第20話 ジンクの武装ゴーレム4だぜ!
俺は準備万端整えてジンクの武装ゴーレムと対峙する。今回の俺の装備は、愛剣ねこづめと、1号君に積んでいるスモークグレネード2個だ。このスモークグレネードは、何らかの事情で想定外の強敵に出会ったときに、文字通り煙に巻いて逃げるために父ちゃんがくれたものだ。強敵と戦うつもりはさらさらないが、逃げるための手段は大事って事だ。
「あら? アイアンちゃんとジンク君が戦うのかしら?」
「まあ、もともとジンクが武装ゴーレムをほしがった理由は、エメラが武装ゴーレムを使えばアイアン君に勝てるって唆したのが始まりだからね。ある意味当然の行動じゃないの?」
「でも普通、本当に勝負挑む? アイアンちゃんのほうが1個年下なのよ?」
「あっはっは、あたしだって子供の頃、エメラに勝てるって言われたら、武装ゴーレムのおねだりくらい親にしただろうし、絶対戦ってたね!」
「ふ~ん・・・・・・」
「で、実際のところどうなんだい? あの武装ゴーレムなら勝てるのかい?」
「正直、アイアンちゃんにはかなり分が悪い戦いになるわね。前回ジンク君を苦しめた火炎放射魔法は効かないだろうし。そもそも使える手がほとんど無いわ」
「じゃあ、ジンクの圧勝ってことか」
「それもないわね。恐らくだけど、ジンク君の武装ゴーレムを中破までは持っていけるけど、大破まではいけないって感じじゃないかしら」
「そうなのかい!?」
「あら、アイアンちゃんにはラピちゃんの腕に怪我を負わせた、炎と金属の融合魔法があるじゃない」
「そうだったわね。でもあれ、アイアン君の今の実力だと、発動に時間が掛かるだろ? まだ実戦で使えるようなレベルじゃないと思うんだけどね。実際、前回のジンクとの戦いでも、使わなかったというより使えなかったんじゃないのかい?」
「そうね、でも、恐らく使うための策くらいは考えていると思うわ。それじゃ、ちょっと行ってくるわね。防御魔法をかけてあげないとだからね」
「ああ、しっかり頼むよ」
さて、母ちゃんに頼んで防御魔法をかけてもらおうかなっと思っていたら、母ちゃんのほうから来てくれた。ラピおばちゃんとのおしゃべりは終わったのかな?
「母ちゃん、防御魔法を頼むぜ!」
「エメラおばさん、お願いします」
「ええ、すぐかけるわね。ジンク君はゴーレムから1度下りてもらっていいかしら」
「今降りる!」
母ちゃんが防御魔法を俺とジンクにかけてくれる。これでいつでもやれるぜ!
「じゃあ、私はあっちでラピちゃんと見てるから、2人ともがんばってね!」
「おう、わかったぜ! ラピおばちゃんにはジンクの武装ゴーレム壊してごめんって謝っといてくれ!」
「ほう、言ってくれるなアイアンよ。エメラおばさん、母さんには心配無用と言っといて!」
「くすくす、わかったわ」
母ちゃんが立ち去った後、俺とジンクは10mくらい距離を取って対峙する。
さて、実際問題勝負を受けたのはいいが、困ったな。何せ勝ちすじが見えない。実際に作るのを手伝っただけのことはあって、弱点の無さは嫌というほどよくわかる。なにせドワーフの国において、戦車を駆逐して君臨している最強の兵器だ。過去から現在にいたる、数々の実践の中で弱点はつぶされてったんだろうな、バトルプルーフってやつだな。
俺も一応ジンクに勝負を挑まれた時のことを想定して、なんか弱点はないか考えてたんだが、そのことごとくがダメだった。
まず俺の考えた作戦その1、吸気系統への攻撃。砂魔法で吸気系をつぶそうと考えたんだよな。フィルターがあって毒が効かないのはすぐわかったんだが、砂で吸気口を塞いで、窒息狙いならいけるんじゃないかと思ったんだよな。でも、当然のように異物除去用の装置が付いていた。それどころか、水没対策に魔力タンクの魔力を使用して作動する生命維持装置まで付いていて、そっち方面の攻撃はまったく効かない構造になっていた。
次に考えた作戦その2は、金属加工魔法で壊しちゃおう作戦だ。ジンクの武装ゴーレムの外装は、俺の金属加工魔法で造った部分も結構多いからな。金属加工魔法で加工しちゃえば簡単に動けなく出来ると思ったんだよ。そしたら、金属加工魔法は金属強化魔法がかかってる金属には使用が困難とかいうことがわかった。いや、金属強化魔法の100倍以上の魔力で金属加工魔法を使えば、強引に加工できるらしいんだが、そんなん無理だろ。俺はたぶんジンクより魔力量は多いが、ジンクとの魔力量の差は100倍以上どころか2倍も差がない。それに、もしジンクが油断して金属強化魔法を使っていないとこにタッチできたとしても、魔力タンクから供給された魔力で、最低限の金属強化魔法が常時全身にかかり続けているからな、この作戦もダメそうだ。
その他にも関節に異物を挟み込む、カメラ等のセンサーへの攻撃などなどちょっとせこい? 手段をいろいろ考えたが、まさかの全滅だった。どんだけ弱点の穴埋めしてんだよ。普通わかってても頻度とか費用の問題で、対策を切ってる弱点とかひとつくらいあるだろ! って思ったが、俺の頭で思いつく限りなかったんだぜ、ちくしょうめ!
「いくぜアイアン」
「きやがれ!」
そんなことを考えていたら、ジンクが痺れを切らして挑んできた。結局真っ向勝負しか手がないってことかよ!
つうか、はやっ! ジンクは生身の時同様突っ込んできた。だが、そのスピードは生身の時より速い!
くっ、全体のバランス的には、武装ゴーレムの脚は短い。だが、絶対的な長さでいえば、脚だけで俺の身長よりでかいんだよな、歩幅が違いすぎる。
ジンクの武装ゴーレムは俺を叩き潰すかのごとき勢いで、思いっきり剣を振り下ろしてくる。パワー勝負は、絶対不利だ、俺は横っ飛びで回避する。
ドカ~ン!
やっぱ見た目どおりパワーもすげえな。ただ、ジンクのやつ、完全に使いこなせていないな。間合いの調整とかその辺がいまいちだ。いまのも俺が思いっきり横っ飛びしてなかったら、剣で切られたというか、体当たり食らう格好になってたな。
「ちい、逃げたか!」
「当たり前だ! 誰が受けるか!」
やっぱ勝機があるとしたら、短期決戦しかねえな。ジンクの魔力切れを待つ戦法も考えなかったわけじゃねえが、向こうのほうが速い以上、ジンクが操縦に慣れたら、逃げ切るのは無理だな。やっぱジンクが慣れる前に叩くしかないか。
まだ操縦に慣れていないだけのことはあって、ジンクは体勢を整えようとしているようだが、少しもたついてる。こういうチャンスを見逃すような俺じゃないぜ!
「食らいやがれ!」
ぼふん! ぼふん!
辺り一帯が真っ白い煙に覆われる。ついでにちょっとキラキラした粉末みたいなのも混じってるが、これは魔力感知をごまかすためのチャフみたいなものだ。普通の煙幕より高いらしいんだが、父ちゃんがいうには、逃げる時の装備ほど手を抜いちゃダメってことらしい。
「ちい、なんだこりゃあ」
なんだってスモークグレネードだよ。教えないけどな。1発目をジンクに、2発目を足元に放り投げる。そして、ちょっとせこいがここでドライバーゴーレムを投入する。スモークグレネードを取りにいった時に、魔力をこっそりチャージして、庭の隅にこっそり待機させといたんだよな。あのデカブツに大ダメージを与える攻撃を繰り出すには、発動に時間が掛かるからな。時間稼ぎが最大の正念場だ。
まだたったの1月しかないジンクとの付き合いだが、やつの性格なんかは大体把握できた。あいつは体がでかくてぱっと見、筋肉系の物理キャラに見えるが、結構頭を使って戦うし、頭の回転も早い。まあ、身体強化魔法より金属強化魔法のほうが得意な時点で、魔法キャラなのかもだけど。まあ、それは置いといて、恐らくやつはこの煙幕が、俺が魔法を発動させるための時間稼ぎだということはわかってる。だから、すぐに突進してくるはずだ。
そこで俺は思いっきり後方に下がって、俺の居た位置にはドライバーゴーレムに待機してもらった。そこそこ強めの炎を纏ってな。ドライバーゴーレムと俺の大きさはどっちも1mくらいだし、俺の魔力で炎まで纏ってれば、ドライバーゴーレムを俺と勘違いする可能性は高い。そして、その隙に俺は必殺の一撃の準備をするってわけだ。
「ふんっ、魔法の発動が見え見えなんだよ!」
ジンクはドスンドスンと音を立てて高速で接近してくる。俺も煙幕の中でドライバーゴーレムに逃げるように指示する。ドライバーゴーレムは俺の行動パターンを読み込ませているため。動き方も俺そっくりだ。この煙幕の中じゃあ気づかないだろう。
ドライバーゴーレムは炎を撒き散らしながらジンクの周りを逃げ惑う。炎を撒き散らしてる理由は、俺の魔法の発動をごまかすためだ。流石の煙幕でも、強い炎の光は見えちまうからな。
「ちいい、ちょこまかと! だが、煙幕なんてそう長時間持たないんだよ! そこだ~!」
煙幕がジンクの武装ゴーレムが起こす風と、自然の風とでだいぶ薄くなってきた。そして、ジンクの剣がドライバーゴーレムを掠める。あっぶね、ジンクがもうちょい乗りなれてたら真っ二つだったな。
その後もドライバーゴーレムは、出来るだけ煙幕の濃い方向へと逃げまくる。そして、霧がだいぶ薄くなった頃、俺の魔法が完成した。どうやら間に合ったようだ。仕上げにドライバーゴーレムを俺の反対側からけしかける。そして、ジンクが俺に背を向けた瞬間に、俺は走り出す。
「それがお前が時間稼ぎまでしてやりたかった攻撃か! うおお!」
ジンクの巨大な剣が、俺のドライバーゴーレムを叩き潰す。
「なっ!?」
どうやら母ちゃんの防御魔法がかかってなくて、完全につぶれたことに動揺しているようだ。が、こいつは完全に都合がいい。俺は素早く距離をつめて、ジンクに鉄鉱流の奥義をぶちかます。
「ぴぴぴぴぴぴぴ!」
「なに? 後ろか!?」
ジンクは、会話出来るように外部スピーカーをオンにしたままだったようで、武装ゴーレムのコックピット内に搭載されたアラームの音が、周囲に鳴り響く。いや、ちょっと待て、なんだよそのアラーム。そういえば、ジンクの武装ゴーレムにも魔力感知型のセンサーついてたっけな。煙幕切れて復活したってのか? くそ、こいつは痛い誤算だ。
「だが、もう遅い! 食らえ、鉄鉱流、一つ目の奥義、フレイムアイアンスラッシュ!」
「負けるかあああ!」
俺が長時間かけて用意していた魔法は、炎と金属の融合魔法を我が愛剣ねこづめにかけるという魔法だ。攻撃の速度の関係で魔法大砲ほど強くは無いが、現時点で俺が使える最高威力の魔法だ。ぶっちゃけこれが効かなかったら打つ手なしだ。
俺の存在に気づいたジンクが、振り返りながらその巨大な盾を俺にぶつけようとしてくるが、それより早く、俺は全力の突きをジンクの武装ゴーレムの膝関節に叩き込む。膝狙いなのは背丈の問題でそこ以外だと届きにくいからだ。
俺の全力の突きは、ジンクの武装ゴーレムの膝を容易く貫いた。ジンクも俺の狙いが膝だとわかって、咄嗟に膝に大量の魔力を集め、膝の金属強化魔法を大幅に強化した様だが、俺の炎金属融合魔法は、そう簡単に防げるものじゃない。
ふう、勝ったな。脚さえ止めれば後はどうにでもなるな。
ゴンッ!
「がはっ」
そういや、車は急に止まんないとかいう、交通標語があったけど、どうやら盾も止まってくれないみたいだ。膝関節は壊れたようだが、ジンクが相打ち覚悟で放ったシールドアタックは止まってなかったようだ。俺の体は面白いように軽々と宙を舞った。そして、軽く100m以上吹っ飛んで、庭の結界に激突寸前で母ちゃんに助けられた。
どうやら今回は俺の完敗のようだ。
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