第32話 ジンクとお出かけ6だぜ!

「じゃあ、帰るための仕度をしなくちゃね」

「おう、俺は弾頭を探してくるかな」

「わかったわ。私はお肉屋さんへの連絡を取ってくるわね」


 さて、今回撃った3発の砲弾は、全部APCRだ。2号君のAPCRには、コアとしてミスリルが10%混じった合金が使われているからな、その部分だけでも回収しないと、経費であっぷあっぷしちゃうぜ。


 砲弾探しなんて大変そうに思うだろ? それが、そうでもないんだぜ。砲弾に魔法を込めて撃つことの欠点に、その魔力の全てが貫通力に生かされるわけじゃないってのがあるんだ。本来だったら攻撃力の低下っていう問題になるわけなんだが、これがいざ砲弾を探すとなると、実に都合がいいんだぜ。なにせその魔力を目指して探せばいいだけだからな、結構楽チンだぜ。ってなわけで、俺はレーダーを見て砲弾を探す。ふう、良かったぜ。どうやら全部そんな遠くまで飛んでっていないようだ。


 ぱたぱたぱた。


 さ~てと、俺が砲弾の元に2号君を走らせると、母ちゃんがなにやら鳥を飛ばしていた。


「母ちゃん、今の鳥って何?」

「今のは紙で作られた、超軽量の鳥ゴーレムよ。大体の方角を指定して飛ばしてあげると、対となるアイテムのところへ勝手に飛んでいくの。今いる場所のメモを書いて街に向けて飛ばしたから、そのうちお肉屋さんの奥さんが荷馬車を引いて取りにくるわ」

「なるほど、便利なんだな。そだ、2号君とジンクの武装ゴーレムに積んであるような無線じゃだめなの?」

「無線は見える範囲、大体300mくらいでしか使えないでしょう?」

「そうなの?」

「2号君やジンク君の武装ゴーレムに搭載されてる魔力無線は、モンスターを刺激しないように、低出力なのよ。だから、近くじゃないと通じないの。高出力のものも無いわけではないのだけれど、扱いが難しくてあまり一般的じゃないのよね」


 魔力無線か。なるほど、地球にあったような電波を使った無線とは違うっぽいな。しかし、紙で出来た鳥型ゴーレムか、まだまだ俺の知らないことも多いな。


 それからほどなく、俺が発射した3発のAPCRの弾は、無事に発見できた。うん、レーダーのおかげで簡単に見つかったな。


 ただ、俺がAPCRを探してあちこちうろうろしてたってのに、肝心の牛モンスターはいまだ健在だ。ジンクのやつ、なにやってんだよ。


「ねえ母ちゃん、ジンクのやつなにやってるんだろ?」

「そうねえ、さくっと止めを刺せばいいとおもうのだけれど、何をしているのかしら? もう少し近づきましょうか、ここだと、無線の範囲外よね」

「わかったぜ」


 一番遠くに転がっていた砲弾は、最初に撃ったやつだった。牛モンスターの土の塊に撃ったやつだな。距離600mちょっとの土の固まりに撃ったから、なんだかんだで650mくらい飛んでたぜ。ちょっと無線の範囲外に出ちゃってたため、ジンクへ近づいていく。


「ざざ・・・・・・、ざ、ざざざ・・・・・・」


 お、やっと音声が入ってきたか。


「ジンク、油断するんじゃないよ!」

「わかってる。まったく、アイアンのやつ、勝手に戦線離脱しやがって」

「そんなこという暇があったら、手を動かす! この状況になった以上、2号君の主砲だと、過剰火力よ。食べれる場所が少なくなっちゃうわ」

「くっそ、絶対後でモンク言ってやる」


 おおっと、まさかのガチバトルの最中だったとは。


「あら、ジンク君苦戦してたのね」

「そうみたいだな」

「あ、アイアンてめえ、どこいってやがった? こっちはめっちゃ苦労してるってのによ」

「砲弾の回収と、お肉屋さんへの連絡だぜ!」

「連絡してくれたんだ。ありがとね」

「いえいえ~」

「ほらジンク、さくっと倒しちゃいなさい」

「あ~、もう! 母さんまで、うおおおおお!」


 そして、ジンクが最後の一太刀を華麗に決めて、無事に牛モンスターに止めを刺した。


「ぜえ、ぜえ。おのれアイアン」

「おお、さすがだなジンク。攻撃箇所が首に集中してるじゃん。やるな!」

「そうだね、ジンク、よくやったよ。2号君に何度も撃たれたら、お肉が台無しだからね」

「そうね、これならお肉屋さんも大喜びよ!」

「ん? そうか? まあ、俺の手にかかればこんなもんだよ! はっはっは! って、そんなおだてに引っかかるか!」


 ちっ、大人しくおだてられてばいいものを。でも、俺も母ちゃんもラピおばちゃんも、そんなジンクはスルーする。


「それじゃあ、後処理をしましょうか」

「後処理? 血抜きか?」

「いいえ、ジンク君、冷やすだけよ。お肉屋さんにそう指示されているの。そうだ、アイアンちゃんやってみる?」

「おう、やってみるぜ。何度くらいでいい?」

「そうねえ、とりあえず周囲を氷で囲ってね。牛モンスターそのものは、凍ってもまずいらしいから、凍らない程度の温度、そうね、5度くらいでいいかしら?」

「そうだね、そのくらいでやってくれ」

「わかったぜ!」


 俺はとりあえず土魔法で牛モンスターを浮かせると、氷魔法で素早く牛モンスターをの四方と底を氷で囲う。そして、空いてる上部から冷気を送って牛モンスターの温度を下げると、氷で蓋をした。


「こんな感じでいい?」

「ええ、十分よ」


 そして、お菓子を食べて、うとうとしながらしばらく待っていると、どかどかどかどかと、馬鹿でかい魔道自動車がやってきた。まるでM1070戦車運搬車みたいな、超ごつい魔道自動車だ。こんなデカイ魔道自動車、はじめてみるぜ。なるほど、この大きさならこの牛モンスターがまるまる乗るな。


「2人とも~、おまたせ~!」

「おう、ラピさん、エメラさん、待たせたな!」


 ジンクによれば、助手席から手を振ってるのが肉屋のおばちゃんで、運転席にいるのが、たぶん肉屋の店主だそうだ。店主のおっちゃんがたぶんなのは、ジンクもチラッとしか見たこと無くて、自信が無いんだと。


「おや、店主まで来たのかい?」

「当たり前だ。いくら戦わないとはいえ、危険地帯に女1人で行かせられるか!」

「エメラ、ここって危険地帯か?」

「う~ん、結構安全な狩場よね?」

「だよねえ」

「あ~、そういう御託はいいんだよ。仕留めたのはそこの氷の中のやつか?」

「そうよ。ランク4の牛モンスターだよ」

「ほほう、大きさはぎりぎりだが、ランク4か。久しぶりに腕が鳴るぜ!」

「ん? そうなの?」

「ああ、俺1人で安全に狩れるのはランク3までが限度だからな。ランク4の牛モンスターは、ハンターどものパーティーに混じって狩るか、ハンターギルドで買って来るかのどちらかだな」

「そうだったんだね」

「まあ、お前ら2人以外にも何人か固定客がいるからな。それでも十分な利益が出るってもんだ。じゃあ、早速状態を見せてもらうぜ、こっち側の氷を開けてもらってもいいか?」

「ああ」


 そう言うとラピおばちゃんは、グーで氷の壁を殴って破壊した。


「お、おう、そういう開け方かよ。まあいい、見るぜ」


 肉屋の店主は氷の箱の中に入っていき、牛モンスターを外から見たり、なにやら魔法をかけたりして検分していく。


「うむ、なかなかいい状態じゃねえか。氷魔法の使い方も上手いな。周囲を氷の壁で囲ったうえで、別口の魔法で牛モンスター自体を冷やしてあるのか。部位にもよるが5~8度程度と十分に冷えてやがる。足の怪我の分の出血はしているが、血もまだたくさん残っていて十分な量がとれそうだな。ふむ、金額はこのくらいでどうだ?」

「そうね、足の分マイナスで氷魔法の分プラスってかんじ?」

「うむ、その通りだ。わし等も運搬に来ておるしな」

「そうね~、まあいいかしら? エメラはどう思う?」


 母ちゃん達は金額交渉のようだ。しかしちょっとびびったな。ちらっと聞こえた金額がはんぱねえ。今食べてるこのお菓子、初代チョコレートの王様、何百万個分だろ? ちなみにこのお菓子、初代と付いているが、2代目とか3代目はいないっぽい。そしてジンクは、金額よりも後処理のほうが気になるようだな。わざわざ武装ゴーレムの背中から顔を出して、肉屋のおばちゃんに聞いていた。俺も興味があるからついでに聞いておこう。


「なあ、肉屋のおばさん、血抜きってしないのか?」

「あら、ジンク君もいたのね。こんにちは。血抜きをするかどうかは、ケースバイケースね」

「そうなんだ。本には狩りのあとすぐ血抜きをしないと、肉がまずくなるって書いてあったから」

「そういうことね。実はね、血は悪者じゃないの、血を使った料理とかもあるくらいだしね。お店で売ってるソーセージの中にも、血を使ったものがあるのよ」

「そうなんだ。俺も食べたことあるかな?」

「そこまではわからないわ。ただ、ラピさんはあまり好きじゃないみたいだから、買っていったことは無いかも知れないわね。もともと万人受けするものじゃないからね。癖もが強いせいで、苦手な人も多いのよ。そうそう、なんで血抜きをするかなんだけど。血ってね、今言ったように食べれるんだけど、ばい菌が繁殖しやすいのよね。ばい菌が繁殖した血はもちろん食べれないし、その血が肉をまずくするの。だから、普通は血抜きをするの。でも、今回みたいに氷魔法を使える人がいるなら、十分に冷やすことで鮮度を維持できるから、血も利用できるのよ」

「なるほど、そういうことか」

「もし氷魔法や水魔法が使える人が側にいなかったら、血抜きをして、水にどぽんって、つけちゃうといいわ。血抜きをしても、解体するまでは完全に血が抜けるわけじゃ無いからね。残った血を洗い流しつつ、ばい菌が繁殖しないように、水で冷やすのがいいらしいの。な~んて、ちょっと語っちゃったけど、私は狩りに出たことはないから、みんな受け売りだけどね」

「ううん、ありがとう!」


 なるほど。まあ、俺は氷魔法使えるから今回のやり方でいいかな。なんて思っていたら、肉屋のおっちゃんが俺とジンクを2度見した。


「なっ、なっ」

「ん? ジンクの顔になんかついてるのかい?」

「何で子供がこんなところに居るんだよ!?」

「なんでって、今日はジンクの初陣だからね。あの武装ゴーレムに乗ったジンクと、あっちの2号君に乗ったアイアン君の2人で、この牛モンスターは仕留めたんだよ。アイアン君ってのは、エメラの息子な」

「そんなこといってるんじゃねえ。お前ら、子供が死んだらどうするつもりだって言ってるんだよ」

「そんなこと万に一つも無いよ。エメラの防御魔法はいくらランク4とはいえ、牛モンスターが簡単に破れるものじゃないし。ピンチになっても、牛モンスターが防御魔法を破る前にあたしとエメラなら余裕で仕留められるよ。実際に、ジンクの盾が少し傷ついただけで、他はほぼ無傷だろ?」

「はあ、まあいい。だが、お前らはちっとは常識を学んだほうがいいぞ」

「失礼しちゃうね。エメラじゃあるまいし、あたしは常識人だよ!」

「ラピちゃん、それはひどくない? 私だって立派な常識人よ!」

「「それはない!」」

「も~!」


 なにやら母ちゃんのプライドが傷ついたようだが、砲弾の回収も終わったし、牛モンスターの引渡しも終わったし、俺たちはまったりと帰ることにした。


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