第69話 ライバル? 同士? その名はシュタールだぜ!

「おい、アイアン。あれって、お前の言うところの戦車だよな?」

「ああ、間違いない」


 間違いないどころじゃねえ。この角ばった正面装甲、車体の左側にあるドライバー用ののぞき穴に、右側にあるボディガン。さらに2号君の76mm砲よりも少し大きい、アハトアハトと思われる主砲。こいつは、俺の2号君のもととなったへるにゃんなんかよりもはるかに有名な、虎さんだ。かの有名なドイツの6号戦車だ! なんでこんなところにいるんだよ!


 向こうも向こうもなにやら乗組員同士で話し合っているようだ。乗っているのは、男女2名。女のほうは運転席用のハッチから顔を出してるだけだから、身長がわかんないけど、成人してそうな雰囲気だ。


 それに対して男のほうは、砲塔上部のキューポラから上半身をだしてる。雰囲気的にまだ子供だな。背丈は、こちらも上半身しか見えてないからよくわからんが、平日の、それも朝の10時ちょっと過ぎっていう時間だってのに学校に行っていないことからしてみると、未就学児。つまり、俺達と同年代の可能性が高いな。


「こんにちは」

「こんにちは」


 俺達はなぜか見つめ合って固まってしまった。そんな俺達に代わって婆ちゃんと、向こうの母親っぽい人が挨拶をする。


「その乗り物、この辺りでは珍しいわよね?」

「はい。これはその昔存在していたとされる戦闘用魔道自動車を、文献をもとに再現してつくったものなんです。そちらも同じですよね?」

「ええ、この子と、この子の父親が作ったそうなの」

「まあ、そうなんですか? 実はこの戦闘用魔道自動車も同じです。この子のとこの子の父親が二人で作ったものなんですよ」


 婆ちゃんと向こうの母親が会話をする。まさか俺以外に戦車を作ってるやつがいるとは思わなかったが、父ちゃんと二人で作ったところまで一緒とはな。ますます気になる存在だな。すると向こうも気になっていたのか、話しかけてきた。


「俺はシュタール。シュタール=カノーネンシュミート、9歳。こいつは俺の愛車、カノーネ88だ。お前らは?」


 カノーネンシュミートだと? つまり、大砲鍛冶屋ってことだよな? こいつの家は、大砲専門の鍛冶屋か! 名前は流石に6号じゃないようだが、カノーネ88って、やっぱりアハトアハトか。


「俺はアイアンオア=スミス、7歳。この戦車は2号君だ」

「俺はジンク=カーター、8歳。2号君はアイアンのものだ。俺は普段は武装ゴーレムに乗っているからな」

「戦車の2号君か、戦闘用魔道自動車をずいぶんざっくり略した名称を使うんだな。だが悪くない、なかなかしっくりくる。いや、それはいい。早速で悪いんだが、一つ聞きたい」

「なんだ?」

「その戦車の2号君はどうやって動かしているんだ? 見たところ、本来運転手が乗るべき場所に、ハッチものぞき穴もないようだが」


 戦車ってのは大体運転席は車体前方に付いている。当然砲塔よりも前だ。でも、2号君は車体のスペースを詰めまくったせいで、本来運転手用のハッチの上に、砲塔が乗っかっちゃってるんだよな。だから、ハッチがない。おまけにドライバーゴーレムには目とかもないため、のぞき穴すらなかったりする。確かに一見すると不思議だよな。


 そういう意味では向こうはちゃんとしてる。運転席に母親がいて、シュタールと名乗った子供は砲塔上部、キューポラから上半身を出しているわけだからな。


「運転手はゴーレムを使ってる。だから俺がここからゴーレム越しに運転してる」

「なるほど、ゴーレムか。確かに便利なやり方だな。ところで、貴様らはこの街の住人か? 同年代の戦車乗りなら、俺が知らないはずはないんだが」

「いや、違う。俺とジンクが住んでるのはパラージライトだ。今は母ちゃんの里帰りで婆ちゃんのいるこの街に来ているだけだ」

「なるほど、パラージライトか。それにしても、その戦車はドライバー用のハッチやのぞき穴がないだけじゃなく、屋根もないのだな。変わっている」

「そうでもないさ」


 俺とシュタールはお互いの戦車を細かくチェックするために、低速で走らせながらぐるぐると回り合う。


 シュタールの戦車は、横から見ても、後ろから見ても、どっからどう見ても6号戦車だ。とはいっても、まったく同じというわけでもない。俺の2号君ほどではないにしろ、実物よりもたぶん小さい。恐らく搭乗員が少ないんだろうな。本物の6号戦車は、コマンダー、ガンナー、ドライバー、ラジオオペレーター、ローダーの5人乗りだが、ドワーフの国の無線は第2次大戦の頃みたいな、専用のラジオオペレーターが必要なほどやっかいな無線じゃないからな。戦後戦車みたいに、無線をコマンダーが使う4人乗りが前提なんだろう。


 それに、足回りも違う。6号戦車の特徴というか、ドイツ戦車の特徴でもある挟み込み式転輪ではなく、2号君同様の普通の転輪になっている。サスペンションは当然トーションバーだ。いや、挟み込み式転輪のせいで外から見えないだけで、6号戦車のサスペンションはもともとトーションバーか。まあ、挟み込み式転輪はメンテナンス性だとか、放熱だとか、いろいろ問題も多かったみたいだからしょうがないな。


 他にちょっと物足りないところがあるとすれば、後ろ姿だな。6号戦車は後ろ姿がかっこいいんだが、内燃機関じゃないせいでマフラーとかの排気系の部品がない。そのせいで後ろ姿がちょっと物足りなく感じちまう。


「その大砲。76mmか?」


 シュタールは2号君のことが気になるようで、さらに質問してくる。ぶっちゃけ俺もシュタールの戦車は気になるからな。こっちも質問するか。


「ああ。そっちはカノーネ88の名前からして、88mmか?」

「そうだ。砲はまあいいとして、装甲は薄そうだな。大丈夫なのか?」

「防盾抜きで砲塔、車体ともに正面30mm、側背面20mmだ。防御力に関して言えば、金属強化魔法だのみだな。そっちは、なかなか分厚そうだ」

「ああ、防盾抜きで砲塔、車体ともに正面100mm、側背面80mmある。さらに金属強化魔法をかけるから、かなり硬いぜ」

「でも、それだと車重が結構ありそうだな。50トン弱ってところか? 機敏に動けるのか?」

「ほう、いい読みだ、ほぼ正解だ。機動力に関して言えば、きれいな道路じゃあ流石にそこまででない。だが、戦場は足場が悪いところが多い。そういう場所では十分動けるさ」

「設計思想はだいぶ違うが、シュタールの戦車もなかなかいい戦車のようだな」

「ああ、それは同感だ。俺にはアイアンの戦車は理解出来そうにないが、その完成度の高さは理解できる。アイアンはなかなか優れた戦車鍛冶屋のようだな」


 一瞬こいつも地球人かと思ったが、違うな。神様もどきも異世界に行く地球人は多そうな言い方だったが、この世界には俺だけって言ってたからな。それに、武装ゴーレムなんてロボットみたいなもののあるこの国で、わざわざ戦車を作ろうというやつが、2号君の設計思想を理解出来ないというのは解せない。


 高火力、高機動、軽装甲というコンセプトの戦車は、へるにゃんほど尖っていなくても、戦後は割とポピュラーな設計思想だからな。日本にだって16式機動戦闘車っていう、装輪戦車があるくらいだ。


「俺達はこれからカッパーアンドレッド社の店舗をまったり覗く予定なんだが、一緒に来るか?」

「面白い、いいだろう。母さん、構わないか?」

「構わないわよ。戦闘自動車好きなんて、この街にはあまりいないからね。アイアン君にジンク君だったわよね。シュタールと仲良くしてあげてね」

「ちょ、母さん!?」

「うん、おばちゃん。大丈夫だ! な、ジンク」

「ああ、もちろんだ」

「はあ、そうだな。じゃあ、戦車を止めていくとするか」

「「おう!」」


 こうして、俺はこの世界で初めて戦車好きの同士に出会った。いや、ライバルになるのかな?


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