第70話 カッパーアンドレッド社だぜ!

 俺とジンクはシュタールと一緒にカッパーアンドレッド社の店舗に向かう。


 うおお! ちょっと緊張してきたぜ。なにせカッパーアンドレッド社は、敷地もデカかったが、店舗もまたデカい。そしてなにより、ガラス越しに見える内部が、めちゃんこ高級店っぽいたたずまいなんだよ。


「なんだ? アイアン、ジンク。お前ら緊張してるのか?」

「しょーがねえだろ? こういう高級店ってあんまり経験ないんだから」

「ああ、まさか機関銃を扱っている店が、こんな高級店のような佇まいだとは思わなかった」

「いや、アイアンの2号君に積んでるのはMG30だろ? あれだって、けっこういい値段しただろ?」

「そうなのか? そういや、2号君の部品って、全部父ちゃんに買ってもらったから、値段は知らないんだよな」

「はあ、あのなあ。MG30なんて言ったら、普通に魔道自動車が買えるくらいの値段するんだぞ?」

「「まじでか!?」」

「おいおい、ジンクも値段知らなかったのか? 大丈夫かよお前ら。っていうか、2号君についてたミサイル。あれなんてそれこそ高級品じゃねえかよ」


 そうだった。歩兵用のアサルトライフルなんかだと、安いのはめっちゃ安いんだけど、機関銃やらミサイルともなると、そこそこいい値段するんだったな。だとすると、この店の佇まいも納得ってことなのか?


 とはいえ、いつまでも高級店に怯んでるわけにはいかない。俺とジンクは意を決して店に入ることにする。


「大丈夫だ。入ろう」

「ああ、俺も問題ない」

「そうか? まあ行くか。そんな緊張するとこでもないしな」


 く、シュタールの野郎はなんか慣れてるっぽいな。俺達が中に入ると、店員さんが声をかけてくる。


「いらっしゃいませ、カノーネンシュミート様。本日はお越しいただきありがとうございます」


 なんだと? シュタールのやつは顔を覚えられるレベルでこの店に来てるってのか!?


「こんにちは。今日はとりあえず武器を見せてもらいたくてな」

「ご案内は必要ですか?」

「いや、大丈夫だ。こいつらは俺の連れのようなものだ、俺と同じく気にしなくていい」

「はい。どうぞごゆっくり」


 お店の人はシュタールのおばちゃんと俺の婆ちゃんにお辞儀をすると、そのまま去って行った。


「ってなわけで行くか。見たいのは戦車や武装ゴーレムなんかに乗せるタイプのやつでいいよな?」

「「ああ」」

「じゃあ、壁際から行くか。全部見るにはそのほうが都合がいいからな」

「任せるぜ」

「おう」


 俺達はまったりと武装ゴーレムが銃を構えて陳列されているコーナーへと進んでいく。すると、道中の壁には拳銃や長物なんかも置いてあった。


 ドワーフの国の銃は、見た目や基本構造なんか地球のそれに似ているんだ。ただ、地球の銃とは基本的に方向性が違う。地球での銃っていったら、ハンドガンなら9mm、アサルトライフルなら5、56mmといったサイズが、扱いやすさと威力のバランスから主流になっているが、ドワーフの国の銃は地球の銃と比べると極端なまでに威力重視の設計になっている。ようは、地球だと対大型獣用だったり、対物ライフルなんて言われてるような銃が、こっちじゃ主流ってことだな。


 これはでもしょうがない。なにせ魔力のせいでこっちのモンスターはやたらめったら頑丈だからな。かくいう俺の歩兵装備だって、30mmのボルトアクションライフルなんてあほみたいな火力重視の武器がメインウエポンだしな!


 そして、流石は大手銃器メーカーのカッパーアンドレッド社だ。そんな大口径が正義のドワーフの国の常識をもってしても、完全にゲテモノ銃に分類されるような超ド級の大口径の武器が平然とならんでやがる。


「なんだ? 歩兵用の武器にも興味があるのか?」

「まあな。俺はいざって時のために、30mmのライフルなんかを2号君に積んでんだよ」

「ほお。だが、30mmとはまたデカいのを積んでるな。普通はデカくても15mmくらいだろ」

「いやいや、15mmだと小さすぎて銃弾に魔法を乗せにくいだろ?」

「そりゃあ30mmのほうが魔法は乗せやすいんだろうけど、ランク1のゴブリン程度なら、15mmで十分だし、魔法も載せなくていいだろ?」

「そりゃあランク1のゴブリン程度ならそうなんだろうけど、ランク1のゴブリンなんてあえて狩りに行くような相手じゃねえだろ? なあ、ジンク」

「いや待てアイアン。最近はついついアイアンやエメラおばさんに流されてるけど、常識的に言ったら学校へ行く前の俺達が狩るのは、ランク1のモンスターだけだぞ」

「なんだお前ら。その口ぶり、もしかしてランク2とも戦ったことあるのか?」

「うん、あるぜ」

「ああ、まあな」

「ち、羨ましいぜ。ランク1って15mmくらいの機関銃だと1発で倒せちゃうだろ? 俺も何度かランク1の狩りには連れてってもらったことあるんだけど、物足りなくてな。せめてランク2の群れを相手したいんだけど、父さんも母さんも連れてってくれないんだよ」


 流石に話題が物騒な方向にいったからなのか、シュタールのおばさんは婆ちゃんとの話を中断してこちらの話に割って入ってきた。


「シュタール、ダメよ。ランク2に挑むのは学校でちゃんと戦闘の勉強を受けてからよ」

「わかってるよ。父さんも母さんも本業はあくまでも鍛冶屋、だから戦闘は苦手。ランク1と戦ってる最中にランク2が出てきても対処できるけど、ランク2と戦ってる最中にランク3が出てくることになったら、誰かを守りながらの戦いはきついってんだろ? もう聞き飽きた」

「わかってるのならいいわ。すみません、お恥ずかしいところを」

「いえいえ、私も生産職なので、その気持ちはよくわかります。子供というのは好奇心旺盛なところがありますからね。私も子育てでは結構苦労しましたから」


 シュタールのおばちゃんは、シュタールに注意をすると、再び婆ちゃんとの会話に戻っていった。そういや、いくらモンスターがいる危険な世界とはいえ、この国の常識じゃあ未就学児はそんなもんだったな。ラピおばちゃんだって最初は俺とジンクの狩りに反対してたしな。んで、なんでかラピおばちゃんと戦う羽目になって、狩りに行く許可をもらったんだっけな。


 俺がそんなことを考えていると、ジンクがフォローを入れていた。


「シュタールはこの中じゃ一番年上なんだ。9歳ならもうちょっとで学校だろ? 来年か? 再来年か?」

「今年の誕生日で10歳になるから、来年には学校だな」

「いいな。羨ましいぜ」


 なんかこの二人は学校へ早く行きたそうな雰囲気だな。俺からしたら学校なんて絶対行きたくないってのに。


 その後もまったりと歩いていた俺達だったが、俺がちらちらと壁に置いてある銃を見てるのに気づいたのか、シュタールがなかなか魅力的な提案をしてくれる。だが、ここは断ることにする。


「そんなに気になるなら、足を止めてゆっくり見るか? 俺も来るたびに見てるから、構わないぞ」

「いや、いい。機関銃コーナーまで行こうぜ。正直ここで立ち止まっちまうと、ここだけで1日が終わっちまいそうだ」


 ぱっと見は確かに地球のそれに似ているここの銃達だが、よりパワーを求めて大口径化したそれは、俺の中のなにかをドスドスと刺激するんだよ。足を止めたら最後、その魅力に抗う術を俺は持たないだろう。


「そんなに気になってるのか? まあ、1日が終わっちまうのは俺も困るから、アイアンがいいなら先行くか」

「ああ、そうしよう」


 俺の意見にシュタールとジンクも乗ってくれた。ふう、マジでやばい魅惑のコーナーだな。それでもやっぱり気になっちゃうから横目でちらちらと見ちゃうんだよな。


 ハンドガンも全体的にデカいのばっかりだ。ギリ普通に使えそうなのが多いが、中にはオートマチック式にも関わらず、巨大な弾を使うのを重視しすぎたのか、グリップがあほほどデカいものまである。どうやって握るんだよ、それ。でも、そんな銃の横にはこれ見よがしに、同じ弾を使いながらもマガジンをグリップからトリガー前方に移したハンドガンも置いてあったりと、陳列の仕方もなかなか面白い。


 でも、やっぱり大口径ハンドガンの宿命なのか、リボルバーが多いな。ただ、弾がデカすぎて装弾数が少なめなものも多い。そんな風にハンドガンコーナーから長物コーナーへと移りかけたそのとき、思わず俺が足を止めちまうような、ゲテモノ中のゲテモノが現れた。


「ふ、やはりそのハンドガンには目を取られるよな」


 シュタールが当然のようにそう言ってくる。


「いやいや、流石にこれはないだろ。ゲテモノにしたって度が過ぎねえか?」

「俺もその意見には同意なんだが。この会社、なぜかそういうゲテモノ銃が大好きなんだよな。特にハンドガンはひどいぞ。新作の発表会なんか行くと、まともなハンドガン0個、ゲテモノハンドガンだらけってことすらある」

「そりゃあすげえな」


 ちなみに俺が目を奪われたのは、ぱっと見はなんの変哲もない、中折れ式単発銃だ。いや、ハンドガンにしては立派すぎるサイズだけど。そして商品のタグには、キャノンハンドガンと書かれており、そこには使用弾薬として、76mmの大砲弾が書かれていた。地球にも大型獣用のライフル弾を発射するリボルバーは存在したが、まさか砲弾を撃つ拳銃を作る馬鹿がいるとはおもわなかったぜ。しかも、姉妹品なのか、88mmのモデルやら、120mmのモデルまで置いてあるし。


「すげえな、注意書きに金属強化魔法が苦手な場合、チャンバーが爆発します。なんてこと書いてあるんだ。っていうか、それってもはやゲテモノ銃じゃなくて欠陥品じゃねえの? しかも1発撃ったら2度目は絶対に撃つなって書いてあるし」

「それには俺も同感だ。俺にも欠陥品にしか見えないからな。ただ、それでも多少は売れてるらしいぞ」

「まじかよ!?」

「ああ。それと、2発目問題は気にしなくていいらしい。なにせ、一発撃ったら壊れるから、2発目は装填したくても出来ないって話だ」

「すげえ理屈だな」

「だよな。俺もそう思う。しかもバレルがほとんどないから、有効射程は普通のハンドガン以下だってよ」


 はは、なんっつうか、作るやつも作るやつだが。よく買うやつがいたよな。


 ちなみに長物コーナーはもっと酷かった。フルサイズの大砲だって、担げるようにしてトリガー付ければ個人兵器だよね。っていうその発想には、流石の俺もちょっと引いた。


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