第33話 ジンクとお出かけ7だぜ!

 どこどこどこどこと、大きな音を立てて肉屋のおっちゃんの魔道自動車が進んでいき、俺たちも一緒になって帰る。肉屋のおっちゃんは荷台で作業をするようで、運転はおばちゃんがしていた。そうそう、2号君やジンクの武装ゴーレムについてる無線は、一般的なもののようで、肉屋のでかい車にもついているから、会話は可能だ。


「アイアンちゃん、今日のお夕飯はなにがいい? ステーキ、しゃぶしゃぶ、焼肉、なんでもいいわよ!」

「ん~、ステーキがいいな!」

「わかったわ!」

「でも、近いうちにシチューもやってほしいな」

「そうね。シチューはアイアンちゃんの大好物だもんね! 今日はもう仕込みの時間が無いからダメだけど、明日はシチューにしましょうね」

「おっしゃあ、やったぜ!」

「ふふふ、アイアンちゃんが初めて狩りをしたお肉だもん、絶対美味しいわよ。ここのお肉屋さんの店主さんは、顔は怖いし愛想もないけど、腕だけは確かなのよ。もっとも、万が一にもアイアンちゃんのお肉をまずくしたりしたら、その時は絶対許さないけどね」

「安心しろ。ここまで完璧に後処理できてるんだ。まずくすることなんざ不可能だ」

「わかってるわ~」


 う~ん、美味しいお肉か、今からだのしみだぜ! でも、肉屋の腕で美味しさが変わるって言うのも、なんかピンとこないな。


「なあ、母ちゃん。肉屋の腕っていうのは、解体の腕前とかそういうことなの?」

「あら、違うわよ。お肉屋さんのお肉を美味しくする腕なのよ」


 ぽか~ん。意味わかんないな。


「はは、坊主にはまだわからんか。まあ、簡単に言うとだな。肉ってのは狩って切って焼いて、ってだけじゃあ、本当の美味しさにはありつけねえんだ。熟成っていってな、狩った後の肉の保存なんかの仕方で、肉の上手さはぜんぜん変わってくる。例えば牛モンスターの肉だと、普通は狩った後5~10日くらいは低温で保存するんだ。狩ったばかりの肉ってのは死後硬直ってのがあるから硬くなるからな」

「あれ? それじゃあ今日明日は食べれない?」

「そこで俺の腕の見せ所ってわけだ。俺の使う、食品加工魔法のな!」

「そんな魔法があるんだ」

「ああ、食品加工魔法にかかれば、熟成なんて思いのままだ。それどころか、普通の熟成じゃあ腐っちまって食えたもんじゃねえような、超長期間熟成相当の加工すら出来るぜ。それに、俺はお得意様の好みは完璧に把握してるからな。もちろんエメラさんの好みもラピさんの好みも完全に把握してるぜ。だから、そこんとこはまかせとけや」

「うん、なんかよくわかんないけど、すげえなおっちゃん!」

「ふ~ん、店主さんが私やラピちゃんの好みを把握してるなんてはじめて聞いたわ。てっきり奥さんだけしか把握して無いのかと思ってたわ」

「ちょ、エメラさん。そこはかっこつけさせてくれよ」

「あら~、嘘はよく無いわよ~」

「ぐうっ」

「なあなあおっちゃん、食品加工魔法ってのを見せてくれよ」

「おう、かまわねえぜ。坊主は魔法の才能が結構あるみたいだし、店に着いたら見せてやるよ」


 そんなこんなで、わいやわいやとちょっと賑やかに俺たちは街へ帰った。


 そして、早速肉屋でおっちゃんに食品加工魔法とやらを見せてもらう。おっちゃんが俺たちの狩った牛モンスターの肉に食品加工魔法をかけると、徐々に肉の色が変化する。


「ふう、これで完成だぜ」

「ふ~ん、さっぱり原理がわかんないぜ。ジンクはわかったか?」

「いや、ぜんぜんだ。アイアンの金属加工魔法もだが、これもよくわかんないな」

「はっはっは、最初はそんなもんだよ。学校に行くようになりゃあ、何を専攻しようがさわりくらいは教わるからな。そのうち出来る様にもなるだろうよ。俺も実際、この魔法を覚えるのには苦労したからな」

「そうなのか。でも、結構いろいろと応用出来そうな、いい魔法だな」

「ああ、俺もアイアンと同じ意見だ」

「まあそうだな。もともとは酒の熟成用に開発された魔法だしな。肉以外でも、パンやチーズ、ヨーグルトといった、発酵が必要な食品なんかじゃあ、よく使われてるな」


 なるほど、酒の熟成用か、確かにドワーフにとっては死活問題だな。


「ま、俺も酒の熟成なんかは出来ないわけじゃないんだが、やっぱ本職連中には負ける。俺が完全な自信を持って出来るのは、肉だけってわけだ。あとはヨーグルトも割りといけるぜ。なにせ娘に食わせるために、ある時期肉以上に研究したからな」

「へ~、そうなんだ。なあ母ちゃん」

「ええ、いいわよ。ヨーグルトも買っていきましょうね」

「やったぜ! ジンクはヨーグルト買わないのか?」

「ああ、俺はいいって言うか、普段から買ってるからな、家の冷蔵庫にまだ何個か入ってるはずだ」

「なるほど」

「よ~っし、熟成肉完成したぜ。ほらよ! どうせなら食べ比べするのも面白いと思ってよ。いろんな部位の肉を少しづつ用意しといたぜ」

「ありがとうだぜ!」


 俺は今日の夕食の分の肉をゲットする! く~、美味そうだぜ。しかも、食べ比べか、なかなかにくいことを言ってくれるじゃねえか。小分けになった肉には、どの部位なのかのメモも付いている。なになに、肩ロース、リブロース、シャトーブリアン、サーロイン、ヒレ、おお~、ステーキの王道の部位が勢ぞろいじゃねえか。くう、やばいぜ。口の中でよだれがとまらねえ!


 それにしても、肉屋って俺、初めて来たけど、いろいろなものが売ってるんだな。特にソーセージは結構美味そうだ。


「ん? こんないい肉を前にして、ソーセージにも興味あるのか?」

「ああ、ソーセージも美味そうだ」

「はっはっは、うれしいこと言ってくれるじゃねえか」

「なあ母ちゃん」

「ふふ、いいわよ。じゃあ一番オーソドックスなソーセージでいいかしら?」

「もちろんだぜ!」


 俺はソーセージもゲットする。う~ん、これはこれで美味そうだ。そのまま食べようか、ホットドックにしようか迷うな。


「そうだ、母さん。血のソーセージってのを食べたいんだけど」

「あら、珍しいものをほしがるのね」

「ダメか?」

「いいわよ。あたしは苦手なんだけど、栄養価は高いみたいだからね。でも、味の保障が出来ないから、1本でいい?」

「ああ、もちろんだ」


 うお~、すげえな。ジンクのやつ、血のソーセージなんてマニアックなもんを食おうってのかよ。う~ん、血のソーセージってはじめて見るけど、なんていうか、どす黒いんだな。


「あら、アイアンちゃんもほしいの?」

「いや、俺は遠慮しとくぜ!」


 その後はヨーグルトを買って、お肉の会計を済ませてから、我が家に帰る。そして、まずは父ちゃんに今日の戦果を見せるために工房に直行だ!


「たっだいま~!」

「おう、アイアン、お帰り!」

「見てくれよ父ちゃん。今日の夕飯のランク4の牛モンスターのステーキ肉だぜ!」

「ほほう、美味そうじゃねえか!」

「だろだろ? 俺とジンクで狩ったんだぜ!」

「お、そいつはすげえな。アイアンの初の狩猟の成果か。うむ、そうなるとへたな食い方は出来ねえな。俺も取って置きの赤ワインを開けて、しっかり味わって食わないとだな!」

「タング君、明日はまだ平日なんですからね、飲みすぎはダメよ!」

「わかってるって。そもそもメインはアイアンの肉だし、取って置きの赤を、そんな飲み方するわけねえだろ?」

「う~ん、そういうことにしておいてあげるわ」


 おっにく~、おっにく~、おっにっく~♪ とってもおいしっいおっにっく~♪


 っと、まずいまずい。即興でお肉の歌を歌いながら、お肉の舞いまで踊っちまったぜ。さて、夕飯にはちょっと時間があるし、2号君のメンテでもするかな。使った3発のAPCRも、内側のミスリル10%の部分はともかく、外側のカバーの部分は、着弾の衝撃でなくなっちゃってるからな。俺はその辺にあった金属を父ちゃんからもらって、APCRの弾頭を無事に復活させる。ふんふ~ん♪ こういう気分のいい時は、魔法のかかりもなんかよくなった気がするぜ。後は、2号君の車内に落ちてた薬莢に新しい雷管を取り付けて、さらに火薬をぱらぱらと入れてっと、最後に弾頭をぐりぐりとねじ込めば。うっしゃ、APCRの完成だぜ! もちろん薬莢も火薬も雷管も、全部魔道大砲用のやつだぜ!


「よし、完成だ!」

「ほう、どれ、見せてみろ」

「おう!」

「ふむ、いい出来だな。これなら普通に使っても問題ないだろう」

「サンキュー、父ちゃん!」


 その後も牛モンスターの土魔法の連射を防いでくれた正面装甲や、ジャンプの着地の際に地面に刺さった大砲など、様々な部位をチェックした。うむ、まったく問題ないな。


「アイアンちゃ~ん、タングく~ん、お夕飯の時間よ~」

「「今行く~!」」


 俺と父ちゃんは仲良くダイニングへと向かう。うおっしゃあ、待ってました~! 今日のお夕飯! 俺のおにっく!



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