん、ヒポドラゴンの魔力を真似て、ヒポドラゴンの筋肉を動かしたのよね?」

「ああ」

「なら、もういっそのこと戦車になっちゃえばいいの。戦車になっちゃえば、動かすのはかなり楽になるはずなのよ!」

「待ってくれ母ちゃん。戦車になるって、どういうことなんだ?」

「アイアンちゃんが得意な魔法の中に、回復魔法があるでしょ?」

「うん」

「回復魔法っていうのは、命の魔力を自在に操る魔法の一種なの。つまりアイアンちゃんの命の魔力を、戦車を作ってる金属の魔力と一体化させちゃえばいいのよ」

「それって、スライムが命の魔力と水の魔力の融合生物なのと一緒みたいな感じってこと? 危険じゃないの?」

「そこまで極端じゃなくていいの。例えばこんな感じなの」


 母ちゃんはそう言うと2号君から降りて、地面の土に魔力を流す。するとその土は母ちゃんにまとわりつき、母ちゃん、イン、クレイゴーレムになった。


「それでね、土の魔力に身体強化魔法や回復魔法といった、命の魔力を混ぜてあげると、普段よりも少ない魔力で動かせるようになるのよ」

「なるほど」

「この系統の技は無意識に使っている人も多いの。例えば剣や槍を使っている戦士の中にも、この武器はまるで自分の手足の延長のように扱いやすいなんて言っている人がいるけど、そういう人は大抵、武器を強化する魔法の中に身体強化魔法みたいな、自分の命の魔力も少し混ざってて、その自分の命の魔力との相性の良しあしで武器が使いやすい使いにくい言っていたりすることもあるの」

「ふむふむ」

「武器には鍛冶師さんの魔力がどうしても多少宿るから、武器の相性というよりは鍛冶師さんとの相性っていうケースもあるし、魔物素材なんかを使っていると、その素材になった魔物との相性だったってケースもあるの。あとは、長年使っている愛用の武器なんかだと、自分の魔力に武器が染まってきて、どんどん相性が良くなる、なんてケースもあるのよ」

「そっか、じゃあつまり、俺が作って今まで使っていた2号君は、俺との相性抜群かもってことか!」

「そうなの!」

「例えば土魔法を使うときに畑の土が使いやすいと思うのも、私やアイアンちゃんが日々のお世話で畑の土に魔力での干渉をいっぱいしているせいともいえるの」

「ほうほう、分かってきた気がするぜ!」

「ただ、一つだけ欠点というか、注意点があるの」

「注意点?」

「私のゴーレムや、アイアンちゃんが昨日言っていたパパラチアさんの武装ゴーレムなんかは、多少いびつな形とはいえ、大まかには人型だから身体強化魔法での制御も出来ないこともないのだけれど、2号君は非人型なの。だから、身体強化魔法での制御は難しいのよ。でも、アイアンちゃんには回復魔法があるの。回復魔法は身体強化魔法よりもより複雑に命の魔力を制御できる魔法だから、きっとうまくやれば凄い成果が出るはずなのよ!」

「おお~!」


 そっか、俺が戦車になるのか、くう~、楽しそうじゃねえか! やってやるぜ! 俺は、戦車になるんだぜ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る