第30話 ジンクとお出かけ4だぜ!

 ラピおばちゃんは岩に登ると言って、ジンクの武装ゴーレムの肩に戻っていった。そして、ジンクの武装ゴーレムが岩に向かって歩き出す。なるほど、あの岩か。ジンクの向かう先には、高さ10mくらいのある大きな岩があった。


「さ、ジンク、これに登って上から探そう」

「わかったぜ母さん」


 ジンクは、ジンクの武装ゴーレムの背中のバックパックから、なにやら装備を取り出し始めた。取り出したのは、ピッケルととげとげの靴か。まさか、あの大岩に武装ゴーレムで登ろうっていうのか?


「母さん、準備完了だ」

「じゃあ、登りましょう。いい、ピッケルを刺したら、武装ゴーレムの重量を加える前に、岩を土魔法で強化するんだよ。じゃないと武装ゴーレムの重さで岩が崩れる可能性があるからね」

「モンスターの領域にある木や岩は、結構頑丈って聞いたんだけど、岩を強化しないとまずいの?」

「ん~、ここはまだ周囲のモンスターがそこまで強くないからね。念のためよ」

「わかった」


 そしてジンクは一歩ずつ確実に登っていく。


「アイアンはそこで待ってな。俺と母さんがばっちり探してやるからよ。2号君じゃ登れないだろ?」

「むうう!」


 野郎、俺の2号君が岩を登れないだと? 馬鹿にするんじゃねえ! 俺は2号君のアクティブサスペンションを目いっぱい縮めると、全力で伸ばした。


 ぐい~ん!


「アイアンちゃん? なにしてるの?」

「ジャンプしようと思って」

「アクティブサスペンションは、そんなことまでは流石に出来ないわよ?」

「うん、そうみたい」


 く、俺も頭ではわかってたんだよ。アクティブサスペンションでジャンプできないことくらい。でもさ、悔しいじゃん。腕が無いから岩に登れない? 足が無いから岩に登れない? 否、断じて否だ。俺の想像力が足りないから登れないだけだ。2号君を信じろ、お前の自信作だろ? アイアンオア!


「そうだわ、いいこと思いついちゃった」

「いいこと?」

「いい、アイアンちゃん。悔しいけど、腕も足もない2号君では岩登りは出来ないわ。アクティブサスペンションでのジャンプも無理よ。でもね、2号君は100キロもでるのよ。飛べると思わない?」


 そうか、その手があったか。2号君の最高速度は時速100キロメートルもあるんだ。ジャンプ台を作れば、飛ぼうと思って飛べないわけないじゃないか。ましてや岩はたかが10mだ。いける、これはいける!


「流石母ちゃんだぜ! 超ナイスアイデアだ!」

「でしょ~」


 俺は即座に計算を開始する。勉強は基本嫌いだが、数学はそこそこ出来るんだ。なぜって? だって大砲を使う以上、弾道計算は必須だろ?


 っと、脱線するのはよくないな。まず、2号君の最高速度は時速100キロメートルだ。時速だと計算しづらいな。秒速に直すと大体28mだな。ジャンプ台の最後、発射時の角度を45度にすると、ルート2は、ひとよひとよにひとみごろ、だから、まあ、1、4でいいや。つまり、上方向に大体秒速20mの初速ってわけか。んで、あとはジャンプの最高到達地点とそこにかかる時間がわかればいいな。え~っと、重力加速度は、9、8m毎秒毎秒だったけど、そもそもここ地球じゃないしな、わからんぞ? まあ、いいや、面倒だし、10m毎秒毎秒で計算すればいいな。とすると、ジャンプの最高地点はだいたい20mで、ジャンプして2秒後にそこにたどり着くわけね。ってことは、水平方向も秒速20mだから、60mくらい離れて飛べばいいのかな? だめだ、岩の隅に着地してもまずいし、岩の上はそこそこ広いからな、40mくらいのところでいいか。よし、完璧だ。空気抵抗とか入ってないけど、まあ、何とかなるでしょ。


「おっしゃあ、母ちゃん、飛ぶぜ! まずはジャンプ台だ!」

「お~!」


 俺は岩から大体40mくらい離れた位置に、土魔法でジャンプ台を作り上げる。距離感は、ちょっと適当だけど、たぶん大丈夫だろ。ジャンプ台の高さは10mくらい、徐々に角度がきつくなる関係上、思ったよりでかくなったな。でも、ここの土、モンスターの領域だけあって自然界の魔力が豊富だな。最初こそ操りにくかったけど、魔力が高い分強度があるから、ジャンプ台の強化に魔力を使わなくていいから、かえって楽かもしれないな。


 ち、ジンクのやつはもう登り終えたか。まあいい、見せてやるぜ。2号君の本気ってやつをな!


「なあ母さん。アイアン達は何やってるんだ? 土遊びってわけじゃないよな?」

「なんか、嫌な予感しかしないわ」


 ん? ジンク達がこっち見てるっぽいな。まあいい、度肝を抜いてやるぜ!


「いくぜ母ちゃん!」

「いつでもいいわよ!」


 2号君が全力で走り出す。オフロードゆえにサスペンションがみしみしと仕事をしながらもどんどん加速する。そして、最高速に到達し、そのままの勢いでジャンプ台に突っ込む。


「はっはっは~!」

「あっはっは~!」


 2号君は空を飛ぶ、俺と母ちゃんを乗せて。一面の草原の中を走らせるのも楽しいが、こうやって飛ぶのもまた、実にいい! だけど、気づいた。明らかに高度が高い。これ、完全に大岩を飛び越えるぞ! そして、上昇中は良かったものの、下降時が結構怖い!


「うわああああ!」

「きゃあ~!」


 やばいやばいやばい、どう考えても飛びすぎてる。だが、俺は冷静に2号君にいつもより強めの金属強化魔法をかけると同時に、ゴム製のクローラーにも強化魔法をかける。ゴムって高分子だからな。身体強化魔法の中の、身体硬化系の魔法みたいなので簡単に強化できるんだぜ。


 そして2号君は見事に墜落した。まあ、俺も母ちゃんも2号君も無事だぜ。自然落下で怪我するほど、ぬるい身体強化じゃないしな。でも、せっかくクローラーまで強化したのに、2号君が落ちたのは正面からだった。見事に大砲が地面に刺さってる。2号君は車体が小さい分、象さんみたいに大砲が飛び出てるから。フロントヘビーなんだよな。


「ふっ、くふふ」

「ふふ、ふふふ」


 そんな俺たちを見て笑いながら近づいてくる親子がいた。くそ、思いっきりジンク達に見られてたぜ。


「あっはっは、アイアンお前。どう考えても飛びすぎだろうが」

「こら、ジンク、笑っちゃダメよ。ふ、アイアン君だってがんばって一緒に岩から索敵しようとしてたんだからね。ぷふっ」


 くそ、ラピおばちゃんめ、笑いを堪え切れてないぞ。


「まあ、そう睨むなって、今助けてやるからよ」


 ジンクはそう言うと武装ゴーレムを使って2号君を引っこ抜いてくれた。


「ちっ、礼は言っとくぜ」

「にしてもよ。何であんなに飛んだんだ?」

「う~ん。確かにちょっと飛びすぎだったんだよな。でも、なんでだろう。う~ん・・・・・・。そうか、わかったぞ! ジャンプ台の高さを計算に入れてなかったんだな。だからジャンプ台の高さの10m分、予定より高く飛んじまったようだな」

「ふ~ん、でもよ。高さ10mあったんだよな? あのジャンプ台」

「ああ」

「だったらさ、わざわざジャンプなんてしなくても、普通に岩にスロープかけて登ってくればよかったんじゃないか?」


 なんだと!? 確かにその通りだ。完全に盲点だったぜ!


「おいおい、まさか気づかなかったのか?」


 ぐう、おのれジンクめ。そうさ気づかなかったさ。何か文句でもあるのかよ!


「おいおい、そんなに睨むなよ。笑って悪かったな」

「慰められるのも、それはそれで辛い」

「じゃあどうしろと!?」

「俺もわかんない」

「ああ、さようで」


 ちなみにお目当ての巨大な牛モンスターは、ジンク達が発見してくれていたようだ。なんでも、マジでデカイからすぐに見つかったんだとか。



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