第79話 俺が戦車だぜ!

 俺は2号君に乗り込み、早速試してみる。


「おっしゃあ! 早速試してみるぜ!」

「ファイトなのアイアンちゃん! イメージとしては石鹸なの、界面活性剤なの。本来、極性分子である水と、非極性分子である油は混ざらないの。それは私達ドワーフの命の魔力と、2号君の金属の魔力が混ざり合わないのと同じなの。でも、水と油が、両方の性質を持つ界面活性剤のおかげで混ざり合うように。その本来混ざり合わない命の魔力と金属の魔力を、アイアンちゃんの命と金属の融合魔法で繋げるのよ!」


 なんとなくだが、手の周辺は成功しているっぽい。ただ金属を触っているのとはまるで違う感触が俺の手にある。だけど、そこだけだ。2号君全体にはまったく魔力がいきわたってない。


「いい感じなのよ、アイアンちゃん。そこまではぴかぴか弾に使ってる炎金属融合魔法と同じだから簡単に出来ると思ってたの。でも、ここからが正念場なの。普通の魔法は、対象に対して魔力を与えるか、自分自身に使うかなんだけど、この魔法は自分自身を対象に対して拡張する必要があるの。でも、武装ゴーレムを作ったこともあって、身近で見ていたアイアンちゃんなら、その感覚がわかるはずなの」


 待ってくれ母ちゃん。ジンクの武装ゴーレム作りには確かに協力した。でも、俺が作ったのは外装がメインで、操作系なんかの難しい部分は全部父ちゃん任せだったんだよ。肝心な部分がわかんねえ!


「っと思ったけど、今のは無しなの。アイアンちゃんは内部構造しらないかもなの」


 その通りだぜ!


「でも、イメージとしてはわかると思うの。ジンク君やパパラチアさんが武装ゴーレムを自在に動かせるのは、自分自身の感覚を武装ゴーレムそのものにまで拡張しているからなの。あの二人が、モニターに映った画面を見て、対象まで何m、武装ゴーレムの腕が何mで剣が何m、だから何m分踏み込んで剣を振れば攻撃が当たる。なんてやっていると思う? 絶対やってないの。そこは自分自身の感覚を武装ゴーレムにまで拡張して、本能的にやっているはずなの!」


 なるほど、パーソナルスペースの拡張とかいうやつか? 


「アイアンちゃんだって、2号君を運転してるとき、見えてなくても2号君のサイズとか、キャタピラの位置とか、なんとなくわかるでしょ? あれなのよ!」 


 う~む、わかるようなわかんないようなだな。俺の感覚だと、2号君の砲塔はこのくらいの大きさだ。そんで、主砲はこのくらいだったよな。


 そんなことを考えていると、少しづつ俺の魔力が砲塔に流れ込んでいく。すると、自分の体の大きさが、なんとなくわかるように、2号君の大きさが把握できるようになっていく。おお~、凄いなこれ! 砲塔の大きさ、大砲の大きさなんかがまさに自分の体の一部のように手に取るようにわかる。


「アイアンちゃん、上手なの。その調子なのよ!」


 うおっしゃ、今度はこのまま車体も把握するぜ。って思ったんだけど。


「ぷはあ! ダメだ。ちょっと疲れたぜ」

「でも、いい感じだったのよ!」

「おう!」

「魔力消費はどうだったのかしら?」

「大丈夫だ。集中力はすげえいるけど、魔力消費は今のところ大したことないな。まあ、動かして見てどうなるかが気になるところだけどな」

「集中力が必要なのに関しては、今は初めてだったから仕方ないの。慣れてくればどんどん意識せずにできるはずなの。それにしても、最初からここまで出来るなんて、流石アイアンちゃんなの。この調子だと、すぐに使いこなせるようになるはずなの!」

「うし! 本番までに最低限使えるように特訓だぜ!」

「おお~!」


 その後、俺はお昼までたっぷり特訓した。集中していると時間が過ぎるのが早いな。あっという間にお昼になっちまったぜ。俺達はご飯を食べに婆ちゃんの家に戻る。ラピおばちゃんの両親は今日も仕事で学校なので、ジンク達も一緒だ。


「母さん、タング君のご両親はいつ来るの?」

「2人はバトル大会の前日に来る予定になっているわよ。あと、ガリウム君のご両親もね」

「ジンク」

「ああ。こりゃあバトル大会は余計に気合が入るな!」

「だな!」


 ここ、セントラルシティーは母ちゃんとラピおばちゃんの故郷なんだが、父ちゃんとガリウムのおっちゃんの故郷も比較的近い。父ちゃん達の故郷は、セントラルシティーから南西方向、王都とセントラルシティーの中間にあるらしいんだ。そこで父ちゃんの両親は鍛冶屋を、ガリウムのおっちゃんの両親は木工店をやっているんだそうだ。


 ただ、いくら近いとはいえ、4人ともそれぞれ仕事を持っているから、そんな簡単にセントラルシティーまで出てこれないらしくて、これまで出て来てなかったんだけど、そっか、バトル大会に合わせてこっちに来るのか。


「そういや、バトル大会っていつになるんだ?」

「三日後だ」

「三日か、ちょっと時間が足りない気もするが、それまでに新技を仕上げないとな!」

「そういや、アイアンもなにかしてたな。まあ、俺もその予定だ」

「よし、俺は午後も引き続き特訓するんだぜ!」

「俺もだ!」

「じゃあ、行くか!」

「おう!」

「2人ともちょっと待ちなさい。やる気があるのはいいことだけど、この書類を書いてからだよ」


 俺とジンクがご飯を食べ終えて飛び出そうとすると、ラピおばちゃんが止めてくる。


「母さん、この紙は?」

「バトル大会への参加用紙よ。当日の飛込でも問題ないと思うけど、事前に参加受付を済ませておけば、そのほうが楽だからね、今書いちゃいなさい。そうしたら午後に申込みしてくるから」

「「は~い」」


 俺とジンクは申込用紙に記入する。


 え~っと、記入項目は、名前、アイアンオア=スミス。年齢、7歳。住所、え~っと、セントラルシティー以外の街って項目があるから、これだな。参加部門、未就学児部門。戦い方、戦い方? 戦車でいいのかな?


「ラピおばちゃん、この戦い方の欄って、戦車でいいのかな?」

「アイアン君の場合は戦闘用魔道自動車になるのかな? まあ、そう書いておいてくれればいいわ。受付の時に確認するから」

「は~い」


 んじゃ、戦闘用魔道自動車っと。あとは、未成年の場合は保護者同意欄か。ここは母ちゃんが書くところだな。


「母ちゃん、保護者同意欄書いてくれ」

「まっかせなさいなの」


 母ちゃんがさらさらと書いてくれる。


「これで終わりかな?」

「そうね、二人とも行っていいわよ。あ、エメラはちゃんとついててあげてね」

「「「は~い」」」


 俺とジンク、それと母ちゃんは、午後も街の外の実験場へと移動して、特訓を行う。見てろよ、絶対に本番までにこの新しい技をものにしてやるぜ!



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