第2話 アイアンオア、3歳だぜ!
俺ことアイアンオアは3歳になった。3歳までの過程がないって?
それは言いたくないんだよ。なにせ魔力体とかいう、魔法を使う体に記憶を入れたからっていう理由で、胎児のころから意識だけははっきりしてたんだが、3歳以下なんて自分じゃなんにも出来ないんだぜ。特に生後1年までは地獄だった。まさかの大人の記憶を持った状態で授乳だぜ。どんだけ恥ずかしかったことか。さらについ最近まで地獄だったのがトイレだ。早い話がおむつだったんだよ。俺の大人としての尊厳はぼろぼろだぜ。そんなわけで3歳にしながら昔の話をしたくないってわけだ。
さて、今日も俺は1人で起きと、ベッドから降りて、よちよちと歩いてカーテンを開ける。
「ん~、朝の日差しが眩しいぜ」
俺は大きく伸びをすると、体を軽くほぐす。前世の記憶の力もあってか、俺は割りと言葉を話すのが上手らしい。言葉遣いはどうやら素のままで問題なさそうだ。なにせ父ちゃんが似たようなしゃべり方だからな。むしろ父ちゃんか母ちゃんに似たしゃべり方じゃないとおかしいくらいだしな。ちなみに我が家は3人家族だ。父ちゃんの両親も母ちゃんの両親も元気に健在らしいんだが、住んでいる街が違うそうだ。俺が生まれたときに親戚一同会いに来てくれたみたいなんだが、当時の俺は意識はあっても、0歳児で目が開いてなければ、抗えない眠気のせいで寝てばっかだったからな、覚えてないんだよな。
さて、俺は着替えてから、よちよちとダイニングに向かう。3歳にもなれば着替えだって1人で余裕なんだぜ。
「父ちゃん、母ちゃん、おはよう~」
「おう、おはようアイアン、今日も1人で起きただけじゃなく着替えまでしたのか、えらいぞ~」
「あら、アイアンちゃんおはよう。ちょっとまっててね、もうすぐご飯の出来るからね」
そしてうれしいのが食事だ。3歳ともなれば完全に同じとはいかなくても、大人と似たようなメニューが食べられる。授乳も辛かったが、離乳食も味気なかったんだよな。まあ、舌がそこまで発達していなかったこともあって、そこまで苦じゃなかったんだけどさ。
「今日のメニューは目玉焼きとパン、ステーキ、それと野菜炒めよ」
「おう、いつもながらエメラの飯はうまそうじゃ」
「おう、うまそう!」
朝からハードなメニューかと思うかもしれないが、これが我が家の普通のようだ。とはいえ、俺や母ちゃんの食べる量はそれほどでもない。ただ、父ちゃんの仕事は、鍛冶をはじめとした金属加工ということもあり、非常によく食べる。母ちゃんの5倍は毎食ぺろりと平らげる。
朝食を終えると、いつものように家族団らんタイムが始まる。
「アイアンちゃんは将来なにになりたいの?」
母ちゃんが食器を洗いながら聞いてくる。
「俺は世界最高の兵器をつくるぜ!」
「あら、それはいい目標ね」
「がっはっは、こりゃあ俺も負けてられねえな!」
俺の目標に、父ちゃんも母ちゃんもうれしそうだ。この世界、定期的にモンスターが増えるモンスターの時代と呼ばれる時期が来る。そのため、たとえ平和な時代であろうとも、次のモンスターの時代に向けて、より強力な武器を作ったり、より剣の腕を磨いたり、より強力な魔法を開発したりといったことが、当たり前という考えが広まっている。父ちゃん母ちゃんに呼んでもらった絵本ですら、平和な時代でも鍛錬を忘れなかった戦士が、モンスターの時代に活躍する物語っていうのが定番だった。まあ、兵器造り、つまり戦車造りは俺の場合生まれる前からの夢だったがな。
「うし、じゃあ行って来るぜ」
「俺も庭にいく!」
「お、じゃあアイアン、途中まで一緒に行くか」
「あなた、気を付けてくださいね。アイアンちゃんも気をつけて遊ぶのよ」
俺と父ちゃんは一緒に家を出て行く。父ちゃんの仕事場は家から徒歩1分だ。なにせ家の敷地内にある鍛冶場が主な仕事場だからな。
「アイアン、気をつけて遊べよ」
「うん、父ちゃんこそ怪我するなよ」
「がっはっは、こいつはまいったな!」
父ちゃんは鍛冶がメインの仕事のようだが、武器の専門家というわけじゃないらしい。馬車の部品も作るし、包丁や鍋といった生活用品もなんでもつくる。ただ、一つ問題なのが、受注があるから作るのではなく、作りたいときに作りたいものを作るという、よくそれで商売が成り立つな、と思うレベルのわがまま職人なんだそうな。この間も母ちゃんが、ふと料理中に、もっと高圧の圧力鍋があれば、もっとアイアンちゃんと遊べる時間がとれるのかしら。なんてことを言っていたのを聞いて、通常の10倍の圧力に耐えられる圧力鍋を作ろうとして、爆発事故を起こしていた。
逆の見かたをすれば、母ちゃんがほしいもの、母ちゃんがどこからか作ってほしいと言われた物をただ作っているだけにも見える。まあ、我が家の家計にとってはそれはいいことなのだろう。うんうん。そして最近作っているものは、母ちゃんの要望により、とりあえず通常の2倍の圧力鍋なんだそうだ。
まあ、父ちゃんの仕事の話はこのくらいにしておいて、俺は庭にやってきた。我が家の敷地はけっこう広い、縦横300m四方くらいある。そこに家と父ちゃんの工房、物置小屋、母ちゃんの畑があり、残りのスペースが父ちゃんの実験場兼庭というわけだ。まあ、最近は父ちゃんが実験することはめったにないから、ただの庭状態だけどな。
そんな広い庭で俺が最近はまっている遊びはゴーレム作りだ。俺は例の神様もどきから教わった、魔力のトレーニングを意識が生まれたときからずっとやり続けていた。まあ、魔力をとにかくよく使って回復するを繰り返すだけなんだけどな。そのおかげもあって、3歳にしてはかなり強い魔力を持っている、はずだ。はずというのは、数値化されているわけでもないし、同年代の友達もまだいないから、比較対象がいないんだよな。
ドワーフといえば鍛冶が上手くて酒好きで、戦闘はパワーファイターってイメージがあったんだが、この世界のドワーフは魔法の上手いドワーフもそこそこいるらしい。特に、鍛冶をするってことで炎だったり、鉱石を扱うことから、土や金属の魔法の使い手が多いようだ。そしてうれしいことに、母ちゃんが土魔法の使い手で、ゴーレム作りも上手かった。我が家の畑けっこう広いんだが、母ちゃん1人でどうやって世話をしているんだろうと思っていたら、畑の横にある土の塊のようなものが、母ちゃんが魔力を込めるともぞもぞ動き出し、畑の世話をはじめたのだ。そう、母ちゃんは畑の世話を全部ゴーレムにやらせていたってわけだ。
そんなわけで俺も母ちゃんに教わりながら、土魔法でゴーレムを作ってるってわけだ。神様もどきとの勉強でもいろいろ教わったんだが、やっぱ実際に教えてもらうのとじゃ、ぜんぜん違うな。戦車はどうしたのかって? それが、金属加工魔法がけっこう難しくてな、まさか土で戦車を作るわけにもいかないし、いまは基礎訓練中ってところだな。だが、俺も何の目的もなくゴーレム遊びをしてるわけじゃねえんだ。戦車って言うのは1人じゃ動かせねし、作れねえ。つまり、ゴーレムは将来の戦車造りや操縦に欠かせない作業員でもあり、搭乗員でもあるってことさ。間違っても戦闘用ゴーレム造りのためじゃないからな。
今作っているのは悪役ゴーレムだ。材料は母ちゃんからもらった、畑であまった土だ。なんで悪役ゴーレムなんかを作っているのかといえば、この間見た時代劇のような動画の影響だ。そこに出てきたドワーフの戦士がかっこよくて、真似したくなったってわけさ。父ちゃんや母ちゃんに悪役をたのめばいいじゃねえかと思うかもしれないが、恥ずかしいんだよ。だが、男ならわかるはずだ。恥ずかしいからやりたくない気持ちがある反面、悪役を自分で作れるならやってみたいというこの男心。
そして、ゴーレム作りを開始すること30分。ようやく悪役ゴーレムが完成した。大きさは父ちゃんと同じくらいの高さ、150cmくらいだ。さらに、母ちゃんの畑で、果物の木の剪定をした際に落ちた枝を持たせる。これでなんとなく武器をもった悪役感が出てきた。
そんな悪役ゴーレムに、俺は正面から対峙する。俺の手には父ちゃんに作ってもらった木剣が握られている。
「そこまでだ、この極悪非道の悪党め。この俺様が来たからには運の尽きよ。成敗してくれる!」
「鉄鉱流、1の太刀、フレイムスラッシュ!」
俺は悪役ゴーレムに走りより、必殺の一撃を繰り出す。悪役ゴーレムも俺が接近すると攻撃をしかけてくるが、遅い。そんな攻撃、俺には当たらないぜ!
俺は悪役ゴーレムの胸辺りから下を、木剣で見事に切り裂いた。そして、俺のフレイムスラッシュにより燃え上がる悪役ゴーレム。しばらくすると悪役ゴーレムは稼動のための魔力を失い、崩れ落ちる。
「ふん、この世に悪が栄えたためしはねえんだよ・・・・・・」
こうして俺の正義のヒーローごっこは終わった。
「あらあら、アイアンちゃんはすごいわねえ」
「母ちゃん!? いつから?」
「アイアンちゃんが、ゴーレムを作っているところからね」
むうう、ということは一番見られたくないところは、すべて見られてしまったというわけだ。これは恥ずかしい。かなり恥ずかしい。
「鉄鉱流ってどんな流派なの~?」
鉄鉱流とは、特になんのひねりも無い。鉄鉱とは、鉄鉱石のことだ。つまり、俺の名前だ。アイアンオアは鉄鉱石のことだからな。つまり、鉄鉱流とは、ただたんに俺の技という意味だ。1の太刀とは、1つ目に思いついた技だからだ。そしてフレイムスラッシュとは、剣に炎魔法をのせた斬撃というわけだ。これを説明しろというのか、母ちゃんは。普通の3歳児なら嬉々として説明するかもしれないが、俺には辛すぎる。
「秘密だ。一子相伝の秘密の流派だからな。だれにもしゃべれない」
一子相伝の流派とか、こないだの時代劇の設定そのままじゃねえか。うがああああ、俺の口、なんてこと言ってくれてんだ。もうちょいましな誤魔化し方をしろよおおお!
「あらあら、そうなのね、わかったわ」
ううう、穴があったら入りたい。
「そうだわ、まだ魔力には余裕があるわよね?」
「ああ、まだまだ平気だぜ」
「じゃあ、私とゴーレム作りしましょうか?」
「おう、いいぜ!」
鉄鉱流から離れられれば、俺はもう何でもよかった。ここからは母ちゃんとゴーレム作りだ。
「じゃあ、1mくらいのゴーレムを作りましょう」
「わかった」
こうして俺と母ちゃんはゴーレム作りを開始した。ゴーレム作りは簡単だ。3分クッキングとはいかないが、3歳の俺ですら30分あれば出来るからな。まず、心臓になるコアを用意する。これは頑丈なものならなんでもいい。鉄でも銀でも金でもな。理想はミスリルとかオリハルコンといった魔力との相性のいい金属がいいんだが、流石に子供のおもちゃには高級品だ。なので、今回は俺もよく使っている鉄球だ。そして、ゴーレムのコア用魔法をとりゃっと使用する。うし、完璧だな。
次にゴーレムの体を用意する。これは畑の土が使いやすくてお勧めだ。もちろん岩や鉄で作ったほうが頑丈になるんだが、素材が自動で曲がるわけじゃないので、土以外だと間接を作るのが面倒なんだよな。土ゴーレムは間接が無くても曲がってくれるから便利だぜ。俺と母ちゃんは畑の土でこねこねしながらゴーレムの形を完成させていく。土魔法を使って粘性を高めてやれば、崩れにくく、本当に大きな粘土で人形を作っているかのごとく作業が出来るぜ。ちなみに、コアを入れる部分に穴を開けとくことをお勧めするぜ。あるいは、コアにアクセスできるようにコアを少し露出させるのがコツだ。じゃないと後から魔力をコアに込めるのが大変になるからな。俺のお勧めは後者だな。コアが露出してるので弱点になるが、土のボディーのゴーレムの、胸の部分にきらりと光り輝く鉄のコアとか、かっこよくねえか?
最後に用意するのが命令だ。これがないと動いてくれねえ。今回の俺と母ちゃんのゴーレムは人型だ。そのため、動作のためのプログラムを用意する必要がある。一見するとすごい面倒くさい気もするが、そこは魔法の出番だ。自分の歩き方、歩いてるときの重心の動かし方、無意識下でのコントロール、それらを魔法でそっくりそのままコピーするだけだ。コピーした魔法は必ずコアに転写するんだぜ。じゃないと動かないからな。
完成したゴーレムのコアに十分な魔力を流し込む。俺の魔力がコアから土の体に流れていくのがわかる。そして、土の体にいきわたったところで。
「動け、俺のゴーレム!」
俺の命令がコアから発せられる。するとその命令を受けたゴーレムが動き出す。
よちよち、よちよち。
よちよち歩きでだが・・・・・・。これは仕方ない、俺の動きをコピーしたということは、俺の3歳児特有のまだ重い頭のせいで不安定な、よちよち歩きになってしまうのだ。
隣では母ちゃんのゴーレムも歩いているが、母ちゃんの歩き方同様スムーズな歩き方だ。
そんなことを考えていると、俺はふらっとする。すると、母ちゃんが抱きかかえてくれた。
「あら、アイアンちゃん。もうそろそろおねむの時間かな?」
「うう、まだまだだぜ・・・・・・」
俺の最大の欠点、それは、すっごいよく寝る子だということだ。起きている間は身体強化魔法とかゴーレム作りでひたすら魔力を消費している。そのせいか、ガス欠が早いのだ。体力がなくなると眠くなるように、魔力を使いすぎても眠くなる。最近の俺は、朝2時間、昼2時間、夕方2時間の、合計6時間しか起きていられない。寝る子は育つとはよくいうものの、いささか寝すぎなのであった。ただ、この世界では子供が無理のない範囲で魔力を使うのは、非常にいいこととされていた。特に身体強化魔法は、体が丈夫になって病気や怪我にかかりにくいという効果があるようで、俺が身体強化魔法を使うことを、両親はよろこんでいた。魔力以外の、起きていないと学べないことの発育が悪くなりそうだが、そんなのは後からでも余裕で追いつけるんだそうだ。むしろ、小さいうちの魔力の発達のほうが、後から追いつくのが大変なようだ。そのため俺は、両親に見守られながら、寝まくる生活を続けていくのであった。
「おやすみなさい、アイアンちゃん」
母ちゃんの言葉に、返事をする気力すら残っていなかった俺は、意識を手放すのであった。
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