第31話 ジンクとお出かけ5だぜ!

 さて、気を取り直して狩りの再開だぜ! でも、その前にちょっとやることが出来ちゃった。2号君のチェックとお掃除だ。砲身から地面に刺さっちゃったからな、砲身の中が土まみれだぜ。俺は水魔法を駆使して砲身の中の土をかきだし、砲身をきれいにする。それと一応モニターで異常が無いかチェックする。ふむふむ、地球で同じことをやってたら、まず間違い無く砲身か砲身の付け根に異常が出て、使い物にならなくなってたところだが、流石は金属強化魔法だな。まったく異常なしだ。


「アイアンちゃん、どう~? 異常はない?」

「ああ、母ちゃん。なんの異常も無いぜ。システムオールグリーンだ!」

「なら安心ね! じゃあ、ジンク君とラピちゃんを待たせてることだし、行きましょうか」

「おう!」


 俺は2号君でジンクの武装ゴーレムの後を付いていく。すると、目の前にちょっと大きめな岩みたいなものが現れる。なにかな~っと見ていると、それがもぞもぞと動き出した。なに? まさかあれがターゲットだっていうのか?


「ん~、ぎりぎりのサイズね。肩高5m、体長10mいっててくれるとあり難いんだけど」

「え? ぎりぎりのサイズ?」


 聞き間違えか? 肩高5m、体長10mなんて、象よりでかいじゃん。十分すぎる怪物だろ。


「そうよ。牛モンスターはね。体長10mあたりを境に、モンスターとしてのランクが変わるのよ。10m以上だと下から4番目のことが多くて、それ以下だと3番目のことが多いわね」

「些細な差に思えるんだけど」

「それがぜんぜん違うのよ。4番目だと魔法を使って攻撃してくるの。ぎりぎりのサイズだから、ちょっと挑発して、魔法を使うか確かめてみましょうか。魔法を使わなかったら3番目だから、スルーね」

「ジンク達に確認していい?」

「ええ、もちろんよ」


 俺が無線で連絡を取ろうとすると、ジンクのほうからかかってきた。


「アイアンか?」

「おう」

「母さんが、あの牛がランク3か4か大きさが微妙で判断付かないから、アクティブレーダーで挑発してほしいってよ」

「わかったぜ! こっちでも丁度母ちゃんとその話をしてたんだよ」

「なら丁度いいな。やってくれ!」

「おうよ!」


 俺はアクティブレーダーを起動させると、牛モンスターに対して魔力を放出する。まあ、可視光が出るわけでも、音が鳴るわけでもないから静かなものだ。でも、モニターには、ばっちり正面1キロメートルくらいの位置に、牛モンスターがいると表示された。


「アイアンちゃん、ついでに周辺も探って頂戴。周囲に人がいるかも確認したいわ」

「わかったぜ!」


 俺は牛モンスターの周囲も捜索するが、どうやらこの1匹だけのようだ。


「あの1匹だけしか反応は無いな。近くには他の牛モンスターもいないし、ハンターもいないぜ」

「ありがとう、わかったわ」

「そうだ母ちゃん、草食の生き物って、群れを作るイメージがあるんだけど、ここの牛モンスター達は群れないのか?」

「あら、群れてる牛モンスター達もいたわよ。ただ、群れはメスと子供だけのケースが多いから、オスは単独でいることが多いのよね」

「ってことはあれもオスの可能性が高いのか」

「ええ、そういうことね。それにしてもアクティブレーダーで挑発してるのに、反応しないわね。はずれかしら? アイアンちゃん、もっと出力上げちゃって」

「了解だぜ!」


 俺はアクティブレーダーにどんどん魔力を投入していくと、ついに牛モンスターのイライラも限界に達したようだ。思いっきり怒り始めた。


「ぶもおおおおおお!」

「お、怒ったみたいだな」

「ええ、これはあたりかもしれないわね!」


 牛モンスターは俺たちの方に顔を向けると、2本の角に魔力を集中させ始めた。


「アイアンちゃん。大当たりよ! 気をつけて、攻撃魔法が飛んでくるわよ!」

「ジンク、あんたも気をつけな!」

「「おう!」」


 戦闘中は面倒だから無線をオープンにしておく。これでお互いの状況がリアルタイムでわかるってもんだ。ん? 普段はしないのかって? 普段はオープンにしないぜ。だって、移動中の俺と母ちゃんは、基本的にお菓子のやり取りをしてるだけだからな。


 ジンクの武装ゴーレムは盾を構え、その後ろに隠れるも、足は止めずに走り続ける。ターゲットまで1キロ弱、ジンクの場合接近戦をするしかないからな。一方の俺は正面装甲に大目の魔力を流して、かなりきつめの金属強化魔法をかける。それと同時に魔法大砲の発射用意だ。


「ダメよ。あのタメの長さの攻撃は受けきれないわ。受けずに避けて!」

「ジンク、盾を構えるのはいいが、受けるんじゃないよ!」


 牛モンスターは角を地面に突き刺すと、巨大な2本の土の矢を作り出す。そして、それを俺たち目掛けて撃ちこんできた。


 でかい! 矢っていうよりも槍? いやバリスタか? ううん違うな、そんなサイズじゃない。ありゃあ電柱並みのでかさだ。


 だが、幸いにも弾速はあんまり出ていない。当然直射ではなく、曲射だ。これは楽に避けれそうだ。


「だめよ。思いっきり逃げて!」

「ジンク、全力でよけな!」


 母ちゃんとラピおばちゃんが俺とジンクにそれぞれ指示をだす。俺とジンクは言われたとおりにかなり大げさな逃げ方をする。すると、土の電柱が地面に着弾した瞬間、着弾地点周辺から土の槍が無数に飛び出した。


 バックモニター越しにそれを確認した俺は、思わず聞いてしまう。


「なんだありゃあ!?」

「今みたいなゆるい攻撃は普通範囲攻撃よ。直撃は無理でしょう?」

「そういうこと。ジンクもわかったかい?」

「「おう!」」


 なるほど、地球の大砲でも、初速が低くて大きな放物線を画くような攻撃は、基本範囲攻撃だったな。ちっ、すっかり失念してたぜ。おまけにあれ、当たってたら、無傷ってわけにはいかない威力だったな。


「ほら、相手をちゃんと見な。次くるよ!」


 牛モンスターは再度角に魔力を集めると、2本の角を地面に突き刺した。すると今度は、周囲の地面を操り、巨大な土の塊が出来上がる。そしてそれを、俺たち目掛けて発射した。


 巨大な土の塊は、結構な速度で転がってくるが、さっきよりもだいぶ遅い。これは避けるのも楽そうだ。と思っていたら。


「アイアンちゃん。FCS起動、魔法大砲発射用意! 迎撃するわよ!」

「わかったぜ!」

「あの攻撃は気をつけてね。速度は遅いけど、モンスターと魔力線でつながっているわ。だから、避けてもずっと追いかけてくるわよ」

「そうなのか?」

「ええ、落ち着いてよく見えれば、私やアイアンちゃんがゴーレムを動かす時に使うような、細い魔力のつながりが見える、いえ、感じ取れるはずよ」

「なるほど。うう~ん。むう、これかな? うん、わかる気がするぜ! もしかして、岩の陰で牛モンスターも走って接近してる?」

「大正解! 花○よ!」

「よしっ!」


 俺は炎金融合魔法を使い、先ほどから撃とうとしていた魔法大砲の発射準備を終えると、巨大な土の塊に照準を合わせる。そしてレーザーによる距離角度測定を行い、スコープに仰角補正位置を表示させる。自動で狙ってくれたりはしないものの、このFCSは結構な優れものなんだぜ。通常の大砲であれば、距離と角度さえわかれば、仰角がわかるが、魔法大砲の場合、それに加えて火薬に込めた魔力の量で初速が変わる。そのため、それを考慮しないといけないのだが、それをぜ~んぶ自動でやって、スコープ上に補正位置を表示してるが、このFCSってわけだ。そうそうFCSはファイアーコントロールシステムの略で、日本語だといろいろな呼び方があるけど、火器管制システムとか言われてるやつのことだ。


「距離612、照準よし、撃つ!」


 ぼっふ~ん!


 俺の初弾は見事に土の塊に命中する。使った砲弾はもちろんAPCRだ。


「初弾命中確認! ターゲットは、無事に撃破ね!」

「おっしゃあ!」


 俺の撃った初弾は見事に土の塊を破壊した。だが、そこで完全に威力を失ったようだ。後ろを走る牛モンスターにはかすり傷1つ付けれていない。牛モンスターはどんどん接近しながら、さらに魔法を使ってくる。


「また何か来るわ。気をつけて!」

「ジンク、油断するんじゃないよ!」


 牛モンスターは再度角に魔力を集めると、今度は高速で、しかも大量の土の矢を飛ばしてくる。ちい、さっきのよりも魔力のタメが少なく発動が早い!


「アイアンちゃん、前面装甲に強化魔法!」

「おう!」

「ジンク、盾でガード!」

「わかった!」


 くう、戦車に乗った状態で初めて遠距離攻撃を食らったけど、ガンガンガンガンすげえうるさい上に、結構衝撃があって怖いな。これ。


「アイアンちゃん、次弾装填! この程度の攻撃なら前面装甲で十分防げるわ。接近前にもう1発撃ち込むわよ!」

「了解だぜ!」

「ジンクは前に出な! アイアン君の砲弾が着弾しだい、切りかかるよ!」


 その間も牛モンスターはどんどん接近してくる。俺は焦ることなくローダーゴーレムに次のAPCRを装填してもらうと、再度炎金融合魔法をかけて発射準備を整える。


「母ちゃん、撃つぜ!」

「ええ、いいわ!」

「距離356、照準よし、撃つ!」


 ぼっふ~ん!


 狙いはもちろん頭だ。というか、角をこちらに向けて走ってる牛モンスターの正面には、そこ以外撃つ場所が無かった。足は動いてるし、ちょっと細いからな。うし、命中だな。悪いなジンク、お前の初陣だけど、これで終わりだぜ!


「よっしゃ、あたったな」


 倒したかな? さっきまでの土の矢の連射が止まったぜ! あれ? ちゃんと当たったよな? 4番目なら、撃ちぬけるはずじゃないの? なんでお構い無しに走ってくるんだよ!


「アイアンちゃん、牛モンスターの正面から退避、距離を取って。それからもう1発装填ね!」

「おう!」


「ぶもおおおおお!」


 うげ、よく見ると頭から血を出しながら、普通に走ってきてんじゃん。なんだこいつ、頑丈すぎねえか?


 だだだだだだだだだ!


 おっと、ジンクが俺と牛モンスターの間に入って、肩の機関銃を撃ち始めたか。


「きやがれ牛野郎! お前の相手はこの俺だ!」


 なるほど、俺と牛モンスターの間に入っただけじゃなく、さらに機関銃で挑発して引き寄せようってわけね。にしても、怪我したところに機関銃の連射とか、なかなかエグいやつだな。だが、その機関銃にムカついたのか、そのまま一直線にジンクに向かって突進していく。さて、それじゃあ俺は、この隙に横方向に撤退だな。


「ジンク、わかってると思うけど、正面から受けるんじゃないよ。特に、あの角に当たったりなんかしたら、簡単に穴をあけられるからね」

「わかってる!」


 ジンクは盾を斜めに構えると、牛の突進にあわせて右に避ける。


 がごごごご!


 鈍い音をたてながらも、盾で上手くボス牛の角をいなしたジンクは、右手の剣で牛モンスターの体に切りつける。だが、あんまり効果はなさそうだな。牛モンスターはそのまま走り過ぎる。


「よし、アイアンちゃん。牛モンスターのお尻に発射よ!」

「わかったぜ! 食らいやがれ~!」


 ぼっふ~ん!


 もうやけだ。こうなりゃ撃って撃って撃ちまくってやる! と思ったら、今度はあっさりお尻を貫通した。


「あれ? 仕留めた?」

「いいえ、まだ生きてるわ。でも、もう勝負ありね。あの怪我ではこれ以上抵抗できないでしょう。まあ、あとはジンク君とラピちゃんにまかせましょうか」

「わかったぜ。それより母ちゃん、なんで1発目の攻撃で倒せなかったんだろ? こないだの的で4番目なら、一撃で穴が開くんじゃないの?」

「あの標的は、あくまでも一般的な身体強化魔法がかかった状態での、モンスターの頑丈さなの。今回は2号君の砲撃の時に、牛モンスターの攻撃が止んだでしょう? アイアンちゃんの魔力の強さを察知して、咄嗟に防御魔法を使ったんだと思うわ。牛モンスターの頭部はもともと頑丈だから、そこにさらに防御魔法を使ったことで、かなり頑丈になってたんだと思うわ。でも、2発目はお尻に撃ったから、そういう防御が出来なかったのよ」

「なるほど、そういうことか~」


 まあ何にせよ。俺たちの初めての狩りは、大成功だな!


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