第19話 ジンクの武装ゴーレム4だぜ!

 ジンクの武装ゴーレム造りはトラブルも無く順調に進み、予定通り1月で完成した。クレイモデルのときにいろいろ動かしたおかげもあって、各部のクリアランスとかはばっちりだったからな、形状はクレイモデルの時とまったく同じで製造できたぜ。そして今日は、ジンクの親を呼んでの試運転兼、完成お披露目会だ。本当は試運転が終わってから呼びたかったんだが、完成が待ち遠しかったのか、試運転の日に全員集合になっちまった。


 今はガリウムのおっちゃんとラピおばちゃんが、ジンクの武装ゴーレムの外観をチェックしている。ただ、クレイモデルができた時も、うれしさのあまりジンクが2人を呼んじゃったから、チェックする箇所なんてないと思うんだがな。


「へえ、クレイモデルの時と、まったくかわってないね」

「うむ、流石じゃな。いくらクレイモデルの時にクリアランス等のチェックをしているとはいえ、変更等一切無しでそのまま造り上げるとは、やはり鍛冶の技術は相当なもんじゃな」


 そういうものなのかな? まあ、確かに手作業と金属加工魔法だけでやったから、精度を出すのはそこそこ大変だったけどな。っていっても、俺やジンクが手伝えたのは外装と武器の剣と盾を造るくらいだったから、各部のすり合わせとか、大変なとこは基本父ちゃんだけど。途中からは俺もジンクも使い物にならなくて、動作テストに付き合ったくらいだったからな。1号君のときもそうだったが、今回も関節やらセンサーやら、魔力タンクがらみの配線とかはさっぱりなんだぜ。


 ただ、武装ゴーレムの内部構造を知れたのは良かったな。なかなか楽しかったぜ。外観こそクレイモデルの時と同じだが、細部の構造ははじめて知ったからな。いくつか戦車造りにも役立てられそうな技術もあったしな。それに、詳しい構造がわかったことで、もしジンクのやつが武装ゴーレムをダンジョンで壊しちゃっても、ちょっとした修理なら出来るかもしれねえしな。


 そんなことを考えていると、ガリウムのおっちゃんとラピおばちゃんはコックピット周りのチェックに入りだした。ふふふ、その辺はなかなかユニークな構造だぜ。


 コックピットは背中のハッチから乗り込むと、手足を操縦用のパワードスーツみたいなのに突っ込む。すると、そのパワードスーツが搭乗者の身体強化魔法を読み取って、武装ゴーレムの各関節に搭乗者のやりたいことを伝えるっていうシステムだ。だから、歩きたい時は内部で実際に歩けばいいってわけだ。2足歩行ロボットで難しいバランス取りなんかは、リアルタイムで重心の変化をパワードスーツが搭乗者に伝えてくれるから、実際に歩いてる時のようにバランスをとるだけでいい。上級者用に、椅子に座った状態で実際に体を動かさずに、身体強化魔法だけを読み取る装置なんかもあるらしいが、それは慣れが必要だから、今回は体ごと動かすやつになってる。


 そしてコックピットで忘れちゃならないのは各種センサーだ。まず、視界はメインカメラだけじゃなくて、サブカメラもいろいろな場所についているから、基本的に死角はない。足元だってばっちり見えるし、盾の向こう側も見えるぜ。ただ、望遠とかで遠距離を正確に捉えるにはメインカメラが必須だ。サブカメラは頑丈さ優先でメインカメラほどの精密さは無い。ちなみに望遠モードにする際にも身体強化魔法で目に魔力を集めるだけだから、特別な操作は必要ないんだぜ。それから、聴覚も集音マイクがゴーレム外部にいろいろ付いているから、まったく問題ない。外部スピーカーもあるし、近距離用の無線も付いてるから、コミュニケーションも問題ない。ただ、日本みたいに、そこら辺に基地局があるわけでもなければ、人工衛星があるわけでもないので、長距離通信は無理だ。それから、触覚もある。触覚センサーが主に指についているから、武器を持ったりすると、実際に物を持ったような感触が、手に伝わってくるというハイテクぶりだ。そのため、5感の中で感じることが出来ないのは嗅覚だけだ。嗅覚だけはどうしようもなかった。こればっかりは毒対策なんかもかねて、フィルターが入ってるんだよな。


 次に2人が興味を示したのは各部への動力の供給方法、制御方法か。これは超苦労したんだぜ、父ちゃんが、だけど。俺やジンクじゃあさっぱりだったからな。俺達はノータッチ、見てただけだ。


 背面下部に取り付けられた魔力タンクから、制御版を経由して、関節や装甲、センサーに、魔力を流すための魔力ケーブルがつながっている。これにより、必要な場所に魔力を送り、必要な動作を行うってわけだ。例えば関節に送られた魔力は、関節を動かす動力になると同時に、関節を守る強化魔法としても使われるといった具合だ。


 また、剣、盾、装甲、関節を強化するためのジンクの金属強化魔法だが、これも各部位に強化魔法をかけやすいように、パワードスーツから魔力ケーブルが各部位につながっている。


 そして、ある意味武装ゴーレムの超重要パーツである関節なんだが、俺の想定をはるかに上回る超ハイテク部品だった。最初はせいぜい日本の工業用のロボットアーム程度の関節程度に思っていたんだが、わりとガチで人間の骨格っぽい関節だった。だから、腰なんかはサイドに水平移動すらできるし、背中を反らせたり猫背にしたりもできる。もっとも、装甲で覆われてるから、外からは見えないし、装甲の継ぎ目の関係で、戦闘に必要ないアクロバティックな動作はできないようになっているがな。例えば、180度の開脚とかだ。まあ、俺もだが、搭乗者であるジンクが、そもそもそんなに脚広がんないしな。


 そして、最後に2人がチェックしたのは武装だ。武装は3mの武装ゴーレムが持っても巨大に思えるような大きな剣と盾だ。剣も盾も全長が2mほどあり、厚みもかなりある。盾は本体の装甲の倍の厚み、100mmだ。そして、本体左後方には1号君と同じ15mm機関銃、MG150も積んでいる。MG150を撃つ時は身体強化魔法ではなく、音声認識が必要になり、MG150スタンバイと言うと、サブアームにつながれたMG150が左肩の上部に出てきて、発射モードになる。そして、搭乗者の左手人差し指の動作が本来のゴーレムの動作から離れ、トリガーとなる。ちなみに照準は目線の先に合うようになっていて、ヘッドアップディスプレイ、略してHUDで狙をつけれる。くう、かっこいいぜ。ジンクが右利きにも関わらず左側に機関銃がある理由だが、右腕は剣を持っているために肩の上とはいえ機関銃と干渉しやすいことを配慮したからだ。左なら動作の範囲が比較的狭い盾ということで、左肩に設置したってわけさ。狙いは視線なので、利き手の正確な動作が必要なわけでもないしな。


 2人のチェックが終わると、ジンクが武装ゴーレムに乗って、走ったりジャンプしたり剣を振ったりして、アピールしている。


「どうだ、ジンク君、おかしな場所はあるか?」

「いや、まったくない! 手足の長さや、俺の体と武装ゴーレムの各部の重さの違いのせいで、重心が違うから、慣れるまで少し時間が掛かりそうだけど、すっげえスムーズに動く。基本的には俺が動かしたいとおりに動いてくれるよ」

「なら大丈夫だね。まあ、ジンクの身体強化魔法のスムーズさに、タング君の鍛冶の腕なら、難なく乗れるとは思っていたよ」


 しっかし、こうやって現物を目の前にしちゃうと、ちょっとほしくなってくるな。いやいや、だめだ。俺は最強の戦車をつくるんだろ?


「あら、アイアンちゃんもほしくなっちゃった?」


 おおっと、心の声が漏れていたのかな。母ちゃんに聞こえちゃってたぜ。


「いや、俺はいい、俺は最高の戦車を造るからな」

「ふふふ、そうね」


 その後もジンクはいろいろと1人でドッスンドッスン動き回る。そして、満足するまで動き回ると、とんでもないことを言い出した。


「アイアン、勝負しようぜ」

「は?」


 こいつ、今なんていった?


「だから、勝負しようぜ! こいつの性能を試したいんだよ」

「いやいやいや、意味わかんねえよ。1号君は対ゴブリン用で、そんな重装甲の武装ゴーレムとの戦闘は想定してねえよ」

「1号君を使えなんていってねえじゃん。生身でいいよ」

「はあ!?」


 生身でいいよ。だと? 頭おかしいんじゃねえか? どこの世界に戦闘用の兵器に乗って、俺は兵器使うけどお前は生身な? なんて条件で勝負を吹っ掛けてくるやつがいるんだよ。ってかラピおばちゃんやガリウムのおっちゃんがいるんだから、そっちに挑めばいいだろうが。俺は全力で睨みつける。


「あれ? いやなのか? 受けてくれないの? 残念だな~」


 くっそ、この野郎、スピーカー越しで顔が見えなくてもわかるぜ。にやにやと煽りまくりやがって。自分が圧倒的に有利だからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!


「あ~あ、いいだろう! 受けてやるぜ!!」

「え、まじでいいの? 流石だなアイアン。じゃあ、準備してくれ」


 見てろよこの野郎。ぶっ壊して修理代たっぷり請求してやる!


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