第29話 ジンクとお出かけ3だぜ!

 さ~て、索敵か。牛ならそこそこでかいだろうし、ここは草原で見晴らしもいいからな。簡単に見つかるかな。と思ったが、どこにも見当たらないな。もうモンスターの領域ってラピおばちゃんは言ってたのに、何でいないんだ?


「なあ母ちゃん、辺りを見回しても、敵がいないんだけど」

「モンスターの領域とは言っても、ここは端っこだからね。まだ少ないのよ。モンスターがいっぱいいるところで走行テストなんてやったら、ラピちゃん大激怒する気がしない? 私としてはそのほうが楽しそうなんだけど」

「うん、思いっきり怒られそう。ってことは、もうちょっと行けばいるの?」

「ええ、いっぱいいるわよ~」

「うし、じゃあすぐに行こう!」

「そうね、でも今度はジンク君が付いてこれる程度にゆっくりね!」

「もちろんだぜ!」


 それから更にしばらく進むと、ついに第1牛モンスターを発見した。ただ、すでに他の人が戦っているようだ。斧や剣を持った前衛3人に、弓を持った後衛1人の4人パーティーだな。ドワーフで弓使いって、なんかイメージと違うな。


「母ちゃん、もしかしてあれ?」

「ええ、そうよ。あれが牛モンスターよ! でも、攻撃しちゃダメよ。他の人が戦ってるからね」

「わかったぜ!」


 俺が見つけたのは牛モンスターで間違いないようだ。それにしても、なんかでかい気がするぞ? 距離があるから正確なことはいえないけど、戦ってるドワーフの前衛達が、平均的なドワーフの身長である150cm台とすると、牛モンスターは肩までの高さが200cm以上あるのか? いやいやでか過ぎるだろ。あとなんだ、あの凶悪そうな角は。牛の角って、こんな遠距離からでも認識できるような巨大さじゃなかっただろ? もっとこう、小さいだろ!


「なんだあれ? よく見るとデカイうえに、角とか殺意全開の大きさと鋭さじゃねえか!」

「う~ん、はずれね。ちょっと小さいわ」


 ちいさい? あれで小さいだと!?


「え、母ちゃん。十分すぎるほどでかくない? 肩高2mはありそうなんだけど」

「ええそうね。でも、あれは小さいのよ?」


 んなばかな! 足先から肩までの高さ、つまり肩高200cm以上ってことは、ホルスタインどころかアメリカバイソンよりでかいんだぞ? おいおいおいおい、これがドワーフの普通なのか? 俺はジンクに無線で連絡を取る。


「おいジンク、あの牛モンスター、どう思う?」

「俺の目にはくそでかい怪物に見えるんだけど」

「だよな? 俺の目にもそう見えるんだけど、母ちゃんはあれでも小さいからはずれって言うんだよ」

「そっちもかよ。母さんも一緒だ。あれははずれって言ってた」


 く、性格はだいぶ違うが、母ちゃんもラピおばちゃんも幼馴染なだけのことはあるな、価値観は同じようなものってことかよ。


「アイアンちゃん、あれは本当に大したこと無いのよ? モンスターのランクでいえば下から2番目だから、アイアンちゃんの大砲なら一撃よ!」

「なるほど、そうなんだ」

「ここら辺はまだ草も短いでしょう? こんな魔力の少ない草じゃ、強い牛モンスターは育たないわ。あのハンター達も、たぶんこれから奥に行くにあたり、準備運動がわりに狩ってるんじゃないかしら? いくら牛モンスターが草食とはいえ、街道に近いこの辺だと、多少の危険もあるでしょうしね」

「なるほど。じゃあ俺たちも見つけ次第駆除してくの?」

「本当はそうしたほうがいいんだけど、砲弾の数に限りがあるし、この辺は新米ハンター達の狩場でもあるから、出来るだけ無視していきましょう。譲ってあげるのも大事なことなのよ!」

「わかったぜ!」


 なるほど。でも母ちゃん、どう考えても超新米、ハンター未満なのが、ここに2人もいるんだけどな。


 その後もどんどん奥へと進んでいく。先ほど出合った肩高2mくらいの牛モンスターとは結構遭遇するようになってきたが、無視してどんどん進んでいく。まあ、新米っぽいハンター達ががんばって戦ってるから、ゆずってあげてるんだろう。でも、割と硬そうだな。銃で撃ってるやつもいるけど、あんまり効果がなさそうだ。同じ下から2番目のランクでも、ゴブリンとは違うということか。


 更に進むと、草がどんどん伸びてきた。これが魔力が濃くなったってことなのかな?


「なあ母ちゃん、草が伸びてきてるんだけど、これも魔力のせい?」

「そうよ。自然界の魔力が濃くなっている証拠ね。このくらいの草の高さなら、そろそろ強い牛モンスターが出てもおかしくは無いわね。本格的に探しましょうか」

「おう、わかったぜ!」


 牛モンスターはでかいから見つけやすいには見つけやすいんだが、ぱっと見そんな大きいのはいないよな~。


「う~ん、いまいちだな。さっき母ちゃんが小さいっていったサイズしかいなさそうだな~」

「う~ん、そうね~。レーダーを使えればいいんだけど」

「レーダー? 2号君のレーダーも半径300mくらいしか反応しないんじゃないの? そのくらいの距離なら、肉眼で見たほうが早くない? 牛モンスターでっかいし」


 そう、2号君にも1号君同様、魔力探知タイプのレーダーが付いている。ただこれ、いわゆるパッシブタイプのレーダーだから、300mくらいまでしか反応してくれないんだよな。もちろんこのレーダーのおかげで不意打ちを食らうリスクは軽減されるし、ダンジョンのような接近戦では超役立つんだけど、こういう広い場所での索敵用には使いづらい。


「そうね、2号君のパッシブ魔力レーダーだと、こういうオープンな場所の索敵には索敵距離が足りないわね。でもね、2号君にはアクティブ魔力レーダーが付いてるのよ! まあ、ラピちゃんに怒られちゃうかもしれないけどね」

「ええっ、怒られちゃうの? っていうか、アクティブ魔力レーダーって、父ちゃんが付けてくれたことは知ってるんだけど、父ちゃんもあんまり使わないほうがいいって言ってたよな?」

「そうなのよ。普段使ってるパッシブ魔力感知レーダーは、モンスターが出してる魔力を捕らえるものだから、こちらの存在が見つかる可能性は少ないのよ。でも、アクティブ魔力レーダーは、こちらから周囲に魔力を撒き散らして、その反射を利用して調べるの。弱いモンスターだと、魔力探知能力が低いからそれでも問題ないんだけど、ある程度強いモンスターだと、魔力感知能力が高くなるから、こちらが探ってることがばれちゃうの。しかも、私達ドワーフの魔力って、モンスターには不快らしいのよね。つまり簡単に言っちゃうと、モンスターに対する挑発行為になっちゃうのよ」

「なるほど、父ちゃんがあんまり使わないほうがいいって言ってたのは、そういうことか」

「それに、索敵距離を伸ばそうとすれば、当然強い魔力を飛ばすことになるから、ますます怒らせちゃうの。でもそのかわり、簡単に見つけられるのよ。強いモンスターだと、相手から来てくれることも多いからね」

「うう~ん。よし、やろう!」

「そうね。流石アイアンちゃん、即決ね! ラピちゃんもきっとわかってくれるわ!」


 俺はアクティブ魔力レーダーを起動する。すると2号君の砲塔後方から棒が延びてきて、パカっと展開すると、パラボラアンテナになった。なるほど、破損防止に普段は砲塔後部に隠れてたのか。とすると、1号君でも使ってたパッシブレーダーはどこに付いてるんだろ? と俺が考えていると。


「エメラ~!」


 どうやらパラボラアンテナが展開したことで、やろうとしていることがばれてしまったようだ。ラピおばちゃんが2号君に飛び移ってきた。


「あんた、今何しようとした?」

「何って、もちろん索敵よ! 痛い!」


 ラピおばちゃんの容赦ない鉄拳制裁が母ちゃんを襲う。


「待って待って、準備しただけよ。ラピちゃんに相談してから使おうとしてたのよ? ねえ、アイアンちゃん」

「あ、ああ、そうだぜラピおばちゃん。どこに付いてるのか気になったから、先に起動しただけなんだぜ」


 さっきと言ってる事が違う気がするが、ここは母ちゃんのためにも母ちゃんに話をあわせる。ラピおばちゃんはじと~っとした視線を俺たち親子に向けてくるが、俺と母ちゃんはニコニコ顔で対抗した。


「ふ~ん、まあ今回はアイアン君に免じて許してあげるわ。それより、アクティブレーダーを使うのはちょっと待ちなさい。先にあの岩に登って索敵するわよ」


 そういうとラピおばちゃんはジンクの武装ゴーレムの肩に帰っていった。


「「せ~ふ」」

「アイアンちゃん、しばらく大人しくしてましょうか」

「ああ、そうだな母ちゃん」


 俺と母ちゃんはしばしの間、大人しくすることにするのだった。


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