第3話 アイアンオア、5歳。1号君を造るぜ!
俺ことアイアンオアは5歳になった。体の成長も魔力の成長も順調だぜ。さて、そんな俺だが、5歳にしてとうとう夢に向けての第1歩を踏み出すことになった。そう、戦車造りを開始するのさ。つい先日、俺が魔道自動車に機銃を乗っけたのを作りたいって、父ちゃんと母ちゃんに言ったら、あっさりOKが出たんだ。
魔道自動車っていうのは、魔道エンジンを使った自動車のことだ。この世界はまだまだ馬車も現役なんだが、ドワーフの国では魔道自動車もけっこう普及しているんだとか。どっちがいいかは一長一短らしい。
「アイアンちゃんはどんな魔道自動車を作りたいの?」
「俺が作りたいのはただの魔道自動車じゃないぜ。魔道自動車に装甲と鉄砲をつけた、戦う魔道自動車。戦車さ」
「いまある戦闘用魔道自動車とは違うの?」
「ああ、今ある戦闘用魔道自動車は、主に商人が使う輸送用魔道自動車に、武器や装甲をくっつけたものだろ。俺が作りたいのは、戦場に乗って行き、そのまま戦闘をする、戦闘用魔道自動車を作りたいんだぜ」
「へ~、そんなのがあるのね」
「なるほど。昔の文献に出てくる戦う乗り物のことだな」
「その通りだ。父ちゃんの本によると、戦闘用ゴーレムとどちらが戦闘で優れているかっていう覇権争いに負けて、最近は作られてないみたいだが、俺が勉強した範囲だと、十分に使えるんじゃないかと思ってな」
「なるほど、面白そうじゃねえか。いいぜ、作ってみろよ。俺も出来るだけ協力してやるぜ」
「ありがとう。父ちゃん」
「がんばってね、アイアンちゃん」
「おうよ!」
こうして5歳にして戦車造りをすることになった。5歳は早くないかって? ドワーフにとっては戦車くらいの大きさの乗り物造りは、子供向けの工作と同じようなレベルなのさ。たぶん。まあ、父ちゃんも母ちゃんも好きに造っていいっていうからな、思いっきり立派なのを作る予定だ。
ここ1年でお勉強もたくさんした。神様もどきから勉強した知識ももちろん役に立った。そこに加えて、我が家には魔道エンジンの本もあったし、魔道自動車の設計図やら、輸送用馬車への兵器や装甲の取り付け方、なんて本もあった。それらを参考にすれば、知識的には俺でも作れそうだ。
とはいえ、俺の実力じゃあ、魔道エンジン関連の自作は無理だから、市販品で済む部分は市販品に頼っちまうぜ。というわけで、設計図を元に戦車造りを開始した。モデルにしたのは基本構造が簡単っぽかったFT17だ。
FT17ってのは、世界初の砲塔付き戦車と呼ばれているフランス製の戦車だ。その名が示すように、1917年、まだ第1次世界大戦のころに作られた超古い戦車ってわけさ。だが、古い戦車ってだけのことはあって、構造が簡単で作りやすそうなんだ。さらにこの戦車、戦車の中では小型軽量だ。そのため材料費も安くすみそうってわけさ。なので、俺の記念すべき異世界戦車製造第1段は、こいつに決まりってわけだ。
とはいえ、神様もどきに教わった設計図そのまま作るわけにもいかねえ。魔道エンジンを載せつつも小型化する必要がある。なにせこの世界に石油はないからな。動力源となるのはオットーサイクルエンジンじゃなく、魔道エンジンだ。そして、小型化が必要なのは主に俺の都合だ。身長170cmとかの大人の人間男が乗ることが前提の設計図だと、身長100cmもまだない俺じゃあ操縦できない。
そんなわけで、設計図を書き起こした俺は、FT17もどきを作っていく。設計図どおり作れば動くのは父ちゃんに確認済みだ。たぶん動くと言ってもらえた。たぶんというのは、定規を使ったりしたきっちりした寸法の設計図じゃなく、俺がクレヨンでフリーハンドで書いた設計図だからな。正確なところはわからなかったんだろう。
「父ちゃん、どうよ。この設計図」
「ほう、いいじゃねえか。俺にはちょいと見にくいが、アイアンの頭の中にはばっちり入ってるんだろ?」
「とうぜんさ!」
「うし、じゃあ作るか~!」
「お~!」
材料は父ちゃんのところから持ってっていいって言うので、遠慮なくもらう。まずは車体や砲塔を作るために鉄板をもらってくる。そして、生産魔法の1つである金属加工魔法で必要な形に形成していく。まあ、必要な形っていってもそんなに複雑な形じゃない。FT17はカクカクしてるからな、ほぼ鉄板を切るだけだ。これも金属加工魔法でさくっと終わる。
鉄板はたぶん均質圧延鋼だろう。いや、かっこよく言ってみたが、要するに極普通の鉄板というわけだ。厚さは5mmのをもらってきた。薄くないかって? それは大丈夫。何せ戦車戦をするわけじゃないのだ。せいぜいゴブリンとしか戦う予定はない。戦車の装甲としてみれば薄いが、鎧の厚さとしたら十分厚い。まあ、実際のFT17は車体正面装甲16mm、一番厚い砲塔正面が22mmなので、大分ぺらぺらだが。
俺は金属加工魔法で、設計図にのっとってどんどん鉄板を切断していく。そして鉄板を切り終えると、今度は接合だ。本物はリベット加工というくっつけたい鉄板どうしに穴を空け、そこにリベットという太いねじ山の無いねじみたいなのを差し込んで、かしめるという方法で作られていたようなのだが、それは大変そうだ。だから、ここも金属加工魔法でくっつける。母材同士を直接くっつけられるため、強度はリベット加工より高いはずだ。
こうして1週間くらいかけて、やっと車体と砲塔が完成した。1週間もかかった理由は、早い話がガス欠だ。金属加工魔法は非常に燃費が悪い。特に俺はこの魔法を使い始めて間もないこともあって、必要以上に消費魔力が多かったようだ。
残りは車体に、クローラー、エンジン、砲塔を取り付けて、砲塔に機銃を付けるだけだ。父ちゃんに相談して、補強が必要な箇所に追加の補強をしながら、いろいろと取り付けていく。ちなみにクローラーもエンジンも機銃も市販品を使う。ずるいって? いいんだよ。どれも子供が作れるものじゃないからな。
まずは魔道エンジンを車体後部に取り付ける。車体に穴をあけ、ボールベアリングをはめ込み、車軸を通す。魔道エンジンの動力が車軸にいくように、ギアを取り付ける。左右別々にクローラーを動かしたいので、車みたいに1つのエンジンから左右両方のタイヤが動くようにするのではなく、エンジンも車軸も左右別々に動くようにする。いや、本当は1つのエンジンからギアなんかを変更することで左右別々に動くような仕組みなのだが、再現するのが大変そうだったのであきらめた。ちなみにボールベアリングは父ちゃん製だ。あとこの魔道エンジン、エンジンって名前なのに、モーターみたいな動作をする。つまり、基本的に変速機がいらないし、前進後進も魔力の流し方だけで切り替えられるのだ。
そして、車体に砲塔を乗っける。FT17の砲塔旋回はラックアンドピニオン方式などではなく、完全人力だ。取っ手を持ってうりゃっとぐりるり回すんだそうだ。ただ、回転が重いのはいやなので、カップアンドコーンのベアリングを車体と砲塔の間に配置した。ちなみにこれは俺じゃあ不可能なので父ちゃんにやってもらった。
最後に父ちゃんからもらった機銃に防盾をくっつけて、砲塔の銃架に設置して終わりだ。砲塔と防盾の隙間は頑丈な皮で埋めた。覗き穴が無防備だが、そこには結界を張って防御する予定だ。機銃はもちろんFT17の機関銃装備バージョンの使っていた8mm機関銃といいたいところだが、父ちゃんお勧めの、15mm機銃に変更になった。まあ、これはいいとしよう。そこまでこだわってるわけじゃないし、でかいほうがかっこいいしな! ん~、やっぱ機関銃はいいな。このじゃらじゃらとしたベルト給弾、ごついボディに長く太い銃身。いいな、じつにいいな! ただこの機関銃、15mmという大口径の割には、日本でよく見る重機関銃のような押金式じゃなくて、軽機関銃みたいに、ストックとピストルグリップなんだよな。まあ、砲塔回すのに片手で取っ手を持ちたいから、これはこれでいいかな。それに、父ちゃん曰く、いざという時に戦車から取って普通に撃てるしな。という事だそうだ。
操縦の仕方はけっこう工夫してある。というよりも、本来の動力であるエンジンと、魔道エンジンでは扱い方が違いすぎるので、ここはオリジナルだ。ちなみにFT17は2人乗りだ。1人が車体前方に座りドライバーになり、もう1人が車体中央に立って砲塔に上半身を入れ、機銃を撃つガンナーである。ガンナーはともかく、ドライバーの操縦系統を組むのは大変そうな気もするが、そこは全部父ちゃんまかせだ。制御版をなにやらとりつけ、魔道エンジンとアクセルなんかをバイワイヤでつなげて、あっという間に完成した。
こうして俺製の戦車、FT17もどきが、異世界に完成するのだった。
「完成だ~!」
「すごいわね、アイアンちゃん」
「おお、すげえじゃねえか、なんだかんだで戦車が出来ちまったな」
「へへん、どんなもんだい!」
「ところでよ、なんて名前にするんだ?」
「名前?」
「当然だろ、お前の作品だぜ。名前をつけてやんなきゃならねえ」
「う~ん、そうだな、俺の1番目の戦車ってことで、1号君ってのはどう?」
「おう、いい名前じゃねえか!」
「ええ、いい名前ね」
重要パーツや調整が市販品と父ちゃんまかせだって? そこは言わぬがはなってもんだよ。俺用に大分小さくなったが、全長2500mm、全幅1700mm、全高1700mmという堂々とした佇まいだ。装甲をぺらっぺらにしたので、重量は意外と軽いはずだ。車体こそFT17をそっくり小さくしたような姿だが、既製品の小型作業車用のクローラーのせいで、FT17の面影がだいぶ薄くなっている。足回りだけ近代的だ。さらに、本来のFT17は車体の後ろ半分くらいがエンジンやトランスミッション、燃料タンクで出来ているのだが、魔道エンジンが小型なこと、トランスミッションが要らない事もあり、スペースとしてはがらがらだ。なのでそのスペースは後日荷物置き場に改造することにした。
後は燃料タンクに、炎の魔力をチャージすれば、魔道エンジンは起動する。炎の魔力のチャージ方法は、俺自身の火魔法でチャージする方法もあるが、今は別の方法を使う。なんでも、街の道路等の地下には、魔力パイプというのが埋設されているらしく、家のキッチンの炎から証明の光まで、そこに流れる魔力をつかっているんだそうだ。そして、俺の1号君の燃料タンクにも、その炎の魔力を利用できるんだそうだ。俺は父ちゃんから、炎の魔力のチャージ用のケーブルをもらって、魔力をチャージする。待つこと数分、燃料が満タンになった。
俺は運転席上部のハッチを開けて乗り込み、ハッチから顔を出して座る。そして、魔道エンジンを起動させる。1号君を前進させると、魔道エンジンがうねりを上げ、クローラーがぎゃりぎゃりと音をたてる。ことはなかった。魔道エンジンは炎の魔力で動くくせに、モーターみたいなだけあって殆ど音がしないし、クローラーはゴム製だ。おまけに地面は土というわけで、ほとんど音なんて無い。まあ、そのほうが強いんだろうけどさ、物足りない。
俺の1号君はどんどん加速して、時速30キロメートルくらいまで加速する。速度計が無いのであくまで体感だ。だが、たぶん本物よりはるかに速い、なにせ実際のFT17の速度は整地で時速20キロ、不整地で時速10キロ以下だからな。前進、後進、旋回なんかもしながら、音も無く庭を走り回って試走は終わりだ。もちろん超信地旋回もできるぜ。狭い庭で最高速テストは出来なかったが、対ゴブリン用ということで、最高速度時速50キロメートル、燃費重視の巡航速度なら時速30キロメートルになるように、父ちゃんにセッティングしてもらったから、そこまでは出るはずだ。
「うん、いい感じに動くな」
「ああ、普通の魔道作業車のようにスムーズに動くじゃねえか」
「そうね。流石アイアンちゃんね」
スムーズに動くのは当然である。エンジンも車軸のボールベアリングもクローラーも、全部市販品なんだから。おまけに制御ユニットは父ちゃんまかせだ。
「じゃあ、次は機銃を撃つぜ!」
そう言うと俺は運転席から機関銃のある車体中央へもぞもぞと移動する。今度は機銃のテストだ。ターゲットは母ちゃんが用意してくれたマトだ。おれは照準を合わせて引き金を引く。
「撃ち方はじめだぜ!」
ダダダダダダッ!
機銃が火を吹く。まあ、この機銃も市販品なので当たるのは当然だ。と思いきや、銃架がぶっ壊れて、機関銃が大暴れだ。銃架任せで俺が力を込めて保持していなかったせいもあって、あっちこっちに弾が飛び交う。父ちゃんから聞いた話だと分間600発の連射性能らしいので、一瞬でも誤射は危険だ。
「うお、あっぶねえ、父ちゃん、母ちゃん大丈夫か?」
「ああ、すまん。勝手に機関銃を大きくしちまったせいだな。銃架の強度より、反動が強かったんだろう」
「いや、銃弾そっちにいってねえよな?」
「がっはっは、そんなこと心配しとったのか。心配いらんよ。俺もエメラも、その程度の攻撃当たったくらいじゃ、怪我なんてしないからな!」
まじかよ!? 15mm機関銃の連射なんて食らったら、地球人ならスプラッタだぞ!
「あら、アイアンちゃんだって当たっても平気なはずよ。目に当たっちゃうとちょっと痛いかもしれないけど、怪我の心配はいらないわよ」
まじかよ!? 確かに俺はドワーフに転生してからいままで、こけたりしても怪我ひとつしたことはなかった。なんとなく普通の人間よりは丈夫だと思っていたが、まさか15mm機関銃で怪我すらしないとは、ドワーフボディーすごすぎるぜ。
そういや、神様もどきも身体強化魔法を練習すると、体が頑丈になるとかいってたから、そっちのせいか? まあ、頑丈な分にはいいか。
だが、これで、なんで父ちゃんが15mm機関銃を用意したのかがわかった。俺がほしがった8mm機関銃なんかじゃ、弱すぎるんだな。5歳児の俺にすら効かない15mm機関銃より、更に弱い8mmじゃあ、ゴブリン狩りにも力不足ってことか。
銃架が壊れたのは予定外だったが、そこは父ちゃんがさくっと直してくれた。俺は改めて発射する。うん、今度はばっちりだ。やっぱ15mmは迫力があるな。これはこれでいいかんじだ。え? 装備したときに気づけって? 無茶いうな。俺はあくまでも、FT17の8mm機関銃の銃架を真似ただけなんだよ。まさか、こんなことになるとは想定外だったぜ。
そうそう、この庭、常時展開してるわけじゃないんだが、実験用に結界を張れる様になっているんだって。もともと父ちゃんの実験場だからな。そうじゃなきゃ危ないんだろうな。今回も結界を起動してあったらしく、明後日の方向に弾がいってても、大丈夫だったんだとか。
まあ、いろいろあったが、こうして俺の異世界初の戦車、1号君は無事に完成したってわけさ!
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